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第三話 たっちゃん

『銀ちゃん球団こと、奈良シルバーシアーズのエース“浦田投手”が鈴鹿学園との練習試合にて完全試合を果たしました』


 夕方、一家団欒で食卓を囲む大切な時間に流れたニュースはとある有名な社会人野球クラブチームの話題だった、
何でも、タレントの荻原銀二(おぎはら ぎんじ)が設立した社会人野球クラブチームが
三重の強豪校“鈴鹿学園”と練習試合にて対決し見事勝利したらしい。
 流石に高校生相手に社会人クラブチームが、それもあの“浦田達也(うらた たつや)”が投げるとしたら、全く持って大人げない話でだ。

 ニュースの内容はこう続いた。

『浦田投手は“打撃が強い高校だっただけに一球一球に力を込めて投げた、絶対に打たせる気はなかった”と話しており、そんな浦田投手の代わりにタレントである萩原監督が高校生たちに代わりに謝っているような様子が見られました……』

「へぇ~、流石浦田投手だねぇ」

 亜樹さんの旦那さんが食べ終えた食器を置きながら話しかけてくる、
確かにあの男なら完全試合とかも普通にあるだろうしなぁ……俺は彼の球筋を思い出しながらもひたすらに飯を食っていた。
そうしていると、芦原家ただ一人だけ野球に詳しくない亜樹さんが俺に話しかけてきた、

「ねぇ、浦田さんとはこみんはどんな関係があるんでしたっけ?」
「あ、亜樹さんは俺が甲子園で投げた試合見てなかったんでしたよね」

 そこで、俺が説明をしようとすると口にたくさんごはんが入っている由姫ちゃん中に入り勝手に語り始める。

「ふぁこみんとうりゃたさんはにんねんまえ……」
「由姫、ちゃんと口に物を飲み込んでから話しなさい」

 一応、話の内容はわかる事はわかるのだが、口に入れた状態で喋る事は亜樹さんは良くないと感じたのだろう、
由姫ちゃんに対して注意すると、彼女は大量に詰めたご飯がなかなか飲み込めず困った顔をする。
しっかし、亜樹さんもやっぱ親だよな、いつも自由奔放に育ててる感じがするけど叱る時は叱るんだ……
 そんな事を考えていると、由姫ちゃんは長く口の中で噛みつづけるのに疲れたのか大きく口を開けるとといきなりお椀に口の中の物を吐き出しはじめた。

「一度に飲み込むのは危ないからね」

 おぉい! やめろぃ! 口に入れたモン吐き出すんじゃないわ!!
由姫ちゃんは理由を話すものの、その行為を周りからみている人からして見ればあまり気持ちのいいものではない筈だ。
しかし俺はそう思っていたのだが、あろう事か由姫ちゃんの両親である二人はその発想がおかしかったのか大笑いしていた。

「その発想はなかったわぁ、ははは」
「君に似て面白い事をするもんだ、ハハハ!」

 おいおい、それでいいのかよ――こいつなら高級そうなレストランだったとしても同じことしそうで怖いんだが……
そんな事を言おうか云わないか迷っていると、由姫ちゃんは亜樹さんに先ほどの話題について語り始めた。

「はこみんと浦田さんは二年前の甲子園で大接戦を果たした仲なんだよ、
 当時、全国的に有名な投手だった両投手は13回まで両者無失点で投げ続けて
 でも先にばてたのは浦田さんの方で14回の裏にはこみんのサヨナラホームランで何とか競り勝ったんだよ~」
「ま、アイツは降板しちゃったから、投手としての勝負自体はついてないんだけどな」


 ――二年前の甲子園、準決勝戦では俺が所属していた鏡星高校は1点も許さずに、
そしてアイツの所属していた……何高校だかは忘れたが1点も取らせずに13回を投げていた。
 その試合、決勝点となったのは降板したアイツの代わりに登板した投手から打った俺のサヨナラホームランだった、
……たしかそいつもシルバーシアーズに入団したらしいのだが、 山科大吾(やましな だいご)っていう速球型の投手である。
 そいつの甘く入った球を打った、ただそれだけであり結局の所俺は“浦田達也”には完全な勝利していない。

