ハルヒと親父 @ wiki

技術の長門−ワッフル・デコーダーの暴走3

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haruhioyaji

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「では、完成したのですね? わかりました」
「古泉、長門からか?」
「ええ。対ワッフル・デコーダーの新兵器が完成したそうです」
「そうか。早速投入できるのか?」
「はい。ですが、有効範囲が狭いため、ワッフル・デコーダーを引き込む必要があるそうです」
「ますます特撮怪獣めいてきたな」
「いま長門さんが、あらゆるまとめwikiから「わっふる」の字句を削除しています。大丈夫です、wikiには履歴機能がありますから、復元は容易です」
「ワッフル・デコーダーの行く先を限定しようっていうんだな?」
「そして『餌』を用意します。つまり、わっふるの煮こごりのようなSSを」
「……誰が書くんだ、それ?」
「あたしよ!」
「うわ、ハルヒ!」
「ご挨拶ね。団長が現れて何がまずいことでもあるのかしら?」
「おまえが何を書くって?」
「アタマばかりか耳まで悪いようね、キョン。『わっふるの煮こごりのようなSS』よ!」
「おまえ、『わっふる』が何か分かってるのか? 西洋焼き菓子とは訳がちがうんだぞ!」
「とにかくエロい話を書けばいいんでしょ。エロすぎるところは、あとで有希が適当に『わっふる』しとくって話だったわ」
「ほらみろ、全然分かってない! だいたい、なんでおまえがエロい話を書くことになるんだ?」
「エロパロ・サイトっていうの? 夕べ、ネットでそういうのを見たのよ。そしたらくだらない話ばっかりで、これだったらあたしが書いた方が……」
「見ろ、考え得るかぎり最悪の展開じゃないか!」
「まあ、そんなもの、あたしにかかれば朝三暮四よ! 官能小説家と同じ船に乗り合わせたとでも思って、のんびり構えてなさい!」
「そんな船は流氷に当たって沈んでしまえ! 四文字熟語に突っ込む余裕がねえ!」
「まあまあ。少し落ち着いて下さい」
「古泉、これが落ち着いていられるか!?」
「じゃあ、あなたが書きますか?」
「は?」
「あなたが、エロいSSを、書・き・ま・す・か?」
「な、なにを言ってるんだ、古泉?」
「あなたは、涼宮さんがエロい話を書くのが気に食わない。涼宮さんは、すっかりその気になっています。止めるにしても、代替案なしには、いくらあなたでも難しいのではありませんか?」
「それは、何かの罠か?」
「ぼくとしては『蜘蛛の糸』のつもりなのですが……」
「キョン! ちょっと、こっち来て。とりあえず上半身脱いで、そこの床で腕立て伏せしなさい」
「この動作に何の意味があるんだ?」
「やってから聞きますか、それを?」
「やっぱり描写のリアリティを上げるには、モデルがいた方がやりやすいわね」
「ちょっと待て。この『腕立て伏せ』は、どんなシーンの描写なんだ?」
「はい、次。そこの壁に向かって立って、壁立て伏せしなさい」
「おれは何者だ?」
「うっさいわね。文句あるなら、古泉君に替わってもらうわよ!」
「喜んでやらせてもらおう」

 ● ● ●


 「できたわ! こんな機会だから、妄想の限りを書かせてもらったわよ、キョン!」
「いや、いい。おれにいちいちことわるな……」
「有希? できたわ、今からメールで送るから。え? メールが使えないの? しょうがないわね。読み上げるからそっちで文字に起こしてちょうだい」
「わああああ。俺を殺す気か!?」
「古泉君、うるさくて有希が聞き取れないって言ってるから、しばらくキョンを抑えといて。あたしが朗読に集中してる間なら、何をしてもいいから」
「御意」

