220 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:28 ID:???
昼下がり、アルビオン大学の校舎には夏の強い陽射しが射しこんでいた。
チャック・キースはその日、校内の廊下で珍しい光景を見ることになった。
「おい、コウ。アレさ、理事長と一緒に居るの…
グエン・サード・ラインフォード卿じゃないか?」
「え?あ、本当だ。何でウチの大学に?」
すぐさま、コウはロラン絡みか?とも考えたが…
アルビオン大学とロランとは何も接点も無かったので、コウの詮索はその時点で止まった。
アルビオン大学の廊下を理事長
シーマ・ガラハウとグエン卿は一緒に校内を歩いていた。
シーマの方が何か色々と説明に回っているようにも見える
キースは遠くからその様子をみると
「なんか違うよな、あの二人は。大人のちゅーか、ウチの理事長もただ者じゃないけどさ
それに引けをとってないもんな、グエン卿は。流石、街の名士だけあるよ」
「そうかな…」
コウの中でのグエン卿のイメージというのは常時、弟のロランの尻を追いまわしてる異常な性癖の持ち主
というモノで固まっていた為、世間一般から評価されているグエン卿の評価には違和感を感じて当然だった。
「そうなんだよ、スゲェじゃん。グエン卿が俺達の大学に来てるんだぜ?」
キースは自分の言葉に納得したようで、ウンウンと頷いている。
「あら?坊やじゃないのさ」
シーマはコウ達を目敏く見つけ、素早く近づいてくる。
こういった嗅覚というか、センサーがシーマは敏感なのだ。
221 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:30 ID:???
「ふふっ…坊や、調子はどうだい?」シーマは凄い速さでコウの正面を取り、完全に捕捉する。
「り、理事長さん、こんにちは…」コウは足に根が生えたの如く動けず、その場で固まってしまう…
「理事長さん、なんて…水臭いじゃないか、シーマでいいのにさ」
「じゃ…シーマさん、あの…」
「最近ご無沙汰だったねぇ…大学の理事長職ってやつも、色々と忙しくてさぁ…
坊やにはお預けを食らわせてて悪いとは思ってるんだよ」
「ぼ、僕としては全然構わないんですけど…」
「丁度いい、どうだい?今夜あたり…」
「今夜!?今夜ぁ…って」
「若い身体にゃ、我慢は毒だろ?」
会話を交しながらシーマはコウとの間合いを詰めていた。
近づいてくるシーマの服装は胸元が大胆に開かれ、コウは目のやり場に困った。
シーマがつけている独特な香水の臭いが辺りに漂いだすとコウの嗅覚が刺激された。
「アタシの誘いを断るのかい?……」シーマは微かに微笑む。
シーマの妖艶な笑みを前にするとコウの体調は著しく変化する。
頭痛と動悸と息切れと目眩が一辺に訪れ、自分の意志が何処かに飛んでいく…そのような感覚にコウは襲われてしまう。
「ほら……女に恥をかかすもんじゃないよ、坊や」
シーマは手持ちの扇子でコウの顎を摩ると、顎を突き出した恰好のままコウはシーマに身体ごと引き寄せられる。
コウは一連の誘惑に逆らう術を知らない。
「……そ、そうですね…」
(ぼ、僕は何を言おうとしてるの?何を望んで…駄目だ、頭が真っ白になって…)
何時もそうだった。シーマの問いかけに対して、NOという言葉を持った事がないのがコウだ。
傍で見ているキースも緊張する程にシーマの誘惑は恐ろしく魅惑的であり、
コウが完全に捕捉されていくさまを苦笑いして見守るしかなかった。
(コウは相変わらずだなぁ…理事長にかかると蛇に睨まれた蛙だぜ。ま、ちょい、羨ましくもあるけどさ)
222 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:31 ID:???
