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  • 涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki(避難所)
  • ハルヒと長門4

涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki(避難所)

ハルヒと長門4

最終更新:2020年03月14日 08:52

haruhi_vip2

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だれでも歓迎! 編集

朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。
 
制服を着て、身なりを整えリビングに。
 
まだ自然に閉じようとする目蓋を擦る。朝は苦手じゃないけど、眠いものは眠いのよ。
 
そしてなんとなく点けたTV。自分の目を本気で疑った。まだ寝ぼけてる?
 
流れているのはニュース。そのトップニュースを目にした瞬間、眠気が吹っ飛んだ。
 
そこには見慣れたあいつの冴えない顔が映っている。
 
ニュースキャスターが言った言葉を聞いて、今度は耳を疑った。
 
 
あいつが行方不明?
 
手元のカンペをさも心配そうに読み上げている女子アナがそう言っていた。
 
あたしはすぐに携帯であいつに連絡した。
 
出ない。昨日も一日中連絡が取れなかった。
 
何度も発信履歴を開いては通話ボタンを押す。
 
聞こえるのは、エンドレスな呼び出し音だけ。
 
あたしは学校へと向かった。
 
頭の中はたくさんの疑問符で埋め尽くされ、今にもパンクしそうだった。
 
走って学校への坂道を上っていく。校門の前には黒山の人だかり。
 
カメラやマイクや中継車。様々な機材が道に広がっている。
 
あたしを呼び止める声を全て無視して校内へ入った。早く部室に行かなきゃ。
 
部室にたどり着いたあたしは、勢いよく扉を開いた。
 
「有希!」
 
肩で息をしながら親友の名前を呼んだ。
 
そこには読書はせずにただ静かに座っている有希がいた。
 
ほとんど夏みたいな気温だけど、有希の周りは何故かひんやりとしている気がする。
 
あたしの声に反応した有希は、静かにこちらを見た。
 
「あいつが行方不明って!」
 
「そう」
 
有希は短くそう言った。
 
そっけない返事だけどその一言には色々な意味が込められている。あたしには分かる。
 
「どうしよう、どうすればいいのよ」
 
混乱しきっているあたしは何が何なのかよく分かっていなかった。
 
以前孤島であった疑似殺人事件。あの時にあった冷静さは今のあたしにはない。
 
こんなこと、あいつがいなくなることなんて、あたしは望んでないから。
 
それにあの時のお遊びとは違う。普段はウソや誇張に塗れたTVや新聞が、嫌というほどにこのウソのような出来事を真実だと訴えてきた。
 
「落ち着いて」
 
有希の静かな声があたしに少しの理性を取り戻させてくれた。
 
あたしがいくら悩んだところであいつは帰ってこない。
 
報道の情報を鵜呑みにすれば、まだ行方不明なだけ。
 
急いで探しに行かなきゃ。
 
 
「有希!キョンを探しに行くわよ!」
 
そうだ、早くしないと最悪の結果だって有り得る。
 
有希の返事も待たずに踵を返して後ろを向いた。
 
今まさに駆け出そうとした時に不意に手を掴まれた。
 
「落ち着いて」
 
状況が状況だ。たとえ有希の言葉でもそれは無理がある。
 
「だって!早くしないとあいつが……」
 
最悪の結果。それが何を指すか分かっている。口に出したくない。
 
「有希は心配じゃないの!?」
 
つい強い口調で言ってしまった。
 
そんなあたしの言葉に有希は小さく首を横に振った。
 
「落ち着いてほしい」
 
これで三度目。有希の目から見たあたしは、どれだけ取り乱しているんだろう。
 
一度だけ大きく深呼吸をする。少しだけ頭が冴えたような気がした。
 
「……有希はどうすればいいと思う?」
 
少しの間も置かずに有希は言った。
 
「今は待機」
 
「そんな悠長なこと!」
 
「今は情報が少ない。すぐ動くのは危険」
 
あたしが有希に言葉を返そうとすると、チャイムが鳴った。
 
「また放課後にここで」
 
そう言い残して有希は部室を出て行った。
 
有希の言葉に納得しているわけじゃない。でも間違っていない。
 
とりあえず教室に戻ったあたしは、あいつの仲のいい友達を当たることにした。
 
目星は付いてる。谷口と国木田。この二人がどう考えてもあいつに一番近い。
 
教室の扉を開けると、活気のあるいつもの雰囲気はなかった。
 
来る途中にすれ違った、違うクラスの生徒のふざけた雑談とは違う。
 
ここにいる人達は、実際にクラスメイトが行方不明になったんだ。
 
室内に入ったあたしに視線が集まる。皆はなんだか気を使うような目でこっちを見てくる。
 
その視線を無視してあたしは言った。怒っている時間ももったいない。
 
「谷口と国木田はいないの?」
 
 
空席は三つ、谷口と国木田、そしてあいつ。
 
あたしの席の近くのコがおずおずと口を開いて説明してくれた。
 
あの二人は校門前で報道陣と乱闘して、今は職員室で説教をされている、とのことだった。
 
しかも乱闘を起こした中には、我がSOS団が誇る善人の古泉くんまで混ざっていると言う。
 
さすがのあたしもこれには目を丸くした。あの古泉くんがね。
 
とにかく、ここにあの二人がいないんなら用はないわ。
 
有希、ゴメンネ?やっぱりあたしはジッとなんかしてらない。
 
教室に入ってきた岡部の声を無視して、扉を開いて廊下に飛び出た。
 
団員がピンチなのよ?団長が動かないで誰が動くのよ!
 
