――木曜日、急に俺の数少ない親戚が
芦原家に遊びに来る事になった。
まあ親戚とは言ってもこの家からすぐ近くに住んでいるのだが、
その子も由姫ちゃん同様、野球機構で投手をしていてちょくちょく試合前になると俺に練習を見せに来るのだ。
その事もあり、俺はバイトを終え急いで家に帰る。
すると家の小さな庭には由姫ちゃんとキャッチボールをして遊んでいるその親戚の子の姿があった。
「あ! はこみん帰ってきた~」
由姫ちゃんが俺を指差すように言うと親戚の子は左手で捕球した球をそのままにこちらの方を振り向いて来た。
俺は軽く片手を上げながらその子に話しかける。
「何だ~、もう来てたのか~」
「はこみんさん、今日もお願いしますっ」
俺を見るなりその親戚の子は深々と頭を下げ挨拶をする、
親戚なんだし野球機構でも何度か会ってるんだから別に良いのに……とは俺は思わない。
やっぱし人から頭を下げられるって気持ちいい!愉快だ!
俺はそんな事を考えながらも急いで荷物を玄関の隅に荷物を置き、グローブを自分の右腕に装着させる。
「ハハハ! 本気のキャッチボールでもしようじゃないか!」
「はこみんさんに本気で投げられたら困るんですけど……」
「冗談だ! はははっ」
親戚の子の一瞬驚いたような仕草を見てから、俺はいつも通りに優しくキャッチボールをしてあげる。
その子の名前は佐々原 戒(ささはら かい)、奈良少年野球機構では由姫ちゃんとエース争いをする中学一年のサウスポーである。
小学校の頃からカーブを投げ、打たれにくいカーブを独学で開発しては投げ開発しては投げ……
次第には自らの意思でどんなカーブを投げるかを調節できるようになったらしい。
ま、一言で言えば才能って奴? それでも俺の球や由姫ちゃんのタックルに比べたらまだまだ序の口って感じだけど。
左投げだし相当な武器なんだよな、コイツのカーブ。
由姫ちゃんなんてボールに当てる事で精一杯だし……まあ体力無いしコントロールも悪いから自滅する事もあるけどさ。
野球機構の中でもこいつは有名で“カーブの魔術師”って呼ばれてるな。
本人もノリ気だし……、ま、神の左腕にはまだまだ程遠いって感じ?
そんな事を考えながら、俺は実際に戒君の球筋を見ながらアドバイスをしたりする。
後ろの方で暇そうにしている由姫ちゃん、しかし何も文句も言わずにただ俺が戒君に説明している事を吸収しようと耳を澄ましている。
若いってのはいいね、千晴ちゃんと会ってからは特に野球の知識を覚えようと努力してるなぁ。
土曜日は千晴ちゃんの実力を一緒に見させてもらおう――そんな事をさらに考えていたら戒君の投げたストレートが顔面に命中した。
「――ッ!?」
「はこみん!? だ、大丈夫!?」
120キロ前半の硬球が頭蓋骨にクリーンヒット、
あまりの痛さに俺は悶絶する――幸いちょっと大きめのタンコブが出来ただけで対したことは無かった。
「はこみん……さん?」
「……ああ、すまん、……ちょっと考え事しててな」
「はこみんも気をつけてよねっ!」
由姫ちゃんも本気で心配してくれてるなぁ……
何、心配は無用、この程度に耐えられなかったら由姫ちゃんのタックルは死ぬ!