「理事長。私の相手はもう飽きましたか?」
意外な人物にコウは救われた。
グエン卿がシーマとコウの二人の間に割って入り、場の空気を変えたからだ。
「え?ああ…すまなかった、グエン・サード・ラインフォード。
フゥ~…ちょっと私用で外しちまったけど、話の続きは未だあるんだ。
坊や……悪い。又、お預けになっちまうけどねぇ、この分の埋め合わせはするからさ」
「すまないな、コウ君。シーマ嬢は私がお借りするよ」
「え?僕は、別に…」
コウを誘惑していたシーマの表情はグエン卿の登場により、ビジネスマンとしての顔に変っていた。
「話の続きは理事長室でしないかい、グエン卿」
「そうですね、理事長。行きましょうか」
グエン卿に救われ、ホッと息をつくコウであったが
反面、アッサリと身を引くシーマの態度にいつもとは違う違和感を感じていた。
「御曹司を連れてくるとは…案外やり手かもなぁ、あの新しい理事長」
コウが所属しているラグビー部の監督であるサウス・バニングは、事の一部始終を見ていたようである。
「わぁ!監督ぅ。居たんですか」キースはバニング監督の存在に気付き、驚いた。
「おう。丁度、お前等を廊下で見かけてなぁ…」
「グエン・サード・ラインフォードは、何しにウチの大学に来たんですかね?」
「まぁ、ウチの大学も慢性的な財政難だからな、グエン卿から寄付を募るつもりなのかもしれん
このご時世だ、あの理事長もスポンサー探しに必至なんだろう」
「へぇ…そんなもんですかぁ…」キースは理屈としては納得しました、という風な顔をした。
223 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:33 ID:???
その日の夕暮れ、ラグビー部の練習がそろそろ終わろうとしている頃合を見て
キースはコウに誘いをかけた。
「コウ、お前さ、今から付き合えよ。この前、安くていい店見つけたんだ♪」
「今日?……俺、今、金無いし…」
「俺が奢るって。昨日、バイト代入ったんだ。どうせ暇なんだろ?なぁ、行こうぜ」
「わ、分った…じゃ、ちょっと付き合うだけだよ」
部活が終わると二人は居酒屋『
青い巨星』の前へと来ていた。
『青い巨星』とはランラバルが店主をしている居酒屋である。
創業以来から続く、安い料金設定から近辺の学生達も良く利用する店として、一部では知られていた。
「あら、いらっしゃい」
店の暖簾を潜ると女将のハモンさんの出迎えてくれた。
カウンター席に座ると、割烹着姿のラルがカウンター越しに二人の顔をチラリと覗く。
「小僧、又来たのか」
「ちぃーすぅ。今日は友達を連れてきました。こいつ、コウって言います」キースは調子良く挨拶をする。
「ど、どうも…」コウは縮こまりながら挨拶をした。
「この店は、安くて美味いって評判なんだ。そうですよね?親父さん」
「フン。煽てても何も出んぞ」
ラルは無愛想に応じるが若い学生を相手にする事に苦を感じておらず、逆に楽しんでいる風でもあった。
「…あ、携帯に着信?誰だろ?」
キースはズボンのポケットから携帯電話を取り出すと着信を受けた。
同じラグビー部に所属する先輩。ベルナルド・モンシアからの電話だった。
「お前等ぁ~~!!今、何処に居るんだよ。俺を置き在りにしてさっさと帰りやがぁってぇ!!」
「ひぃ~い…ス、スイマセン。あの今、ウラキと居酒屋に居まして…」
「俺もそっちに行くからなぁ、場所ぉ、教えろ!!」
「は、はい…」
224 名前:僕は…(シーマとコウ) 投稿日:03/07/27 11:36 ID:???
