卑怯者はだあれ? ◆auiI.USnCE
「オラッ、遅えぞ!」
早間の怒号が、前方から響いてくる。
疲れてる小牧さんを気遣うを様子もなく、ズンズンと進んでいっている。
僕――直枝理樹はそれに憤りを感じるも、それを表に出す事はできなかった。
出した所で、余計に辛くなるのは小牧さんなんだから。
だから、僕は息をきらしながら、必死に歩いている愛佳さんを気遣いながら並列して歩いていた。
結局、僕達は市街地を目指してひたすら、南下していた。
何故、目指しているか聞く事はできなかったけど、でもこればかりは早間の判断に間違いはないだろう。
やがて、日が暮れてしまう。当然辺りは真っ暗になってしまうだろう。
その上で、視界が悪くなる森林にいるよりは、市街地にいる方がよっぽどいいのは当然だった。
だから、僕達は黙って彼に付き従っている。
最も、僕らも彼から逃げられはしない。
彼が持つ武器が僕達を縛っている。
早間は恐らくだけど、小牧さんの事を……。
だから、僕達が逃げ出すなんて見せると、逆上して襲い掛かるに決まっている。
そして、襲いかかれて僕達は抵抗できるのだろうか。
きっとどうにもならないだろう。何故なら。僕達は武器も無い。
それに、僕にはナルコレプシーという爆弾を抱えている。
二人きりで逃げて、その最中で、その爆弾が爆発してしまったら。
寝ている間に襲撃されたら。
小牧さんが殺されてしまったら。
それもとても耐え難い恐怖だった。
だから、結局の所、早間から逃れる事はできないのだろう。
早間という監獄から、僕達は逃れる事は出来ない。
こんな八方塞がりな状況の中で、僕は居る。
頭を抱えたくなるけど、抱えて悩んでしまったら小牧さんが心配してしまうだろう。
だから、僕は強くなければならない。
でもと思う。
こんな時、恭介ならどうするだろうと。
あの頼れるリーダーなら、こんな状況でも打ち破ってくれるのだろうか。
誰にも思いつかないアイデアを出して、打ち破ってくれると思う。
そんな凄い人だ。
今、恭介はどうしているのだろう。
恭介が居るのなら、こんな状況を直ぐに打ち破ってくれるのに。
恭介が居るのなら……きっと……
「……大丈夫、直枝君?……何かぼっとしてたみたいだけど……」
「うん、いや、大丈夫だよ。気にしないで」
そんな考えをしているうちに随分とぼっとしていたらしい。
心配する小牧さんに対して僕は気丈に笑ってみせる。
どうにもならないこの状況で、僕は笑ってみせた。
笑うしかなかった。
「……ひぃいいいいいいいいいいい!?!?!?」
その時だった。
早間の叫び声が前方が聞こえてきたのは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
其処に居たのは、いや、あったのは。
「し、死んでいる……」
胸の辺りを紅く染めていて、目を閉じられた少女。
いや、少女であったモノ。
眠っているようで、それは全然違う。
醒めない眠り……もう、死んでいたのだから。
車椅子に横たわりながら、彼女は独りで逝っていた。
桃色の髪を紫の布で両側に纏めた少女は、光を浴びながら、死んでいた。
…………あ、何だろうこれ。
……死んでいる……んだよね?
そうだ、死んでいる……
むせ返るような、血の臭い。
鉄のような臭いが鼻をつく。
もう、目を覚ますことは無いんだよね。
………………怖いな。
ただ、怖い。
これが、鈴だったら。
これが、小毬さんだったら。
これが、来ヶ谷さんだったら。
これが、クドだったら。
これが、西園さんだったら。
これが、葉留佳さんだったら。
「…………うぇぇ」
僕は、ただ気持ち悪くなってきた。
胃の中になんて何も無いはずなのに、吐き気が止まらない。
其処に当たり前のようにある死が。
そして、誰か大切な仲間の死を想像しただけで。
僕は堪らなくそれが怖くて、思わず自分の肩を抱いてしまう。
「直枝君……」
小牧さんの呟きが聞こえるが、僕は自分の肩を抱いたままだった。
身体の震えが止まらない。
本能的に目の前の死がただ怖くて。
僕はただ、震えていた。
「……くっそ、くっそ! こんなん平気だ。怖くねぇ!」
早間が恐怖を隠しきれない声で自分を鼓舞する。
苛々しながら、ただ吼えて。
「びびらせやがって、この!」
怒りに任せながら、車椅子を思いっきり蹴っ飛ばす。
車椅子はがしゃんと音をたてて、少女ごと横に倒れた。
そして少女の遺体は、車椅子から身を投げ出して草原に置かれた。
その拍子に閉じられていた目を開かれる。
色の無い瞳が、何故か攻め立てるように僕を見つめている感じがした。
「くっそ……怖くねぇ……怖くねぇぞ……おら、行くぞ!」
早間が、此処から離れるように言う。
僕達がこれに反抗する必要はない。
無いのだけど……
僕を見つめる少女の瞳が。
置いて行かないでと訴えるような感じがしてならなくて。
僕は思う。
もし、これが僕の知っている人ならば。
僕はどうするのだろうか。
僕は、きっと……うん。
だから、
「ねぇ…………この子、埋葬してからにしようよ」
せめて、彼女をともらいたかった。
このまま、野晒しにする事が、どうしても嫌だった。
このまま、『死』と言うものに慣れたくなかった。
せめて人間らしい事をしないと、いつかどこかで狂ってしまいそうで。
