103 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 1/6 :2012/08/16(木) 17:23:58.17 ID:???
中編。どうにも区切りが悪くて6レス分になってしまったので、6レス目は後編と一緒に投下します。
ヤザンの持ってきた資料にあった見取り図を頼りに、格納庫の地下に隠された
デビルガンダムの研究スペースへとたどり着いていた。
セレーネ(…驚くほどの正確さ。あのおっさん、こんなのどうやって調べたのかしら)
確実な仕事に定評のある男と聞いて頼んだのだが、ここまで調べ上げるとは。見取り図の端っこに血がついているような気がしたが、気のせいということにした。
セレーネ(見つけた…)
巨大な水槽の中で、デビルガンダムは薬液に浸かっていた。見たところ、暴れる様子はない。ビームガンで水槽に穴を空け、崩壊させる。轟音と共に水槽が崩れ、デビルガンダムが空気に触れる。
セレーネ『さてと。キョウジ、聞こえてる? セレーネよ。セレーネ・マグクリフ・G。生きてる?』
反応はなし。やはり、助け出すのは無理か。思わず唇をかむ。
セレーネ(仕方ない)
しかし、本当にキョウジが中にいると決まったわけではない。死体だけでも確認しなければ。コクピットを開けようとして――とどまった。デビルガンダムが、動いている。
セレーネ『起きたか』
本体と同じく、みょうちくりんな造形をした
ガンダムヘッドを周囲にはやして、掴みかかってくる。後ろに移動してかわす。
セレーネ『AIビットMS、起動!』
掛け声とともに、背後でまたしても轟音がとどろく。どこからともなくやってきた十五機のMSが、
スターゲイザーの周囲に集まった。
セレーネ『セレーネちゃん特製、AIビットMS! 加減なんかきかないわよ!』
それぞれ、兄と弟たちのガンダムを模した十五機の無人MSである。各々に優秀なAIを搭載し、親機であるスターゲイザーから詳細な命令を送ることで擬似的にフラッシュシステムのビットMSを再現したものだ。
セレーネ『行け!』
攻撃命令。十五機のビットMSからの集中砲火を浴びせる。煙でデビルガンダムが見えなくなり、そろそろ倒せたかと思った時。急に攻撃が止んだ。
セレーネ『…あれ?』
そして、AIを制御しているモニターに"WARNING"の文字が躍る。気付けば、ビットMSにガンダムヘッドが噛み付いていた。
セレーネ(まさか、ハッキング!?)
DG細胞に浸食されたビットMSはコントロールを失っていた。そればかりか、命令用の通信回線を利用してスターゲイザーまでも侵略しようとしていた。ただちに回線を切断する。
セレーネ(まずい! いったん退いて…あっ!)
離脱を試みるが、先ほどまで自分が動かしていたZビットのビームライフルがスターゲイザーの右足を粉砕し、スターゲイザーはバランスを崩して落下した。デビルガンダムが迫る。
104 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 2/6 :2012/08/16(木) 17:26:59.46 ID:???
セレーネ「動け! 動けったら!」
落下した体勢から復帰しようとあがく。以前ドモンが、"デビルガンダムの生体ユニットには女性が適任らしい"と言っていたのを思い出した。
自分を取り込むつもりか。全身に怖気が走った。もうじき触れようか、という瞬間。
『シュトゥルム・ウント・ドランク!!』
セレーネ「え?」
黒い影が前を横切り、デビルガンダムの腕を吹き飛ばした。
セレーネ「だ、だれ…?」
シュバルツ「ネオドイツのガンダムファイター、シュバルツ・ブルーダーだ! 助太刀する!」
シュバルツ。ドモンの先輩で、色々教えてくれたらしいが、自分はよく知らない。ザンスカールの副社長みたいな目出し帽をかぶっている。
あの副社長の目出し帽はあんなに趣味の悪い色はしていないが。
セレーネ「なんで…」
シュバルツ「そんなことはどうでもいい! とにかく、ここを離れるぞ!」
シュバルツの機体――ガンダムシュピーゲルがスターゲイザーを抱えて跳躍。地上に降り立ち、おろす。
デビルガンダムがそれを追うように格納庫から這い出てくる。
セレーネ「あ、あんた一体…」
シュバルツ「説明している時間はない。来るぞ!」
ビームガンを捨て、専用のビームライフルを装備する。セレーネも、ビットMS以外の準備をしていなかったわけではない。
スターゲイザーは本来、戦闘用の機体ではないが、専用に調整した武装を取りつければ戦闘も不可能ではない。VLに回す分のエネルギーを武器に回すため、必然的にVLは停止してしまうが。
無数に襲いくるガンダムヘッドを打ち抜き、時にはかわしながらデビルガンダムの本体に攻撃を行うが、通常のMSの数倍はあるような巨体である。
ただのビームライフルではかすり傷にもならない。しかも、DG細胞に浸食された自分のビットMS達や作り出したデスアーミー、ガンダムヘッド達まで襲ってくるのだ。
シュバルツはシュバルツで、常識を色々と超越した挙動で敵を粉砕しているが、ガンダムヘッドやビットMS達の攻撃の前に決定打を与えられない。
セレーネ『ジリ貧、って奴かしら』
シュバルツ『このままでは…む、セレーネ! 後ろだ!』
スターゲイザーの背後にV2ビットが光の翼(ミノフスキードライブを用意できなかったので、急加速しながら
胸部のVの字からビームサーベルを吹き出すまがい物だが)を展開し、迫ってくる。かわせない。
セレーネ『えっ――』
爆発が起きた。
105 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 3/6 :2012/08/16(木) 17:27:48.32 ID:???