キースはこの店『青い巨星』を自分達仲間内の穴場スポットとして
モンシア先輩には隠しておきたかったが、電話口から伝わる怒りを納める為に
渋々『青い巨星』の場所を教え、店で先輩と合流する事になってしまった。
「キース、今の、モンシア先輩から?」コウはうな垂れるキースを励ます。
「そうだよ……コウ、ごめんなぁ…先輩にバレちゃってさ。こっちに合流するって…」
キースは俯いたまま答えた。
「いいよ、別に構わないけど…先輩怒ってた?」
「ああ、最悪…説教食らうかもなぁ……」
「仕方ないよ。今日は運が悪かったと思って、諦めるしかないね」
…それから30分が経過して
「いらっしゃい」ハモンが新しい客を向か入れる。
「よう!ウラァキィ~、キィ~スゥ!」
電話口で怒りを露にしていたモンシア先輩の表情は穏やかになっている。
キースはその原因を同伴の女性から察する事が出来た…
「キース、お久し振りぃ♪……それにコウもね♪ 会いたかったわぁ~」
ニナ・パープルトンは媚媚び光線を出し捲り、二人に向けてウインクをしてみせた。
「(;´Д`)ニ、ニナぁ……!」コウの顔が真っ青になる。
「へへぇ…途中でニナさんと偶然遭ったんだよ。で、連れて来たけど…お前等、文句ねぇよなぁ?」
モンシアの表情からは問答無用という風に書かれていた。
「ぜ、全然OKスよ!なぁ、コウ?」キースがモンシアのご機嫌を取るように返事を返す。
「はい…(´Д`;)」
コウにとって、それは予期せぬ地獄だった。
225 名前:僕は…(シーマとコウ) 投稿日:03/07/27 11:38 ID:???
『青い巨星』の店内、コウ達4人はカウンターから座敷へと席を移した。
モンシアはつくねの塩焼きをツマんでいる。
「そういえば、ウチの理事長。ここに来る途中見たがよぉ、男と一緒に店に入っていったぜ。
ええと…男の方はなんて言いましたっけ、ニナさん?」
「グエン卿でしょ。あのグエン・サード・ラインフォード卿が女性を連れ立ってたのよ~
いいなぁ~私もグエン卿に誘われてみたいわ」
ニナは注文したレモンハイを既にグラス半分ほど空けていた。
「グエン卿が女性と?…珍しいなぁ(シーマさんとグエン卿……何だそれ?)」
コウの認識だと女性を連れて歩くグエン卿というのは想像し難い話だった。
「あら?コウ。そんな事ないわよ。グエン卿は社交界でもプレイボーイで有名なんだから!
ワイドショーのネタにも事欠かない程なのよ」ニナは女性週刊誌から得た知識を披露し始める。
「そうじゃなくて…グエン卿は女性に興味無いんじゃ?って…」コウはそれを否定する。
「グエン卿がゲイって話?……嘘、ヤダァ~。コウってば、そんな三流ゴシップ記事みたいなものを信じてるの?」
「違うよ……現に、ウチの弟が追いかけ回されてるんだ」
コウにしてみればそれは日常であったが、普通は信じがたい話だ。
「それ、本当かよ?…」モンシアは興味深々のようだ。
キースはニヤけた顔つきでコウの話に横槍を入れる。
「違いますよ、こいつ、妬いてんですよ……お前にゾッコンだったシーマさんが
グエン卿に靡いているのが気に入らないんだよな、コウ?今日だってさ、そっけなかったじゃん?
あの蛇みたいにお前に絡んできた理事長さんがさぁ」
「成る程な……そりゃなぁ、コウ。お前、飽きられちゃったんだよ、あのシーマお姐様になぁ。
本命が見つかったから古い玩具は棄てられたって寸法だな。はははははははっ…こりゃ可笑しいや」
モンシアはコウの不幸が嬉しくて堪らないらしい。
226 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:39 ID:???
「……シーマさんは強引で、我が儘で、嫉妬深くて…ひとの都合なんか、何時もお構いなしだけど…
けど、玩具とか…そんな、そんな人じゃないんですよ…」コウが独り事のように呟いていると
モンシアはコウの肩を手にのせて諭すように語りだした。
「……何、お前さぁ、マジであの理事長と…とか思ってた訳か?