 ● ● ●

 「……それで、ハルヒは行ったのか?」
「ええ、長門さんをサポートすると。あなたの尊い犠牲のおかげで、すっかり手はずは整いました」
「……」
「長門さんから、『わっふる化』を施した先ほどのSSが届いてますが、お読みになりますか?」
「メールが使えないのに、どうやって届いたんだ?」
「かつてヨーロッパを席巻したロス・チャイルド家のように、ハトを使われたようですね」
「伝書ハトね……。狼煙(のろし)ででも礼を言ってくれ」
「『キョンはハルヒの『わっふる』な『わっふる』を『わっふる』し……」
「うああ。……というか、それ『わっふる化』というより、ただの伏せ字では?」
「できる限り高濃度の『わっふる』でおびき寄せる作戦だそうです」
「……終わったら起こしてくれ。いや、できれば、しばらく放っておいてくれ。……ハルヒをこんなトンデモ大作戦に巻き込んでよかったのか?」
「ええ。以前使ったあの手が使えるそうです。なにしろ相手は作品(フィクション)・レベルとメタ・レベルを混乱させる化け物ですから。『退治』した後は、『この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません』として、『線引き』を更新するそうです」
「!ちょっとまて。その“『わっふる化』を施したSS”が何故ここにある?」
「ですから、伝書ハトが……」
「おまえら、ここにあいつを、ワッフル・デコーダーをおびき出すつもりなのか?」
「そうですよ。言ってませんでしたか?」
「聞いてない!」
「ご安心を。すでに大規模なKlein bottleを敷設済みです」
「っていうと、メビウスの輪の立体版か?」
「ええ。メビウスの帯が2次元のテープ状のものをひねり表をたどっていくとそのまま裏に行き着くようにしたのに対し、クラインの壺は3次元のチューブをひねり内部をたどると外部に行き着くようにしたものです。境界も表裏の区別も持たない(2次元)曲面の一種で、ユークリッド空間に埋め込むには4次元、曲率0とすると5次元が必要ですが、長門さんに自己交差する3次元空間内の曲面として強引に埋め込んでもらいました。メタ・レベルをオブジェクト・レベルに繰り入れるメタファーとして有名ですが、今度のものはメタファーではありません」
DEEEEWAAAAFURUUU
「きたぞ!」
「見ていて下さい。クライン・ボトルの威力を!」
 言葉を喰らい吐き出す狂った暴走機関は、今は特撮怪獣さながらに、ハルヒの描いたエロSSに食らいつき、身悶えしながらひとつひとつ『わっふる』を剥がしていく。その様は、中島敦が描くところの『文字禍』にも似た阿鼻叫喚だった。喰らえば喰らうほど、奴の体はクラインの壷の奥へと引き込まれていく。そして、やがてはその先端とその末端がねじれた空間によって引き合わされる。つまりは自分の尾を飲むウロボノス。
 ワッフル・デコーダーは自身をデコードし続け、エロい言葉をぶちまけながら、次第にその体駆を切り刻んでいった。明らかにその巨体は自らを支えきれず、より短い言葉コードに部分を置き換えることを繰り返していった。さながら自家中毒に陥ったチューリング・マシンがあげる断末魔か。
 自らの尾を食い尽くしたウロボノスはどういった姿になるのだろうか? あるいは自らの四次元ポケットに頭からはまり込んだドラえもんは? おれたちが今見ているのは、そういったなれの果てのひとつなのだろう。
 「終わったのか?」
「ええ、おそらく」
「この汚物みたいな言葉の切れ端はどうなるんだ?」
「言葉は、乗り物無しには存続できません。あれらは我々が、ワッフル・デコーダーと同じメタ・レベルにあった証拠です。我々がこの言表空間を抜ければ、少なくとも我々には消えてなくなりますよ」
「ほんとは、こんなものだったのか?」
 おれは足下にうずくまる手のひらサイズの押しボタンを見下ろしていった。
「ええ。言葉と妄想とによってあそこまで肥大していたのですよ。すべては終わりました。我々のいた世界へ戻りましょう」

