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第十四話 天才捕手

 ――そして翌日。

「はこみ~ん、起きて~っ」
「ん……、そうか試合か……」

 俺は朝早くから起きた由姫ちゃんにたたき起こされる、
 ベットから体を起こし俺は窓の方へと向かいカーテンを開ける。
そこには先日から変わらない鈍色の空が広がっていた。

「今日も雨か……」
「こう雨が続くと嫌だよねー」

 由姫ちゃんは少しふてくされながらそう呟くとリビングの方へと走っていく、
朝食を食べたらすぐ会場に向かう、亜樹さんが車で送ってくれるそうなのだ。

 由姫ちゃんはあの運転に慣れているからなのか別に下手だとは思っていないのだろうか、
しかし亜樹さん運転下手だけどこの運転で15年間一度も事故を起こした事が無いって言う事が凄いな……
まあその話があるから俺も亜樹さんの車に乗るんだけどね。

 こうして、俺は由姫ちゃんの後を追うようにリビングへと向かう、
今日の試合、由姫ちゃんは出番無しと思いきや二塁手として途中出場予定、
もしくは戒君が崩れた時の登板となっている。
 あくまでも今日の先発は戒君であり、投手陣が崩れたら由姫ちゃんが登板する可能性もある。
その為気分的には面倒な位置ではあるが投手か二塁手か分からないまま準備する事になる、
まあ由姫ちゃんはメンタル的にも大丈夫であろうと思うけど。
 自分が出れればどのポジションでも楽しめる、いい性格だよなぁ。
俺なんかエースじゃなきゃ腐っちまうぜ、全く……

そして俺たちは朝食を済まし、着替えてから亜樹さんの車へと乗り込んだ――






 そして、一同は亜樹さんの運転する車は試合会場のドームへと到着する、
車から降り、由姫ちゃんは傘を差して選手用入り口へと向かうだろう、
俺は亜樹さんが車を止める駐車場まで一緒について行くのでここで由姫ちゃんとはお別れである。

「由姫ちゃん、活躍したらまた皆でレストラン行こうな」
「うん!がんばる!」

 元気いっぱいにそう頷く由姫ちゃんの様子を見て、亜樹さんの運転する車は急発進する、
一瞬体勢を崩しそうになりながらも俺は何とか由姫ちゃんに向かって手を振り続けた。



 俺達が由姫ちゃんと別れてから約5分後、車はドーム地下駐車場に到着する。
駐車した亜樹さんが車のエンジンを止め車から出ると俺も荷物を持ち亜樹さんについていくように車を出て大きく息を吸った。
 そこに間髪入れず亜樹さんは俺の腕を引っ張りながら言う。

「さぁ、あの子の活躍するところを見なくちゃ♪」
「亜樹さんはしゃぎすぎだよ」

 まだ試合までは結構時間がある、野球にはあまり興味が薄い亜樹さんだがこの日は何故かテンションが高かった。
いつもはこんな球場に来る機会もなかったからなぁ、ドーム前で入場券を購入し亜樹さんは試合の見やすい席でカメラを構えていた。

「それにしても、亜樹さんが野球を見物するのは久しぶりですね」
「そうですね~、こんな機会ですし……あっ、あの子も戒君ももう練習してる!」

 亜樹さんはこうなったら俺の話を聞かない、
亜樹さんは家では翻訳家の仕事を行っており、その傍ら趣味は“子育て日記”というブログを更新することである。
 普段家に引きこもっていて由姫ちゃんの活躍をみれないのか、こういう場では妙にはしゃぐ。

 もし由姫ちゃんが有名になったらこの“子育て日記”で亜樹さんも有名になるんだろうなぁ、
そんな事を考えながら、俺も由姫ちゃんたちの練習風景をゆっくりと眺めていた――

 今回、奈良少年野球育成機構が対決する相手は少し離れた地域からやってきた“石川少年野球育成機構”のメンバーである。
奈良県が全国野球機構ランク4位でかなりランクが高い所であるのに対し、この石川少年野球育成機構は全国ランクでいうと32位とかなり微妙な位置にいるということになる。

 しかしプロになるために毎日練習を欠かさない奴らがそろう所、
一瞬の気の緩みが崩壊につながるだろう、戒君は果たしていい結果を残せるだろうか――




「あっ、試合始まるみたいよ!」

 亜樹さんが皆がグラウンドの中央に集まるのを見て指をさす、
グラウンドで一礼した彼らは一斉に守備へとつく。

 マウンドには中学一年生の戒君、そして由姫ちゃんはベンチへと走っていく。
本来なら中学一年生がマウンドに立つのは野球機構同士の試合ではすごく珍しい。
 ましては奈良少年野球育成機構は小学生すらもマウンドにあげているのだ。
それを戦力として考えさらには先発として使ってこの全国ランク4位という成績。
 それほどまでに才能多き選手が多いのである。
彼ら以外はスタメンもベンチも中学三年生がほとんどの中、もう一人……いや、たった一人二年生がスタメンに存在する。

 それはマウンドに立つ戒君の真正面でミットを構える捕手、
少年野球育成機構史上、いや中学野球としても史上最高の選手と言っても過言じゃない彼。

 彼の名は小野瀬三幅(おのせ みの)、野球が生んだ真の天才である。
どっかりとミットを構える彼の表情はとても自信に満ち溢れていた――
戒君にとってもあれなら投げやすいだろう、俺からみても三幅君がただの捕手ではないことはすぐにわかる。
いや、俺は初めて三幅君と会った時には俺と同じオーラを感じていた。


 そして試合が始まる、
戒君は三幅君のサインを確認し――第一球を投じた。



最終更新:2010年02月10日 11:39