俺の風邪が治って3日が経った。
つまり今日は──
ハルヒとの約束の日。
つまり今日は──
ハルヒとの約束の日。
俺は30分前に待ち合わせ場所に来ていたのだが、
ハルヒはそれよりもっと早く来ていたようで。
ハルヒはそれよりもっと早く来ていたようで。
「遅いっ!」
へいへい、すかさず罰金!だろ?さぁこいよ。
ほら、ばっき……あれ?
ハルヒはそれ以上何も言わず、ついてこいといわんばかりに歩き出した。
へいへい、すかさず罰金!だろ?さぁこいよ。
ほら、ばっき……あれ?
ハルヒはそれ以上何も言わず、ついてこいといわんばかりに歩き出した。
まず向かったのが、デパートだった。
荷物になるから後にしようぜという俺の意見など聞く耳持たず、
Men’sの服屋に入ると、早速品定めを始めた。
荷物になるから後にしようぜという俺の意見など聞く耳持たず、
Men’sの服屋に入ると、早速品定めを始めた。
……またここの店員もタチが悪かった。
ジャケット以外も売りつけようと、俺に色々試着を勧めてきた。
結果俺は何度も試着室に入ることになり、なかなかこれだけでも疲れを感じた。
めんどくさいったらありゃしない。
着替えの最中、外で待っているハルヒに店員が
ジャケット以外も売りつけようと、俺に色々試着を勧めてきた。
結果俺は何度も試着室に入ることになり、なかなかこれだけでも疲れを感じた。
めんどくさいったらありゃしない。
着替えの最中、外で待っているハルヒに店員が
「彼氏さんですか?いいですね、今日はデートですか?」
などとお世辞を言っていた。すかさずハルヒが
「彼氏じゃないわよっ!!」
と大きな声で叫んだ時は、さすがに恥ずかしかったがな。
……それと、正直に言おう、俺は少し、それを残念に感じた。
「彼氏じゃないわよっ!!」
と大きな声で叫んだ時は、さすがに恥ずかしかったがな。
……それと、正直に言おう、俺は少し、それを残念に感じた。
──結局決めたのは2時間くらい回りに回ったあとだった。
黒のファー付きジャケット。ありきたりな色のジャケットではあったが、
ハルヒはデザインが気に入らないとなんとか言って、なかなか決まらなかったのだ。
黒のファー付きジャケット。ありきたりな色のジャケットではあったが、
ハルヒはデザインが気に入らないとなんとか言って、なかなか決まらなかったのだ。
……この後はハルヒにつれまわされた。
またUFOキャッチャーに再挑戦させられたり、
見たい映画があるとかなんとか言って見たのはいいが、
思いのほかつまらなかったのと、俺が途中で寝てしまったりで、
終わった後コテンパンに怒られたりとか……。
またUFOキャッチャーに再挑戦させられたり、
見たい映画があるとかなんとか言って見たのはいいが、
思いのほかつまらなかったのと、俺が途中で寝てしまったりで、
終わった後コテンパンに怒られたりとか……。
ただ、本当に楽しい時間だった。
「すっかり暗くなっちゃったわね。そろそろ帰りましょうか」
空はもうすっかり夜になっていた。
「そうだな、送るぜ」
「あっそ、好きにしたら?」
「そうだな、送るぜ」
「あっそ、好きにしたら?」
またそれか……ハルヒよ、お前は俺を怒らせた。
──その時の俺は、どうかしていたんだろう。今考えても、なぜあんなことをしてしまったのだろうか。
年に1度あるかないかだと思うぜ。
年に1度あるかないかだと思うぜ。
俺は前を向いたまま、そっと右手をハルヒの左手に絡ませる。
どうだ?好きにしてやったぜ?
「ちょっ……」
ハルヒはそれ以上何も言わなかった。もちろん、今ハルヒがどんな顔しているかなんて見れん。
抵抗するような仕草がほとんどなかったのが、嬉しかった。
どうだ?好きにしてやったぜ?