 ● ● ●

 「納得いかないわ」
 ああ、おれだって納得いかないさ。あの地獄の数日間にも思えた出来事が、ほんの数千字の文字の中で起こったことだ、なんてな。
「あんな傑作、さすがのあたしも二度書けるか分からないわ。それが夢ですって!?」
 どうやら、わが団長様は、俺の斜め上のレベルで、憤っているらしい。願わくば、それがあの忌まわしきメタ・レベルでないといいんだがな。
「ちょっとキョン、聞いてるの? とくにあんたなんかに読ませたら、それは効果のある情操教育になったに違いないのに!」
 なんでエロSSを俺が読まなきゃならん。そしてどんな情操を教育されなくちゃならんのだ? しかもおまえが書いた、俺たちの出てるSSなんかで。……ん、ハルヒ、おまえが持ってる、それは何だ?
「知らないわ。傑作を書いたと思ったら、へんな怪獣が自分のしっぽを飲み込んで、このボタンになったの。で、夢からさめると、こいつだけがあたしの手の中にあったというわけ。有希にでも聞けば、何かわかるかも、って思ったんだけどね」
「長門はなんと?」
「知らない、って」
ふー。
「キョン。あんた、このボタン、押してみなさい」
「なっ! ……ことわる」
「団長の命令が聞けないっての? まあ、いいわ。あたしが押すから」
「わー、ちょっと待て」
「何よ?」
「おまえ、『わっふる』って知ってるか?」
「西洋焼き菓子でしょ。話はそれで終わり?」
 終わりかもしれんし、ひょっとすると始まりなのかもしれない。
「……き、今日は他のみんなは?」
「そういえば、みんな遅いわね。気をきかせてるのかしら?」
なんの「気」なのか、怖くて聞く気になれん。って、いつのまに、俺の後ろに立って、俺の首に腕を回したんだ、ハルヒ?
「あんたがぼーっとしてる間によ」
「な、何をする気だ?」
「あたしの傑作を、文字の中にだけ、閉じ込めておくのももったいないと思ってね」
「あのな、二次元と中の人の生活を、混同すんなとあれほど……」
「念仏でも唱えなさい。天井のシミ、数えてる間に終わるから」
何が終わるんだ、おれの人生もとい青春がか? く、首を絞めるな!
「あんた、こうでもしないと素直になんないから」
力づくで相手を『素直』にするなんてな、レイプっていうんだぞ!
「問答無用!」
いまのどこが問答なんだ! ロープ、ロープ! ひょっとすると世界が終わっちまうかもしれないが、この場合、俺の生命(貞操)が優先されたっていいはずだ。そうだろ?
 もう少し、あともう少しで、左手が届く。
 そしたら、人差し指か中指で、そいつを連打し、おれはこう叫ぶんだ。

