591 名前:咆哮哀歌 10-1/4 :2010/05/21(金) 12:30:42 ID:???
舗装が割れ、荒れ果てた道路の中央に、両腕を胸で組んだ金髪の少女が仁王立ちしている。
リョウガ「…あの娘は?」
高層ビルの“壁面”に立つMS――闇を塗りつけたようなRX-78「
ガンダム」。
そしてそれを駆り、“四本足”を追うその男の名をリョウガと言う。
―やはり、忍である。
シュバルツ『リクオー号に接触していた少女だな。
ここまで追いかけてくるとは…どうする、G?』
リョウガ「少し、様子を見よう」
シュバルツ『よかろう』
すぅ…
ステラ「クロノス! 悪いこと、め!」ビシッ!
犬とは、社会性を持つ生き物である。
躾ける時は、上位者の気迫で以て上から命ずる必要がある。
とは言え…
シュバルツ「無茶をする…」
“四本足”は、尻尾の先まで入れれば全長20m以上。 大型のMSサイズである。
足先で少し小突かれただけでも致命傷を負いかねない。
だが、少女は気丈に立ち向かう。
ただ一つの言葉を拠り所として。
シン(回想)『ステラは俺が護るから!』
シュバルツ『リクオー号が気押されているな』
リョウガ「これで大人しくなってくれればいいのだが…」
シュバルツ『…そう、甘くはない、か』
ガツガツ…
わずかな間、項垂れたように大人しかった“四本足”ではあったが、
すぐに足元を掘り返すかのように足踏みを繰り返す。
背を丸め、鼻先を左右へ揺らす。
グルルゥ…
ステラ「クロノス!」
ガルル…
ステラ「お願いクロノス!」
ウゥゥゥゥ~…
ステラ「クロノス!」
ガアッ!
少女目掛けて走り出す“四本足”。
シュバルツ『駄目か!』
リョウガ「…」ダッ!
ステラ「うぇい… ガイアッ!」
592 名前:咆哮哀歌 10-2/4 :2010/05/21(金) 12:32:37 ID:???
ズガァアァン!
“四本足”の横手から、ビルを粉砕しながらガイア・ガンダムが現れる。
鈍い音をたてて“四本足”のわき腹に体当たり、反対側のビルに弾き飛ばす。
ヴィン!
まるで、威嚇するかのようにモノアイを輝かせるガイア。
ステラ「…」
涙を拭うと、ガイアのシールド――丁度傾斜路のように先端が下げられている――を駆け上がり、
コクピットハッチに飛び込んだ。
ステラ「クロノスを止めるよ、ガイア!」
シュバルツ『正面からやりあう気か!』
リョウガ「あの娘を頼む」
シュバルツ『やる、のか?』
リョウガ「…」
シュバルツ『リクオー号は私が引き受けても…むっ!』
ビルの高層から降下したシュピーゲルに、二本のワイヤーが絡みつく。
シュバルツ『ぬおっ!』
スウェン「…」
リョウガ「シュバルツ! !!」
シン『うおおおおおおおっ! ステラの邪魔は、させない!』
アロンダイトを振りかぶったデスティニーが、リョウガの駆るガンダム、“G”に肉薄する。
リョウガ「…」
速度こそ並のMSを遥かに凌駕するものだったが、直線的なその動きをかわすのは難しくない。
リョウガは僅かな動作で斬撃をかわすと、シンのデスティニーに相対した。
リョウガ『なぜ邪魔をする』
シン「あんた、今、クロノスを殺そうとしたろ!」
リョウガ『…あれは、危険だ。 軍や警察の手に負えるものではない』
シン「あいつがエクステンデッドだからか!」
リョウガ『…』
シン「そうなんだな! なんで…なんでそんなことするんだよ!
無理やり薬漬けにされて、頭の中いじられて…言うこと聞かなくなったら“処分”かよ!
あんたはそんなに偉いのか!」
激情のままに振るわれるアロンダイトを、しかし冷静にかわすG。
シン「やらせない! あいつは絶対、ステラが取り戻す! その邪魔は、させない!」
リョウガ『…』
593 名前:咆哮哀歌 10-3/4 :2010/05/21(金) 12:34:36 ID:???