「ちょっ……」
ハルヒはそれ以上何も言わなかった。もちろん、今ハルヒがどんな顔しているかなんて見れん。
抵抗するような仕草がほとんどなかったのが、嬉しかった。
帰り道、2人の間には、あまり会話がなかった。
俺が何か話しかけても、ハルヒからはぼんやりと返事が返ってくるだけだった。
俺が何か話しかけても、ハルヒからはぼんやりと返事が返ってくるだけだった。
何か悪い事をしてしまったような、少しそんな罪悪感に苛まれながら、
俺達は無言で、夜道を歩いた。
俺達は無言で、夜道を歩いた。
──結局それからなにもないまま、ハルヒの家の前に着いた。
残念だがここまでだ。
俺達はどちらからともなく、手を離した。
残念だがここまでだ。
俺達はどちらからともなく、手を離した。
「今日もありがとな」
「うん……」
静寂が流れた。ハルヒはずっと下を向いている。
「うん……」
静寂が流れた。ハルヒはずっと下を向いている。
なんか、前回と同じだな。ただ、前と違うのは──
俺の気持ちが、はっきりしているということ。
俺の気持ちが、はっきりしているということ。
このまま帰しちゃいけない。このまま帰っちゃいけない。
そんなことはわかってるんだよ。
そんなことはわかってるんだよ。
でも、……言えない。やっぱりチキンだな、俺。
なんとか次の約束の口実くらいは……
なんとか次の約束の口実くらいは……
そんな事を考えつつ、ハルヒの方を向いた。
俺の方を……5秒ほど見つめていただろうか?
俺の方を……5秒ほど見つめていただろうか?
ハルヒはハッと何かに気づいたようで、120%スマイルでこちらを向いた。
……もういい加減、付き合いも短くない。
コイツがこんな顔をするのは、何か閃いた時に決まっている。
しかも大抵、俺にとってとても疲れる事だったりする。
コイツがこんな顔をするのは、何か閃いた時に決まっている。
しかも大抵、俺にとってとても疲れる事だったりする。
「あんた、今回の事、あたしに感謝してるわよね?」
これまたうなづき以外は許さないといった言い方だな。
だからなんだと言うんだ?
ごめんなさいしないといけないよね、か?
だからなんだと言うんだ?
ごめんなさいしないといけないよね、か?
「だったら、あたしにお礼しなきゃいけないわよね?」
ほらきた。ある意味俺の予想通りというか、応用しただけじゃねぇか。
「よし! 決めたわっ!!」
……何をだ。
「あんた、今度はあたしの買い物に付き合いなさい!」
……何をだ。
「あんた、今度はあたしの買い物に付き合いなさい!」
──そうきたか。
「わかった?団長命令なんだからねっ!?」
ハルヒが眉をひそめて顔を近づけてくる。どうでもいいが、近い、近すぎるぞ。
「わかった?団長命令なんだからねっ!?」
ハルヒが眉をひそめて顔を近づけてくる。どうでもいいが、近い、近すぎるぞ。
「返事は?」
──ふむ。
「嫌だ」
「なっ!!」
俺の言葉に、ハルヒはかなり驚いたようだ。続けて
「……あんたって最低ね?」
「なっ!!」
俺の言葉に、ハルヒはかなり驚いたようだ。続けて
「……あんたって最低ね?」
蔑んだ瞳。──最後まで聞いてくれ、ハルヒ。
「ちがう、そうじゃない」
──クソ、心臓がバクバク言ってやがる。
こんな事初めてだ。
小学校のクラス劇発表会なんかの比じゃないぜ、これは。
こんな事初めてだ。
小学校のクラス劇発表会なんかの比じゃないぜ、これは。
だがそんな事、今は言ってる場合じゃない。
これはチャンスなんだ、言うのは今しかないんだ。
逃したら俺は、きっと後で後悔する。
これはチャンスなんだ、言うのは今しかないんだ。
逃したら俺は、きっと後で後悔する。
「そういうんじゃなくて……」
……さぁどうした、俺。いつもの軽口ならスラスラ言えるくせに、
こういう大事な事は緊張して言えないってのか?
こういう大事な事は緊張して言えないってのか?
長門と手を繋いでも、キスをしても、好きだといわれても、
最後まで、俺は──そう、お前だよ。お前は……
最後まで、俺は──そう、お前だよ。お前は……
アイツの気持ちを受け取らなかったじゃないか。
それはどうしてだ?
それはどうしてだ?
……本当はずっと前から気づいてたんだろ?
自分の気持ちってやつに。
今までモヤモヤした気分なんて言って、ゴマカして、自分に嘘ついてきたんだろ?
自分の気持ちってやつに。
今までモヤモヤした気分なんて言って、ゴマカして、自分に嘘ついてきたんだろ?
