605 名前:咆哮哀歌 12-1/4 :2010/05/22(土) 10:06:53 ID:???
603の続き
シン「おおっ!」
アロンダイトを半ばからへし折られたデスティニーが、
フラッシュエッジをサーベルモードにして突進する。
身構えるリクオーの眼前でいきなりデスティニーが4機に増えた。
背中から噴出されたミラージュコロイドに、デスティニーの映像を投影したかく乱戦法である。
しかし。
リクオーはその幻影をことごとく無視し、本体の攻撃のみを無造作に回避する。
シン「これも、駄目か…」
とにかく攻撃が
あたらない。
シン「けど、時間を稼げば…しのぎ切れば…」
過剰な薬物投与により反射速度や空間認識力など、“脳”力を増大させたのが
強化人間、
エクステンデッドなどと呼ばれる者たちである。
その薬品の副作用や、副作用を抑える薬の副作用、などで彼らの多くは心身の安定を欠く。
軍の頚木を抜けたステラたちも、今なお投薬とカウンセリングは不可欠だった。
そして、直接目にした「クロノス」の憔悴ぶり。
シン「(たぶん、もう限界の筈だ…)」
早く止めねばと、気が逸る。
だが、現実にはあの黒い
ガンダムのパイロットが言うように、
二人がかりで直撃をもらわないようにするのがやっとなのだ。
シン「くそっ!」
冷静になれと呟く自分。 早く早くと急く自分。
戦いは、まず己との戦いであった。
思わぬ乱入者が現れたのはその時だった。
ザッ!
地を蹴り、夕闇の迫る空へ舞い上がった“四本足”。
その、さらに頭上から、猛禽のごとく舞い降りるMS。
ガッ!
鈍い音を立て、原型がほとんど残っていないほどカスタムされたザクが、
“四本足”もろともに傍らのビルへと激突する。
シン「えっ?」
ステラ『クロノスッ!』
砕かれたコンクリートの崩落が収まり、粉塵が風に払われると、
そこにはかのMSが“四本足”を押さえ込んでいる。
?『さああんた、今だぜ!!』
シン「あんた…は?」
?『あんたこいつを殺りきたんだろ? 手を貸してやるぜぇ』
606 名前:咆哮哀歌 12-2/4 :2010/05/22(土) 10:07:58 ID:???
リョウガ『それが…お前の捜していた男か? リクオー』
?『なに!?』
シン「えっ!?」
シンが聞き返す暇もない。
改造ザクをしがみ付かせたまま、“四本足”は高々と宙に舞った。
?『なっ!』
そのまま体を丸め、改造ザクの背中からビル壁に激突する。
?『ぐおっ!!』
ザクの腕を易々と外し、地に降り立つ“四本足”。
?『そうか!お前等はグルか! 俺をハメやがったな!』
瓦礫を跳ね飛ばし、改造ザクを駆る男がいきり立つ。
リョウガ『五日前…』
対して、こちらは変わらず、静かな物言いだった。
しかし――
ステラ『シン…この人…すごく、怒ってる…』
シン「あ、ああ…」
それは、例えるならば蒼い炎のごとく。
静かに、だが、恐るべき熱量で燃え盛る激情に、
自他共に認める「はねっかえり」のシンが、二の句を接げない。
リョウガ『五日前、一人の男が…そいつの主人が殺された』
シン「!!」
シュバルツ(回想)『リクオー号は、あの犬は、その男の親友が家族同然に育ててきた犬だ!
いわば己が友の一部! それを斬らねばならぬ漢の苦しみが、何故わからぬ!』
リクオー『グルル…グルルルルルル…』
?「犬? …犬!? あっ、あん時の犬畜生かっ!」
改造ザクの前腕部から、“四本のカギヅメ”が飛び出し、鈍い銀色の刃が相転移する。
リクオー『グオォン!』
?『ぬおっ!』
決着は、一瞬。
?『う…ううっ ケモノ野郎に…ああっ!』
爆発!
忍の道を外れ、非道を繰り返した男の、それが末路であった。
607 名前:咆哮哀歌 12-3/4 :2010/05/22(土) 10:09:50 ID:???
リョウガ『さあ…』
Gが膝を着き、手を差し伸べる。
リョウガ『帰ろうリクオー…
もう、終わったんだ』
シン『…』
ステラ『クロノス…』
リクオー「ハフッ ハヒッ ガフッ…」
リョウガ『リクオー…』
ああ、この人は泣いているんだ。
不意に、シンはそう思った。
強いが故に。
否、これまで流した涙が故にこの人は強いのか。
リクオー『ガアアアアアッ!』
シンプソン『歩けるか、エマリー』
エマリー『ああ、なんだか知らんが早く引き上げよう。
でないとあいつがまた…わあっ!』
シーブック「!!」
警察のザクに襲い掛かる“四本足”を、X1が蹴り飛ばす。
シンプソン『キ、キンケドゥ!』
キンケドゥ『行けっ!』
シンプソン『すっ…すまん!』
リョウガ『やめるんだリクオー!
もう誰も殺すことは無いんだっ!』
“四本足”の前に立ちふさがるG。
リョウガ「家に帰ろう…お前と主人の家に……
でなければ、俺は…お前を…」
リクオー「ガハッ! ガハッ! ハゥ…」
“四本足”のコクピット。
無数のケーブルでMSと繋げられたリクオーは、明らかにまともではない呼吸を繰り返す。
投与すべき薬品はすでに底をつき…
リクオー「ガアアッ!」
その大型犬は、緩やかに壊れつつあった。
リョウガ「リクオー…」
虚空剣が、悲しいほどに美しく煌く。
608 名前:咆哮哀歌 12-4/4 :2010/05/22(土) 10:11:02 ID:???
戦いの歴史は、時として大きな技術革新をもたらす。
“サイコミュ”と呼ばれるものもその一つだった。
精神―遠隔制御
―ニュータイプ
――人の革新
これら諸々の要素も、あろうことか人は争いにしか使えなかった。
また、その一環として、数多くの動物実験さえなされたのである。
それは忍犬と呼ばれるものの誕生であると同時に、不幸でもあった。
物言わぬこの生き物の悲しみを、誰が知ろう――
最終更新:2014年08月08日 21:37