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第二十話 寒いのと熱いの

 その日から俺たちは早速バッテリー練習を開始し始める。
試合まで時間は無い……いくら三幅君とはいえ投手の球の本質を知り配球を考えるのには練習が必要だ。
しかしこう練習している間にも時刻は過ぎていく……果たして人数は集まるのだろうか。

 相変わらず三幅君のミットからは乾いた心地よい音が聞こえてくる。

「三幅君上手いねぇ」
「いえいえ、取るのも必死ですよ」

 控えめに反応しているのか分からないが言葉に反して顔は凄く嬉しそう、
やっぱこいつも相当野球好きなんだろうなぁ、ちょっとバッテリーを組んでいるだけでも直にそれが伝わってくる。

 山塚のいる鏡星高校は俺がいなくなっても甲子園に進むことのできる高校だ、
生半可な戦力で戦うのは相当きついだろう、いくら160キロのストレートがあろうとも当てられれば守れない……
そのような戦い方で勝てるような甘いチームではないことは確かだ。
 ……となると少なくとも内野は経験者で固めたほうがいいな。
俺はそう思いながら三幅君の構えるコースに正確に球を投げ分ける、
三幅君が全くミットを動かさない……前よりコントロールは格段に上がったなぁ。




 そんな事を考える中、俺はただひたすらに自分の球を確かめていた。
やがて夕方になると河川敷で俺たちが練習していた所に学校帰りの由姫ちゃんと戒君がやって来る。

「あっ、三幅くんとはこみんだ~!」
「小野瀬先輩!? なんでこんなところに!?」
「戒くんに由姫ちゃんか、いまはこみんさんと一緒に練習してたんだ~」

 三幅君がそう説明すると2人は少し意外そうな反応をする、
何だ何だ?俺が練習するのがそんなに珍しいか?

「でもさ、何で二人が練習してるの?」
「実は……」

 理由を説明しないのも可哀想だ、二人にも一応理由を話しておこう。
そう思い俺は二人に対しても山塚の件を教えてあげた。
すると二人は意外にも軽く反応する。

「人助け!? やるやる~♪」
「平日だぞ? 不良の三幅君意外はダーメ」

「人を助ける思いに義務教育など関係ないですよ、レンジャースナインみたいに守りましょう」

 由姫ちゃんも戒君も軽い……
まぁ手伝ってくれるのはいい事か、由姫ちゃんがいればセカンドの守備はそこそこ固まるだろうしな。

 戒君は……左投げだし外野だな、うん。
そうして、由姫ちゃんと戒君を含めた俺たちは改めて練習を再開した。

「おい戒くん!送球をカーブさせるんじゃない!」
「由姫ちゃん!普通に取れる球をわざわざ跳ねて取るな!」
「三幅くん!ミット構えながら寝るな!」

 年下相手に俺は何をやってるんだ……
そう思いながらも俺は球を三幅くんに放ろうとした――が。

「ゲッ!!」

 つい手を滑らせ大暴投、三幅君も取ってくれないし……こりゃあ川の方までボールが行っちゃうなぁ。
160キロ近く出ただろう球は茂みの中に勢いよく突き刺さって行く。

「あ~あ、はこみんちゃんとしてよ~」
「悪りぃ悪りぃ……取ってくる」

 由姫ちゃんたちがミスをここぞとばかりに責めて来るので俺は仕方なくボールを拾いに行くことに……
俺は茂みの中を突き進む、夏前のこの季節に大量の虫を茂みの中で発見する。
これがポケモンとかだったら人生面白いだろうなぁ……。
 俺は今の暗い人生にうんざりしながらボールを捜し続けた。
やがて茂みを進んで行くとついに川が見えるところまで抜ける。
ボール……川に落ちてないかしら?

 俺が夢中になって探していると川で釣りをしている青年とその隣でなにやら熱く何かを語っている男の人がいた。
とりあえずボールが来てないか話を聞こうと思い俺は彼らに近づく、
するといきなり年上の男の人の方が大声を上げた。

「お前、昔を思い出せよ!」

 そう言い放つ男は急に釣りをしていた青年の胸倉を掴み始める、
この勢いだとまるで川の中に落としてしまいかねないような状況、しかし青年の方はまだ冷静だった。

「昔?あぁ……思い出すたびに辛かったなぁって思ったよ」
「何言ってんだよ!日本一になるって言っただろ!?」
「言ってねぇよ」

 熱いな……あの男、まるで某元スポーツ選手で現在は熱血キャラでブレイク中のあの炎の妖精ばりの熱さだ……!
一方だらんと釣りをしている青年――彼も見覚えがあるぞ……

 俺はその青年の顔を見て数日前の事を思い出す……
人間にはどんな些細な事でも脳が記憶していて本人がそのことを忘れていても脳指紋というものが必ず残るらしい。
俺はその脳指紋の中から必要最低限の情報を照らし合わせる、
すると、俺の脳裏に浮かんだのはとある一人の男の名前と職業だった。


「お前!イケメンニートの藤本章正だな!?」
「んあ?誰だテメェ……」


 数日前テレビで紹介されていたこの男……とその連れ。
どうみても同年代といった訳ではない、理由としてはニートからの脱出を試みさせようとしていたのは分かる。

 だが、そんな事はどうでもよかった、
俺は今すぐにでもこのニートに天罰を下さないと行けない気がしたのだ。

『成敗っ!!』

 そして俺は彼らに一歩ずつ近づいていった――


最終更新:2010年02月10日 12:32