あたしは単身外へと走り出した。
 
一時間がたち、二時間がたつ。
 
三時間がたった頃には自分の足で探せる場所はたいてい行ってしまった。
 
さすがに疲れてきたあたしは、近くのコンビニでペットボトルのお茶とおにぎりを買った。
 
時刻はお昼。腹が減っては戦は出来ない。
 
少しの栄養を取りながらあたしは歩き出した。
 
冷静に考えれば、高校生のあたしが行けそうな範囲にいるとは思えない。
 
それでも探し回ればその辺からヒョコっと出てきそうな気がしてた。
 
今は何時だか分からない。疲れててそれどころじゃない。
 
きっと今は放課後だと思う。あたしが一日走り回って疲れた足を引きずって歩いていると、突然後ろから手を掴まれた。
 
「有希」
 
ゆっくりと振り向いた先にはいつもの表情の、訂正、少し怒っている様に見える有希がいた。
 
そういえば、放課後に一緒にって言ってたわね。
 
「ゴメンね、先走って。いてもたってもいられなかったのよ」
 
「そう」
 
やっぱり怒ってる。声がそう言ってる。もう一度謝り、今日までの成果を言う。
 
話せるような成果は無いんだけどね。
 
有希はあたしの言葉に静かに頷く。
 
「あいつどこにいるのかしら?」
 
沈んだ声でそう言い、下を向いた。ふと有希の手の鞄が目にはいった。
 
あたしは今手ぶらだった。記憶を思い返すと、今朝部室で有希を会った時に置き去りにしていた。
 
「あたしの鞄って持ってきてる?」
 
「ない」
 
あたしたちは学校へと続く坂道を上って鞄を取りに戻ることにした。
 
報道陣も引いた校門の前。有希にここで待っていてもらい、
 
「すぐ戻ってくるから」
 
そう言って部室に向かった。さすがに生徒が失踪事件に巻き込まれている影響か、活動をしている部活はいなかった。
 
そもそも部室の鍵も閉まってる気がする、とはいえ鍵を取りに行くわけにもいかず、試しに部室に真っ直ぐ行くことにした。
 
教師に会うのはめんどくさそうだったから忍び足で近づく。階段を上がり始めると上から声がした。
 
「おや?ハルにゃん?」
 
鶴屋さんだ。階段の途中で偶然会った。この先は部室のはず。
 
「キョンくんのこと……TVで見たっさ。気落ちしないでね」
 
心配そうな目であたしを見てくる。この人の目に安っぽい同情はない。本当に性格のいい人ってこういう人のことをいうのね。
 
「当たり前よ。行方をくらませるにしてもあたしの許可もないなんて許さないわ。見つけ出して死刑にしてやるわ」
 
支離滅裂だ。それでもあたしは精一杯の強がりを言った。
 
「あはは、せっかく見つけても殺しちゃまずいって」
 
そう言って鶴屋さんは笑った。
 
「そういえば部室に何か用があったの?」
 
「ちょっとみくるに会いにね」
 
ということは今部室の鍵が開いてるってことよね?都合がいいわ。
 
「そうなんだ。じゃああたしもう行くわ。またね」
 
あたしは鶴屋さんにお別れを言い、部室に向かった。
 
部室の近くに来ると、中から話し声が聞こえた。
 
中にいるのはみくるちゃんだけのはず。でもどう聞いても会話している。
 
まさか、キョン?
 
あたしの思考はそれで一色に染まった。扉を開けるとそこにキョンがいて、実はドッキリだったとか、そんなありもしないことを真剣に信じてしまった。
 
そして扉に手をかけようとしたその時、中から怒鳴り声が聞こえた。
 
「いい加減にしてください!あなたの未来では彼がこのまま死んでいるのかどうかは知りません!でも、あなたの情報次第では助かるかもしれないんです!」
 
声の主は古泉くんだ。突然の怒鳴り声と、その会話の内容に驚いたあたしはその場に固まってしまった。
 
古泉くんが言う彼とは、キョンのことだ。それは間違いない。そして、あなたとは会話の相手のみくるちゃん。
 
つまり、みくるちゃんの未来ではキョンがこのまま死んでいる?みくるちゃんの情報次第で助かる?
 
いったい何を言っているの?意味が分からない。
 
次に聞こえてきたのは、みくるちゃんの悲痛な叫びだ。
 
「もしそれでわたしの時代に問題が起きたらどうするんですか!」
 
わたしの時代って何よ?今すぐこのドアノブを捻って中に入り、二人に色々問いただしたかった。
 
でも体が動かない。この扉を開けると、なんだか取り返しのつかないことになる、そんな気がした。
 
あたしの耳は律儀にも、部室内の言葉を拾っては伝えてくれた。
 
有希には前科がある。結論としてはあたしの力。みくるちゃんの仕事はあたしの監視。
 
「わたしの独断で出来ることじゃないって言ってるじゃないですか!だから!だからわたしはここにいたくなかったのに!友達にさえならなければこんなに辛くないのに……」
 
古泉くんの言葉に反発したみくるちゃんが言ったこの言葉を最後に、あたしは鞄を諦めて部室の前から逃げ出した。背にした部室からは、みくるちゃんの泣き声だけが聞こえていた。
 