──さあ、言えよ、言うんだ。
「理由なんていらない」
ハルヒは真剣な顔で、黙って聞いてくれていた。
「普通に俺と、デートしてくれっ!」
「……」
「俺は──」
「……」
「俺は──」
あと二言。頑張れ、俺。
「──お前の事が、好きだっ!!!」
気づけば俺は、叫んでしまっていた。
しかし……言った、言ったぞおい。
しかし……言った、言ったぞおい。
ふと気づく。言ったのはいいんだが今度は……
──ハルヒの次の顔を見るのが、怖い。
いつもなら、コイツが何か企んだ時や、
それを俺やSOS団のみんなに話している時の、あの笑顔。
それを俺やSOS団のみんなに話している時の、あの笑顔。
あの顔が出た時、また俺はどんな事をさせられるのか、なんていつも思っていた。
今まで、ある意味一番怖かった顔のはずなのに。
今まで、ある意味一番怖かった顔のはずなのに。
……今は、コイツの困ったような顔を見るのが、
怖い。
フラレてしまうんじゃないかという恐怖感。
フラレてしまうんじゃないかという恐怖感。
どちらにしろ、今までの2人ではなくなってしまうんだよな、たぶん。
やっぱり
やっぱり
怖い。
怖くて下を向いてしまう。
やれやれ、こういう土壇場で、わざわざ好きなヤツにチキンな所を見せんでもいいだろうに。
言いたい事を言った安心感と、ハルヒからの答えに対する恐怖。
2つの矛盾した感情が、俺の心を支配していた。
やれやれ、こういう土壇場で、わざわざ好きなヤツにチキンな所を見せんでもいいだろうに。
言いたい事を言った安心感と、ハルヒからの答えに対する恐怖。
2つの矛盾した感情が、俺の心を支配していた。
「キョン」
「……」
「顔を上げなさい」
「……」
「顔を上げなさい」
ハルヒの言う事を聞くのには慣れているが、ちくしょう、
顔を上げるってのが、こんなに勇気のいるものだとは思わなかった。
顔を上げるってのが、こんなに勇気のいるものだとは思わなかった。
……俺は言いたい事は言ったんだ。
返事を決めるのは俺じゃない、コイツだ。
これからどんな事を言われても、俺はそいつを素直に受け止めよう。
返事を決めるのは俺じゃない、コイツだ。
これからどんな事を言われても、俺はそいつを素直に受け止めよう。
さぁこいっ!
意を決して顔を上げた。
──そこには、いつものそれを3割増しにしたような、
だが今となっては俺の一番大好きな、ハルヒのあの笑顔があった。
だが今となっては俺の一番大好きな、ハルヒのあの笑顔があった。
「あんたも、たまにはなかなかやるじゃない」
どういう意味だ。
「そのまんまの意味よ」
どういう意味だ。
「そのまんまの意味よ」
言いながら俺に近づいてくるハルヒ。
いや……そんなことより返事を聞かせ──
ガバッ!!
なんの音かって?いや……それはだな……
……ハルヒが俺に抱きついてきた音だ。
さっきまでの2つの感情はどこへやら。
今度は幸せと驚きでいっぱいになってる。
今度は幸せと驚きでいっぱいになってる。
ハルヒが俺を見上げてくる。ちょうど顔1つ分の身長差。それにしても近い。
「こういう事よ。わかった? バカキョン」
そう言って俺の目をずっと見るハルヒ。
そう言って俺の目をずっと見るハルヒ。
──静寂が辺りを支配する。車の1台くらい通ってもいいんじゃないかぐらい思うのだが
あいにく俺達の他に、この静けさを邪魔するような物は現れなかった。
あいにく俺達の他に、この静けさを邪魔するような物は現れなかった。
ハルヒがゆっくりと目を閉じていく。
……ええっと、つまりこれは、そういうことだよな?
……ええっと、つまりこれは、そういうことだよな?
