表は裏に、裏は表に ◆auiI.USnCE



かつんかつんと歩く音が街中に響く。
あれだけ輝いていた太陽が水平線に沈もうとしている。
空は段々と茜色に変わっていく。
もう直ぐ夜になってしまうと思って、歩いていた少女――向坂環は溜息をつく。
羽のついた女を狙撃して殺せたのはいいが、其処から先は余りついてなかった。

殺した女に支給されたものは外れといって等しいもので。
確かに武器ではあった。
だが、それは無骨すぎて、大きすぎて、そして重たかった。
何十人居ても、持ち上げるのに苦労しそうな大剣だったのである。
当然環が持ち上げる事も出来る訳が無い。
仕方ないので、水と食料だけ回収する事にした。

その後、誰か他の獲物が来ないか待ち伏せをしていたが、現れる気配など無く。
環は結局その場を離れる事を選択した。
街中で、もっと待っていれば人はいづれ訪れたかもしれない。
けれど、日が落ちてから狙撃に慣れてない自分が狙撃を成功できるかは怪しくて。
何よりも、環の心には焦燥感が現れていた。

もしのんびりと待っている間に貴明達が危険な目に遭っていたら。
もしのんびりと待っている間に貴明達が殺されてしまったら。

そう、思ったら居ても立ってもいられなくなった。
得策じゃないと思いつつも、歩き始めていた。
早く誰かを見つけて、そして殺さなければ。

貴明が、このみが、雄二が死んでしまう。

血が滲みそうなくらい唇を強く噛む。
それだけは避けなければならない。
何の為に奈落への道へと進んだのか解らなくなってしまうから。

「……だけど」

親指の爪を噛みながら、考える。
ただ殺していくだけじゃ、駄目だ。
自分ひとりで殺していくには限界がある。
いづれ力尽きてしまうのは目に見えている。
それに、早く終わらなさければ。
ゆっくりしていたら貴明達が死んでしまう。
どうすればいい。
効率よく、殺していくには。
貴明達の為に。

「…………そうするしかないか」

そして、思いついた考え。
危険でもあるが、効果も充分あるだろう考え。
それが一番いいだろうと環は思い、前を向く。

「……多分乗っているのだろうけど」

少しに先に広がる惨状と、其処に佇む男を見ながら。

環は、選んだ考えのままの計画を実行に移す事にする。


更なる奈落に落ちる覚悟を纏って。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「……っ」


未だに気持ち悪い。
まるで、金縛りにあったように身体が動かなかった。
宮沢謙吾は、自分が殺した少女の前で這い蹲っている。

身体が震えていた。
殺した小牧都乃の呪いが全身を蝕んでいっている。
このままではいけないのに。理樹を護りにいかないといけないのに。
充満する血の臭いが踏み出す気力を奪っていく。

「……こんなのじゃ……駄目だ」

けど、それでも、歩き出さなければ。
でなければ、殺した意味が無い。
でなければ、大切な者は護れない。

だから、殺さなければ。
殺して、殺して呪いを受けながらも。
理樹を生かさなければならない。
それこそが謙吾が選び取った道なのだから。


「……凄い惨状。貴方、むごい殺し方をしたものね」


そんな謙吾の前に現れる赤髪の少女。
狙撃銃を抱え、謙吾を睨んでいた。
注意力が散漫となっていたと謙吾は心の中で自省しながらも、散弾銃を彼女を向ける。
何故か彼女は自分を殺そうとしない。
彼女の持つ銃ならもっと遠くから自分を殺す事ができたはず。
しかも自分は先ほどまで隙をさらしていた。とても簡単に殺す事ができたはずだ。
それなのに彼女は殺さず、自分に話しかけている。

「……何の用だ。何か目的があるのだろう」

其処には恐らく彼女が意図する目的があるのだろう。
そう踏まえて、謙吾は少女に話しかける。
少女は若干驚きながら

「……へぇ。中々聡いのね。私は向坂環。貴方は」
「宮沢謙吾だ」

上品な様子で、名前を名乗る。
環といった少女は余裕を見せながら謙吾に対して振舞う。
先ほどまで余裕を失っていた自分自身とは正反対だった。

「貴方、見た所……この少女を殺したわよね」
「…………そうだ」

重々しく頷く謙吾。
簡単に肯定はしたものの、殺すのに大分かかってしまったが。
それだけ、殺すと言う行為は重いものだと感じながら。
だが、そんな謙吾の思いとは真逆のように環は簡単に言う。

「私も一人殺したの。殺しあいに乗ったから」

少し楽しそうに彼女は笑いながら、殺したと宣言した。
そんな楽しそうに肯定した環が、謙吾には信じられなかった。
謙吾の驚きを環は気にせず、言葉を紡ぐ。

「大切な人を守る為……貴方はどうなの?」
「……同じ理由だ」
「そう」

環は何の感情を示さず、頷く。
謙吾は彼女の意図が全く解らずにいた。
彼女が何をしたいのか解らず、ただ戸惑うだけで。
早く話を切り上げたい謙吾は環に言葉をかける。

「それで、お前はどうしたいんだ?」
「そうね。用件をいいましょう。手を組まない?」
「はっ?」

間抜けをさらす様に謙吾は口をぽかんと開ける。
あまりに唐突な彼女の誘いに対応しきれずにいた。
その謙吾の様子に、彼女は口元を手で隠し、言葉を紡ぐ。

「単純よ。この島にはまだ沢山の人が居るでしょう。効率よく殺していくには、協力して殺していく方が楽……違うかしら?」
「いや……そうだろうな」
「でしょう? そして丁度、目の前に殺し合いに乗った人が居る。誘うのも当然じゃない?」
「そうだな……だが、俺がお前を信頼できるかは別問題だ……組むなら、信頼できる方がいい」
「それもそうね」