人間はあまりにも自分の許容出来ないことが起こると、勝手に自分の記憶を改ざんするのだと言う。そうしないと精神が狂うから。
 
でも、あたしの記憶はさっきのことを鮮明に覚えている。どうやらあたしの頭のリミッターはずば抜けてるみたいね。
 
一段、また一段とゆっくり階段を降りていく。重い足取りのまま下駄箱で靴を履き校門へ。
 
そこで待っている有希の姿が見える。あたしは何も告げずにその前を通過した。
 
そして、たいした距離も空けずに付いてくる有希にあたしは言った。
 
「……ねぇ、前科って何?」
 
ゆっくりと歩きながら有希の答えを待った。
 
「前科とは一般に、罰金刑以上の刑罰が確定した場合の」
 
「そういう意味じゃない!」
 
有希がそう答えるだろうとは思った。だけどおもわず立ち止まり、怒鳴ってしまった。
 
 
少しの沈黙のあとにあたしは言った。
 
「そういう意味じゃないのよ……有希の、有希の前科って、何?」
 
有希は黙った。いつもの無言とは違う。これは沈黙だ。
 
「さっき部室の前に行ったら、古泉くんとみくるちゃんが話し合ってたわ。キョンが死んでるかもとか、未来がどうとか、有希に前科があるとか、あたしの力がどうとかね」
 
その話はあたかも全てが繋がっているかのように聞こえた。もし今が非常時でなければ、ただの冗談として受け止められたと思う。だってそれ以外ないじゃない。
 
黙ったままの有希にあたしは再度尋ねた。
 
「有希は全部知ってるの?」
 
「あたしのせいでキョンが消えたの?なんでみくるちゃんはあたしを監視してるの?有希は、みんなは何者なの?」
 
何を言っているんだろう。あたしはとうとう頭がおかしくなったのかもしれない。
 
あたしが求めていた非日常の事件が目の前で起きていて、あたしが求めていた非現実的なことがずっと身近にあった。
 
ずっと思っていた。不思議なことがあってほしい、でも有り得ない、って。
 
「答えて有希」
 
有希からの否定の言葉を期待していた。だけど、肯定とも否定とも答えは返ってこない。
 
「答えてよ……答えなさいよ」
 
学校を出てきてから一度も有希の目が見れない。
 
「……あたしたち、親友じゃなかったの?」
 
涙を堪え、震える声を絞り出すようにして言った。
 
有希はあたしの問いに俯いたまま、結局何も言わなかった。
 
どうやら本当に親友だと思っていたのはあたしだけみたい。
 
あのあとあたしは、何も言わない有希を放って一人帰路についた。
 
キョンがいなくなって、親友はもいなくなった。
 
久しぶりにリアルな悪夢ね。と、そんなことさえ思い始めた。寝て起きたら何もかもリセットする。そうでもなきゃあまりに辛すぎる。
 
だから寝よう。そう思って目を閉じる。とはいえ混乱しきったあたしの頭は簡単に眠らせてはくれなかった。
 
少しして目を開ける。目を閉じてから三分と経っていないはず。
 
目を開いたあたしが見たものは、灰色に染まった校舎だった。
 
気が付くと僕はそこにいた。見覚えがあるなんてもんじゃない。
 
ここは閉鎖空間。今の僕を形作った原因、いや理由の場所だ。
 
辺りを見回す。目を覚ました場所は我らがSOS団の部室。
 
自分以外の人がいないかと確認していると、涼宮さんの机の影に誰かが倒れていた。
 
朝比奈さんだ。彼女を見て気付いたが、僕らは律儀にも制服を着ていた。
 
これが涼宮さんが僕たちに対する一番強いイメージだということだろう。
 
うつ伏せに倒れている朝比奈さんに声をかける。
 
「朝比奈さん、起きて下さい。非常事態ですよ」
 
肩に手をかけて揺する。朝比奈さんはゆっくりと体を起こしてこちらを見上げてきた。
 
「……あれ?古泉くん?」
 
完全に混乱しているようだ。それはそうだろう。放課後に別れたあとの行動は知らないが、普通に考えれば家にいた時間だ。現に僕はそうだった。
 
僕は事態をなるべく丁寧に説明する。そして話が終ると、顔を青くした朝比奈さんが呟くように言った。
 
「そんな、なんでわたしたちが……?」
 
「分かりません。僕は閉鎖空間に入ることは可能ですが、このような形で呼び出されたのは初めてです」
 
そう。自惚れでなければこれはつまり、
 
「僕たちが涼宮さんに必要とされているということだと思います」
 
何故僕と朝比奈さんだかは分からない。
 
もしかしたら他にも誰かいるのかもしれないし、いないのかもしれない。
 
「わたしたちが、ですか?」
 
「えぇ、そう考えるのが適切かと」
 
僕はここで一つ質問をした。今日の放課後のことだ。
 
「今起きている事態が、あなたの言っていた……辛いことですか?」
 
「……」
 
朝比奈さんは何も言わない。そういえばこんなことを言っていた。
 
言わないんじゃなくて言えない、と。おそらく機密を口にすることが出来ないような何かがあるのかもしれない。
 
あの時には出来なかったこういった冷静な考えが今は出来る。やはりこの空間が僕を特別なものへと変えているのだろうか。
 
「……どうやら覚悟を決めなくてはいけないようですね」
 
放課後に朝比奈さんが断片的に語った情報を僕なりに解析すると、そこには僕か長門さんの死という結末がある。
 
それを知ったのは今日のことで、そして今はその夜だ。
 
驚くぐらいにやり残したことがある。そして、あの人との約束も。
 
「……古泉くんはどうするんですか?」
 
やっと顔を上げた朝比奈さんがそう言った。
 
僕に出来る事は一つだ。神人を倒す。そして元のありふれた世界へ。
 
「とりあえずは少しここで待ちましょう。この空間に呼ばれるのは涼宮さんゆかりの人達だけだと思います。だからもしかしたらここに誰かが来るかもしれません」
 
そうこうしているうちに閉鎖空間は広がり、いずれは世界を包み込むだろう。
 
しかし、僕の第六感ともいうべき超能力が、ここに神人がいないことを教えてくれる。
 
ならどうする?仮に僕が彼のような方法でこの世界の脱出を図れば、それは大きな混乱を生むことになる。
 
ならば待つしかない。
 
時間にして十分といったところだろうか。突然に扉が開いた。
 
長門さんだ。流石というべきか、いつも通りの表情だった。
 
そのまま中に入ってくると、室内をかるく見た。
 
「おや長門さん、奇遇ですね」
 
軽口を言ってみる。そんな余裕はないはずなのに。
 
「まさか僕まで招待されるとは、夢にも思いませんでしたよ」
 
溜息交じりにそう言うと、朝比奈さんが呟くように言った。
 
「……こんなことになるなんて」
 
「事態は誰にとっても想定どおりには進まないという事ですね」
 
さっきの話の続きをすると、長門さんがこちらをジッと見てきた。
 
長門さんを蚊帳の外に置いておく意味がない。僕は放課後のことと、今の状況を話した。
 
そしてその情報の引き換えに長門さんから貰った情報は二つ。
 
一つは、今この閉鎖空間にいる生命体はここの三人を含めた、計五人。
 
もう一つは、僕と朝比奈さんの会話が涼宮さんに聞かれていたということ。
 
よりにもよって一番聞かれてはいけない人にだ。あの時は頭に血がのぼっていて周りが見えていなかったということだ。
 
朝比奈さんは顔を手で覆ってしゃがみ込んだ。無理もない。この閉鎖空間に呼ばれた理由はこれで分かった。
 
「なら僕たちはここで待機していた方がいいですね」
 
「何故?」
 
「ここに呼ばれた理由はおそらく、僕たちに聞きたいことがあったからじゃないでしょうか。くしくもこの三人はうってつけのメンバー、いや当事者です」
 
溜息をはさんで言葉を続けた。
 
「失礼。あと二つの生命反応のうち一つは涼宮さんでしょう。そしてもう一人は、彼に他ならないと思います」
 
その可能性が一番高い。
 
「朝比奈さん、覚悟を決めてください。ここで一旦涼宮さんに全てを話しましょう」
 
朝比奈さんの顔は驚きを浮かべていた。
 
「そ、そんなの絶対ダメですよ!」
 
「じゃあそれ以外にここから脱出方法がありますか?幸いこちらには長門さんがいます」
 
そう言って長門さんを見る。
 
 
「全てが終ったあと、涼宮さんの記憶を消すことは可能ですか?」
 
「……可能。しかし推奨しない」
 
「今は彼を現実に復活させ、この閉鎖空間から出ることが重要です。なりふり構っている場合ではありません」
 
僕はこのとき分かっていなかった。
 
もっと冷静になれば分かるはずだった。涼宮さんの精神を最終的に追い込んでしまった張本人は、彼ではないということ。
 
もちろん元々の原因は彼が涼宮さんを選ばなかったことにある。しかしそれでも世界は変わらなかった。
 
それは、今の鍵が彼ではない、つまりそれを証明する結果とも言えた。
 
目を開くとそこは見覚えのある風景が広がっていた。
 
ここは学校だ。それも去年見た夢と同じ色褪せた学校。
 
夢の記憶なんてすぐに忘れてしまうけど、あの時のことはしっかり覚えている。
 
まるで現実のようだったから。
 
辺りを見回す。以前と同じならあいつがいる。
 
あいつが地べたに寝転んでいるはず。
 
あたしは必死に探した。夢の中なら、またあいつに会える。
 
「キョン!キョン!どっかにいるんでしょ!?」
 
校舎の周りを走り回ったけど誰もいない。どこにいるのよ。
 
しばらく探して、ふと部室を思い出す。あそこなら。
 
静まりかえった校内を息を切らしながら走っていく。
 
以前はあいつが一緒だったから平気だったけど、今回はなんだか心細かった。
 
部室の前に着くと、思いっきり扉を開けた。
 
ゼーゼーと肩で息をしながら開いたドアの向こうには、見慣れた顔が揃っていた。
 
「ゆ、有希!それにみくるちゃんと古泉くんも!」
 
部室にいた三人は三者三様の表情でそこにいた。
 
いつも通りの表情の有希。落ち着きのない様子のみくるちゃん。いつもの微笑ではなく、眉間にしわを寄せている古泉くん。
 
「ど、どうしてここに?キョンはいないの?」
 
呆然としたあたしは三人そう聞いた。
 
「彼はいません」
 
小さく首を振りながら古泉くんが答えた。
 
夢の中ですらあいつに会うことは出来なかった。
 
落胆して肩を落とすと、古泉くんがこんなことを言ってきた。
 
「涼宮さん。あなたは寝る前に何を考えていましたか?」
 
 
寝る前は混乱いていた。その原因は目の前の三人。
 
あたしはそのことを言った。夢の中なら問題ないわよね。だってこんなこと現実なら有り得ない。
 
まぁその現実でも、あいつが消えるなんてわけの分からないことが起きてるんだけどね。
 
夢の中でもあたしは有希とは目が合わせられなかった。嫌いになったわけじゃない。ただ、何故か怖かった。
 
あたしが夕方のことを話すと、みくるちゃんはその場に凍り付いていた。
 
古泉くんは少し考えるそぶりを見せてから、あたしではなく二人に何かを確認していた。
 
「何?いったいなんなの?」
 
除け者にされてるみたいで嫌だった。古泉くんはあたしの方に振り返ると、緊張した表情と声ででこう言った。
 
「せっかくの機会です。全てお話します」
 
そうして古泉くんは語りだした。
 
古泉くんは自分を超能力者だと言った。これが証拠とばかりに、その場で赤い球体へと変わる。
 
唖然とするあたしを尻目に話は続く。
 
あたしたちがいるこの灰色の世界は閉鎖空間。そしてここに現れる巨人と戦っている。それがバイトの実体。
 
その巨人はあたしのストレスを実体化したもので、倒さないと世界が大変なことになる。
 
そして、そんな事実を知る人が数多くいて、その集まりが機関という。さらにあたしを神と崇めている。
 
あたしが神様?何を言っているの?
 