言ってる意味がわからんって?恥ずかしすぎるから言わせるな。
俺もゆっくりと目を閉じながら、ハルヒに顔を近づける。
俺は今、世界で1番幸せ者かもしれない。もちろん実際そんなことはないんだろうが、
今のこの瞬間は、そう感じたんだ。
大好きな人と、キスをする瞬間ってのにさ。
俺は今、世界で1番幸せ者かもしれない。もちろん実際そんなことはないんだろうが、
今のこの瞬間は、そう感じたんだ。
大好きな人と、キスをする瞬間ってのにさ。
月明かりに照らされた2人の影が1つになろうとした、その時。
……ムニュッ。
次の瞬間、俺の唇が触れたのは、ハルヒの唇ではなかった。
言っておくが、今の擬音でエロい想像をしたやつは、自分のIDに入ってる数字の回数腹筋だ、腹筋。
慌てて目を開けた俺の視界に入ってきたのは、
慌てて目を開けた俺の視界に入ってきたのは、
それは、ハルヒの人差し指。
コイツはすっかりいつもの笑顔に戻っていた。
そう、あの、悪魔のような、いたずらスマイルだ。
コイツはすっかりいつもの笑顔に戻っていた。
そう、あの、悪魔のような、いたずらスマイルだ。
「な~に考えてんの? このエロキョンッ!」
そう言ってるお前の顔も、ちょっと赤いと思うぞ。
そう言ってるお前の顔も、ちょっと赤いと思うぞ。
「ふんっ、あんたには10年早いわよ、バーカ」
ハルヒは回していた腕を離し、自分の家のほうに向かって歩いていく。
ハルヒは回していた腕を離し、自分の家のほうに向かって歩いていく。
……返せ、30秒前は世界で一番幸せかもしれないだのと思っていた、俺の純な気持ちを返せ。
こうやって大人は薄汚くなっていくんですね。
こうやって大人は薄汚くなっていくんですね。
「来週土曜日」
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、振り向いてハルヒは続けた。
「どっか連れて行きなさい」
わかったよ、で、やっぱり買い物か?
「何言ってんのよっ! それはあんたが考えるのよ!!」
なんだそりゃ!?さっきは自分の買い物に付き合えとか言ってなかったか?
「ちゃんとあんたがあたしを誘うのよっ! わかった?」
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、振り向いてハルヒは続けた。
「どっか連れて行きなさい」
わかったよ、で、やっぱり買い物か?
「何言ってんのよっ! それはあんたが考えるのよ!!」
なんだそりゃ!?さっきは自分の買い物に付き合えとか言ってなかったか?
「ちゃんとあんたがあたしを誘うのよっ! わかった?」
もはやハルヒは、絶賛俺の返事は聞いていないモード突入中のようだ。
「あ、ゆき」
ドキっとした。……ハルヒは空を見上げていた。
俺も釣られて見上げる。真っ白い雪が、パラパラと勢いを増しつつ降ってきた。
ドキっとした。……ハルヒは空を見上げていた。
俺も釣られて見上げる。真っ白い雪が、パラパラと勢いを増しつつ降ってきた。
「ちょっと待ってなさい」
そう言うとハルヒは自分の家のインターホンを押した。
そう言うとハルヒは自分の家のインターホンを押した。
出てきたのはご存知、ハルヒママ。
手には傘を持ってる……、傘を、持ってる??
手には傘を持ってる……、傘を、持ってる??
嫌な予感が、した。
「あら~キョン君、こんばんわ」
「あ……どうも」
なんかニヤニヤしている。い や な よ か ん が す る。
「あ……どうも」
なんかニヤニヤしている。い や な よ か ん が す る。
「ママ、バカキョンが傘持ってないみたいだから、貸してあげt……って
なんでもう持ってるの??」
なんでもう持ってるの??」
考えてもみろ。自分で言うのもなんだが、さっきの俺の世紀の告白。
あの時、俺は叫んでいた。思いっきり。そう、叫んでいたんだ。
あの時、俺は叫んでいた。思いっきり。そう、叫んでいたんだ。
……聞かれていてもおかしくはない。
いやむしろ、丸聞こえだったんじゃないか?
もちろんそんなこと、本人には聞けないがな。
いやむしろ、丸聞こえだったんじゃないか?
もちろんそんなこと、本人には聞けないがな。
「たまたまよ、たまたま。はいキョン君」
笑顔で俺に傘を渡してくるハルヒママ。なんだかものすごく嬉しそうですね。
笑顔で俺に傘を渡してくるハルヒママ。なんだかものすごく嬉しそうですね。
「ありがとうございます」
「これからも、ハルヒをよろしくね」
「は……はぁ……」
「これからも、ハルヒをよろしくね」
「は……はぁ……」
やばい、自分でも顔が赤いのがわかる。
「ちょっとキョンッ!せっかく貸してあげるんだから、大事に使うのよ?
傷つけるんじゃないのよ?わかってるわよね?」
「ちょっとキョンッ!せっかく貸してあげるんだから、大事に使うのよ?