だからボ・ウ・ヤ・なんだよ……(真面目な顔付きに変ると)ま、悪い事は言わん、諦めろ。
お前とグエンって、奴じゃ比べ物にならね~よ。そうでしょ?ニナさん」
「あら?コウはご傷心なのかしら?なんならアタシがその傷を癒して…」
ニナはコウの手を取ると、両手でしっかりと包み込むように握った。
「え?そんな奴、ほっといて…俺が居るじゃぁ~ないすかぁ。ニナぁさぁ~ん」
モンシアがニナに寄りかかろうと、身体を傾ける
「もぅ~嫌です!ねぇ~コウ?」
ニナは寄りかかろうとするモンシアを押しのけると、改めてコウの手を強く握る。
「マジな話、理事長は大人の女性だからさ。コウがどう思おうが仕方ないってゆーか…」
キースの顔は真面目そのものだ。
「キィース、オマエまで…」コウはキースの言葉に呆然とした。
「だってお前…迷惑がってたじゃん?あの人に追っかけ回されんの。
だから丁度いいじゃないかな……向こうがグエン卿と付き合ってくれればお前も振りまわされないで良いだろ?」
確かにキースの言う事はもっともな話だ。実際にはその通りなのかもしれない……
いや、本当にそうなのか?コウには分らなかった。
227 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:40 ID:???
『酒楽』は以前、ロランセアックがローラとして、ホステスのバイトを勤めていた店だ。
グエン卿がローラ目当てで通い詰めた日々もあったが、この店は現在も裏路地でひっそりと営われている。
店で働くホステス達は俗に酒楽隊という名前で呼ばれ、その酒楽隊は隊を構成するホステス達から
姐さんと呼ばれ慕われているジュンコ・ジェンコの元、仲間同士の結束が固い集団でもあった。
『酒楽』は、酒楽隊の面々がグエン卿の性癖を知っている為、
他の店のように過剰なサービスをしない所が(グエン卿は他店で受けられるVIP待遇にはウンザリしていた)
グエン卿としてはお気に入りで、場末のクラブ『酒楽』はグエン卿の気の休まる場所になっていた。
グエン卿はワイングラスを傾けてシーマを見つめた。
「すいませんね、こんな店に連れてきてしまって…私としては、ここが1番落ち着く店なんですよ」
「社交界じゃ華々しい存在の御曹司が、こんな場末のバーの常連なんてねぇ
(趣楽隊の面々はグエン卿とシーマの存在に構わず適当に各自のテーブルにて、勝手気ままに飲んでいる。
客もシーマ達、一組しかいない。貸切状態のようだ)
変った趣味をしてるよ……。ま、アタシゃ気にしないけどさ」
シーマはゆったりとしたソファーに腰を下ろし、ドライマティーニを飲む。
隣りのテーブルに居たジュンコはシーマの言葉を聞いてムカっとした。
「場末で悪かったね!場末でさ!!」
「まぁ、まぁ…姐さん。押さえて押さえて…」
店の巨乳率を一人で押し上げているマヘリアがジュンコをなだめる。
「しかしさぁ…御曹司が女性を連れてくるなんてねぇ」ケイトだ。
「御曹司も男なんだから……当然じゃない?」ペギーが涼しげに語る。
「でも…あの御曹司なんだよ」コニーは納得していないようだ。
趣楽隊はこの店にグエン卿が女性連れて来たという事実に、様々な憶測を飛ばしていた。
228 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:42 ID:???
グエン卿はシーマの飾らない態度に好感を持ち始めていた。
「理解して貰って助かります。私はこれでも有名人でして……気の休まる場所というのを探すというのは、
これが案外と難しいのですよ」
シーマはマティーニを舐めた。
「ふ~ん……好き勝手やってる御曹司でもストレスが貯まるもんかい?
