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第十一話 とあるニートと古い知人

『えー、働いたら負けだと思っていますね~

進学失敗して成功でした!』



 朝のニュースで取り上げられていたのは平成生まれのニート特集。
今紹介されているのはこの近所に住んでいるらしく河川敷で毎日釣りばっかやってるグータラニートの特集だ。
藤本 章正(ふじもと あきまさ)、15歳にして受験で落ちたため夢をあきらめニート生活になったという流れなのだがどうもムカつく野郎だ。
 顔が良いのも若干そのイラッとする要因なのだろうが、やはり一番の理由は俺だってバイトしているのにコイツは働かないで親任せな所がさらにムカつく。
コイツは両親に世話してもらってるらしい、河川敷であったら160キロのストレートを投げ込んでやるぜ!

「まあまあ、はこみんはえらいですよ~きちんと生きがいを持って働いてますし」
「亜樹さん……そうだよね!俺偉いよね!」

 亜樹さんからも言われている、俺は偉いんだ!
今日もバイト頑張ろう!と六時前に俺は家を出る――さっさと幼稚園に向かわなくては。
由姫ちゃんは今日は寝坊せずに起きてくれるといいなぁなどと思いながら、俺は幼稚園の方へと駆けて行った。




 午後の昼休み――
俺とたっちゃんは庭に居る園児を見守りながら最近の経済についての話をしていると数名の園児たちが俺たちの下へとやってきて話しかけてくる。

「はこみんせんせーとたっちゃんせんせー、やきゅうおしえて~」
「ん?野球か?」

 俺とたっちゃんが野球で有名になったことがあるというのはここに居る園児たちは殆ど知っている、
しかし野球の事について詳しく園児たちに教えたことは無い、野球道具はまだ園児たちには早いのだ。

「ダメダメ!野球の道具は重たいし君たちが怪我したら俺たちが危ないの」
「えー」
「やりたいーやりたいー」 

 俺が必死に説得するも園児たちは一歩も引かない、
この手の質問には何度かあうが俺やたっちゃんは園児たちに野球道具を触らせることはなかった。
 やがてその事に気づいたのか園長先生は俺とたっちゃんが園児たちに囲まれている所にやってきてこう持ちかけてくれたのだ。

「どうだい?このプラスチックバットとゴムボールなら扱いきれると思うよ」
「おお、これならいいんじゃないか?はこみん」

 園長先生にもたっちゃんにも言われ渋々俺は昼休みの幼稚園野球に付き合うことにした、
メンバーは男子16人女子5人程、2チームぎりぎり作れるか作れないかである。
 最初のうちは軽く見てやっている程度だったがその内俺も見ていられなくなり、気づけば指導をし始めるようになっていた。

「アンダースローはまだ体が成長してないから無理だよ、上から投げて」
「ボールを良く見て!そして球をよく見てからスイングだよ」
「フォームをしっかりさせると遅くても球がまっすぐ飛ぶようになるよ」
「飛ばしたい方向に向かって足を踏み込むと強く打ち返せるよ」

 そうこうしているうちにたっちゃんからも言われてしまう。

「はこみんよ、そこまで熱心に教えるなんて流石だな」
「あ……い、いや!あれだ!俺が教えた子が野球好きになってくれればいいなって思っただけだ!」
「ふ~ん、でも由姫ちゃんを指導してる時とは全然違って優しそうだったな」
「アイツにはもっと上を目指してもらう為に厳しい特訓をさせてるの!」


 そんなこんなで昼休み野球は始まる、
1ヶ月もしないうちにみんなはどんどん上達していく……

「つぎのしあい、おれホームランうつもん!」

こう意気揚々と話すのは元から運動神経が良かったえいこう幼稚園【しあわせ組】のクラスリーダー、成瀬優雨(なるせ ゆう)君。
彼はみるみるうちにコツを掴み打撃も守備も園内一の実力で持つようになった。

「わたしエースだって~、はこみんおうえんしてね~」

 そう語りかけるのは体力も男子に負けないチームの花、【しあわせ組】の楠明灯(くすのきあかり)ちゃん、男の子のような力押しではなく女の子らしい制球力でエースとなった。

 それ以外にも幼稚園児らしい個性あるメンバーが揃う昼休み園内野球、
いつしかその人数はどんどんと増え、やがてたっちゃんと俺の2グループに分かれて練習することになった。

 週に2度は互いのチームで主力を集めて試合をする、
いつしか勝敗でその日の帰りの缶ジュース代を掛けるようになってからは俺とたっちゃんも指導の熱が上がってきた。





 ――そんなある日の事だった。


「よぉ箱壬!久しぶりだな」
「お前は――山塚じゃないか!!」


 ふと突然現れた高校時代のチームメイト、山塚広樹(やまつか ひろき)。
彼が後に、とんでもない事を仕出かしてくれることになろうとは――


最終更新:2010年02月10日 11:33