ここで行われている試合には何人かの高校のスカウトや野球ファンが集まっている。
俺は午前10時に開始される由姫ちゃんの出る少年野球のチームの試合を見るためにとある球場へと足を運んだ。
試合30分前に来た俺はチームのみんなと馴染んでいる由姫ちゃんの姿をみた。
「ふーん、結構楽しそうにやってるんだな」
――由姫ちゃんは奈良少年野球育成機構、今年の1月に設立された野球チームに所属してる。
その少年野球育成機構っつうのは全体的な野球のレベルアップと本格的な野球をするために小学四年生から中学三年生までを対象に選手を集うチーム。
んで最高の機材を揃えて、優秀な指導員に野球を教えてもらう野球教室のような感じの所だ。
少年野球育成機構は都道府県に各一つずつ設置される事にはなっているらしいが、まだ全ての県に行き渡ってる訳ではない。
最初に設立された東京少年野球育成機構が立ってから三年。
現在全国で32都道府県がこの少年野球育成機構を設立しているらしい。
財政的な面でもやはり参加できない県があるのだろう、仕方ないね☆
そして今日は機構同士の出来具合を見る意味も兼ねて、
隣接する県同士である大阪の少年野球育成機構と試合をするらしいのだ。
今日の試合、由姫ちゃんはそんな奈良県内から集まる選手達を押しのけて先発となった。
相手からしてみてもこの様な投手が相手と知ったら舐められてるとしか思わないだろう、俺だってそう思うさ、きっと。
まして相手は小学校五年生、それも女子。
どう考えても場数を踏み、実戦経験で鍛えた中学生と見合うわけがないのだ。
「大丈夫かよ……
相手の選手も練習を見てる限りスイングも良いからなぁ……」
本当に由姫ちゃんの投球は通用するのか……
俺はちょっと不安だったが、その心配は全く必要はなかった。
試合開始から3時間後、試合は一方的に事を進める、
九回表、奈良野球機構は7-0と圧倒的に勝ち越しているのである。
未だにマウンドに立つのは1回から投げ無失点の好投を続けている由姫ちゃん。
小学生だぜ?普通なら既にバテてもいい頃合いだろうよ。
それでも元気いっぱいで投げる由姫ちゃん、
毎日走りこんでただけあってありえない程の体力を持ってるんだ、アイツは。
さらに驚くべきなのはその由姫ちゃんの投球が八回無失点という事。
アイツの投球が相手の打線を封じ込めているのだ。
今まで由姫ちゃんが打たれた安打は4つ、
四球は2つほど出してるけど結局は力でねじ伏せてる。
――ったく、俺にそっくりな投球スタイルだなぁ、オイ
それも小学生にしては珍しいアンダースローから放たれる剛速球――
それも女の子が投げているようには思えないような球であり昔の俺と同格。
俺の事ばっか真似しやがって……ハハッ、上出来じゃないか。
そうこう考えているうちに、いよいよ最後のバッターとの対決となる。
由姫ちゃんは未だにマウンドで笑みを浮かべている、しかし油断の気などまったく感じさせてはいない。
一方の相手側の六番打者は焦りを見せているようである、あれならもう心配はあるまい。
俺はこの試合、これで終わりだという事を確認した、
由姫ちゃんもその様子を見ていたのかズバズバとミットへと投げ込みに言った。
初球、威力あるジャイロボールをインコースへ――ストライク。
二球目、緩急差が激しい遅めのスローボール、これも由姫ちゃんの得意球だ。
相手はタイミングを合わせられずにバットを空に切る、これで追い込んだ。
いよいよあと一球、そんな時の俺は由姫ちゃんの投球に目を奪われていた。
そして最後の球を放った由姫ちゃん、スピードガンに写された速度には112km/hという数値が記録されていた。
この球が捕手のミットに収まる音がした後、大歓声とともに試合は終了した――
この舞台がまるで――一人の少女のためにあるかのように。
最終更新:2010年05月29日 11:31