傷つけるんじゃないのよ?わかってるわよね?」
そしてそれに気づいてないのかハルヒ。ある意味それは幸せなことだ。
へいへい、わかってますよ。
へいへい、わかってますよ。
「じゃあ今お鍋に火当てたままだから、戻るわね。キョン君、またね~」
「はい、失礼します」
「はい、失礼します」
ハルヒママはそそくさと家に戻って行った。
ハルヒもそれに3歩ほど遅れて、後ろから家に入ろうとしている。
「それじゃ、またな」
ハルヒにそう告げ、俺は借りた傘を広げて、自分の家に戻ろうとする。
ハルヒもそれに3歩ほど遅れて、後ろから家に入ろうとしている。
「それじゃ、またな」
ハルヒにそう告げ、俺は借りた傘を広げて、自分の家に戻ろうとする。
やれやれ、結局ゴマカされた気分だな。俺だけ言い損ってやつか?
……ふと後ろに気配を感じた。
なんだ?俺のストーカーか?後ろを向くと……
なんだ?俺のストーカーか?後ろを向くと……
──傘の中にハルヒが入ってきた。
なにやってんだ、おm……
なにやってんだ、おm……
目の前にハルヒの顔。目一杯背伸びをして、
──俺の唇に、キスを、してきた。
ほんの一瞬だったがな。
なんの味だったかなんて、問題外だ、わからん。
なんの味だったかなんて、問題外だ、わからん。
「な~に勝手に帰ろうとしてんのよ? あたしは一言もさよならのあいさつなんてしてないわよ?」
赤い顔をしたまま、そんな事を言われてもねぇ。
かくいう俺も、恥ずかしいったらありゃしない。
傘のおかげで、ある程度公衆の目からは遮断されてたってのが、せめてもの救いか。
赤い顔をしたまま、そんな事を言われてもねぇ。
かくいう俺も、恥ずかしいったらありゃしない。
傘のおかげで、ある程度公衆の目からは遮断されてたってのが、せめてもの救いか。
「忘れるんじゃないわよ?さっきあたしが言った事」
ああ、わかってるよ。
「じゃあ、また学校でね」
ああ、わかってるよ。
「じゃあ、また学校でね」
そう言うと踵を返し、ハルヒは家に戻って行った。
……何がしたかったんだ、あいつは。
……何がしたかったんだ、あいつは。
まぁ、キスは、その、なんだ、嬉しかったが、な?
なんだかフワフワした気分のまま、俺はそのまま家に帰った。
なんだかフワフワした気分のまま、俺はそのまま家に帰った。
月曜日。この日は俺達学生にとっても、社会人にとっても憂鬱な日であろう。
なんてったって次の休みまで一番遠い曜日だからな。
日曜日には、サザエさん症候群なんてものもあるらしい。
なんてったって次の休みまで一番遠い曜日だからな。
日曜日には、サザエさん症候群なんてものもあるらしい。
だがこの日だけは、俺は全然憂鬱ではなかった。
むしろ、心待ちにしていたと言ってもいい。
むしろ、心待ちにしていたと言ってもいい。
ハルヒに会えるというのももちろんだったが。
やる事が、あるからな。
──憂鬱でなくても、授業というのはいつもと同じように、無駄に長く感じるもので
中でもさっぱりわからん英語なんぞ、俺にとっては睡眠呪文以外の何者でもなかった。
惰眠の途中、
「寝るな、バカ」
とか言いながら2、3回ハルヒにシャーペンの先で起こされた事を付け加えておこう。
ハルヒはというと、先週と変わらず、特に意識しているようでもなかった。
やっぱり、こんなもんかね?
中でもさっぱりわからん英語なんぞ、俺にとっては睡眠呪文以外の何者でもなかった。
惰眠の途中、
「寝るな、バカ」
とか言いながら2、3回ハルヒにシャーペンの先で起こされた事を付け加えておこう。
ハルヒはというと、先週と変わらず、特に意識しているようでもなかった。
やっぱり、こんなもんかね?
