アットウィキロゴ

第二十五話 思い出

 ――今から丁度2年前、鏡星高校が甲子園優勝する夏の大会前の事。
俺と山塚は二・三年を差し置いてどちらがエースとなるかで注目された時期があった。
そして監督が大会のオーダーを発表し終えると山塚が大きな声で監督に話す。


「待ってください!監督 ――奴は左投げのアンダースローですよ!? 中学時代の実績も得体が知れない彼なんかより……」
「これは私が決めたことだ、今の段階では山塚よりも弾の方が実力があるのは明白だ、そうであろう?」


 当初、俺には一つの不安要素が挙げられていた、
それは左投げのアンダーから放たれるフォームだと右打者に球の出所が分かりやすく対応されやすい事である。
しかし球の出所が分かろうがそう易々と俺の球は打たれる事は無い。
その点を考えようが俺に比べ山塚はまだまだ実力不足であった。


「しかし……俺はエースになる為にここに来た!頑張ってきた! でも彼は入部してからまともな練習をしてないじゃないですか!」
「練習せずとも強くなっているじゃないか? 努力など誰でも出来るのだ、
 私が欲しいのは“インパクト”なのだ、奴は存在だけでも話題になる逸材だぞ?貴様とは違ってな」
「……」

 山塚は何も語らなかった、そして俺の方をキッと睨むとその場を走り去って行く――

「やれやれ……、右のエースとして箱壬と2枚看板として活躍してもらいたかったが……あやつはまだ精神面がしっかりしておらん様だな」
「そうですか……、まあ監督の期待に沿えるよう!毎試合完封勝ちで行くんで起用お願いしますね!」

 監督の心配をよそに当時の俺の目にはもう自分が甲子園で優勝する姿しか見ていなかった。
 思えば、俺もこの頃はかなり調子に乗っていたのかもしれない。
周りから見れば俺は突如現れた英雄、プレーで皆を惹きつけるスーパースター。
自分で言うと小物っぽく見られてしまうが、俺は天才だった、誰にも負けなかったし負ける気もしなかった。
 トップであり続けた俺は山塚の様に抗う事はしなかった、俺も奴も才能以外では然程変わらないというのにだ。


 その後、大会前に何度か俺は山塚と会話する、
しかし山塚は俺を責めたりはしなかった、ただ口にするのはいつも通り“お前を越す”だの“練習をきっちりしろ”だのばかり、
 山塚はそういう男だ、一見は自分がエースになるためにはどんな手段でも使うような男だが、実力を認める潔さはしっかりと持っていた。
そして一人一人に口うるさく話しかけることでチーム全体の向上心を上げる役割を果たしていたのだ。

 他人には嫌われつつも山塚はチームを纏める素質があった、
しかし――そんな彼が一体何故……











 ――グラウンドに戻り試合時間が刻一刻と迫ってきた、
会場には人が集まり始める、恐らく俺と山塚の対決を見たいが為にやってきた生徒達だろう。
観客から見れば新旧エース対決程度、しかし俺らにしてみれば命が掛かった知られない戦いなのだ、
とても観客の声に耳を貸す余裕など無かった。




 そして、ついに奴らは来た―-


「よぉ……ちゃあんと集めてこれたんだなぁ……」
「山塚……」

 鏡星のユニフォームを来た選手達が現れると観客の声が揚がる、
俺は山塚を睨みつけ左拳に力を入れる、一方の山塚はこの状況下の中、笑みを浮かべていた――
一言俺が犯罪の事をほのめかすような事を言えばこの笑みはどうなるかも知らないで……

(待ってろよ……試合に勝ってその口から居場所吐かせてやる!)

 俺がそう心の中で思う中、他の鏡星の選手は俺の姿を見て戸惑いを感じているかのようだった。
様子の違い、雰囲気の違い――いろいろあるだろうが俺が昔のような余裕のある人間ではなくなったからだろうか。
選手達は俺の方を不思議そうな目で見つめていた――





 しかし、俺の球を良く知る厄介者となるであろう正捕手、今丘だけは別だった、
別な意味で見つめている……何か俺に期待するように。


 それが一体何なのか、俺はまだ知るよしも無かった――


最終更新:2010年04月05日 01:17