次に語りだしたのはみくるちゃん。
 
みくるちゃんは未来人だった。今よりも遥かに進んだ時代からあたしを監視に来たという。
 
本来は未来の情報は口に出来ないようになっているらしいけど、この閉鎖空間の影響か、禁則事項が禁則事項でなくなっているらしい。意味が分からないわ。
 
それでもいつもの舌足らずな喋り方ではなく、毅然と喋り続けた。
 
自分達の未来を確保するために、特異点であるあたしの監視に来た。でも、本当は遠巻きでの監視なのに、何故かあたしに捕まった。
 
それが仲良くならなればと泣いていた理由で、古泉くんが問いただしていた理由でもある。
 
最後は有希。
 
有希の話は一番信じられないものだった。自分のことを情報統合思念体だと言った。
 
それはいわゆる宇宙人。自律進化のためにあたしを観察しているらしい。
 
更に驚いたのは、有希はこの世に生まれてまだ四年ということ。
 
もうあたしの想像力や理解力は臨界点を突破していてもなんら可笑しくない。
 
そして有希は今起きている全ての出来事は、紛れもない現実だと言った。
 
 
ここまでの三人の話を普段のあたしが聞いたら、きっと目を爛々と輝かせて喜んだわ。
 
だってそうでしょ?求めてやまなかった未来人、宇宙人、超能力者が実は身近にいて、その真ん中にはあたしがいる。
 
不思議なことなんてないと思ってた。でもあったんだ。こんなに素敵なことなんてない。
 
でも今は違う。このときのあたしは、ただでさえ混乱している頭が更におかしくなりそうだった。
 
気付くと有希がこっちに歩み寄ってきていた。
 
あたしは咄嗟にこう言った。
 
「嫌、嫌よ!近づかないで!」
 
あたしは拒絶し、壁際まで下がった。ただ、怖かった。
 
訳も分からず怖い夢ってあるじゃない?まさにあれが今起きている。そしてそれは現実だという。
 
その時の有希の表情は初めて見たものだった。
 
とても……とても悲しそうな顔。それでもあたしは目をそらした。
 
そして、一つ疑問が浮かんだ。
 
「・・・・・・ョン、キョンは?あいつは一体なんなの?今回のこととなんの関係あるの?」
 
そうだ。ここまであたしが求めてきた人間が揃った。だったらあたしに一番近いところにいたあいつは?
 
 
「キョンくんは普通の人なんです」
 
みくるちゃんがそう言った。
 
三人の話が本当ならあたしの願いは必ず叶う。
 
あたしはキョンが好きだった。相思相愛になりたいと思った。
 
でもそれは叶わなかった。あいつが普通ならこれは矛盾している。
 
「彼はあくまで一般人です。しかし彼は何故か涼宮さんの力が影響しにくいんです」
 
あたしの考えを見透かすように古泉くんが言った。
 
「……キョンはどこにいるの?」
 
この問いに答えたのは有希だった。
 
「彼は今どの次元にも存在しない。原因は涼宮ハルヒ、あなただと推測される」
 
意味が分からない。いや、言っていることは分かる。
 
でもその説明でいくと、つまり、
 
「……あたしがキョンにいなくなってほしいと思ったって……こと?」
 
室内は沈黙に包まれた。
 
この沈黙はあたしの出した答えが正解であると教えてくれている。
 
目の前が真っ暗になる。
 
それでも事態は更に悪化する。
 
問題が起きている時って何故か問題が重なる。
 
この悪い状況に拍車をかけるように、突然部室の扉が開いた。
 
あたしの位置から扉の外は見えない。
 
見えるのは固まる古泉くんの顔と無表情な有希だけ。
 
「ここがSOS団の部室?」
 
聞き覚えのある声。
 
「な、何故あなたがここに?」
 
こんなに狼狽えている古泉くんは初めて見た。
 
その視線の先を追うと、そこにはなるべくならもう会いたくはなかった人がいた。
 
「どうして?それは僕が知りたいよ」
 
佐々木さんだ。
 
ゆっくりと部室に入って中を見回したあと、あたしと視線があった。
 
何を考えてるかは分からない。それでもその瞳はとても、とても力強いものだった。
 
「涼宮さん以外は初めまして、かな?とはいえ僕のことは知っているだろうけど。そうだよね、古泉くん?」
 
そう言われた古泉くんは、苦笑いをしながら肩をすくめた。
 
二人を見ながら混乱しているあたしに気付いた佐々木さんが、古泉くんに言った。
 
「おや、この後に及んでまだ説明してないのかい?」
 
「あなたのこと以外はあらかた説明したつもりですよ」
 
佐々木さんのこと?一体これ以上なにがあるというの?
 
 
その疑問に答えるように佐々木さんが口を開いた。
 
「涼宮さん。私にもあなたとは同じ力があるの」
 
それはつまり、
 
「思ったことを現実に?」
 
「そう。とはいえ涼宮さんに比べれば脆弱なものなんだけどね」
 
驚くあたしを尻目に佐々木さんが言った。
 
「何故あたしがここに呼ばれたかは分からない。でも、涼宮さんにどうしても言いたいことがあるの」
 
言いたいこと?
 
「場違いなのは分かってる。それでも言わせて。日曜の喫茶店のこと、本当にごめんなさい」
 
そう言って佐々木さんはあたしに頭を下げた。あたしは黙って見ていた。
 
許せないわけじゃない。何を言っていいかが思い浮かばなかった。本当ならあたしこそ謝らなきゃいけないのに。
 
「あのことは私が軽率だった。悪いのは私。だから、だから涼宮さん……お願い。キョンを、キョンを返して」
 
目に涙を浮かべながらあたしに懇願してくる。
 
返して。こういう風に面と向かって言われて、自分がキョンを消してしまったというウソのような事実が現実のものように感じられた。
 
返して。あたしがキョンにいなくなってほしいと思ってしまったんだ。
 
返して。でも佐々木さんだってあたしからキョンを盗ったじゃない。
 
返して。返してよ。あたしにキョンを返してよ!
 