シュバルツ『シン…この、 馬 鹿 者 !!』
シン『!』
シュバルツ「リクオー号は、あの犬は、その男の親友が家族同然に育ててきた犬だ!
いわば己が友の一部! それを斬らねばならぬ漢の苦しみが、何故わからぬ!」
シン『シュバルツさん…』
リョウガ『そこを、通してくれ』
あまりに静かな声。
だが、それだけに、シンには、その男が心に沈めた想いが伝わってしまう。
シン『…………………』
動きを止めたデスティニーの横を、Gが通り抜けようと足を踏み出す。
リョウガ『!』
だが、その眼前に、再びアロンダイトが突きつけられた。
シュバルツ『シン!』
シン『判んないよ! 大切なモンなら、なんで無くそうとするんだよ!
だったら余計に、取り戻さなきゃ駄目だろ!』
シュバルツ『シン…』
リョウガ『…』
シン『生きてれば、何度だってやり直せる!
だけど! 死んじゃったらそれで終わっちゃうんだぞ!
だから俺はあんたを行かせない。 ステラの為にも、クロノスの為にも!
そして、あんたの為にも!』
シュバルツ『…』
リョウガ『………だが』
シン『?』
不意に、漆黒のガンダム、Gの姿が消える。
シン『なっ…』
ステルスや、ジャミングの類ではない。
予備動作も無しに、いきなりトップスピードでデスティニーの視界を飛び出したのである。
次の瞬間。
シン『うわあああっ!』
強烈なGの回し蹴りがデスティニーを捕らえた。
VPS装甲の堅牢さ故にそれだけで機能障害が出るほどヤワではないが、
さらにビルの壁面に叩きつけられた衝撃が、パイロットのシンを襲う。
シン『くうっ…』
リョウガ『君たちでは止めることはできない。 俺も…リクオーも』
ステラ『きゃああっ!』
シン『ス…テラ…』
594 名前:咆哮哀歌 10-4/4 :2010/05/21(金) 12:36:51 ID:???
スウェン「!」
とっさに二人の救援に向かおうとするスウェンだったが…
シュバルツ『おっと、貴方もだ、
スウェン・カル・バヤン!』
ごきり、と鈍い音が響き、シュピーゲルの体に巻きついていたワイヤーが地に落ちる。
間接部のジョイントを外し、稼動域を広げることでワイヤーを緩めたのである。
シュバルツ『ゲルマン忍法、縄抜けの術という。 この程度で私を縛ることはできん!』
スウェン「…」
ゆっくりと立ち上がるシュピーゲルに、スウェンはストライク・ノワールの斬艦刀を構えた。
ガアアアアッ!
クロノス、ことリクオーの咆哮が木霊する。
ステラのガイアは機体こそ無事に見えるがステラ自身にもダメージがあったのか、
横倒しになったまま。
スウェンのストライク・ノワールはシュバルツのシュピーゲルを前に動けず。
シンは脳震盪でゆれる視界の中、ビルに半ばめり込んだデスティニーの体を力任せに引き抜く。
シン「それ…でも…」
リョウガ『…』
シン「俺は、ステラを…ステラの護ろうとしたものを、護る!
たとえ何度倒されたって!」
リョウガ『…』
シュバルツ『だが、想いだけでは、事を為すことは出来ん』
シン「けど! 力があるから何やったって良いなんて無いだろ!
力だけで…想いを捨てようなんて…俺は、認めない!」
ブシドー『よく言った、少年!』
シン「え?」
振り仰げば、茜に染まり始めた空と、そしてなお赤いGN粒子τ。
漆黒の機体は双振りの長刀を携え、威風堂々とそこにあった。
ブシドー『このブシドー、並びにスサノオ、義に因って助太刀させていただこう!』
次回の投下は明日になります。
特にトラブルなどがなければ、明日分で終わりです。
今しばらくのお付き合いを。
最終更新:2014年08月07日 19:11