いや、人の噂話は好きじゃないけどね。色々と…こっちまで聞こえてくるもんなのさ」
「どんな噂だか…興味はありますけど。ま、聞かない方がいいでしょうね。
私の悩みは一点………好きな人に振り向いて貰えそうもないという事です」
「おや、プレイボーイで鳴らしている御曹司でもそんな悩みが?」
「ハハハッ…プレイボーイというのは世間が勝手につけた私に対するイメージです、実際はモテませんよ。
本来の私は、こうやって好きな人の事を考えて…ウジウジ悩んでいるような奴なのです。どうぞ、笑って下さい」
グエン卿は自嘲気味に自分の心境を露にした。
「いや……その気持ち、少し分るよ」シーマはグエン卿の心境に同調し始めた。
「ほう、貴方のようなお美しいご婦人を悩ませる男性がいるとは…その男性が羨ましいですね」
「ふん、ご婦人なんて…そんなガラじゃないよ」シーマは鼻で笑う。
「美しい人を美しいと言わないのは罰が当りますから…いけませんか?」
少し芝居がかった言葉を真面目な顔で口に出せるのがグエン卿である。
が、その軽率さ故に誤解が誤解を産出し、様々なスキャンダルが生じるのかもしれない…。
「馬鹿、何いってんのさ…」
シーマの頬が赤らんで見えた。二杯目のドライマティーニのせい?か、
照れ隠しなのか…それは本人も分らなかった。
230 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:43 ID:???
キースが3杯目の中ジョッキを飲み干す。
「そうそう。俺、グエン・サード・ラインフォードの噂。聞いた事ありますよ」
「え!何々?どんな噂?」ニナがその話に乗ってきた。
「グエン卿、かなりのプレイボーイで、付き合う女性を取っ替えひっ替えらしいんですよ…
あれで優しい顔に似合わず、付き合う女性には結構、酷い仕打ちしてるらしくって、
グエン卿に棄てられた大勢の女性はそりゃもぅ…」
「ま、そりゃ。ワイドショーのネタにもなる位だもんね。取り巻きの女性達には事欠かないって話だし」
「けど、それだけじゃなくて…分かれた女性達って、凄く精神的にボロボロになるって」
「
セレブとのお付き合いはそんなに大変なのかしら?」
「なんでも女性としてのプライドを著しく傷つけられるらしいとか…そんな話、良く聞きますけどね」
キースとニナの会話はワイドショーのネタには事欠かないグエン卿の周辺、社交界の世界ではありふれた話だ。
殆どは根も葉もない噂ではあった。が、中にはグエン卿に自分から近づいて行ったご婦人達が
女性である自分よりも男性であるロラン・セアックに夢中になっているグエン卿という存在を知り、
いたく落ち込んでしまい自滅したケースも含まれているのは、事実だった。
「ふ~ん…金持ちの遊びはよう分らんなぁ~」
モンシアは興味薄な感じだが、キースとニナは構わず話続ける。
「それでも次から次へとグエン卿を狙う女性達が居る、っていうから…」
「分るわ…グエン卿の危ない雰囲気。ついつい惹かれるものがあるもの」
「何言ってんですかぁ~ニナさんには俺が居るじゃないですかぁ~…」
モンシアはニナの肩に手を乗せようとするが…ニナは素早くコウの隣りに座りなおし
迫り来るモンシアに対して、コウを盾にする。「嫌です!コウ、助けてよ」
「え?……ああ…」コウは一連のやり取りには、関心が無かった。
「シーマさんが……まさか…ねぇ…」
(しかし、あのグエン卿の事だ…何をするか、想像出来ないな……シーマさんも、もしかしたら
他の大勢の女性達のように……いや、そんな…事は……ない、無いよな?)
コウの頭の中で、同じ考えがグルグル回っていた。
231 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:46 ID:???