「あたしだって!あたしだってキョンのことが必要なのよ!」
 
あたしは張り詰めていた線が切れたかのように怒鳴りつけた。
 
「キョンをあたしが消した?そんなことあるわけないじゃない!」
 
頭の中を支配していた不安や疑問が一気に溢れ出す。そしてそれに続くようにさっきまでのストレスが上乗せされていく。
 
「涼宮さん!落ち着いてください!」
 
「うるさい!古泉くんはあたしのご機嫌取りをしていればいいんでしょ!?そうすれば世界を守れるんでしょ!だったらあたしに味方しなさいよ!ずっと、ずっと信頼してたのに!」
 
今のあたしにはこれが酷いことを言っているとは思えなかった。
 
感情が、怒りの感情が次々に涌いてくる。
 
「あの、涼宮さん、その」
 
「みくるちゃんもよ!仲良くなりたくなかった?ふざけないで!あたしはそんなこと一度も思ったこと無いわよ!ただの一度もよ!」
 
ボロボロと大粒の涙を流しながら、皆に暴言を吐いているあたしを誰かが後ろから抱きしめてきた。
 
嗅ぎなれた匂い。いつも一緒だった手。
 
「落ち着いて」
 
「離して!」
 
「あなたは混乱しているだけ」
 
有希。大好き『だった』有希。あたしの大切『だった』親友。
 
「離して!どうせ有希があたしと仲良くなったのも観察するために好都合だったからなんでしょ!?」
 
「違う。私が望んだ」
 
「ウソよ!もう嫌!皆してあたしを騙して!古泉君もみくるちゃんも、有希も、大ッ嫌いよ!」
 
あたしは有希の手を振り解いて部室を飛び出た。
 
もう……誰の顔も見たくない。
 
涼宮ハルヒは私の手を振り解き外へ出て行った。
 
彼女は私の言葉を信じてくれなかった。コミュニケーションを潤滑にするためにジョークを言ったことはある。
 
それでも私はそれ以外で彼女にウソを言ったことはない。
 
コミュニケーションに不備があった?それは違う。私にエラーは発生していない。
 
私が記憶を巡っていると、突如大きな音がした。
 
その音にいち早く反応したのは古泉一樹だった。
 
「困ったことになりました。神人が現れました」
 
顔を青くしてそう言った。
 
「ど、どうするんですかぁ!?」
 
「どうするもこうするも、僕は神人を止めなくてはなりません」
 
そう言って施錠をおろし、窓を開く。
 
そして先ほど同様に古泉一樹の身体を赤い光が包んでいく。
 
「……長門さん、やはりあなたでなければ涼宮さんは止められない。申し訳ありませんが後をお願いします」
 
そして窓の外へと飛んだ。
 
「朝比奈みくるはここで待機を」
 
「わ、わたしも行きます!もう傍観者のままでなんていられません!」
 
珍しく強気に言葉を言ってくる。
 
それでも、『今』はその出番ではない。
 
「任せて」
 
「で、でも」
 
「大丈夫」
 
朝比奈みくるはそれでも一緒に来ようとした。
 
自分の本来の役目とはかけ離れた行動と知りつつ。そしてまた、それは私も同じ。
 
私は朝比奈みくるの額に手を当てた。途端にその場に崩れ落ちた。
 
情報操作だ。ただ眠らせただけで悪影響はない。私は朝比奈みくるを壁際に運び、室内にいるもう一人の人物を見た。
 
彼女はすでに立ち上がって私のことを見ていた。
 
「長門さん、だっけ?周防さんと同じ宇宙人の」
 
「同じではない」
 
「そっか。……私は付いて行ってもいい?」
 
その言葉に私は小さく頷いた。
 
今起きていることを沈静化するためには、涼宮ハルヒと同一の能力を持つ彼女が必要だった。
 
部室を出て、この空間にアクセスする。
 
閉鎖空間のせいか、人物までは特定できないが、それぞれの位置を把握しているおかげで涼宮ハルヒの居場所はすぐに分かった。
 
屋上。
 
私たちは最短のルートを選んで走り出した。
 
--有希の、有希の前科って、何?--
 
それは世界を変えたあの出来事。
 
--有希は全部知ってるの?--
 
全てではない。それでも知っている。
 
しかし、どちらの問いに対する答えも私から伝えていいものではない。
 
それでも最後の問い、
 
--あたしたち、親友じゃなかったの?--
 
これには答えることが出来たはず。
 
そう、私はあなたの親友。私という個体は涼宮ハルヒの親友でいたいと思っている。
 
これは情報統合思念体とは違う、私の意志。
 
では何故答えることが出来なかったのか?
 
その自問自答が頭の中を埋め尽くすが、該当する答えが見つからない。
 
この状況で私に出来ることは限られている。
 
それは情報統合思念体の意思とはかけ離れた私の意志に基づく、私の勝手。
 
最善の方法ではないかもしれない。他にもいい方法があるかもしれない。
 
しかし迷っている暇はない。この結果が涼宮ハルヒにとって好ましいものとは思わない。
 
それでもこれが私が導いた最善の方法。
 
涼宮ハルヒの観測という命を受けて、この地球に存在するようになって四年。いや、あの夏休みを含めれば五百年以上も生きていることになる。
 
この星では意識のない個体を、場合によっては死と判断する法がある。つまり、意識こそが命。
 
それなら長い間時間を繰り返し、意識を通わせてきた私は五百年間生きていたという事でも間違ってはいない。
 
私という個体が過ごしてきたこの一生は一般的に言うところの、有意義だったと言えると思われる。
 
人生とは素晴らしいもの。しかし、私は生きるのが下手だった。
 
涼宮ハルヒ。あなたは私を必要としてくれた。
 
私という一つの個体を必要としてくれた。
 
そして私もあなたといて、心地よいという気持ちに気付かされた。
 
あなたは私の話を聞いてくれないかもしれない。
 
それでももし伝わるなら、私はあなたにこう言いたい。
 
ありがとう、そして、ごめんなさい、と。
 
もし、また会えたなら、その時は……。
 
「って言う話はどう?」
 
そう言ってハルヒは満面の笑みで新しい台本を俺に手渡した。
 
どうやら今年の文化祭でまた映画を作るらしい。基本的に才色兼備なはずのやつだが、あの映画のクオリティはそれは酷いもんだった。
 
まぁあの内容で気をよく出来んのは、ある意味才能だと思うがな。見習いたくない才能というのもあるもんだ。
 
「なかなかいい内容だったでしょ?」
 
そうだな。去年に比べりゃ月とすっぽんだよ。
 
「あんた馬鹿にしてんの?」
 
「してない、してない。ところでオチはどうなるんだ?これじゃ不十分だろ」
 
「その物言いがしてるって言ってんのよ。中盤から最後にかけてはなかなか難しいのよ。変に伏線みたいのを作りすぎたわね。ハッピーエンドとバッドエンド、どうしようかしら?」
 
眉間にしわを寄せたハルヒは、俺に背を向け窓の外を見た。
 
実際のところ台本の内容は鳥肌ものだった。
 
この台本は、古泉が超能力者で、朝比奈さんが未来人、そしてハルヒはとんでも能力を身に付けているという設定だ。
 
これは台本じゃなくて、預言書だろ。改めて涼宮ハルヒという人間の恐ろしさを垣間見た。
 
俺は明後日の方向を向いたままの預言者に、映画の話の内容を質問した。
 
「そもそもだ。恋愛は精神病の一種とか言っておきながらこの内容はどうなんだ?」
 
「うるさいわね。別に否定しているわけじゃなくて、あたしの持論なだけよ。それに映画はフィクションよ」
 
当たり前だ。この設定が本当なら、お前が俺のことを好きだってことになるからな。
 
「とんだ自惚れね。有り得ないわ。正直あんたと付き合ってる佐々木さんは理解しがたいもの」
 
そ、そこまで言うか。
 
「まだ言ってほしいなら続けてあげるわよ?団長として団員の願いを無下に断るわけにはいかないしね」
 
勘弁してくれ。
 
ハルヒの誹謗中傷に耐えた俺はもう一つ質問をした。
 
「お前の親友役のとこの名前が空欄なんだが、何でだ?」
 
この台本どおりに行くと、今回はSOS団全員が出演することになっている。
 
そして、谷口や国木田、そして何故か他校の生徒であるはずの佐々木や橘京子の名前まで。橘なんていつのまに知り合ったんだ?
 
