この身の全ては亡き友のために ◆5ddd1Yaifw
俺、河野貴明含む、チーム一喝(芳賀さん命名)は森の中をてくてくと歩く。
それにしても警戒心? 何それ、おいしいの? と言えるぐらい今の俺達は無防備だと思う。
なぜかって?それはさ。
「いやー河野クンは本当にいいねっ! お姉さん年甲斐もなくはしゃいじゃったよー」
「はぁ……私はもっと聞きたかったなあ……」
この二人があまりにも楽観的すぎるからです。
結局あの後も声真似をいろいろとやらされてしまった。
例えば『突き破れ! オレの武装錬金!!』とか。
これって何のセリフですかって聞いたらアニメだと笑顔で答えてくれた。
ちなみに最初にやったルルもアニメのキャラらしい。
俺にやって欲しかった訳を聞いたらその主人公と声が似ているからだとか。うん、何を言ってるだかわからない。
第一そこまで似ていたのかと二人に聞いたところ。
「ホントによかったよ河野さん、似ていたしねー」
「あ~、もうホント至福のひとときだったわよ。またさ、あたしが聞きたくなったらお願いね!」
二人によるとそっくりで本人のようだったらしい。
しかし、またやらされるのか、いや、無理矢理にでもやらされるんだろうなあ。別にいいんだけどさ、減るもんじゃないし。
ただなんというか、俺はこの二人のテンションについていけてない。
女の子が苦手だって言うのも要因の一つに挙げられるだろうけど。
「さーてと、誰か人と会わないかねー」
一番前をドシドシと歩くのが芳賀玲子さん。
ショートカットの薄い青色の髪に黒の学生服とズボンを見に纏っている。
学生服は全開にして開けていて、中に着ているタンクトップが……その薄くて小さくて。
なんというかへそが、見えてる、見えてる!
目に毒だよ、はぁ……。
女の子が苦手とは言ってるけど全く興味がないわけではないし。その、性的な興味がない訳ではないんだしなぁ……。
「できればガルデモのみんなと会いたいです、私は。特にみゆきちとか今頃欝ってそうで心配で心配で」
芳賀さんの後ろをおずおずと歩くのは関根さん。
腰まで届くかってくらいの外はねの金髪のロングヘアーでチャームポイントは頭のてっぺんにあるアホ毛(本人力説!)らしい。
この人は芳賀さんと違ってセーラー服にハイソックスと普通の服だ。
「はぁ……大丈夫かな」
そして俺は最後尾を歩く。万が一、後ろから襲われた時の対処をお願いされたからだ。
発案者は関根さん。まあ、頼られるのは悪い気がしない。
それはともかくとして俺は芳賀さんに聞かなければいけないことがある。
「芳賀さん少し聞きたいことがあるんですが」
「ん? 何かあった? それともまた声真似が突然したくなる病にでもかかった?」
「そんな訳ないじゃないですか。ていうかどんな病気ですかそれ。
……俺ら、何処を目指しているんですか? まさか目的地がないって訳ではないでしょうね」
そう、目的地だ。闇雲に歩いても何もならない。きちんとした目的地を作っていたほうがいいに決まっている。
そしてこの短時間でわかったことだが芳賀さんは絶対ノリと勢いで生きてるタイプだと思う、うん。
ノリでこっちに行こうあっちに行こうとか考えているんだろうなあ。
「ん~、一応は目的地というか目指している場所はあるよ」
「本当ですか?」
「街道を目指してるよ。森の中だと見通しは悪いし、足元はおぼつかないし。
やっぱ、ちゃんと整備されている道のほうが歩きやすいよねっ。
河野クン、お姉さんを信用しなさいっ!」
芳賀さんのさあ皆の者進軍じゃーという何ともわからない掛け声を聞いてははは……と俺は苦笑いをするほかない。
本当にこの人についていって大丈夫か?
大丈夫じゃない、問題だ。
「まあまあ、ともかく街道を目指すということで今は前進あるのみですよ。
そういえば移動についたらその先はどうするんですか?」
「それは全く考えてなかったなっ。あっはははははは!」
駄目だこの人、早く何とかしないと……!
