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ハイテンションガール! ◆g4HD7T2Nls





とある寂れた診療所。

その一室にあるベッドの上にて、がばっと豪快な音を立てながら布団を跳ね除ける。
そんな彼女の第一声がこれだった。

「う゛ぁああぁあぁあぁあぁぁあぁあぁーーっ! 嫌な夢見たぁぁあぁぁあっ!!」

今、ベッドの上で上体を起こし、薄暗い周囲を見回す少女。
彼女の名は河南子。

河南子について簡単に説明すれば、坂上智代の弟の元彼女であり、更に言えば坂上智代の彼氏の家の居候だ。
現在は絶賛家出中の身。
好物はアイス。
ついでに公式戦ならば最強と自負する。
そんな感じに普通(?)の少女である。

さて、そんな河南子は叫び声を上げた妙な姿勢のまま、暫くあたりを観察し続けていた。
見えるものを一つ一つ検分していく。
天井、白いが薄汚れていて清潔感皆無。
床、やはり埃が溜まっていて汚い。
机、何やらよく分らない医療器具が散乱しているがとにかく汚い。
全体的印象、とにかくボロい。

やはり違った。
この場所は河南子にとっての居場所とは似ても似つかない。
彼女がよく知る、簡素で狭くて、けれど暖かな場所とはまるで違う。
ここはあのアパートの一室ではありえない。
その事実をゆっくりと飲み込んでから、河南子はつまらなそうに、
ほんとうにつまらなそうに一言だけ呟いた。


「ちっ……やっぱ夢じゃねーのかよ」


殺しあい。
信じられない話ではあった。
けれど信じるしかない話でもあった。
画面の向こうの出来事とは言えども、河南子にも分るほどにリアルな死を見た。
殺しあえ、という言葉。あれは嘘でも冗談でもない。
そのくらいは彼女にも伝わってきた。

「なんだそれ。うあー……だる……」

そう言って、起こした上体を再びベッドに倒す。
再び河南子の視界は汚れた天井に満たされる。
ここに至るまでのことを思い返す。
最初のスタート地点たる個室を出て暫く歩いくと診療所があったので、とりあえず入った。
そしてちょうどいい感じにベッドがあったので、寝転んだ。
以上、回想終わり。

「……だるい」

その台詞は最初に寝転ぶ際に発した言葉とまったく同じだった。

「とりあえず、よっこいっせっと」

気だるい動作でありながらも、手だけがベッドの下に伸ばされてそこあるデイパックの口を開ける。
そして手探りでパンと水、最後に名簿を取り出した。

「ひとまずは飯が先だ。あたしはね、日々の活力とは食事から得るものだと心得ているのですよ」

仰向けの体勢のままパンをちぎり口へと運びながら名簿を開く。
記された名の羅列を追いながらパンをちぎっては食べちぎっては食べ。
しかし不意に目線が固定され、口に運ぶ手も静止した。

「んー……ま……そんな気はしてたけどさ……」

最後の一欠けらを口に放り込む。

「岡崎朋也……先輩……それに……鷹文まで……」

その三人、特に最後の一人の名を呼ぶとき。
彼女の声はらしくない真剣味に震えていた。

「あの子が連れてこられてないのは不幸中の幸い……か。
 でも、あの子以外みんなここにいるんじゃあ、今頃あの子は……とも、は」

拳が硬く握られる。
奥歯が強く噛み合わされる。
ぎりぎりと音が鳴るほどに。

“最後の一人になるまで殺しあえ”

「……ふざけんなよ……こんちくしょー」

ゆっくりとベッドから起き上がる。
しかし一度目よりも確かな意志の篭る動作で身体を起こした。

「やっぱりおちおち寝てもいられませんな」

予想できていたとはいえ、その名前達が彼女に与える破壊力は思っていたよりも大きかったらしい。
それほどに大事なものだったらしい。

「それに……こんなの……あたしらしくないしねぇー」

だが、出発してすぐに寝てしまったことといい、現にこうしてのんびりしていられることといい。
妙に冷静すぎるし、楽観すぎる。けれど同時にどこか身体が重い。
簡単に言えば何もしたくない気分なのだ。現実を受け止めて、行動したくない。
そんなふうになんだか調子が崩れているなと彼女は思っていた。
いやそれとも、この状況でいつもの調子を続けられる方がおかしいのか。

「ふむ、いよーし。これは使いすぎるとアホになるが、やむをえん」

だが彼女はまず、普段の自分に戻る事を優先とする。
もやもやとした意識をすぱっり断ち切りことによって心をリセットする。
そのためにすぅっと息を吸い込んで、思いっきり、大声と一緒に吐き出した。

「ひぃっさつ!!スゥーパァーハイテンショーン!!
 あーっははははははははははははははははははははっ!!!!」

少しの間、馬鹿笑いが部屋いっぱいに響き渡った。
彼女一人の笑いが満ちて、やがてはしぼんでいく。

「ははは…………」

再び部屋が静寂に満たされるまで、そう時間は掛からなかった。

「つっこめよ」

呟く。

「…………つっこめよ」

つまらなそうに、寂しそうに呟く。
自分以外に誰もいない部屋の中、河南子は誰にともなく呟いた。
なに馬鹿なことやってんだと、いつものように。
誰かにツッコミを入れて欲しいと言うように。

