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第二十四話 母校

「へぇ……ここが鏡星専用のグラウンドですかー」

 この日の為に学校を早退してきた千晴ちゃんや戒くんがその設備に驚く鏡星高校野球部グラウンド、
本校からはけっこう離れた位置にあり、辺りには住宅はなく場外を打っても困らないような場所にある。

 ――よく、わざと球を外に投げて球を取ってくると言い訳して練習サボったなぁ。



 しかしついにこの日が来てしまったか……
焦る気持ちと誘拐された二人の無事がまだ分からない不安で俺の胸は張り裂けそうになっていた。

 結局、あの後も俺はゴロ取り練習をしたが一向に上手くならなかった、
この戦いで勝つためには出来る限り俺の守備を必要としない事、それしかなかった。
全て三振、またはフライを上げるようにすればいいだけ、何としても俺がゴロを取れない事をばれないようにしなければならないだろう。

 現在の時刻は三時、まだ鏡星高校の部員は授業を受けているようだ、
試合開始は四時、それまでに最終調整をしなくてはならなかった。


「足立原君、三幅君……チャンス時のバッティングは任せたぞ」
「ハイ!」

 俺が中学生二人に声を掛けると二人は大きな返事をしてくれた、
まさか俺が年下に頼みごととはな……弱気はあんま見せたくないけどな。




 俺はふとたっちゃんの方を見る……
俺とは違ってたっちゃんはいつでも冷静そうだ、まあそこがたっちゃんらしさが出てるんだけど。

「はこみん、力むんじゃないぞ」
「おぅ」

 とはいえたっちゃんにはいつもの明るさは全くない、
たっちゃんからはかつて甲子園で戦った時の様な凍てつく気迫を感じ少し恐怖を感じた。


 試合開始まで後一時間、しばらく辺りを見渡してくるか……

「少し……学校の方に行ってみるか」
「あ、私もいく~」

 由姫ちゃんが俺の左手をがっちりと掴みながら言う。
 俺と由姫ちゃんは一旦鏡星高校のほうへと向かう事にする、
今から本校へと向かえばここからなら15分程、ちょうど此方へと向かってくる相手と会うかもしれないな。


 俺らは荷物をたっちゃんに預け本校の方へと向かっていった。
元気にしてるのかな、昔の奴ら……


 ――いや、そんな事を考えている場合ではない。
奴らは誘拐犯の仲間同然、そんな奴らの安否を心配するべきではない。
俺は必ず子供達を取り返さなくてはいけないのだ、奴らは敵、憎むべき敵なのだ。

 歩きながら俺は昔の仲間の顔を思い浮かべながら思いっきり拳に力を入れる、
するとそんな気配を感じたのか由姫ちゃんは俺の肩に手を伸ばしポンと軽く叩く。

「はこみん、浦田さんも言ってたでしょ? 力まな~い力まな~い」
「……そうだな、今は怒りに流されては行けない……か?」

 俺は自分自身に言い聞かせるように言う、
それと同時に自分に問う、この怒りを奴らに向けずこの問題を解決するべきであろうか?
俺を動かすのは正義の力でも悪魔の能力でも無く自分の意思だけ、
怒りに酔わないと気が狂ってしまう――それが人間の性ではなかろうか?

 俺は精一杯心を落ち着かせる、これでも切り替えは早い方だと思う、
気持ちを切り替え、俺は来た道を元に戻る。
この時の俺は全く母校に足を運ぼうとは思っていなかった、無意識に昔の仲間と出会うのを敬遠していたのだろうか?
俺の顔をじっと見つめていた由姫ちゃんも納得したように頷くと再び手をがっちりと握った。

「いけねぇなぁ、俺も、
 いつまでも自分に甘いってのは直さねぇと全力で生きている奴に失礼だよな」
「そうだよ!はこみん、ろくにゴロも取れないピッチャーなんてはこみんじゃないよ!」
「いや……俺は弾箱壬なんだが……」

 俺にはもう、母校の存在など必要ない。
必要なのはこの試合に勝ち教え子を助け出す、それだけだ。


 決戦まで――残り30分


最終更新:2010年04月04日 23:45