寧ろお前が気をつけろといいたいね、俺は。
そんなこんなで戒君は練習を終え挨拶をして帰っていった――
「どうだった? 由姫ちゃんから見た戒君は?」
「どゆこと?」
戒君が帰り食事を終え机の前で勉強をしている由姫ちゃんに俺はふと聞く。
少なくとも、由姫ちゃんも投手である以上戒君を意識しているはずだ、
俺は改めて由姫ちゃんに聞く。
「だからさ、戒君のピッチングは由姫ちゃんの目にどう映ったか聞いてるの」
「う~ん、ピッチングはすごいと思う、だけど体力も制球も考えなきゃね」
まあ、由姫ちゃんもそう思ってるか――
それ以上に俺は小学生の頃からあのカーブを磨き続けてる事による障害の発生が怖いけどな。
んまあ、由姫ちゃんに言ってもわからないと思うしあいつも聞き分けならないからあまりとやかく言うことはないけど。
「私のほうがすごいもん!」
「バーロー、お前だってノーコンじゃねーか」
「ノーコンでも点取られなければいいの!」
「体力あるからとか言って無暗に球数を増やすと後々のびねーぞ?」
「そんな事ないもん!」
そんな言い合いをする俺達二人、その直後に亜樹さんが部屋に訪れ軽く声量に注意される、
俺も由姫ちゃんの勉強の邪魔をしちゃあ行けないか。
俺はその後、自分のベットにNPCを持ち込み適当に遊んだ後そのまま眠りに就く。
そして金曜日も真剣にバイトに取り組み、適当に由姫ちゃんと遊び、そして木曜と同じように就寝した。
そして――土曜日。
俺と由姫ちゃんはユニフォームに着替え
河川敷を軽くジョギングする、
今日は例の千晴ちゃんとの約束の日。
待ち合わせ場所は今度は河川敷沿いに建てられた小さめの野球グラウンド。
俺らは楽しみにしながらひたすらその場所へと向かって走る。
もうそろそろ着くころだろう――
俺が約束のグラウンドを前方に確認すると突然由姫ちゃんがその方角を指差してこう話しかけてきた。
「ねぇ、グラウンドにたくさん人がいるよ?」
「え?」
俺は走りながら目を凝らして前方を見る、
ったく、どんな視力してるんだ由姫ちゃん……全然確認できないじゃないか。
俺らがどんどん近づいていくとやっとそこにとあるチームが練習していることがわかる。
ユニフォームの胸に印刷されたの銀色のマークを確認したと思ったとき、
ふと前方で大きな声で声で呼びかけてくる二人の男の声を聞いた。
「お~い! はこみん」
「早く来いよ~! 練習始まってるぜ~」
そんなよく聞き慣れた声を聞き、俺の隣を走っていた由姫ちゃんは目を輝かせながらとてつもない勢いでその片方の男に近づいていく。
「銀ちゃんだぁ! わ~~~い!」
そう言って由姫ちゃんは前方にいた銀ちゃんこと
荻原銀二に飛びついた。
その銀ちゃんの隣には俺のバイト仲間、シルバーシアーズのエースたっちゃんが並んでいる。
俺はこの状況を整理する。
あのユニフォーム、このメンバー、そして野球グラウンド。
考えられる事は一つだった――
「
奈良シルバーシアーズが何で待ち合わせの場所で練習してんだよ!」
「都合いい場所が見つからなかったんでな~ここにしちゃったぜ」
俺はたっちゃんに若干怒鳴りながら叫ぶ、
シルバーシアーズが嫌いという訳ではないが、知り合いが多すぎてあまり集中できない気がするのだ。
まぁ……楽しくやったほうが良いと言うのは分かるんだけどね。
そんな中、浦田の後方に居た千晴ちゃんがぴょっこりと登場し挨拶をしてきた。
「箱壬さん、今日はよろしくおねがいしますねっ」
「おおぅ! あんたがどれ程凄いのかこの目で拝ませてもらうぜ!」
「箱壬さんに比べたら全然だと思いますがね~」
ああっ!は・こ・み・さ・ん、この響きが新鮮に感じるぜ!
いつもいつも、皆俺のことは“はこみん”だもんな、すげー投手の名称じゃないよな。
はは――なんかテンション上がってきた。
そんな上機嫌の俺は皆を連れてそのままグラウンドへと入ることにした――
最終更新:2010年02月10日 03:04