「……まいいや、叫んだらなんか微妙に楽んなったし。それよりもっ……と」

けれど静かな声色は一瞬のこと。
河南子は僅かに明るくなった顔色で、水を飲みながら考えを次に進めた。

「これからどーすんのか……決めよっか」

これから自分がどうなっていくのか、いまいち河南子には想像が出来ない。
殺されるという恐怖がないのはきっと、まだこれが現実であるという実感が湧かないからだろう、と彼女は考えていた。
自分が死んだり殺されたりするシーンがちょっと想像できない。
しかし少々麻痺したような心境でも危機感はある。
なにかしなければならないという思いがある。
だからこれから何をしていくか、それを決めようと考えた。

まずは想像する。
殺されるということ。
方法はともかく殺されて、そこで自分の人生が終わるということ。

「……うわ、マジかんべん」

次に想像する。
殺すということ。
方法はともかく殺して、そこで他人の人生を終わらせるということ。

「……うーむ。よくわからんけど……多分願い下げだな……」

河南子とて殺されるのはいやだった。
そりゃなんだかんだで自分はまだまだ生きていたいと思う。
とはいえ殺すのも出来ることなら避けたい。気味が悪いという感情が先行する。
こんな事を考えているようでは、やっぱりまだまだ状況の実感が伴っていないのだろうと彼女は思いなおして。

「とりあえずは鷹文達でも探すか」

気楽に立ち上がった。
殺し殺されはひとまず置いて、今は自分のしたいことをしようと。
めんどくさい考え事はとにかく置いて、最優先で自分にとっての宝物を探しにいこうと決めた。
自分はやっぱり、あの居場所が気に入っている。だから手放せない、失いたくない。
こんなときでも河南子はそれを第一に思うのだ。
その為にはきっと自分を含めて誰が死んでも駄目なのだろう。
岡崎朋也、坂上智代、鷹文、とも。
皆がいるあの場所が好きだから、誰にも死なれては困るのだ。全員揃っていないと意味が無い。
だから早く見つけなければならない、と。突き動かされるように歩き出す。

「全員見つけて、それから考えよう」

もしくは、単に一人でいることに堪えられなくなっただけかもしれない。
こんな時こそ誰かと関わり合いたい、そんな欲求に駆られたのかもしれない。
ただ彼女は居場所を失う事を何より恐れていた。
けれどそんな哀愁は微塵も見せずに、河南子はベッドから飛び降りてディパックを拾い上げる。

「ほんじゃ、出発」

こうして彼女は自分の居場所だった人たちを探しだす、
というひとまずの目標だけを掲げて歩く。

あくまで表面上は気楽に、マイペースに、ハイテンションに、
河南子のバトルロワイアルは始まった。






が、その前に。

「おっととと、忘れるところだったぜ」

河南子は改めてディパックを開いていた。

「ここに支給品があるとかなんとか、そういう話だったっけ」

ディパックの中に手を突っ込みごそごそと目的の物を探り出す。
色々考えているうちに、ここに来た理由を忘れかけていた。
ランダムに配られた武器の支給、その確認である。
出発するならばとうぜん見ておく必要があるだろう。

「しょ、と。ふむ……」

パックから取り出したもの、それは一枚の紙切れ。
短いメモと、診療所の場所が書いてある。
簡潔に言えばお前の支給品は診療所にあるぞ、という内容だ。

「しっかし解せんねー。
 わざわざ別の場所に置いとくにしてはやけに近い場所に置くよな、面白みの無い。
 あたしなら絶対に遠くまで走らせるね」

武器は一人一人別の物がランダムに配られると聞いている。
が、河南子はどうやらその中でも特別らしい。
ディパックの中に入れずにわざわざ別の場所に安置するほどの物。
つまりディパックに入らないほどの大きさということだろう。

「ここ……か」

そして、いま河南子はその部屋の前に立っている。

「ふむふむメモによると、この扉の向こうにブツはある……とな」

少しの期待と不安が混じる。
あの画面の向こうの男が言うにはゲームバランスをとるための支給品らしいが。
はたして、河南子に支給された品はいかなる物か。

「じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか……」

自分で効果音を演出しながらドアノブを握った。
ふざけているようであったが、実際に河南子の心中は高まっていた。
これから先、自分の運命を左右するかもしれない分岐点がこの支給品にあるかもしれないのだから。

「じゃん!」

そして捻り、勢いよく開け放つ。

はたして支給品はそこにあった。

「…………これは……」

扉のむこう。
あまり広くもない古びた個室の中央に机があり、うっすらと照明が当てられている。
その上にある物、現れたのはライトアップされて黒光りする巨大な銃器。
しかして、これは通常の火器とは一線を画する代物だ。
拳銃、短機関銃、自動小銃、散弾銃、軽機関銃。
どれとも違う。
その規格外の大きさ、存在感に圧倒される。

