――次の日、俺は戒君と由姫ちゃんと一緒に奈良
少年野球育成機構の練習場へと向かう、
いつも通り俺が行くと生徒たちはみんな俺の下へとやってくる。
「はこみんだ!」
「はこみんさんがやってきた~!」
この時が一番ヒーローになれる瞬間だと俺は思う。
昨日俺が目を付けていた三幅君も嬉しそうに寄ってきていた、俺って凄いんだな……
そんな事を考えながら、俺は皆に昨日の試合の事を褒めてあげる。
「昨日の試合凄かったなー!皆守備上手いもんな!」
すると周りの生徒たちは調子に乗ったのかこう口にする。
「うんうん!」
「俺らはこみんさんから言われるぐらい守備上手いんだな!自信付いた!」
うん、まあいいか、自信つく事はいい事だしな!
正津監督はよくこういう事を言うと“慢心する”だとか“努力しなくなる”だとかいいあまり生徒を褒めたりしないようだが。
俺はそうは思わない、由姫ちゃんにせよみんな褒められたいから強くなるような気がする。
それでも正津監督も結構指導面では人気はあるみたいなんだけどね、何でだろ?
――俺も少し気になってきた、今度正津監督に聞いてみよう。
そんなこんなで育成機構の練習開始時間になる、
俺は日陰で皆の練習を眺めていようとベンチの方で横になっていると正津監督と由姫ちゃんの会話が聞こえてくる。
「正津せんせーい、あそこではこみんがサボってるよー」
「はこみんがいるのか~ まあこのグラウンドに入ってきた以上練習は義務だ!休むことなど許さないよー!」
……げ、帰ってたほうが良かったか――?
いやな予感がした俺はベンチの影から声の方向を覗いて見る。
そこにはゆっくりと笑みを浮かばせながら向かってくる正津監督と由姫ちゃんが――
どひー!、このままじゃ練習させられちゃう!
「ま、待って! 俺、受講料払ってないですぜ!?」
すると笑顔のまま正津監督は喋る。
「うーん、じゃあ特別コーチとしてお願いしよう、サボるなんて言語道断♪」
「はこみん先生♡、私に指導してくださいな♪」
やべぇ、何故この二人こんなにノリノリなんだ!?
ってか由姫ちゃん!お前にはいつも指導してるだろ!
何気に正津監督も俺の事利用しようって感じだし……
とりあえず俺は逃げることにした。
「さらばだー!」
「あっ、はこみんが逃げた!」
由姫ちゃんの声が聞こえる、流石に由姫ちゃんでも俺が全力で逃げていればタックルを食らわせられまい!
そう思っていると正津監督の声がグラウンド内に響き渡る――
「お前ら~!一旦練習中断!!
あそこにいるはこみんを捕まえろー!」
「おー!」
すると付近の生徒たちが一斉に俺に飛び掛ってくる、
ちょ……ちょっと待て!どうしてこうなった!!
必死にその猛攻を交しやっとの思いで出入り口の方へと向かう俺。
ここを抜ければもう大丈夫――そう思っていると“あの男”が入り口前を塞ぐ。
「はこみんさん!逃がしませんよ~」
「三幅君!! そこをどきたまえ!」
俺が体当たりする勢いでそのまま入り口を塞ぐ三幅君の方へと突っ込むと三幅くんは頑丈な体でそれを押さえつけてきた。
思いっきり体当たりしたのに受け止められ、そのまま俺は三幅君に捕らえられてしまった。
「由姫ちゃんのタックルに比べたら比じゃないですねん♪」
「うわぁ! やめろぉぉぉっ!!」
俺は三幅君に足を掛けられてそのまま倒れこむ、
そこに遅れてやってきた他の生徒達、何とか逃げようとするも時既に遅かった。
「はこみん捕まえたぞー」
「よくわかんないけど捕まえたー」
「うぅ……」
その後、生徒たちに次々と押さえつけられそのまま俺は身動きがとれなくなった――
園児たちでもそんな激しくしてこないのに……ビクンビクン
そしてその後、正津監督の言われるままにコーチをやらされたのは言うまでもなかった。
「三幅君、俺の球を受けてみるか~?」
「えっ!? はこみんさんが!?」
練習中、ブルペンで一人座って退屈そうに相手を待つ三幅君に声を掛ける、
もちろん俺もそこまで乗り気じゃない、いくら三幅君が凄い捕手だからといって160キロ近い球を捕れるかは分からない。
しかし三幅君は意外にも普通にそれに乗ってきた。
「じゃあ――ゆっくりスピードを上げてください」
「おいおい~、お前投手の力を最大限に引き出せる捕手目指すんじゃないのか~?」
普通の捕手なら嫌がるところ生意気に挑戦しようとして来た三幅君、
決して俺の発言は嫌がらせではない。
しかし、この程度でビビッてしまうと逆に怪我しかねない、
何度も捕手の心を折った俺にとっては一種の試しのような物だった。
そして、それでも三幅君は首を横に振ることは無かった。
「……分かりましたよ、とって見せます!」
少し間を置いてそう呟くと三幅君はどっかりとブルペンに座り込む、
どうやら――覚悟はあるみたいだなぁ……
俺もちょっと本気で投げ込んでみるか、俺の球を取ってくれる奴――最近会ってねえしな。
俺は投球プレートに立ちながら三幅君の方を向く、
ブルペンで黙ってミットを構える三幅君に最後に呟く。
「後悔するなよな?」
「分かってますって」
マスク越し、ニヤリ笑う三幅君の表情が確認できると俺は少し安心した、
そして俺はこの日、魂を込めた一球を三幅君に投げ込んだ。
刹那、俺の放った球は三幅君のミットによりもう“二つ目の魂”が響く。
響いたのは球が発砲されたかの様なミットの心地よい音――
俺の放った球は、俺の魂を乗せた球は三幅君の魂を込めたミットにより共鳴
俺らけっこう――
いい感じじゃね――?
その後、どんなやり取りをしたかはやり取りをしたかはお互い昂る気持ちによって記憶が遮られた。
ただ覚えていたのは、『三幅君は俺の球を取った』という真実だけだった。
最終更新:2010年02月10日 11:44