コウを中心としてニナとモンシアが押し合いへし合いをしている最中、
コウは今日の午後の事の出来事を回想していた。
部活に行く前のコウは、シーマ理事長との話し合いを終えたグエン卿と偶然、校内で鉢合わせをしていたのだ。
「やぁ、コウ君。これから部活かい?」
グエン卿の爽やかな挨拶は殆どの人にとっては、良印象を与え、警戒心も解く事が出来る。
「ええ、グエン卿、何です?俺、ロランの事なら…」
しかし、コウはグエン卿に対して決して警戒は解かない。
「ハッハッ…そうじゃないよ。ま、それも聞きたい事ではあるが…
この大学の理事長と君は、個人的な知り合いなのかい?」
「こ、個人的というか…ま、その…そうなりますね。
僕としては知り合いの人が大学の理事長になった、という感じもしますけど」
「そうか……あの、シーマ嬢。君はどう思う?」
「え?シーマさんを、ですか?」
「ああ、そうだ。私は彼女へ投資をするかもしれないんだ、その前に知り合いである君の評価を聞いておきたいと思ってね」
「そうですね…う~ん、力強い人。というか……強引に物事を進めるタイプというか…」
「彼女は…野性味と華麗さの相対するモノを兼ね備えているね。そうだなぁ…野に咲く野草のような美しさというのか、
不思議な人だよ、あのシーマ嬢は。コウ君はそうは思わないかい?」
「野性味ですか…確かに……溢れ過ぎてるかも……」
「私は好きだな、彼女のような人を。野心を隠さないのもいい……ああ、引き止めて悪いかったね。部活、頑張りたまえ」
「…は、はい」
コウはこの時のグエン卿の言葉に少し、嫌な引っ掛りを感じていたが
その引っ掛りが、今では得も言われぬ不安へと変化している自分に気付いていた。
232 名前:僕は…(シーマとコウ) 投稿日:03/07/27 11:48 ID:???
「ねぇ!コウってば、なんとかしてよ…」
「ニナァさぁ~ん、そんなガキは放っておいて…俺と」
ニナとモンシアの追いかけっこはコウを挟み、未だ続けていた。
「モンシア先輩!!」それまで黙っていたコウが突然、立ち上がりモンシアの肩を掴んだ。
「な、なぁんだよぉ…」モンシアはコウの突然の変異に驚く。
「コウ♪」ニナは自分の事を庇ってくれた!という期待に膨らんだ視線をコウに向けるが…
「先輩、グエン卿と理事長が入っていった店、教えてくれますか?」
コウの予期せぬ言葉には場が一瞬、静まりかえる。
コウはモンシアから聞き出した『酒楽』の前に立っていた。
勢いよく『酒楽』のドアを開けるとグエン卿の座るテーブルを見つけ、ドアを開けた勢いよろしく向かっていた。
グエン卿は手にしていたグラスをテーブルに置くと、怪しげな表情でコウを迎える。
「おやおや、コウ君じゃないか。今日はよく会う日だね」
コウは挨拶をせず、店を一巡してシーマの姿を探すが見当たらない。
店内に来て初めてコウは口を開いた。
「シーマさん…シーマさんは何処に居るんですかぁ!」
「何故、君が彼女の事を気にするのかな?」グエン卿は目を細めて質問をする。
「そ、それは…ウチの……ウチの大学の理事長だからで…」
コウはグエン卿の問いに対しての、正確な言葉がみつからない。
「イチ学生である君が、大学の理事長を心配して、迎えに来た?……と」
「いけませんか?」コウは震えていた。理屈ではなく、感情で動いているの自分を感じていた。
グエン卿はコウの様子を見ると何かを悟ったような表情を見せて、その場で立ち上がる。
「コウ君、ついて来たまえ」
グエン卿はコウを先導するような形で店の奥の通路へと消えていった。
233 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:49 ID:???