俺が何とかしてこの人達をまとめないと、きっとやばい。いろいろとめんどくさいことになる予感がする。
芳賀さんは相変わらずのゴーイングマイウェイだし、関根さんもそれにつられて乗ってきているし。
「にゃはは。河野クンももう少し気楽になりなよ。気張っててもどっかでぷつんと途切れちゃうよ」
「そうですけど、でもこんな状況なんです。気楽になんてなれませんよ」
「困ったさんだな~。もう……」
芳賀さんには悪いけど俺は一刻も早く知り合いと合流したい。特にこのみ……。
このみは怖がりだからいまごろどこかで小さく縮こまって震えているに違いない。
こんな時にこそタマ姉か雄二がいてくれたらと強く思う。
俺らの仲間内じゃ一番年上で何かと頼りになってくれるタマ姉。
お調子者だけど場の雰囲気はちゃんと読んでくれて、ムードメーカーの役割を果たしてくれる長年の腐れ縁の親友である雄二。
二人がいてくれたら、俺は何でもできる気がする。俺はそう断言できるくらいに信頼している。
なのに。
「何でお前ら死んでるんだよ……」
俺の目の前にあったのは二つの事切れた人間――生を終えたただの肉の塊だった。
「雄二……このみ……っ!」
「ちょっ、河野さんっ!」
関根さんの制止をふりきって俺は二人の前まで走る。
とりあえず雄二に乗っかっていたこのみの身体を抱き起こす。冷たい。固い。この感触が嫌でも二人が死んだってことを俺に突きつけてくる。
信じたくない、こんな現実受け入れたくない。
だけど俺の中にある冷静さが事実を受け入れてしまっている。
向坂雄二は。
柚原このみは。
死 ん で し ま っ た ん だ 。
これは覆りようもない真理。もう、俺とこのみと雄二とタマ姉で笑いあった日々は永遠に戻らない。大切な、大切な日常は音を立てて跡形もなく崩れ去った。
「うぁ、ああぁァあァああああァぁ嗚呼あああああああああああ!」
思わず見上げた空は青かった。何処までも、何処までも青かった。
そして。
俺の親友は空とは対照的に紅かった。
「雄二……」
顔を見たらわかるよ、お前はこのみを一生懸命護ろうとしたんだろう。
悔しかっただろう、護れなくて。
辛かっただろう、最後まで一人で頑張って。
「このみ……」
ひどい有様だった。制服ははだけて、スカートは所々破れている。側には引きちぎられたブラジャーにずり落ちているパンツ。
ああ、これだけの証拠があればそういうのに疎い俺でもわかるさ。
このみは犯された。徹底的に嬲られて、嬲られて。そこに本人の意思など微塵も存在しない。
その陵辱の惨劇の果てに殺されたんだ。怖かっただろう、苦しかっただろう。女としての尊厳すら奪われたんだ、それだけじゃ飽きたらず命まで。
二人の死に様を考えるだけで激情が脳内を浸透する。いや、それだけじゃ収まらない、外へ漏れ出してくる程に――憎い。ああ、憎い。このみ達を殺した奴が、憎い!
「護れなくてごめん、間に合わなくてごめんっ!! 俺が、もっと早くお前らの所に着いていればっ!!!」
だけど俺が獣の如き慟哭をあげている一方で冷静な心を持つ俺もいる。
ようし、考えろ河野貴明。拙い頭で必死に考えろ。
俺のこれからやるべきことを。
「……河野クン」
――――――――――――――――――――。
「河野さん……」
――――――――――――――――――――よし。
「すいません、ご心配おかけしました」
「いや、いいよ別に……その、大丈夫? ……ああ、ごめん、大丈夫な訳ないよね」
「もう大丈夫です、芳賀さん。吐き出すものは全部吐き出しました」
嘘だ。まだ全然吐き出し足りない。できる事なら一日中二人の前で泣いていたいぐらいだ。
「河野さん、これからどうするんですか?」
「今まで通りだよ、二人を護るさ。このみと雄二はもう死んだ。死んだ人は戻ってこないって何とか割り切ったから。
だからまだ生きている二人を護ろうと思う」
嘘だ。割り切れるわけないだろう。今も二人の死に様が頭の中にこびりついている。
二人を殺した奴は絶対に殺す。泣いても殺す。命乞いしても殺す。生きていることを後悔するぐらい無残に殺す。
俺の大切な日常を奪ったんだ、それに対する礼はたっぷりとしてやる。
「芳賀さんと関根さんがいてくれるお陰で俺はまだ狂わないで此処に踏みとどまっていられるんです。二人を仲間だと信じてますから」
最後に。これも“嘘”だ。俺は“さっき”までは仲間だと思っていたかもしれない。
でも“今”は仲間だと思ってないし信用もしていない。
考えたんだ。俺と出会う前、二人がこのみ達を殺したって可能性も十分にあるってことに。
それじゃあ犯されたってのはどうなる? 普通は男が犯すんじゃないんのか?
いいや発想の逆転だ、この二人はこのみみたいな弱い女の子を襲うどうしようもないクズだって可能性だ。ははっ、自分でも太鼓判を押せるぐらい完璧な理論だ。
加えてまだ出会って数時間だ、猫をかぶってるということもあるかもしれない。
だからこれからは見極める時だ。今は一緒に行動して何か不審な点はないか確かめる。少しでもあったらクロだ、その時は俺の全力全開で殺してやる。
これから出会う奴等も同じだ。クロっぽい奴は全員殺す、ただそれだけだ。
此処で別れて敵を捜すというのもいいけど一人で行動するよりも三人の方がいいし、この二人への疑いが完全になくなった訳ではないし。
なにより一緒にいることで弾除けにもなる。俺は敵を討つまでは絶対に死ねない、二人には精々“盾”として頑張ってもらう。
結論は今の段階で確実に二人を殺していないと信頼できるのはタマ姉とおばさんだけ。
他の知り合いは、わからない。もしかすると二人を殺したって可能性もあるかもしれない。
やっぱり心から信用は今の俺にはできない。
「行きましょう、もう此処にはいたくないんです」
二人に向けて嘘の仮面――いつもと同じ顔を作る。これで今の所はごまかしておこう。
「行ってくるよ、このみ、雄二」
ここでこのみ達を埋葬したいが道具もないし不可能、だから手を合わせるだけにしておく。
そっちに逝くまで見守っててくれ。敵は必ず殺すから。
そして復讐を果たすための武器ならある。制服に隠している金属の物体――拳銃。
幸いのことに荷物確認はまだしていなかったから二人には気づかれてはいない。
さあ、もう迷いなんて捨てた。
ただ今は復讐を為すために――絶対に生き残ってやる。
【時間:1日目午後2時30分ごろ】
【場所:D-3】
関根
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
芳賀玲子
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
河野貴明
【持ち物:コルト ポケット(8+1/8)、予備弾倉×8、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月03日 11:21