血塗れて、ただ、貴方達を想う ◆auiI.USnCE



目の前で、少女が死んでいた。
幸せそうな笑みを浮かべて。
だけれども、わたしはその笑みを見るのが辛かった。

何故ならば、わたしがその少女の命を奪ったからだ。

彼女にも大切な人が居たのに。
それなのに、わたしは彼女の命を奪ってしまった。
娘にも似た少女を。

この手で、明確の意思を持って何度も、刺した。

沢山溢れた謝罪の言葉。
それで、許される訳ないのに。
わたしは、謝るしかなかった。

彼女は、大切な人を想って逝ったのだろうか。
大好きな人。
大好きな兄。
大好きな友達。

解らない。
わたしは彼女ではないから。
でも、我侭ではあったけどそうであって欲しいと願い続けている。
そうでなければ、救われないから。

この子と……そして私が。

なんて、くだらないエゴなんだろう。
ならば、殺さなきゃいいのに。
でも、殺してしまった。


わたしはこの子の未来を奪ってしまった。


例え病弱だったとしても。
例え長く生きれないものだとしても。
未来を奪った事には変わらないのだから。

ああ、わたしはこれからも、誰かの未来を奪わないといけないのだろうか。
だって、それが殺すという事なのだから。
わたしは、娘のような幼い子の未来を奪い続けないといけないだろうか。
これが教師だったわたしがする事なのだろうか。

違うだろうと思う。
でも、わたしはそれでも大切な人達に生きて欲しい。
だから、手を血に染めていくのだろう。




――――ああ、でも、とても、怖い。


わたしは、とても怖い疑問があるのだ。


こんな血塗れになったわたしのてのひらを。

秋生さんは。
渚は。

握ってくれるのだろうか?
それとも、拒絶してしまうのだろうか?


『妻』である事を、『母』である事を。


愛する夫と娘は、わたしをそう、認めてくれるのだろうか?


こんなにも、血に濡れたわたしを、抱きしめてくれるのだろうか?



その事が、堪らなく怖くて。



もし、『妻』と『母』で居られなくなった時。


わたしは、「わたし」で居られるのだろうか?


そう、考えた時。

わたしは震えが止まらなくなって。


血に濡れた、手のひらをじっと見ながら。

私は独りで泣いていた。



 【時間:1日目午後2時半ごろ】
 【場所:C-4 公園】


 古河早苗
 【持ち物:NRS ナイフ型消音拳銃、予備弾×10、不明支給品、水・食料2日分】
 【状況:健康】


065:卑怯者はだあれ? 時系列順 067:街、時の流れ、人
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043:生きる、ということ 古河早苗 079:Full Metal Sister


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最終更新:2010年12月27日 01:56