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私が本編で出番の少なかった理由 ◆Ok1sMSayUQ



 まずは何から記すべきか。
 最初はこの文章を書いているものが何者かであることから始めねばなるまい。
 私の名前は関根である。みんなからはしおりんと呼ばれて親しまれて……いや、影は薄い。
 ガールズデッドモンスター、略してガルデモというバンドに私は所属している。
 ベースである。ゆえに目立たない。
 バンドの花形はギターである。それは認めよう。まあ別にそれは良かったのだ。楽しかったし。
 ところが、だ。岩沢さんという我がガルデモのギタリストでありボーカリストである音楽キチさんが突如として失踪してしまったのだ。
 正確には消えたというのが正しいのであるが。死んだ世界戦線の司令官ことゆりさんが言うには、成仏してしまったらしい。
 岩沢さんは満足してしまったのだ。俄かには、私は信じられなかった。
 音楽キチだったのに。どれだけバンドやってても満足しなかったっぽい岩沢さんが、ふっといなくなったのが。
 ガルデモに私が入ったのは「かわいいから」というわけのわからん理由である。ひさ子先輩に連れ込まれた。
 やったこともないベースを握らされ、散々練習させられた。そんな感じだった。
 でもなんか楽しかった。それまで私の友達といえば、本くらいのものだったから。
 昔は暗い女の子だったと思う。教室の片隅でぼんやりと文庫本読んでるような、誰の記憶にも留まらない人間。
 様々な物語を空想する程度の力はあったけど、文章力はてんでなかった。だから本はただ読むだけだったし、憧れるだけだった。
 ヘンな人達と一緒におもしろおかしく日常を過ごし、笑う、そんな生活に。
 もっとも、それが手に入ったのが死後というのも笑えない話ではあるのだが。

 まあいい。そんな私語りはそろそろここまでにしよう。
 ここからは私の不満を聞いてもらいたい。
 いやね、満足はしてるんですよ。楽しいんですよ。ガルデモ最高ー! とか言いつつ真冬の海にソウルダイブするくらいには。
 でもね、でもね……

 新 ギ タ ー 役 と キ ャ ラ が 被 っ て る っ て ど う い う こ と な の ! ?

 ガルデモの構成員を説明しよう。
 まずはドラムのみゆきちこと入江。大人しくてかあいい私の相棒である。
 次にリードギターのひさ子先輩。麻雀が得意だ。こないだ麻雀教えてもらって早速対局したけどハコにされました。ひどい。
 んで私。死んでからというもの、ガルデモでキャラを立てるためにですね、「大人しくて清楚」なみゆきち、「サバサバしてて頼りがいのある姉御」なひさ子先輩、
 そして「お茶目で悪戯好き」という私という見事なキャラ分けがなされていたわけなんですよ!
 あ、岩沢さんは満場一致で「音楽キチ」でした。
 ガルデモはバランスの取れたメンバーだったんです……そう、あのユイにゃんが来るまでは!
 ユイにゃんは新しく加わったガルデモのギターちゃんである。岩沢さんに憧れてギター始めたらしい。
 熱意はあったし、めきめき上手くなってったんですよ。それだけならよかった。が!
 が! が! が! ここからが大問題なんですよ! 聞いてくださるかしら奥さん!

 ……取り乱してしまった。続けよう。
 ユイにゃんのキャラクターが大問題だった。そう、それは私と同じどころかさらに上をいく高スペックだった。
 小悪魔系の可愛い容姿にマシンガントーク。男であろうとも積極的にケンカを吹っかけ卍固めで返されるというオチのレベルの高さ。
 トラブルを引き起こしてはアホ呼ばわりされるくせにアホ言い返すアホっぷり。
 要は「お茶目」で「トラブルメーカー」がダダ被りしている上に向こうの方がレベル高いのである。

 最悪だった。私の立場が消えた。
 ガルデモのライブ映像を見直した。私が映ってなかった。泣いた。みゆきちが慰めてくれた。みゆきちはしっかり映っていた。また泣いた。
 憂さ晴らしにガルデモ日誌にあらぬことを書いた。ひさ子先輩は実はイカサマ麻雀師だとか、みゆきちは実は腹黒だったとか、ユイにゃんは結婚願望があるとか。
 殴られた。主にひさ子先輩に。痛かった。私は泣いた。罰ゲームとしてもっとガルデモ日誌を書かされることになった。
 そういうわけで、私のキャラはどんどん薄くなっていったのである。

「そうして復讐の念に駆られたしおりんはユイにゃんをここで殺すことを決意するのであった」
「ヘンなこと言わんといてください。いくら私でもそこまでしませんよ……」
「あはっ☆ ごめんね、傷ついた? いやでもそういうしおりん好きだなー」