「わっふる!わっふる!わっふる!」




 我に返ると、いつも思う。なんで、こんなやつと、って。
 体に触れると、たとえ指先同士でも、そんなことはどうでもよくなるの。答えなんて、目の前に、指の先に、腕の中に、こんなにもはっきりあるじゃない。
 繰り返すうちに、我に返れなくなるんじゃないか、と思ってる。ほとんど確信に近い。ねえ、あんたはどう思う? わからないな、とこいつは答えるだろう。多分、こいつは本当に分かっていないのだ。あたしがどれほど、あんたに触れたいか、いつもどこでも感じていたいか、に。
「それはわからないけどな」
 といって、こいつはあたしのきき手をとる。なにする気?ほんとはわかってるわよ。でも聞きたいの。こいつは困ったような顔で少し笑いながら、結局答えない。
「おれたちが今やってることだ」
「エロいこと?」
「そう、エロいことだ」
 そういって指を口に含む。くちゅくちゅという音が耳に障る。ううん、ほんとは触るの。遅れて熱が体中を巡る。血が煮えそうになるわ。
 普段でもそうだけど、してるときの、こいつはしつこい。あたしがいちいち反応するからかもしれないけど。
「わかってるか、ハルヒ。おまえ、いますごくエロい顔してるぞ」
ようやく指から口を話したこいつが言う。
「わかってるわよ。あんたの顔、すごくエロいもん」
「次なにやってほしいんだ?」
「なまいきね。じらしてるの?」
「じれてる顔も好きなんだ」
普段、言わないのに、こんなときだけすらっと出るのね。でもいいわ。エロくて、ちょっといじわるなあんた、嫌いじゃないから。
「ちゃんと言えたら何でもしてやるぞ」
言葉責めのつもり? キョンのくせに、生意気ね。
「じゃあ言うわ。手を頭の後ろで組んで。舐めるとき邪魔にならないように」
「お、おい、ハルヒ」
「あんたの好きなこと、してあげる。あと私語禁止。あえぎ声だけ聞かせなさい」
しつこいのが好きなくせに、自分が責められると弱いわね。あと、普段にぶいくせに、敏感。お返しに言ってあげる。そういう、あんたも好きよ。
「このやろう」
耐えきれなくて、でも止めて欲しくなくて、腕を解いて、あたしの頭を両手で押さえつけてくる。ちょっと苦しいけど、悪くないわ。それと、あいにくね。あんたの両手はふさがっちゃったけど、あたしの両手は空いてるのよ。たとえば、こんなこともできるわ。どう?感じる?
「うわ、ハルヒ、おまえな……」
あんた、いつも言ってるでしょ。はっきり口に出した方がきもちいいんだぞ、って。どう感じてるか、言いなさい。
「う、言葉責めかよ」
「嫌いなの?」
「好きじゃない。……けど、やばい」
「癖になりそう?」
肝心なことは答えないのね。言葉ではね。こいつの表情で、あたしは十分満足したので、さっきのを再開する。
ちょっと、キョン、今日は早いんじゃない? ゆっくり楽しもうって、誰の言葉?
「誰かさんがエロすぎるのが悪い」
「ふーん、悪いの?」
「はまりそうだ」
うそつき。
「ああ、もうはまってる。それとお返しだ」
は?
「おまえって、自分にしてほしいことを人にするんだよな。朝比奈さんの耳かんだり」
こういう時に、他の女の話をするってマナー違反よ、キョン。
「嫉妬した方が、感じるだろ?」
ヘンタイ。でも、ようやくいつもの調子ね。腕、頭の後ろで組もうか?
「ああ。今日はそれをタオルで縛ろう」
「縛りまで入れてくるとは、ヘンタイも胴に入ってきたわね」
「言ってろ。ひーひー、言わせてやる」
「いいわ。ひーひー言ってやるから」
二人でバカみたいに笑う。いいわね、言わせてもらおうじゃないの。
「あんた、あたしの体でどこが好き?」
「全部」
「その割には胸ばっかり責めるわね。おっぱい星人? やっぱり大きいのが良いの?」
嫉妬しろ、というから、乗ってあげるわ。
「大事なのは、感度と形と手応えだ」
なにが大事よ。あと、全部、脱がして触らなきゃわからないじゃないの。みくるちゃんも剥いたの?
「剥いたのはおまえだろ、ハルヒ」
はいはい、そうでしたね。で、その後、剥いたの?
「大きくてもふわふわしたのはダメだ。おまえみたいに始めは筋肉質でこりこりしてたのが、どんどん手に吸いつくようにやわらかみを増して……」
はいはい。おっぱい語らせたら、やっぱりあんた、すごいわ。で? 人の腕、縛っといて放置プレイ?
「待ってろ。『実演』してやる」
といいながら、ぽんと投げ出すように両手をあたしの胸の上に置く。で、それが?それだけ?
「待ってろ、っていったろ」
上に置いたまま、手を微動だにさせない。じらし?それとも、懐かしいハンド・パワー?
「気付かないか?これだけで少しずつ大きくなって、俺の指を押し返してくる」
わかるわよ。あんたの指が熱くて、痛くないけど、突き刺さるみたい。
「頭の上で腕を組んでるから、胸あたりの皮膚がひっぱられて、神経が剥きだしだ。ほら」
と言って、皮一枚の深さに刺激が届くように、すすっと指先をわずかに動かす。おもわず、声と吐息が漏れる。
「今ので、また大きくなったぞ。はちきれそうだぞ、ハルヒ。もう手の中におさまらん」
「うっさい。……もっと触りなさいよ……」
「こうなると、もう連続的に触らなくてもな、こう、間隔を空けてタップするような感じで、ちょんちょんと……」
「ちょっと、キョン! な、なに、これ!」
「ほとんど触ってないだろ。……気持ち良さそうだな、ハルヒ」
「気持ちいいなんて、うそ、…・・・ちょっと、だめ!」
「胸だけじゃなくて、脇腹から腰骨あたりまでタップしてくと……とん、とん、とんと……どうだ?」
「やばい、ぜんぶ胸に、つながってる、みたい。これ、いい。……気持ちいいよお」
失神寸前まで身もだえさせられ、中断される。このサドキョン! こういうときまで素直じゃない。
「今のでイっちゃ、もったいないもんな。心配すんな。後で、入れてから、使ってやる」 …………
………
……




あの、ハルヒさん?
「なにげに『さん』づけね、何よ、キョン?」
これって、あの『わっふる』コーティングされる前の?
「そ。あれだけ克明な夢だったから、思いだせるかな、とおもって書き出したら、すらすら出てきたわ。約束通り、あんたには読ませてあげたわけ」
「そんな約束しとらん」
「全部読んでから言うセリフじゃないわね」
「……これ、他の奴には?」
「見せてないわ。もっとも夢の中では、そのかぎりではないけど」
長門に、古泉……。あいつら。
「……にしても、書きすぎだぞ」
「なによ、所詮はフィクションじゃない。……まあ、全くのフィクションって訳でもないけど」
「あのな、ハルヒ、……。ここまで書いて、俺に読ませて、それで『フィクション』で済むと思ってんのか?」
「へ?」

わっふる、わっふる、わっふる




〜おしまい〜







































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