だからこそ、何故か一人だけ空欄があるのが余計に気になっちまう。
 
「まだ考え中なのよ。配役はちゃんと決めるわ」
 
じゃあ、この佐々木の名前はなんなんだ?
 
「あんたの彼女じゃない。ちゃんと連れてくんのよ」
 
なんてわがままなやつなんだ。それに台本どおりでいくと、
 
「それにさすがのあんたも佐々木さん以外とのキスシーンは拒むでしょ?」
 
「当たり前だ!それ以前に映画のなかでも俺はやらんぞ!」
 
何が悲しくて公衆の面前でそんな恥ずかしいことを!言っておくが佐々木のことが恥ずかしいんじゃなくて、あくまで俺の羞恥心の問題だ。
 
それにそんなもん公開してるのが教師にばれたら即上映中止だ。
 
そうこう討論しているうちに部室の扉が開かれた。
 
「どうも。お二人ともお早いですね」
 
いつものにやけ面を顔面に貼り付けた古泉がやってきた。
 
「聞いてくれ古泉。あいつがまた映画を撮るとか言い出したぞ」
 
「もう少しで台本は完成するのよ。後はキャストだけなのよね」
 
俺は古泉に言ったんだがな。
 
「よろしければその台本を読ませてもらっていいですか?」
 
そう言って古泉はハルヒから台本を受け取った。さぁ、内容に驚愕しろ。俺も大いに驚いた。
 
まじまじとその台本を読み進めていく古泉は、途中から驚きとも悲しみとも取れない表情をし始めた。
 
これは予想外の反応だな。少なくともハルヒの前ではそんなオーバーなリアクションを取るとは思わなかった。
 
執筆者のハルヒも想像以上の古泉の反応に少し困っているようだった。
 
ひとしきり読み終わった古泉が言った。
 
「この話はいつ思いついたのですか?」
 
その声は少し沈んでいるようにも聞こえた。
 
「分かんないのよ。なんだか思いつくままに書いてたわ」
 
「そりゃそうだろな。この台本のハルヒはあまりにらしくない」
 
そう言ってやると、頭に上履きを投げてきやがった。ほら見ろ、これが現物だ。
 
「それで、この空欄には誰が入るんですか?」
 
古泉は台本の空欄を指差しながら、さっきの俺と同じことを聞いた。
 
確かに気になる。他の登場人物は全部決まってるのに、親友という、内容的にどう見ても重要な人物は白紙だ。
 
「そこなのよね。今いちピンとこなくてね」
 
台詞も決まってるのにか?少なくとも他の台詞はそれぞれの口調で書かれている。
 
そしてその親友の台詞は、なんというかコミニケーション能力が著しく欠けている。そんな印象だ。
 
「そうゆうイメージなんだから仕方ないでしょ?」
 
別にいいがな。
 
「だったらいちいち突っ込むのやめなさいよ」
 
直後に喋ったのは古泉だ。
 
「何故、そんなイメージを?」
 
まだその話を続けるのか?どうせいつもの気まぐれだろ。
 
「すいませんが少し口を閉じてもらえますか?」
 
と、いつになく真面目な顔の古泉に怒られた。ったくこいつのイエスマンぶりもたまんないな。
 
「なんていうか潜在的に記憶にあったというか、つい最近まで似たような知り合いがいたというか」
 
などと曖昧なことを言いだした。いつも突拍子のない奴だが、とうとう脳内友達まで作り出したようだ。
 
クラスの連中に言ってもう少し構ってやるか、などと思っていると、ハルヒが俺を睨んできた。
 
ナイフのように尖った視線だ。そんなにギザギザしてると、しまいには触れるもの皆傷つけちまうぞ。
 
「今度あたしを可哀想なものを見るような目で見てきたら、躊躇なく死刑にするわよ」
 
俺がハルヒに何度目か数えるのもめんどくさいくらいの死刑宣告をされた直後、部室の扉が開いた。
 
入ってきた人影は二つ。これでSOS団のメンバーが揃った。
 
「遅くなりましたぁ」
 
と、朝比奈さん。
 
「待たせたねっ!」
 
と、鶴屋さん。
 
「二人ともいいとこに来たわ!これ次の映画の台本よ、読んでみて!」
 
そう言って台本を手渡した。
 
これでこの映画制作はどんどんと現実味を増していくわけだ。きっと鶴屋さんは、
 
「これはなかなか面白そうだね!あたしはめがっさ気に入ったよ!」
 
そう言うと思いましたよ。波長が合うみたいだしな。
 
しかし、その傍らにいる朝比奈さんはと言うと、さっきの古泉に近い反応を見せていた。
 
古泉もそうだったが感動というわけではなさそうだった。
 
二人の顔に共通して浮かんでいたのは、驚きであり、悲しみであり、そしてどこか辛そうな、つまり悲痛な表情だった。これは言い過ぎか?
 
その日の部活は映画の小道具や機材をどこから拝借もといお借りするかの相談で終った。
 
ハルヒと鶴屋さんはこの台本の内容に似つかわしくない明るい雰囲気で話を進めていく。
 
反対に古泉と朝比奈さんはさっきの暗い雰囲気を纏ったままだった。
 
たしかにあいつの台本には、二人の秘密を実は全部知ってるんじゃないかと言いたいぐらい正確に書かれていた。
 
驚くことだろう。でも俺はここ最近のことを考えるとこう思ってしまう。
 
古泉的に言えば、もともとハルヒに望まれて出来た存在なんだ。つまり、全てはあいつの妄想で出来たレールの上の存在なんだよな。
 
もちろんこの二人には個がある。俺が言いたいのは、超能力者であったり、未来人であったり、宇宙人みたいな、いわゆる概念の話だ。
 
そうこうしているうちにもう下校時刻になった。
 
五人で下校して別れる。いつもの事だ。だけどその日は違った。
 
俺の携帯に古泉から連絡が来た。今から会ってほしいと言われた。
 
呼び出された現場に行ってみると、そこには朝比奈さんもいた。
 
「突然すいませんでした」
 
古泉が悲しそうな笑顔で言う。俺はそこまで鋭い方じゃないが、おそらく今日の台本のことだろう。それくらいは分かる。
 
「あの、キョンくんに聞かなきゃいけないことがあるの」
 
泣いていたのか、目を赤くした朝比奈さんがそう言った。
 
「なんですか?」
 
「キョンくんは……長門さんのこと……覚えてる?」
 
俺はその質問に首を傾げながら答えた。NO、と。
 
その瞬間の二人の顔は本当に辛そうだった。一体何なんだ?説明が欲しくてたまらん。
 
語り出したのは古泉だ。
 
「僕たちも先ほどの台本を見るまで記憶から抜けていたのですが、以前SOS団には長門有希というもう一人の部員がいました」
 
「知らん名だな。それに俺はSOS団の創設に立ち会ってる。だからそんな事実はないはずだぞ」
 
俺がしてしまった提案で、ハルヒが空き部室を確保し、朝比奈さんと古泉、そして鶴屋さんが集まった。他の団員は存在しないはずだ。
 
「そのようですね。ですがあの台本の内容、あれは全て事実です」
 
知ってるよ。それは二人が俺に教えてくれただろう。記憶障害でも起こしたか?
 
