772ロランとカミ―ユ、あるいはクワトロとカミ―ユの話 1/52018/05/16(水) 13:03:18.72ID:qM04426w0
未完成だけど大筋はできてきたので投下。次の投下は出来上がったら
未完のまま失踪の可能性もあるのであんまり期待はしないでね


――side ロラン

初等部でのこと。ぼくはどうにもよく目立ったらしい。いじめっ子の標的にされることが多かった。
『おい、女男ふたりが歩いてるぜ!』
『今日は何すんの? おままごと? お人形遊び?』
『うるさいな! どけよお前ら!』
からかういじめっ子たちを、カミ―ユが追い払う。
『カミ―ユ、いいよ。放っておこう…』
ぼくはいつもそれをなだめていた。喧嘩は嫌いだったから。

『あんなこと言われて、ロランは悔しくないのかよ!?』
『みんなが喧嘩するほうが嫌だから…』
『おれは納得できない! ロランはおとなしすぎるんだ!』
怒るカミ―ユ。おとなしいって、そんなに悪いことかな。
僕は、むやみに力に訴えようとするカミ―ユのほうが怖かった。

何年か、同じような状況が続けばもう慣れたもの。…というわけにもいかない。
カミ―ユがアムロ兄さんに直談判していた。
『だから、ロランがいじめられてるんだ!』
『………はぁ。悪いけど兄さん、今日はちょっと疲れてるんだ』
『この前だってそう言ったじゃないか!』

『ロラン本人ははいじめられてないって言ってるんだろ。お前の思い込みじゃないか…』
『うるさいわね…毎日毎日なんの騒ぎよ?』
そのころのアムロ兄さんは就職したばかり。新卒で慣れない職場、人間関係…今はその大変さが完全とはいわないまでも理解できた。
『姉さんも、なんか言ってくれよ…ロランのことだって』
『それ、何度も聞いた。でも私、今とっても大事な時期なの。わかる? ここでの頑張りで人生変わるくらい大事なの。だから邪魔しないで静かにして。いいわね?』
『………! もういいよ!』
やる気のないアムロ兄さんやセレーネ姉さんの物言いに、カミ―ユはいつも怒っていた。当事者のぼくはといえば、何も言わなかった。
ぼくが我慢すれば収まることなのだから。カミ―ユにはいつもそう言い聞かせていたけれど、聞いてくれなかった。
カミ―ユは自分の名前のことにコンプレックスを感じていたから、なぜ似た境遇にいるぼくが同意してくれないのか理解できなかったらしい。

773ロランとカミ―ユ、あるいはクワトロとカミ―ユの話 2/52018/05/16(水) 13:04:10.15ID:qM04426w0
そして、六年ほど前のある日のこと。
『なー、ロランとカミ―ユ、シーブックって兄弟だろ? なんで髪の色も肌の色も違うんだ?』
『うるさいな…冷やかすだけならどっか行けよ』
『本当の兄弟じゃなかったりして!』
『お前!』
『痛ェ! こ、こいつ本気で…』
『取り消せよ! 今の言葉! 取り消せ!』
『やめろカミ―ユ! やりすぎだ!』
『言っていいことと悪いことがあるだろ! そんな区別もつかないのかよ!? お前みたいなやつ、死んでしまえばいいんだ!』
喧噪はまったく耳に入っていなかった。あの言葉がリフレインしていたからだ。
――本当の兄弟じゃない?
――髪の色が違って、肌の色も違うから?
ぼくは。ぼくは。ぼくは…
『あんなの気にすんなよ、ロラン』
『そうよ。…いくらなんでも酷すぎるわ』
『ロランくん…顔色が悪いけれど、大丈夫?』
キースやフラン、カテジナが何か言っていたけれど、聞こえなかった。



気付いたら僕は部屋にいて。ひどく驚いた顔のアムロ兄さん達がぼくを見ていた。
『これで…おそろいだよね』
手には墨汁。なぜか笑っていたと思う。それは思い違いで、当たり前に泣いていたかもしれない。
どちらにしろ、馬鹿なことをしたものだと思う。そんなことでどうなるわけもないのに。ぼくは自分の髪を墨汁で塗りつぶしていた
『ロラン…!』
そうしたら、ちょうど家に帰っていたセレーネ姉さんが抱きしめてくれた。何度も謝っていた。僕はといえばようやく涙が出てきて、うんと泣いた。
アムロ兄さんは――どこかへ行っていた。覚えてない。聞けば、激怒して学校を含むあちこちで暴れまわったらしい。
そのあと、号泣しながらひたすらぼくに謝っていたのを覚えている。特に何も感じることはなかったけど。
なんだか疲れちゃって、その日はそのまま寝ちゃったんだ。そんな僕らをカミ―ユが怒りの形相で睨んでいたのは夢だと思っていた。

そして、数日が経ったある日。

カミ―ユが家出したのだ。

774ロランとカミ―ユ、あるいはクワトロとカミ―ユの話 3/52018/05/16(水) 13:06:58.34ID:qM04426w0
side カミ―ユ

ロランへのいじめが発覚したあの事件の数日後。カミ―ユは身の回りのものを持って家を飛び出した。
――あんなに言ったのにみんな信じもしなかった。その結果があれだ。もう家族なんて信じられなかった。

しかし行く当てもなくさまよううちに、雨が降り出してきた。だんだんと土砂降りになってきたので、近くの建物の入口で雨宿りすることにした。

身の回りのものをかき集めて出てきたとはいえ、所詮は子供。傘もそれを買えるようなお金も持っていなかった。
「これからどうしよう…」
しゃがみこんで、カミーユは一人呟いた。家に帰るのは嫌だ。だからといってこのままでいるわけにもいかない。
悩むうちに時間は過ぎ、気付けば日が暮れていた。雨がやんだとしても、行く当てがあるわけでもない。ファやクリスのところになど行ったらあっという間に連れ戻されてしまうだろう。
「…何をしているんだ?」
そんな時だった。サングラスをかけた男が声をかけてきたのは。