シュバルツ『セ、セレーネ!!』
セレーネ『え?』
通信機から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
シュバルツ『な』
煙の中から現れたのは、無傷のスターゲイザーと、スクラップと化したV2ビット。そして――
ウッソ『ま、間に合いました!』
"本物の"V2ガンダムだった。
セレーネ『ウッソ! どうして――』
カミーユ『わけは後だ、姉さん!』
ドモン『デビルガンダム…何度現れようと、俺はお前を倒し続ける!』
カミーユの駆るWB形態のZガンダムに乗ってやってきたのは、ドモンのゴッドガンダム。飛び降りて、一撃を加える。カミーユも変形を解いて攻撃を始めた。
シロー『あんなでかぶつにひるむな!
ガンダム家、出撃!』
コウ『みんな、巻き込まれないでよ!』
マイ『戦闘はあまり得意ではないのですが…言っている場合ではなさそうです』
シーブック「多いな。でも、バグの大群に比べれば!」
Ez-8、デンドロビウム、ヅダ、F91の一斉放火を受けてデビルガンダムがひるんだ。
刹那『貴様はガンダムではない!』
ロラン『お前ら下がれぇ!』
生産が遅れた隙を突き、デスアーミーやガンダムヘッドをООガンダムと∀ガンダムが蹴散らす。
シン『行くぜ、キラ兄!』
キラ『一人でやってよ』
シン『おい!?』
キラ『冗談だよ。ドラグーンで援護するから突っ込んで』
シン『了解!』
ストライクフリーダムのドラグーンが死角からの敵を打ち抜き、デスティニーが接近戦で敵をなぎ倒す。大量の敵がどんどん減っていく。
セレーネ『みんな…なんで』
またしても背後から襲ってきたデスアーミーが、いずこから放たれたビームに粉砕される。
アムロ『後ろにも目をつけろ、セレーネ!』
そして兄の、νガンダム。
セレーネ『兄さん…!』
アムロ『家族は助けあうものだからな。…ぼーっとしていないで、行くぞ!』
セレーネ『了解!』
106 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 4/6 :2012/08/16(木) 17:28:28.64 ID:???
完全に優劣は逆転していた。操られたビットMSはすべて破壊され、無数に生み出される機体は現れるたびに破壊されていく。
しかし、問題は本体だった。巨体ゆえに装甲も分厚く、DG細胞の再生機能ですぐにダメージが回復する。
アムロ『やっぱり、普通の兵器じゃ無理か』
セレーネ『どうするの?』
ドモン『ラブラブ天きょ』
アムロ『通常じゃない兵器を使えばいいのさ。そして、もう用意はできているはず』
セレーネ『え?』
アムロ『ヒイロ、頼むぞ』
ヒイロ『任務了解。デビルガンダムの破壊任務を開始する。ガロード、ジュドー。準備はいいか』
ジュドー『もちろん!』
ガロード『ぜんぜんオッケー!』
ヒイロ『味方に警告する。デビルガンダムの周囲からただちに撤退しろ』
ヒイロ『ツインバスターライフル最大出力…ターゲットを破壊する!』
ガロード『ツインサテライト・キャノン、いっけぇぇぇぇぇぇ!』
ジュドー『いくぜ、ハイ・メガ・キャノン!』
離れた頃合いを見て、三機がデビルガンダムの射程外から、一気に砲撃を放った。
デビルガンダムは巨大な火柱に呑まれた。
アムロ『やった!?』
煙の消えた後には、わずかながらにコクピット部分が残っていた。いまだ再生しようとしているのか、不気味にうごめいている。
シュバルツ『…しぶとい奴め。今すぐにとどめを…』
セレーネ『待って。…私がやるわ』
シュバルツ『なに?』
セレーネ『中にいる奴、大事な友達だもの。…助けられないなら、せめて、ね』
シュバルツ『………』
セレーネ『さよなら、キョウジ』
ビームライフルを構え、照準。トリガーを引いた。残った部分も残らず焼かれ、今度こそデビルガンダムは消滅した。
107 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 5/6 :2012/08/16(木) 17:29:58.69 ID:???