そんなこんなでやっと昼休みになった。学食に行ったハルヒを他所に、
俺はさっさと昼飯を食べ終え、部室に向かった。
俺はさっさと昼飯を食べ終え、部室に向かった。
扉を開ける。いつもの席で座って本を読んでいる生徒が1人。
長門有希。
長門有希。
「よう」
一瞬こっちに顔を向けるが、何も言わずすぐに本に顔を戻した。
扉を閉めて、俺は、話し始めた。
一瞬こっちに顔を向けるが、何も言わずすぐに本に顔を戻した。
扉を閉めて、俺は、話し始めた。
「俺達の事は……お前の事だ、もうわかってるんだよな?」
コクンとうなづく長門。
コクンとうなづく長門。
「お前のおかげで、俺、素直になれたよ」
こんな事、長門をフッた俺自身が言うのもおかしいのかもしれない。
でも、今の自分の気持ちは、きちんと伝えておきたい。
そう思ったから。
でも、今の自分の気持ちは、きちんと伝えておきたい。
そう思ったから。
「そう」
本に目を向けたままそう言った。
本に目を向けたままそう言った。
「……ありがとな、長門」
俺がこうやって自分に気持ちに素直になったのも、きっかけはお前だから。
この間は言わないでおこうなんて思ったが、こうやって素直にちゃんと言うのも悪くない。
コイツには本当に、感謝してる。借りができすぎちまってるな。
借りを返しきるのは、いったいどれだけかかるやら。
俺がこうやって自分に気持ちに素直になったのも、きっかけはお前だから。
この間は言わないでおこうなんて思ったが、こうやって素直にちゃんと言うのも悪くない。
コイツには本当に、感謝してる。借りができすぎちまってるな。
借りを返しきるのは、いったいどれだけかかるやら。
長門は首だけをこちらに向け、だが、しっかりとした口調でこう言った。
「頑張って」
その一言が、俺にとっては何よりも嬉しかった。
──放課後になり、部室に向かう俺。隣にはもちろんハルヒ。
その距離が心無しかいつもより近いのは、まぁ気のせいだろう。
自意識過剰と思われても困る。
その距離が心無しかいつもより近いのは、まぁ気のせいだろう。
自意識過剰と思われても困る。
「で、どうするんだ?古泉や朝比奈さんや長門には、言うのか?」
「何を?」
「何をってお前……」
「バカ」
「何を?」
「何をってお前……」
「バカ」
それ以上は言わなかった。俺も、そこから続きは言えなかった。
さて、どうするんでしょうね。
さて、どうするんでしょうね。
「なにぶつぶつ言ってんのよ」
いや、なんでもないさ。
「そんなことより、今度どこ行くか、もう決めた?」
「気が早いな、まだ時間はあるじゃないか」
「何言ってんの、のんびり考えてたら時間はあっというまに過ぎちゃうんだからね!?」
さっさと決めなさいよっ!」
いや、なんでもないさ。
「そんなことより、今度どこ行くか、もう決めた?」
「気が早いな、まだ時間はあるじゃないか」
「何言ってんの、のんびり考えてたら時間はあっというまに過ぎちゃうんだからね!?」
さっさと決めなさいよっ!」
やれやれ、俺達は相変わらず、こんなスタンスなんだな。
だがそれが一番いいのかもしれない。
SOS団で、探検したり、合宿したり。そして、相変わらず俺は雑用係ってか?
──たまには、2人きりになりたいとは少し思うがな。
SOS団で、探検したり、合宿したり。そして、相変わらず俺は雑用係ってか?
──たまには、2人きりになりたいとは少し思うがな。
「わかったよ、まぁ期待しておけ」
実は何も考えていないが、得意満面の顔で俺はそう言った。
ジト目のハルヒ。くじけない俺。
実は何も考えていないが、得意満面の顔で俺はそう言った。
ジト目のハルヒ。くじけない俺。
……ようやく諦めたか、ハルヒが俺と目線を外し、元気よく、部室のドアを開けた。
今日も俺達の部活が始まる。
今日も俺達の部活が始まる。
──ただな、ハルヒ。2人で話したいこと、やりたいことはいっぱいあるんだ。
たまにはポニーテールにしてみないかとか、5月に見た悪夢とやらの話とか、
SOS団の今後の予定などなど。
SOS団の今後の予定などなど。
──今度のキスは、俺からやってやると、密かに決めているのは、もちろん内緒だがな。
そう考えると、本当に土曜日が待ち遠しい。
もちろんその時、俺は先に待ち合わせ場所で、アイツを待っていようと思う。
もちろんその時、俺は先に待ち合わせ場所で、アイツを待っていようと思う。
ハルヒが選んでくれた、あの服装、あのジャケットで──
おしまい。