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第六話 いろいろ

 俺とたっちゃんは次の日も次の日も、千晴ちゃんのために病院に赴き顔出しをしてあげた。
顔出し?別に卑猥な意味じゃないよ? まあそう捉える人がいないことを祈るけど。




 ――日曜日、俺は暇そうにしていた由姫ちゃんを連れて来ることにした。
由姫ちゃんはたっちゃんの事をどうも俺のライバルだと思っているようでそっちの方にばっかり意識して最初はあまり千晴ちゃんとは話さなかった。
けれど千晴ちゃんは自分より年下の女の子で同じ野球好きな子がいて嬉しいのか少し元気な表情を見せるようになっていった。
その様子に惹かれたのか由姫ちゃんも最終的には千晴ちゃんとも楽しく会話するようになる。

「千晴お姉ちゃんは浦田投手が師匠なの~?」
「ん~今はね、でも私が本当に目指す投手はもっともっと凄い人なんだよ」
「ん~……じゃあ私もはこみんを越すためにもっともっと強くならなくちゃね!そのためにはまず千晴お姉ちゃんを越すよ~」
「お~そう来るのね~、私も負けないよ~」

 何だかんだでライバルとして認める二人を見て、俺もたっちゃんも自分の事の様に嬉しそうにその様子を眺めていた。
今の由姫にとってはいい刺激になるだろう、お互いにこれで精神的にも強くなれるといいなあ。
そうしてこの日の面会時間が終了する。
俺は少し名残惜しむような由姫ちゃんを諭しながら帰る事にした。

「バイバイ~千晴お姉ちゃん」
「うん、退院したらまた会おうね~」

 由姫ちゃんが千晴ちゃんの姿が見えなくなるまで手を振る様子を見て、
俺はずっとその方向を眺めている由姫ちゃんに呟くように話す。

「また――今度会わせてやるからさ」
「うん!」

 そう笑みを浮かべながら返す由姫ちゃん、
由姫ちゃんにとって、この日が大切な一日となってくれれば嬉しいな。
そう思いながら、俺達は北風総合病院を後にした――




 その次の日はバイトが終わってから直にまた俺たちが見舞いに行く事になった。
 この日はたっちゃんが自分の所属する奈良シルバーシアーズの監督、タレントの荻原銀二(おぎはら ぎんじ)(通称銀ちゃん)さんを連れてきていた。
 偶然仕事も休みでたっちゃんにお願いされやってきたらしく病室内でサングラスとマスクを取ったときの千晴ちゃんの顔はとても驚いているようであった。

「聞いてるよ~、うちのたっちゃんの弟子なんだって?よろしくね~」
「い、いえ……コチラこそよろしくお願いしますぅ……」
「そんな畏まらなくてもいいよ~? とりあえず早く退院できるといいね、
 僕もそこに居るはこみんと同じで君の投球見てみたいからね」
「そそそ、そんなぁ~、 ありがとうございます!頑張って早く治しますね!」
「無理しちゃダメだからね~」

 そんな何気ない口調にもとてつもないオーラを感じられるなあ、
流石天才コメディアンだ、存在するだけで飲まれてしまいそうだ……

「ところではこみんもシルバーシアーズに入らない?」
「お、俺のいる前で堂々とはこみん勧誘とは銀二さんもなかなかやりますね」

 シルバーシアーズのエースであるたっちゃんが笑いながら銀ちゃんに話す。
過去何度か銀ちゃんにスカウトされたことがあるが、今の俺はクラブチームで野球をするような気力はない。
 居候させてもらってる芦原家の事や由姫ちゃんの事もある。
左のエースとしてたっちゃんとポジション争いをして見たい気持ちもあるが
今はまだ、その時期では無い。
それにたっちゃんとは出来る事ならもっと上で戦いたい。
今はまだ未練を残しているけど、いつかはたっちゃんとは――

「あら?もうこんな時間じゃない~」

 銀ちゃんが時計をみて指差しながらそう言うと、銀ちゃんは少し残念そうな顔をしながら千晴ちゃんに対し頭を下げる。

「ごめんね~、もう面会時間が終わっちゃうね~
 おじさんこの子らとばっか喋ってて邪魔しちゃったよ」
「あ、いえいえ~お会いできただけでも嬉しいです」

 あ~、結構俺たちだけで話を進めてたなぁ、
まあ銀ちゃんのおかげで千晴ちゃんも元気になってくれたみたいだし――いいとするか。
 あれ?――でもなんで俺こんなに千晴ちゃんの事を気にしてるんだ?
そういえば初めてあったような気がしないんだよな、千晴ちゃん。
 そんな事を思いながらも、俺らは銀ちゃんと共に病院を後にする。
昨日は由姫ちゃんが手を振って帰ったが、今日は俺が代わりに手を振ってあげた。





 結局、俺らは千晴ちゃんが退院する日まで毎日見舞いに行く、
これじゃあ暇人といわれても仕方ないね、テヘッ☆
千晴ちゃんの同級生の子にも会い、千晴ちゃんの家族にも会う事もあった。
その皆全員が千晴ちゃんと優しく接しているのを、俺はやや部屋の隅でじっと眺める事もあった。

 そして退院当日、一人足で歩く千晴ちゃんは普通の女子中学生の姿と代わらなかった。
ただ、その中学生とは思えない静かな物腰からは何かたっちゃんとは別のオーラが感じ取れた――

「お見舞い、来てくれてありがとうございました」

 彼女の一礼を見て、俺は少したっちゃんが何故この少女を凄いといったのかが分かった気がした。
間違いない、この子――たっちゃんと似てる雰囲気が出ている。
そう思った頃には千晴ちゃんは既に俺の横を通り過ぎてタクシー乗り場へと向かう。
俺は最後に、何かを聞こうとした気がするが――結局千晴ちゃんを呼び止める勇気はなかった。








 今度会う約束をしたのは三日後の土曜日、
恐らく、それまでに実戦の感や体調をとりもどすのだろう。
浦田が惚れるその力。今度こそ彼女の実力がどれ程なのかを見極めてみせる――


最終更新:2010年02月10日 03:00