「そういう意味ではありません。あなたが涼宮さんの力で消され、それを元に戻すために長門さんが……。この事です」
 
いよいよ持って意味が分からん。ハルヒのリアルすぎる妄想じゃないのか?
 
「違います。少なくとも僕と朝比奈さんはしっかりと長門さんのことを覚えています。正確には、思い出した、ですが」
 
「古泉の言うことだ。頭ごなしに否定したりはしない。でもじゃあ、何で俺は、ハルヒは覚えていないんだ?」
 
「それは長門さんが情報操作で自分にまつわる全ての情報を改ざんしたからに他なりません」
 
情報操作、その単語には聞き覚えがある。あれは朝倉だったか?
 
「思い出してください。去年の映画の内容を」
 
映画の内容?
 
朝比奈さんが闘うメイドさんだった奇天烈映画だ。
 
「その敵役は誰でしたか?」
 
俺の妹だろ?確かキャスト不足だったんだよな。まったく無理矢理なキャスティングだったよ。
 
「雪山でのことは?」
 
みんなで合宿に行っただけだろ?
 
「繰り返した夏休みは?」
 
ちょっと待ってくれ。何なんだいったい。
 
「本当に覚えていないんですか?」
 
だから何をだ?
 
俺の言葉に古泉は声を詰まらせて言った。
 
俺たちの高校生活には長門有希という、もう一人のSOS団員がいたこと。そして、俺を襲った朝倉涼子と同じく宇宙人だったこと。正確にはなんちゃらヒューマノイドというらしいが。
 
そしてハルヒの親友だったこと。おまけに鶴屋さんは正式な部員ではなく、その長門とやらの空いた枠に収まったということ。
 
にわかには信じがたい。
 
「お前の話が真実だとして、長門ってやつはなんでこんなことをしたんだ?」
 
俺の言葉が悪かったのか、朝比奈さんは涙を堪えることが出来なくなったみたいだった。抑えることもせずにただ泣いている。
 
「長門さんは自分の本来の役割より涼宮さんを優先しました。本当なら願望実現能力ごと消し去るつもりだったんでしょうが、そう上手くはいきませんでした」
 
古泉はあたかもその現場を見ていたように語る。
 
「あなたもご存知の通り、佐々木さんの力は不完全です。それは力が百パーセントではないからです」
 
続きは朝比奈さんが言った。
 
「だから、長門さんは、涼宮さんの、うっ、力の何割かを、ぐすっ、佐々木さんに移すことに、したの」
 
そんなことが可能なんですか?
 
「それは禁則事項。でもそれが長門さんがあの時した判断。少しでも涼宮さんを普通の女の子に戻してあげようとした、長門さんの考えなの」
 
つまり、佐々木に力を移すことで二人の力を発揮出来ない状況にしたってことか?
 
「おそらく、です。近頃閉鎖空間が発生していないのでなんとも言えません」
 
「しかしそれは長門さんの母体でもある情報統合思念体の意思に背くものでした。その結果長門さんはイレギュラーとされ消去されました」
 
俺が言葉を挟むより先に古泉が続きを言った。
 
「そして苦肉の策として涼宮さんの悩みの種である、あなたと長門さんへの記憶を改ざんしました」
 
消去?何故だ?だってハルヒと仲が良かったならそれは逆効果だろ。
 
「それは僕には分かりません。しかし長門さんが改ざんしたのは二人だけではありませんでした。この世界は長門有希というデータに他の誰かが上書きされています」
 
それが鶴屋さんだったり、俺の妹って訳か?
 
「はい。何故僕たちが思い出したかは知りません。ですがこれで涼宮さんの鍵であったあなたと長門さん、二人が原因となることはこれからはないと思います」
 
つまりハルヒは俺への興味と、その長門っていう宇宙人への記憶をなくしたってわけか。
 
「興味ではなく、恋愛感情でしょうね。現にあなたはSOS団の部員のままです。それに以前の彼女はあなたに告白しているくらいですから」
 
それは驚きだ。いや、マジで。
 
「そこで朝比奈さんに質問です。今回のことは、未来ではどこまで予測されていましたか?」
 
俺の驚愕を軽くスルーした古泉は、先刻から泣きっぱなしの朝比奈さんに話をふった。
 
涙で濡らした顔を上げて朝比奈さんが言った。
 
「……自分の記憶がなくなるとは、ぐすっ、思っていませんでしたけど、長門さんがいなくなることは……知っていました」
 
「禁則事項ではないんですか?」
 
「情報を知っている人に言ってもいいんです」
 
そういえばそんなこと言ってたな。
 
「その長門って子は、もうどこにもいないのか?」
 
「どうでしょう。あの事件からもう二月近く経っていますからね」
 
遠くを見ている古泉の目元からは一筋の涙が零れている。
 
それほどの友達だったんだ。SOS団ということはどう考えても俺にも関係がある。
 
古泉の説明どおりなら俺は最後の最後まで世話になりっぱなしだったみたいだ。
 
そのことも、その長門ってコも、当人である俺はほんの少しも記憶にない。
 
酷い話だし、最低な話だ。
 
「そういえばなんで佐々木は閉鎖空間に呼ばれたんだ?」
 
話を聞けばその時のハルヒと佐々木の中は険悪だったみたいだから、本来ならハルヒが来てほしい思うわけが無い。
 
「これは推測でしかないんですが、佐々木さんもそうだったように謝りたかったんじゃないでしょうか?」
 
あのハルヒが?そんな馬鹿な。
 
「まぁ今の涼宮さんを見ればそうなるでしょうが、あの時の涼宮さんはきっとそうだったと思います」
 
これまたにわかには信じがたい話だ。
 
「あの台本にあった、最善の方法、ってのが今のこの状況なわけか?」
 
「そうでしょう。おそらく長門さんは僕たちの記憶を改ざんしながらも、僕たちに覚えていてほしかったんじゃないでしょうか?」
 
古泉はそこまで言って後ろを向いた。きっと泣いてるんだと思う。肩も震えてるしな。
 
「僕と朝比奈さんの頭には長門さんの最後の記憶や意思といえるような何かが残っています。そして涼宮さんには、その時の全ての状況がまるで自分のアイデアのように残っています」
 