 アイツには俺には無い“投手としての才能”が備えられている、
身長だの体格だの能力だの、それらは遥かに俺の方が上なのにも関わらず、
アイツは……下手したら俺を越すほどの実力を持っていたのだ。


「ご馳走様でした」

 俺はそういって食事を終えるとすぐに部屋に戻りベットへと横たわる、
どうせ今日も【 160キロ投げれるけど何か質問ある?】と俺が立てたスレに対した質問は来ていない事だろう。
 俺はさっさと寝て明日から始まるバイトに専念しよう――終わったら由姫ちゃんと一緒に遊んでやるんだ――
 そんな事を考えながら、俺は体の力を抜き枕に顔を埋めた、
そして俺は一度も目覚める事なく深い眠りにつき、次の日を迎えた――










 翌日、俺は五時半には起床しバイトへと向かう、
高収入で適当に息抜きが出来るバイト、尚且つ楽しい仕事を探した俺が選んだバイト――

「はこみんせんせい、おはようございますっ」
「おはよっ!」

 バスの中、俺はバスが停車するたびに開く扉から出て幼稚園児達、およびその保護者の方々と挨拶をする、
このシチュといえば一つしかない、そう俺は幼稚園の先生、正確に言えば先生の補佐、としてのバイトをしているのである。

 俺はいま、この“えいこう幼稚園”のアルバイトとして先生をやっている。
子供が大好きな俺にとってはこういう仕事は楽しくて仕方ないぜ!

 しかし本来なら資格すら持っていない俺にとってはありえる訳がないこの幼稚園のバイト、
実際俺は、何故幼稚園の園長さんにこの仕事に誘われたのかが理解できていない――そしてあの男も……
 そんなことを考えながら、俺たちのバスが幼稚園へとたどり着いた後の事。
俺は理由を考えながら園児たちを誘導していると入口前であの男と出会った――

 出会い頭、その男はメガネを深く掛け直しながら俺に話しかけてきた。

「……如何したはこみん、考え事か?」
「たっちゃんか……いや大したことじゃない」

 メガネをかけ可愛らしい先生用のエプロンをしている黒髪の男だ、
いつも笑顔、というのはおかしいが、まず笑みを浮かべてない事がないその男は笑いながらまた俺に自慢話を持ちかけてきた。

「でさぁ、ニュース、見てくれたか? 俺の活躍めっちゃ特集されてただろう?」
「ああ、見たよ……大人げねぇ投球してくれちゃって……」

 俺はそういいながらたっちゃんの肩を小さく小突いてやる、
そう、彼こそ俺が二年前、甲子園で対決し最大の好敵手として俺の中に存在した“浦田達也”(通称:たっちゃん)本人なのだ。
 たっちゃんと俺は甲子園が終わってから互いに働き始め、同じバイト先に勤務する事になったのだ。
子供たちとふれあい、楽しく過ごせるバイトだ――高校時代は好敵手であったがこのバイトを通して俺ら二人はとても共感できる所が多い事を知り、今では数少ない俺の友達の一人となった。


「はこみんせんせい!たっちゃんせんせい! あそぼ~」
「まだあさのかいはじまらないから~」

 園児達が俺らを呼んでいる!行かなくては!
そう思っているとたっちゃんは俺よりもずっと早く、園児達の方へと向かっていた。

「はははっ、じゃあ鬼ごっこだ、はこみんが鬼な~」
「お、おい……待て!待ってくれ!」


 俺が近寄ろうとすると直に園児達は逃げ出す、
鬼ごっこがスタートしたようだ、しょうがない……鬼らしく鬼のような走りをみせてやるぜっ☆



 ――本日も、楽しい一日が始まります。



最終更新:2010年06月06日 01:55