 つんつんと膨れた頬を突かれる。
 このやけに明るい女の子は芳賀玲子さんというらしい。
 見た目はどこぞの応援団長を思わせるようなスタイルに鉢巻である。男装趣味かと疑ったが、ただのコスプレだったらしい。
 だがそれが逆に良かった。
 インドア派だった昔の私はアニメ漫画知識はそれなりにあった。
 ガルデモメンバーズはそういうのに疎かったからあんまり話すこともできなかったので、芳賀さんに釣られてちょいと話し込んでしまった。
 某魔砲少女アニメの主役の子はいつまで少女なのだろうとか、某浮気アニメの主人公はクズだったとか、某戦国陸上ゲームがついにアニメになったとか、
 そんなことを出会い頭に小一時間は話していたと思う。
 気がつけば私達は友達になっていた。変人バンドの次はオタクと、奇々怪々だったが、話は盛り上がった。

 ――ここが殺し合いの場だなんて、忘れるくらいに。
 私は既に死んでいる。だったらこれ以上死ぬなんて有り得ない話なのだが、芳賀さんの姿は生きている人間そのもので、私と同じとは思えなかった。
 私は、生きているのか、死んでいるのか。
 さっぱり分からなかったが、とにかくこれだけは、と思った。
 キャラの路線変更を! ユイにゃんに虐げられる時代は終わったのだ!
 私は悪戯系キャラは捨てるぞ、ジョジョーッ!
 ということでオタク系可愛い女の子路線に変更することにしました。一応突っ込み担当で。
 だって芳賀さん喋りまくるんだもん。ボケられない。元インドアの私にはつらい。

「でもさ、意外だな」
「何がです?」
「しおりんが暗かったなんて信じられない。今だって、すごく明るいし」
「そうですかね」

 曖昧に笑う。死んで以降、私も少しははっちゃけるようになったからだろうか。
 とはいうもののせっかく身につけていたはずの悪戯っ娘属性をユイにゃんにぶち壊されて自信喪失なのだが。おのれユイにゃん。

「別にキャラなんて作らなくってもさ、大丈夫だと思うよ! うん、この玲子ちゃんが保証するっ!」

 がしっと肩を掴んだまま、芳賀さんは笑った。にゃはは笑いだった。アホだと思った。
 出会って一時間しか経ってないのに。でも不思議と元気付けられた気がした。まあ、いいか。急激に路線変更しなくても。

 私は私、か……

 昔の私が嫌いだったのだろうか。だからキャラにこだわったりしていたのだろうか。
 よく分からない。考えてこなかったせいかもしれなかった。
 とにかく、今言えるのは、芳賀さんと一緒で良かったということだけだ。
 みゆきちやひさ子先輩、ユイにゃんは心配だけど、きっとこんな人に出会えていると信じたかった。

「そーだっ。しおりん中々素養あるし、カワイイし、今度こみパに一緒に……」
「誰かいるのかっ! 声は聞こえてるぞ!」

 鋭い男の人の声が聞こえた。
 私達は思わず草むらに身を隠していた。しまった。大声で喋り過ぎたか。
 つい楽しくて気を疎かにしていたけど、やばいやばいやばい! どうしよう!?

「……せめて姿だけでも見せてくれ。探してる人がいるんだ。それだけ確認したい。情報交換だ」

 冷たい汗が走る。
 少なくとも、私にこの声は覚えはない。言い返せばどこかに行ってくれるだろうか。
 いや場所を悟られてしまう。どうしよう。ここを穏便に済ませる方法は……

「ねえ、しおりん」

 芳賀さんが神妙な声で言う。まさか、早くもアイデアを思いついたとでもいうのか。
 明るいだけのコスプレンジャーじゃなかったのね! さっすが! 頼りになる!
 期待の視線を向けた私に応じるように、芳賀さんは頷いた。

「あの声、ギアスのルルに似てる」

 ぶぶーっ!

 盛大に吹き出した。
 アホだった!
 いや確かに似てるけど!

「そこか!?」

 バレた!
 誰の責任だ!
 私の責任だしーっ!
 本格的にヤバいと思った私は芳賀さんの手を引いて逃げようとする。
 だが既に声の主は回りこんでいた。
 しかし まわりこまれてしまった!
 おお せきね よ。しんて゛しまうとは なさけない!

「待って! 待ってくれっ! 本当に探してるだけなんだ! 友達と幼馴染みを!」
「妹じゃなくて?」

 デッドエンド――なんてことはなかった。
 おい芳賀さん。私の手を振り切ってまでやることがそれですかっ!
 力は芳賀さんの方が上だった。追いかけようとしていた男の人と話し始めている。
 っていうか妹て。車椅子で盲目の妹ですか。
 男の人は手には拳銃もナイフも持っていなかった。探しているらしい友達と幼馴染みを本当に探しているらしく、手には地図しかなかった。
 ……もしかして、芳賀さんは既に見抜いていたのではなかろうか。ひとり慌てる私を尻目に、冷静に行動していたのか。