グエン卿は店の奥の通路を歩きながら話を続ける。
「フフッ……。ナイトのお出迎えと言う事かな?シーマ嬢は奥にあるVIPルームでお休みだ。
悪酔い酔いしたらしいね。暫く休ませてから、私が送ろうと思ったのだが……後は、君に任せるとしよう」
グエン卿はコウの肩を軽く叩き、VIPルームの扉を開いた。
VIPルームで1番最初に目に付くのは、壁に掛けられている大きなロランの写真で
それは、ロランが自宅の庭で洗濯モノを干している写真だった。
他にも沢山の写真立てが飾ってあり、全てがロランの写真だ。
どうやら盗撮らしい…最近、ジュドー、ガロード、ウッソ等が
新しいお徳さんが見つかって良かった。等と騒いでいたのを思い出すコウだった。
何故?バー『酒楽』の奥の方にベットルームが?
グエン卿がどのような目的があって、このVIPルームを作ったのか?
今のコウには理解出来なかった。が、そこに眠っているシーマの姿は本物であり、
シーマの安らかな寝顔を見るとコウは心底ホッ、としてそのような疑問は吹き飛んでしまう。
「シーマさん?起きて下さい」コウは眠っているシーマの肩を揺すり、起そうとしたが
「……う、う~ぅ~うん……」シーマは未だ寝ぼけているようだった。
「さぁ、帰りましょう」
「……あ?……ラんで…ボウヤが…」
コウはシーマをおんぶして、VIPルームから出る。
「車を出そう。それで送るといい」グエン卿は気を利かしたが
「いいです。この辺、シーマさんのマンションが近いですから、このまま連れて帰ります」
コウはグエン卿の申し出を辞退をした。
「分った。じゃあな……そうそう、ローラには宜しくと伝えておいてほしいな」
「分りました。それじゃ…お世話になりました」
二人を見送るグエン卿はポツリと漏らす。
「羨ましいものだよ……相手にも思いが通じているというものは…私には夢の又、夢かな……」
234 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:51 ID:???
コウは背中にシーマをおぶさって幹線道路沿いを歩いていた。
道路を走る車のライトが二人を照らしている。
ここから数十分も歩けばシーマの住むマンションに着くことをコウは知っていた。
「もう一軒~連れてけぇ~~!!ハッハハハハ」
意識が覚醒したシーマは酔いが回っているせいか、普段よりもすこし陽気になっていた。
「シーマさん…さっきまで酔いつぶれてたんだから、無茶ですよ…」
「ボウヤがアラシに命令するラんて…10年早いんラよ~…」シーマの舌は完全に回っていないようだ。
「駄目です。マンションまで送りますから」
「………」
(ヤレヤレ…やっと静かになった。シーマさんって案外、酒癖悪かったんだな…)
沈黙が暫く続いた後、シーマは静かに口を開いた。
「好きだよ……コウ……」
「え?」一瞬にしてコウの顔が真っ赤になる。
「アンらは……どう思ってるの?……」
「な、なにを唐突に…」
「アらシの事をさ……」
「…………」
シーマは質問の答えを求めた。「……ねぇ」
コウは動揺の走る中、ゆっくりと言葉を搾り出す「ぼ、僕は………」
「…………」シーマの声が止んだ。車の音も止み、静寂が二人を包んだ。
聞こええるのはコウの声だけだ。
「僕は、シーマさんの事を………」
235 名前:僕は…(シーマとコウ)投稿日:03/07/27 11:54 ID:???
「シーマさんの事を……」
「Zeeeeeee……」
コウの耳元には微かな寝息が聞こえてきた。シーマの寝息だった。
シーマは再び寝てしまった。
コウは息をつき胸を撫で下ろすと、黙ってシーマのマンションを目指して歩き続ける。
(今、僕は何って言おうとしてたのかな?)
コウには自分の気持ちがちゃんと分っていた。
しかし、この晩のこの時間の事は当分の間、コウだけの秘密にしておく事にした。
(終わり)
最終更新:2018年11月27日 15:06