この死をやすらかにしないと自分が可笑しくなってしまいそうだった。
だから、僕は彼女の為ではなく、本当は自分の為に彼女を埋葬したかった。
「はぁ!? ふざけんじゃねえぞ! 何言ってんだよてめえ。そんな時間かかる事できるかよ!」
早間の反論はもっともだった。
時間のかかる行為である事は確かなのだ。
その間に襲撃者に見つかった場合の事を考えるとリスクが高すぎる。
それでも、僕はやりたくて、食いつく。
「簡単にでいいんだ……だから」
「ああん!? なめんじゃねえぞ! てめぇ!」
早間は怒りかられ、僕を殴ろうとして。
「やめて!」
小牧さんが僕と早間の間に割って入って制止する。
それは、僕を庇ったという事で。
「小牧……てめぇもかよ!」
怒りの矛先が小牧さんに向いてしまう事にもなる。
ああ、それは避けなければならないのに。
僕は、何をやってるいんだろう……
思わず自己嫌悪になりかけた時。
早間が悪知恵を働かせて、何かを思いついたようだ。
いやらしそうに顔を歪めて。
「いいぜ、埋葬してもいい……その代わり」
前置きをたっぷりして。
いやらしそうに小牧さんの胸を見て。
「小牧……」
「な、何……?」
「服脱げよ」
欲望を丸出しにした、余りにも下品な言葉。
僕は焦って
「な、何でそんな事を言うんだよ!」
「だって、待ってる間危険だろ? その間せめての楽しみをなぁ……お前も見るか? お前も見たいんだろ?」
当然の様に早間は言って。
そして、僕にまで同意を求めてくる。
なんで、こんな下劣な事を言ってくるんだろう。
胸の中に早間への怒りが増していくのがわかる。
だけど、抑えなくちゃ……守らないといけないから。
「な、直枝君……」
小牧さんは哀願するように、僕を見つめる。
当然だ。服を脱がされて何をされるかわからない。
そして、彼は僕達を容赦なく殺せる武器もある。
それに抗える訳が無い。
だから僕は搾り出すように声を上げる。
「解ったよ、埋葬はしない。これでいいよね?」
「…………ちっ……あぁ……まぁいいだろ。しかたねえ」
僕が譲歩する事にした。
正直、早間が受け容れないかとヒヤヒヤしたが、それも無かった。
その事に少し安堵しながら、小牧さんの方を向く。
彼女も安心したようで、僕も少し嬉しくなってくる。
「……ちっ……だったら早く行くぞっ!」
早間が苛々しながら、そう呟いて歩き出す。
僕はその後姿に向かって聞こえないに呟く。
「……卑怯者め」
その言葉に、小牧さんは切なそうに僕を見たが理由は解らなかった。
僕は埋葬でき無い代わりに、せめてと思って、少女の目を閉じさせる。
……いつか、この監獄から解き放たれる時ができたら埋葬したい。
そう思いながら、僕らはまた歩き出した。
草原に、独りぼっちになった彼女を残して。
【時間:1日目午後2時30分ごろ】
【場所:E-7】
早間友則
【持ち物:
レミントンM1100(4/5)、スラッグ弾×50、水・食料一日分】
【状況:健康】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
卑怯者はあたしの方だった。
だって、あたしは直枝君の事を利用したんだから。
あの遺体を見て、真っ先に思い出したのは妹の事。
車椅子で死んでいた少女をみたら病弱なあの子を思いだせずには居られなかった。
そしたら、あたしは怖くなった。
あの子が、もう死んでいるんじゃないかって。
あの子が、恐怖で怯えているんじゃないかって。
そう思ったら、怖くて怖くて仕方なかった。
だから正直、死んでいる少女の事なんて、気にしてられなかった。
あたしは、早く妹を見つけたかったのだ。
けど、直枝君は遺体を埋葬したいと言った。
それはある意味人として当然の行為だろう。
この場所でも狂わず善人で居た直枝君は凄いと思う。
でも、あたしは、それが無駄な時間を食う行為だと思った。
だから、あたしは直枝君をを利用しながら、彼の行動を邪魔をした。
直枝君を庇えば、早間はあたしに対して、何か要求するだろう。
それを直枝君が受け容れる訳がない。
だから、あたしは彼を庇った。
結果として彼は諦めた。
そして、時間を食うことは無かった。
でも、彼は怯えるあたしを守ったと思っているだろう。
本当はただ、時間が惜しかっただけなのに。
ああ、なんてあたしは卑怯なんだろう。
彼の気持ちを利用して、彼に人間らしい行為をやらせなかった。
最悪な卑怯者だった。
早間の事を卑怯者だと彼は言った。
でも、そのじつ、あたしも卑怯者だった。
御免ね、直枝君。
あたしを守ってくれたのに。
ずっとずっと今まであたしを守ってくれている。
例え自分が傷ついても。
その事があたしは心の底から嬉しかった。
だから、直枝君の事を信頼して、感謝もしている。
けど、それでも。
あたしは直枝君に感謝の気持ちを持ちながらも。、
あたしは自分の為に直枝君を利用したんだ。
さいあく……
ごめん……本当に御免なさい。
でも、あたしは妹も大切なの。
ごめん、ごめんね……直枝君。
【時間:1日目午後2時30分ごろ】
【場所:E-7】
小牧愛佳
【持ち物:
缶詰詰め合わせ、缶切り、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月03日 11:24