彼女は笑いながら理由を述べる。
協力して殺していくメリットは確かに多い。
組むのに問題は信頼しきれるかどうかの一点に集中される。
だから、謙吾は彼女にまず問う。

「お前、どのように覚悟したんだ?」

殺し合いに乗る、その覚悟を。
向坂環は、どのように思い考え、そして最初の殺しをしたのだろうか。
自分は迷い、苦しみ、そして殺した。
結果として呪いと共に覚悟する事ができた。
彼女はどうなのだろうかと謙吾は少し期待して、彼女の答えを待つ。

「コインで。乗る方が出たから乗って。そして殺しただけよ。迷いも苦しみも無かったわ」

だけど、環の答えは謙吾とは正反対のもので。
迷いも苦しみも無い、運に任せた軽い考え方だった。
謙吾は少し唖然としながら、

「……なんだそれは。お前は殺した人間の事を……」
「どうでもいいじゃない。考える事も偲ぶ事もないでしょ? 所詮踏み台なんだから。大切な人達のね」
「貴様っ……!」
「……貴方は違うのかしら?」
「俺は……命を奪ってしまったんだ。大切な人の為に。だから俺は……その殺した者を、その呪いを受け止めて更に殺していく……そう決めた」
「それは私とどう違うのかしら? 同じに聞こえるけど」
「違う! お前とは断じて違う!」


向坂環は殺した人間の事を偲ばず思わない。
だって、所詮ただの踏み台なのだから。
殺す事に苦悩は無く、淡々と殺していくのみ。
全ては大切な人の為に。
その為に、向坂環は殺して殺して、殺す。
殺した者には何の感傷もなく、あくまで大切な人を生かす為の踏み台しかないのだから。
だから、向坂環は逡巡もなく殺す。

それが、向坂環の殺していく上での考え。


宮沢謙吾は殺した人間の事を思い受け止めていく。
だって、大切な人の為に命を奪うのだから。
殺す事に苦悩しながらも、葛藤の末殺していく。
全ては大切な人の為に。
その為に、宮沢謙吾は殺して殺して、殺す。
殺した者の呪いを受け続けて、その呪いが全身を駆け巡ったとしても、それは大切な人の生かす為の呪いでものあるのだから。
だから、宮沢謙吾は煩悶しながらも殺す。

それが、宮沢謙吾の殺していく上での考え。



共通点は大切な人の為のみ。
だから、宮沢謙吾は向坂環とは違うと叫ぶ。
それでも、向坂環は宮沢謙吾を同類と呼ぶ。


互いに交わる事が無い線だと思われたが、

「お前……もし大切な人が死んだらどうするんだ?」
「自ら命を絶つわ。当然でしょ。大切な人が死んでしまったら私は殺していった意味が無くなってしまう」
「……それは」
「何の為に踏み台にしたのか。何の為に殺していったのか。何の為に殺した者を思わず考えなかったのか……全ての意味が消失してしまう」
「……」
「きっと私はその重さに耐えられない。だから私は死を選ぶわ」

向坂環はあっけからんと言う。
もし自分がやってきた事が水泡に帰すというのならば。
迷うことなく死を選ぶと。
何故ならそれは、全ての意味が消失してしまうから。
向坂環が殺した理由が、存在意義がなくなってしまう。
その事の大きさにきっと耐えられなくなってしまうだろう。
だから、彼女はその時死を選ぶ。
それを、向坂環は哀しげに笑いながら、言った。

謙吾はその様子を見て、少し唖然とする。
自らも環と同じく自殺するつもりであった。
理樹の為に戦い、そして殺すのだから。

だけど彼女の言葉は、彼女の様子は。
何処か未だに心に残るあの少女と重なって。
生きる意味を消失したあの少女と――――


「……俺は」


だから、宮沢謙吾は


「……俺は、お前が嫌いだ」


向坂環の考え方を否定する。
覚悟も、その思いも。
受け容れる事などできなかった。

「あら、奇遇ね。私も貴方みたいな考え、大嫌いよ」

向坂環もどこか解ったように笑う。
そして、謙吾と同じように相手の考えを否定する。
だが、謙吾はその言葉に続いて

「だから、今は組んでやる」
「……あら、いいの?」
「ああ」

「そして、全て終わった後……殺してやる」

終焉の時には、必ず殺すと。
強く、告げる。
向坂環は、妖艶に、嬉しそうに笑って。


「ええ、その時は全力で――――殺しあいましょう」


宮沢謙吾に同調した。



そして、茜空の下、哀しい、奈落の道しかない同盟が組まれたのだった。




 【時間:1日目午後4時ごろ】
 【場所:H-2 海岸】


  宮沢謙吾
 【持ち物:ベネリM4 スーパー90(6/7)、散弾×50、AK-47(30/30)、予備弾倉×5、水・食料二日分、インスリン二日分】
 【状況:健康】


  向坂環
 【持ち物:USSR ドラグノフ (9/10)、予備弾倉×3、水・食料二日分】
 【状況:健康】

※G-1、ウルトリィの死体の近くにカルラの大剣が放置されています。


055:少女偽装曲~事実から目を逸らして~ 時系列順 075:ALIEN(異邦の人)
056:ぼうけんのはじまり 投下順 058:ハイテンションガール!
023:お姉ちゃんの3乗~殺×殺×殺~ 向坂環 071:Rebirth Syndrome
027:Promise&Curse 宮沢謙吾

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最終更新:2011年09月06日 18:13