 ・ ・ ・

新型MSデルタガンダムのテストを終えたエゥーゴ社のテストパイロット、シャア・アズナブル――今はクワトロ・バジーナであるが――は
寮へ戻ろうとエゥーゴ社のビルから出てきたところだった。
「何をしている?」
「…おじさん、誰?」
クワトロは、その子供に――いや、その感覚に覚えがあった。
アムロ・レイ・ガンダムの弟の中にこのような顔立ちと感覚を持った子供がいたような気がしたのだ。確か名前は――カミーユ。
アムロとその家族に最後に会ったのは何年も前のことであるし、この少年は自分のことを覚えていないだろう。いや、はじめから覚えようとすらしていなかったかもしれない。
「この会社の者だよ。…家族の人は?」
「知らない」
カミーユと思しき少年はむっとした表情で答える。その態度から、クワトロは事情を読み取った。
「家出か」
「………」
否定の言葉は出ない。どうやら、間違いなさそうだった。
「何があったか知らないが…そのままでは風邪をひいてしまうぞ。中に入ろう」
クワトロが背後にある社屋を指差して言うと、カミ―ユは青い顔をして後ずさった。

「(いかんな)」
クワトロとしては善意のつもりでかけた言葉だったが、どうやら勘違いさせてしまったらしい。おそらくカミ―ユは自分のことを人攫いか何かだと思っている。
子供が見ず知らずの大人にこんなことを言われては、そう勘違いされるのも仕方のないことだ(クワトロは、自身のサングラスが怪しさを増幅させていることには気付いていなかった)

775ロランとカミ―ユ、あるいはクワトロとカミ―ユの話 4/52018/05/16(水) 13:09:19.70ID:qM04426w0
「…安心してほしい。私は君の兄――アムロ・レイの知人だ」
「兄ちゃんを…知ってるの?」
「知っているよ。ライバルと自認している」
自身をじっと見つめるカミ―ユに背を向け、歩き出す。
「帰りたくないし行く当てもないというなら、中に入ったほうが幾分かマシだと思うが?」
指で社屋を示す。カミ―ユは黙ったままだ。
「どうした、ついてこないのか?」
クワトロとしてはこれから帰るはずだったが、子供を見捨てて帰るのはさすがに寝覚めが悪い。
「…行きます。家は嫌だし、アムロ兄ちゃんはもっと嫌なんだ」
そう言ったカミ―ユはクワトロの後を追い社屋へと入っていった。


会社に戻ったクワトロは会社のスタッフに事情を説明し、いったんカミ―ユを預けガンダム家に連絡を取った。
『はい、ガンダムです!』
『こら、刹那! 姉ちゃんに代わりなさい! …あ、もしもし。ガンダム家ですが』
元気な少年の声が飛び込み、それに割って入るように落ち着いた女性の声が響く。聞き覚えのある声だ。少し涙声になっているのは気のせいか。
「セレーネ君か」
セレーネ・マクグリフ。アムロの妹。以前、ちょっとした騒ぎに加担した時からの付き合いだった。
『その声。ひょっとしてシャアさん?』
「ああ。今はクワトロ・バジーナと名乗っているがね」

『久しぶりね。アムロ兄さんに用かしら。残念だけど――』
「おおかた、カミーユ君を探しているのだろう?」
『もしかして、誘拐犯はあなたなのかしら』
セレーネが言う。穏やかに聞こえるが、裏に大きな怒りがこもった声だった。

「違う。――とは言い切れないが」
クワトロは手短に事情を話す。
『なるほど…ごめんなさい、うちの弟が迷惑をかけてしまったみたいで』
気落ちした声で言うセレーネ。電話の向こうで頭を抱えているのが見えるようだった。
「なに、彼を拾ったのは私の意思だ」
『今すぐ引き取りに行きたいところだけど…』
時計を見る。もう夜の八時だった。
「こんな時間にか。最近は物騒だし、やめておきたまえ。――まあ、一晩くらいなら預かれるさ」
『本当にごめんなさい。じゃあ、また明日伺います』
「待っているよ」
そう言って、クワトロは電話を切った。

776ロランとカミ―ユ、あるいはクワトロとカミ―ユの話 5/52018/05/16(水) 13:13:39.81ID:qM04426w0
「大尉」
スタッフルームから出てきたのは、昔馴染みのアポリー。カミ―ユの相手をしていたようだが、特に疲れた様子は見られなかった。
「すまないな、世話を押し付けて」
「とんでもない。シミュレーターに興味があったみたいなんで触らせたら、結構いいセンスで」
シミュレーターはオモチャではないのだが――まあ、手がかからなかったのは良いだろう。クワトロはしゃがみこみ、カミ―ユに目線を合わせた
「カミ―ユくん。君を一晩預かることになった」
「本当ですか?」
嬉しそうに言うカミ―ユ。シミュレーターで気が晴れたのか、幾分か元気が戻った様子だ。
アムロのところに帰らなくてよい、というのも後押ししているのだろう。
「…いいんですか?」
アポリーが耳打ちする。子供を無断で寮に入れていいのか、ということか
「どうせ一晩だ。黙っていれば問題はないだろう」
「大尉も、良い感じに気が抜けたもので」
「今は雇われだからな。気楽なものさ」

社員寮のラーディッシュの自室へと帰ると、カミ―ユは疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。


続く?


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最終更新:2019年07月15日 22:15