ハルヒと親父 @ wiki
夏休みの工作
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haruhioyaji
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- ハルヒ
- あんた、小学校のとき、夏休みの宿題で工作とか、やった?
- キョン
- ああ。何作っていってもいい奴だろ。なんか木の板とか切って犬小屋とか作ったな。
- ハルヒ
- あんたんち、犬いたっけ?
- キョン
- いや。あと材料が足らなくて、結局、鳥小屋になった。おまえは何作ったんだ、ハルヒ?
- ハルヒ
- ヒルシュ管。
- キョン
- え、なんだって?
- ハルヒ
- ヒルシュ管よ。ヒルシュってのは、発明した人の名前だった気がするけど、違うかもしれない。それよりも注目すべきは、こいつがやることよ。なにしろエントロピーの法則に真っ向から反するっぽい機械よ。
- キョン
- (おまえ、小学校の頃から、物理法則変えてたのか?とは、さすがに突っ込めん)
- おいおい。エントロピーの法則が破れるなら、永久機関がつくれるんだぞ。
- ハルヒ
- そうなるわね。小学校2年生だったんで、そこまで考えが及ばなかったけれど。……親父にはめられたのよ。
- キョン
- はめられたって?
- ハルヒ
- 夏休みになると、決まって何かへんてこなものをいきなり作りだすのよ。子供だから引きつけられるでしょ。「作れ」とか、一言でも薦められたら反発して絶対作らなかったわ。でも、そういう時に限って、何にもいわないで、ただ自分だけで楽しそうに作りだすの。聞けば質問には答えるけどね。
- キョン
- 親父さん、策士だな。あまのじゃくなお前の性格の真心を完璧にとらえてる。
- ハルヒ
- ちっちゃかったからよ! そんなの小学生の低学年の時だけなんだからね!
- 小さいハルヒ
- 何つくってんの?
- 親父
- ヒルシュ管だ。ヒルシュってのはナチス・ドイツの物理学者の名前で、ルドルフ・ヒルシュという男だ。こいつが、ドイツがフランスがを占領中に、あるフランス人が発明した原型をパクって/改良し実用化したのが、このヒルシュ管だ。
- 小さいハルヒ
- 何するもの?
- 親父
- おまえ、マクスウェルの悪魔って知ってるか?
- 小さいハルヒ
- 知らない。
- 親父
- じゃあ、暖かい空気と冷たい空気の違いが分かるか?
- 小さいハルヒ
- 温度が違うんじゃないの?
- 親父
- めんどくさくなってきたな。お前、分子ってのは分かるのか?
- 小さいハルヒ
- 宇宙のすべてのものは分子でできていて、分子は原子が結合してできてるんでしょ!
- 親父
- まあ、そうだな。空気は窒素分子とか酸素分子などからできてるんだが、分子の運動量っていっても、ピンと来ないか、大雑把に言って、速く分子が動いてる空気があったかい空気で、ゆっくり分子が動いている空気が冷たい空気だ。
- 小さいハルヒ
- へえー。
- 親父
- それでだ、マクスウェルの悪魔と言うのは、分子の門番で、速い分子が来たときには門を開けて、おそい分子が来たときには門を閉じる。するとだ、門のあっち側には速い分子ばかりに、門のこっち側には遅い空気ばっかりになるだろ?
- 小さいハルヒ
- うん。
- 親父
- つまり門のあっち側の空気は熱くなって、門のこっち側の空気は冷たくなる。実は俺は今、とある物理法則からは、まず生じないとされている現象について話している。熱い空気と冷たい空気は時間が立てば混じりあってぬるくなる一方で、ぬるい空気を熱い空気と冷たい空気に分けることはできない、とされてるのさ。小学2年のお前に、熱力学の第二法則を理解させるのはさすがにつらいが、まあ論より証拠といってみようか。
- 小さいハルヒ
- どうすんの。
- 親父
- 今からつくるヒルシュ管ってのはな、このマクスウェルの悪魔の工学的実現なんだ。圧縮空気をT字の管に吹きこむと、一方から暖かい空気、もう一方からは冷たい空気が出てくる。熱い方では最高180℃、冷たい方では−60℃だ。
- 小さいハルヒ
- なんでそんなことできるの?
- 親父
- 吹き込まれた圧縮空気はチェンバーの中で渦になって回転する。その渦の中で、ゆっくり動く空気は渦の中心に集まり、速く動く空気は渦の周辺に集まる。というよりも、回転するなら外側ほど速度が高いはずだな。
- 渦の周辺の速く動く空気(つまり運動量の大きい分子たち)は、ワッシャーのために「冷たいパイプ」の方へは流れず、「熱いパイプ」へ行く。
- 逆に、取り残された方のゆっくり動いてる空気(運動量の低い空気)は、しかたなく「冷たいパイプ」に導かれる。このとき、狭いチェンバーの中から広いパイプ→外の世界へと出て行くので、圧力が急に下がって、なおさら温度が下がるという訳だ。……って、やっぱり聞いてねえな。
- 小さいハルヒ
- ほんとに、熱い空気と冷たい空気が分かれて出てくるの?
- 親父
- だから「論より証拠」といってるだろ。今から作るから待ってろ。
- 親父
- ところで、夏休みの宿題に、工作とかあるのか?
- 小さいハルヒ
- あるわ。あたし、これ作る!
- 親父
- まあ止めないけどな。図面はこれだ。管を切るときと、出てくる空気の温度を計る時は気をつけてやれ。
(出典:Stong (1960). The Scientific American book of projects for the amateur scientist.)
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