シュバルツ「終わったか…」
セレーネ「………」
シュバルツ「そう気を落とすな」
セレーネ「…そうね。それで、あんた何者なのよ?」
シュバルツ「…む、むう。まあ、全てが終わったからな。見せても構わないか…しかし、あれを見せられてはやりづらいが…」
セレーネ「はっきりしなさいよ。怪しげなマスクなんてつけちゃって。無理やり剥いでもいいのよ?」
シュバルツ「わ、わかった! …というか、こんなに近くにいるというのに、本当に気づいていないのか?」
セレーネ「何の話?」
シュバルツ「まあ、十年もたてば無理はないか。私だよ。(マスクを取る)」
セレーネ「キョウジ!?」
キョウジ(シュバルツ)「久しぶりだな、セレーネ」
セレーネ「な、なんで…あんた、デビルガンダムの中にいたはずじゃ…」
キョウジ「それがな…話すと長くなるんだが」
セレーネ「一言で」
キョウジ「デビルガンダムの中にいたのは"本物の"シュバルツ・ブルーダーだった」
セレーネ「本物の、って…」
キョウジ「私はアルティメットガンダム…今のデビルガンダムに乗ってウルベから逃げ、地球に落下したんだが…その衝撃でコクピットから放り出されて、そのまま意識を失ってしまったんだ。それで、偶然その場に居合わせたのが…」
セレーネ「本物のシュバルツ・ブルーダーだった、と…」
キョウジ「そうだ。デビルガンダムが彼を取り込んでその場を去り、私はネオドイツ政府に拘束された。そこで理由を話したら、取引を持ちかけられた。『全て秘密にしておいてやるから、シュバルツ・ブルーダーとして修業し、
ガンダムファイトに出ろ』とな」
セレーネ「…そういうこと。でも、生きてることくらい教えてくれてもよかったじゃない」
キョウジ「そうしたかったんだが、修業でそれどころではなかったし、ウルベにしっぽをつかまれる可能性もあったからな。ウルベが倒れた後も、本物のシュバルツを取り込んだデビルガンダムを倒すまでは正体を明かしたくなかった」
セレーネ「最後に。私の居場所
どうやって知ったのよ」
キョウジ「ゲルマン忍法に不可能はない!」
セレーネ「…ま、いいわ。とりあえず、一言言わせて」
キョウジ「なんだ?」
セレーネ「おかえり」
キョウジ「…ああ。ただいま」
109 名前:キョウジ・カッシュの帰還・中編 6/6 :2012/08/16(木) 18:22:15.51 ID:???
そろそろいいかな。最終投下。
セレーネ「ところで卒業した時にした約束、覚えてるでしょうね?」
キョウジ「『次に会う時は、どちらが優れたものを作れるか勝負する』だったか」
セレーネ「あんたの成果があのデビルガンダムとして。結果的には私の勝ちよね。倒したし」
キョウジ「馬鹿を言え。アムロさん達に助けてもらわなければ到底勝利などできなかった。それに君はとどめを刺しただけだろう」
セレーネ「勝ちは勝ち。そもそも、あんたはライゾウさんの手伝いをしただけでしょ? 私のAIはぜーんぶお手製だもの」
キョウジ「むぐ…しかし、君の勝ちというのは納得できない。だいたいなんだ、あのMS達は。ビットMSを参考に作ったのだろうが、フラッシュシステムに
よる変幻自在の機動や、見た目の統一による幻惑こそがビットMSの真髄だというのに、そのメリットが尽く失われているではないか!」
セレーネ「ニュータイプじゃなくても動かせるようにしようとしたら有線仕様かAI搭載しかなかったのよ! 有線よかマシでしょうが!」
キョウジ「その考えが科学者として失格だというのだ! 簡単に妥協などするからこうなることがなぜわからん!」
セレーネ「妥協ですって!? あのシステム作るのにどんだけ苦労したと思ってんのよ!」
キョウジ「しかもそのビットMSもひどいものだ! すべて兄弟のMSをモチーフにしていたようだが、武装も性能も全て劣化しているではないか!」
セレーネ「ガンダムタイプに使われてるようなものを簡単に調達できるわけないでしょうが! そもそも私はAI専門でハードは専門外なの!
あれ作るのにガロード達にいくら払ったと思ってんのよ!」
キョウジ「そのような逃げが科学の発展を阻害する! 十年経っても視野の狭さは相変わらずだな!」
セレーネ「私は優れたAI作って、あと星が見れればそれでいいのよ!」
ドモン「二人とも、なんと大人げない…」
アムロ「あいつ、対等な人間が恋しかったのかもしれないな」
ウッソ「どういうことです?」
アムロ「あいつ、頭いいだろ。AIの分野だけに絞ればうちの家族でも一番だ。それだけに、お互いに競って刺激しあえるような人間が少ない」
シーブック「ライバルってやつですか」
アムロ「そうともいう。気の置けない友人がいるってのは幸せなことだ。年が近くて趣味も合うとなれば尚更な。…まあ、好きなだけ喧嘩させておこう。
十年越しの再会だからな。ドモンには悪いが…」
ドモン「あんなに楽しそうに話してるんだ。邪魔をするつもりはないよ」
セレーネ「そうだ、兄さん」
アムロ「ん?」
セレーネ「どうやって私の居場所を特定したのか。それについてちょっと話があるから。覚悟しといてね」
アムロ「………」
最終更新:2015年10月24日 10:02