「…………ガトリング……ガン……」

その呼び名の知名度は高いだろう。
正しく分類すれば重機関銃というカテゴリーに分けられる。
独特の真っ黒い巨大なボディ。見るものに強烈な印象を刻み付ける六門の砲。機械音と共に動作する回転式多銃身。
だがなにより他の銃器と違う点は射撃動作に電力を使用していることだ。
および、それがもたらす人が直接引き金を引く武器としては最大最速の発射速度と破壊力である。
中でもゼネラル・エレクトリック社製ガトリングガンM134――通称”ミニガン”は特に広く知られているものだ。
しかし、いま河南子の目の前に現れた物はそれとは違う。

それはかつて発案され、頓挫した一つの企画の遺物。
通常は携帯運搬が不可能とされる火力の重火器を、個人で運搬使用することを目的として試作されたもの。
使用には二人以上の人員が必要とはいえどもミニガンよりも軽量化されており、外部電力ではなくバッテリーでの駆動を可能としている。
連射力もやはり十二分な威力を備えて、生み出す破壊力は見事に健在だった。
しかしそれでも重量の問題を完全には克服しきれず、他にも様々な欠陥が重なり製作は打ち切られる。
最終的に携帯運用は不可能と言う結論が出てしまったのだ。
よって、あくまでこの銃は試作品のまま、永劫に実用化することはなかった。



という経緯を持つ、言わば幻の銃。



――XM214、通称”マイクロガン”



っぽい杏仁豆腐が、河南子の目の前にはあった。


「…………って、杏仁豆腐かよっ!!うわひっでーなー最強にハズレですよこれぇっ!!」


珍しく彼女がつっこみに回る程の異常性だった。
見た目だけは完璧にXM214なのである。ガトリングガンなのである。
いかなる技術を結集させて製作したのか。
黒いし、でかいし、少なくとも遠目から見れば360度本物に見える。
それほどまでの再現率だ。

しかし同時に、杏仁豆腐なのだ。食べることが出来るのだ。
持ち上げればすぐに違和感に気づくだろう。
まずあまりに軽すぎる。いくらなんでも軽量すぎる。
例えそもそもが軽量化されたタイプであろうとも重火器はやはり重火器。
本物ならばその重さは莫大であり、個人で動かせる物ではありえない。
少なくとも少女の腕で軽々と持ち上げられるものではない。
しかしこれは軽すぎた。河南子にも振り回せるくらい軽かった。
当たり前である。杏仁豆腐で出来ているのだから。

「ていうか……いったいなんなんですかねこれは……無駄に技術力高すぎんだろ」

杏仁豆腐でXM214を再現するという謎の所業が河南子の目の前にある。
これは嫌がらせか。嫌がらせなのだろうか。
ああ間違いなく嫌がらせだろうと河南子は思う。
まさに上げて落とす。期待させてこの仕打ちだ。
つまらない上にやたら手の込んだおふざけである。

「誰だよこんな意味不明なことを考えた奴は……ぜってー根性曲がってんな」

呆れたようにボヤキながら河南子は杏仁豆腐製の重火器と、弾薬ベルト(これも杏仁豆腐)を持ち上げた。
ご丁寧に予備弾薬(これも当然の如く杏仁豆腐)まで置いてあったので回収する。

「うあぁー幸先悪いなぁー、でもこんなもんでも無いよりかはマシか」

とにかく支給品は大ハズレ。
正直厳しいがポジティブポジティブと自分に言い聞かせるようにして、河南子はXM214っぽい杏仁豆腐を装備する。
事情を知っていればシュールな光景だったが、格好だけ見ればどこぞのター○ネーターの如き様相であった。
あくまで格好だけなのだが。ようはこけおどしなのである。

「そんじゃ、ちょっとテンション下がった感は否めないけど…………今度こそ行きますか」

自分の置かれた状況を理解していないわけでも無いだろう。
本当は、恐怖がまったくないなんて事は無いはずだ。
しかし彼女は最後まで泣き言一つ零さないままに、扉を開けて診療所の外へと飛び出した。

殺し合いの渦中へと。

「わざわざ行って……やるんだから……さ……」

だから勝手に死ぬんじゃねーぞ、と。

静かに、胸の内で願いながら踏み込んだ。


【時間:1日目午後3時ごろ】
【場所:F-6 診療所付近】

河南子
 【持ち物:XM214”マイクロガン”っぽい杏仁豆腐、予備弾丸っぽい杏仁豆腐x大量、水・食料二日分】
 【状況:健康】


054:The first malformation of "T" 時系列順 068:CHILDHOOD'S END
057:表は裏に、裏は表に 投下順 059:少年と狐のポルカ
GAME START 河南子 108:何故か、夕日が眩しいと感じたのだ。


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最終更新:2011年09月06日 17:41