「は? 妹? いないけど……」
「ちいっ! あ、じゃあやけに身体能力の高い友達のほうは!?」
「タマ姉……いやいや、聞きたいのはこっちの方なんだけど」

 前言撤回。芳賀さんはアホだ。
 とはいえ、取り越し苦労をしていたのは私だけだった。
 へたりこむ私に気付いた芳賀さんが寄ってきて手を差し出してくれる。
 苦笑しながら、私はその手を取るしかなかった。

     *     *     *

「やっぱり知らないか……ごめん、俺も必死だったから」

 私達は男の人――河野貴明さんの質問を受けていた。
 友達の名前と特徴を列記され、知らないか尋ねられていたのだが、死んでいる私は当然として芳賀さんも知らないようだった。
 まあ、開始早々にそんなに多くの人間を見かけられるわけもないんだけど。
 こちらを威嚇してきたことについては、私も芳賀さんも「いいよいいよ」で済ませた。
 正確には芳賀さんが一方的に言っていたのだが。私の出る幕はない。これでいいんだろうか。

「えーっと、河野クンだっけ」

 落胆する河野さんに、芳賀さんが言葉をかけた。

「良かったらさ、あたし達と来ない?」

 おいおいおい! いきなり勧誘っすか! いや私のときもそうだったけど!
 とはいえ、あーなんかこうなるんだろうなーとは思っていた。
 芳賀さん、アホだし。
 そんなアホに元気付けられ、心強いと思っている私もアホなのかもしれないが。

「正直ね、女のコ二人じゃーちょっと頼りないからさ。男のコがいてくれると助かるんだ」

 前言撤回。芳賀さんそういうことちゃんと考えてたんだ……
 そういや、コスプレと言動から全然分かんなかったんだけど、私より年上なのかなあ。
 だったらこの行動や言葉も分かる。どうなんだろう?

「俺は……」

 河野さんが口ごもる。妙に目を逸らしている。なんだろう、後ろめたいことでも……

「ははあ。さては女のコ苦手ね?」

 いやいや。そんなアニメみたいな設定あるわけないでしょははっ。

「えっ!? どうして……」

 ぶぶーっ!
 私、再度吹き出す。なんで当たってるの!

「やっぱりねー。あたしには分かる。うん」

 ドヤ顔の芳賀さん。悔しい。なんで分かるの。

「ルルも女のコ苦手だしねー」

 ぶぶーっ!
 三度目の正直だった。いつまでやってんですか芳賀さん!

「は? ルル……?」
「あーいやなんでもないんだよ河野クン。それよりさ、ちょっと言って欲しい台詞あるんだけど」

 おい。

「『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!』って言って。ドス利かした感じで」
「は? は?」

 河野さんは展開の速さについていけてない。当たり前だ。なんでギアスの物真似させる。
 っていうか芳賀さん絶対これが目的だったでしょ! やっぱりアホだこの人!
 河野さんは戸惑うばかり。それもそうだろう。目を輝かせた芳賀さんががっしと肩をつかんでいるのだから。
 ああ、もうどうにでもなれ。

「さあ、早く! さあ!」

 芳賀さんは止まらない。
 河野さんは私に助けを求めたが、黙って首を振った。ごめん、私無理。
 しかもちょっと聞いてみたいなーとすら思っていた。オタクは救いようがない。

「わ、分かりましたよ。ドス……コホン……う、撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」

 イィヤッホー! と芳賀さんがガッツポーズしていた。
 ごめん河野くん。私ときめいた。似てる。ルルに。ゼロもやって欲しい。

「完璧! 最高! もう絶対ルルのコス似合うよ河野クン! うん、間違いないっ!」
「あの芳賀さん、手を離して……関根さん、うんうん頷いてないで助けてよ……」

 はっ。
 私も芳賀ワールドに飲み込まれていたらしい。
 慌てて仲裁? に入ろうとしたが、逆に手を掴まれた。支配権は芳賀さんだった。

「よーしっ、チーム一喝のニューメンバー出陣だ!」

 ハイテンションとルルと私。
 ああ、どうなってしまうのだろう。
 少なくとも、多分、主導権はいつまでも芳賀さんにあるんだろうなあ、と私はぼんやりと思ったのだった。
 ちなみにこれはフィクションではない。
 現実です。紛れもない現実なんです……
 でもそんな現実と芳賀さんに、奇妙なことに、私は救われていたのだった。



 【時間:1日目午後1時30分ごろ】
 【場所:D-3】

 関根
 【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:健康】


 芳賀玲子
 【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:健康】


 河野貴明
 【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:健康】




049:枯れ尾花、正体見えねば幽霊か 時系列順 013:信仰は尊き聖上の為に
011:crow、と歌うよ 投下順 013:信仰は尊き聖上の為に
GAME START 関根 063:この身の全ては亡き友のために
芳賀玲子
河野貴明


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最終更新:2011年08月30日 20:20