それがあの映画であるわけだ。あの台本には、その場にいた全ての人物の心情や状況まで事細かに書かれていた。
 
「っていうことは、あの台本が完成したときに」
 
「はい。長門さんの最後の言葉や気持ちが分かるという事です」
 
古泉が喋るのを止めた後、下を向いたままの朝比奈さんが喋りだした。
 
「あの台本の中には……ちゃんと長門さんがいました」
 
あの空欄のことだ。
 
「涼宮さんの中には、ちゃんと長門さんがいて、二人はし、しんゆぅ、だったから、うっ、ぐす、長門、さんはしあわ、せだった、と思ぃ、ます」
 
後半は泣きながらで聞き取りにくかった。でもその言葉の意味は理解できているつもりだ。
 
「僕は長門さんを覚えています。これから先も忘れるつもりはありません」
 
「わ、わたひぃも、ぐす、です」
 
古泉は朝比奈さんの言葉に微笑みながら頷く。
 
「そうですね。そしてあなたもこの出来事を覚えておいて下さい」
 
正直今回の話は、本当に記憶に無いぶんかなり眉唾ものだった。
 
それでも古泉と朝比奈さんの言葉や態度が、俺に長門というもう一人の仲間が実在したことを教えてくれた。
 
 
俺たちはその話の後、一つの約束をした。
 
それは今回の映画のことだ。作る映画は安っぽい機材と、全くかからない人件費、そして地元で撮るというみたまんまの学生映画だ。
 
でもこの映画には、見る人全てが気付かないであろう別の意味がある。
 
今回の映画は涼宮ハルヒと長門有希の本当にあった友情の話だ。けっしてノンフィクションじゃない。
 
この世界に長門有希という人物がいたという唯一の記録。
 
だから成功させよう。ハルヒがいつになく驚くくらいに真剣にやって。
 
それだけが、今の俺たちに出来る長門有希への感謝の形だと思うから。
 
~エピローグ~
 
何もない休日。
 
あたしは文化祭に向けての映画で頭がいっぱいだった。
 
とにかくキャストが決まらない。
 
今回のテーマは恋愛&友情。我ながらありきたりだとは思うけど、なんか思い付いちゃったんだから仕方ない。
 
何故自分を主役にしたかって?監督兼脚本兼主演なんて今時そんなに驚くことじゃないわ。そんだけよ。
 
世間の三流芸人やら三流俳優ですら出来るんだからあたしにだってちょろいわ。
 
一つ嫌なのは、あたしがあいつに惚れているって設定。自分で書きながら寒気がしたわ。
 
家でぼーっとしているのも暇だから外に出た。
 
歩いた場所はほとんど不思議探索で一度見たことがある。そろそろ活動範囲を増やさないとダメね。
 
あたしは手始めに電車に乗ることにした。行き先はなんとなくだけど四つ隣の駅。
 
そこにはなんの思いいれも無い。だから本当になんとなく。
 
初めて来たその街は、思いのほか普通に街だった。こんなありふれた場所じゃなんのインスピレーションも沸かないわね。
 
しばらく辺りを歩き回る。なんだろう?まるでデジャブのよう。
 
駅前のバイキングの看板は一度見たことがあった。そしてフラフラ歩いた先にあった古着屋も見たことがあった。
 
なんで見たこともないはずの映像が頭の中にあるんだろう。世の中の不思議は尽きることがない。だってこんな身近の自分でさえ不思議なことがあるんだから。
 
あたしは最近同じ夢を見る。知らない女の子と会話する夢を。
 
相手はぼやけていてよく分からない。でも会話の内容は何故か覚えている。
 
その子は最初にあたしにこう言う。
 
「ごめんなさい」
 
それが分からない私は、何が?、と答える。するとその子は、
 
「約束が守れないこと」
 
約束?
 
「そう。あなたとずっと一緒にいるという約束」
 
何で守れないの?
 
「傍にいられない」
 
あなたとはもう会えないの?
 
「そう」
 
なんだか寂しいわね。
 
「私はあなたにお礼が言いたい」
 
お礼?
 
「そう。あなたが望んだおかげで私があった。ありがとう」
 
どういたしまして。……あなた名前は?
 
「私は……」
 
と、夢はいつもここで終る。
 
そして目が覚めるといつもあたしは泣いている。本当に不思議な夢。
 
この日もたいした発見も出来ずに駅へと向かった。
 
空はもう夕暮れ。夏の夕暮れということはなかなか遅い時間だ。こんな時間だし、一人歩いていれば頭の悪そうな男達が声をかけてくる。
 
慣れっことはいえめんどくさい。適当にあしらって追い払う。これの繰り返し。
 
すると違う男達があたしとは違う女の子をナンパしていた。
 
その子はベンチに座って分厚い本を読んでいた。
 
容姿は痩せてて、頭にはフードを被っている。髪型はよく分からない。そのフードには猫とも犬ともわからない珍妙な耳が付いていた。
 
その子はまるで男達の言葉に反応しない。ずっと本を読んでいる。しばらくして男連中は飽きたのか、その子から離れていった。
 
ふーん。なんか面白い子ね。そもそもこんな時間に一人で外で読書ってどうなの?有り得ないじゃない。
 
なんだか不思議の匂いがするわ。
 
そう思って、あたしはその子に声をかけた。思ったら行動あるのみよ。
 
とはいえ人生初ナンパね。あたしのテクを見せてやるわ!
 
「ねぇ何読んでるの?」
 
まずは共通の話題をと。あたしが話しかけるとその子は無言で本の表紙を見せてきた。
 
とりあえず第一歩ね。伊達にナンパされているわけじゃないのよ?
 
「へぇ、面白いの?」
 
するとその子は表情を変えないままこう言った。
 
「ユニーク」
 
ユニークって。そんな返しは初めてされたわ。ますます面白い子ね。
 
「どんなところが?」
 
「全部」
 
なんてリアクションに困る言葉かしら。
 
とりあえずあたしはこう言った。
 
「本が好きなのね」
 
さぁどう返す?
 
「わりと」
 
なんとまぁ味気のない答え。このときあたしの頭には映画の台本が浮かんだ。
 
薄い反応。少ない言葉。どこか遠くを見ているような眼。
 
あたしの想像した親友役に驚くくらいにはまっている。
 
ここからはナンパじゃなくてスカウト。あたしは強引にでもこの子を連れ去ることにした。
 
「あたし北高の生徒なんだけど、今度文化祭に向けて映画を撮るのよ。それであなたがその映画のキャストにはまり役なのよ」
 
「そう」
 
そう!それよ!あたしの台本どおりの反応!いるとこにはいるものね!
 
「そうなのよ!だから出てくれない?」
 
その子はしばしあたしの目をジッと見てわずかに、ほんのわずかに頷いた、ような気がした。
 
もちろんあたしはその、ような気がした、反応を自分勝手に解釈して、快諾、と捉えた。
 
「ありがとう!」
 
あたしはその子の手をとってブンブンと勢いよく振った。
 
とんとん拍子で話が決まってよかったわ。ん?一つ忘れていたことがあったわね。
 
「そういえば名前聞いてなかったわね?」
 
普通は逆なんどろうけど、まぁいいわ。
 
「あたしは涼宮ハルヒ。あなたは?」
 
その子は読んでいた本を膝に置き、曇りのない綺麗な瞳であたしを見上げるとこう言った。
 
「私の名前は……」
 
~Fin~
 
 

 

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