ハルヒと親父 @ wiki

親父抜きの大晦日その後^2

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haruhioyaji

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 「お、キョンか?雪だるまになったそうだな。悪いことをした。ノートパソコン? ああ、構わん。好きなのを使ってくれ。別に、MIKURUフォルダもHARUHIフォルダもないから、遠慮するな。あと、悪いことは言わん、NAGATOフォルダには手を付けるなよ。冗談だ」
 おれは悪質な冗談を華麗にスルーし、借りうけたノートパソコンをキッチンに持ちこんだ。
「親父、OKしたの?」
「ああ、本を貸してくれ」
 親父さんが断るとは全く思わなかったが、これくらいはOKしてもらわないと雪だるまが夢まくらに立つと思うぞ。
 おれはネットで検索し、この小さな「フランス料理のバイブル」が、1902年にオーギュスト・エスコフィエが書いた、料理人の大きなバイブルである「Le guide culinaire ル・ギッド・キュリネール(料理の手引き)」という本を、弟子の二人が覚え書き+ガイドブックとして簡略化したものであることを突き止めた。大きな方のバイブルについては、テキスト・データを見つけ(古い有名な本でよかった)、そいつの該当箇所を翻訳サイトに流し込んだ。
 案の定、珍妙な日本語が吐き出されるが、本命はこっちじゃない。続いて、おれはハルヒのお母さんによって付箋がつけられた料理名と素材名をキーワードにして検索をかけた。
「どう、キョン、いけそう?」
「ああ。この本、すごいな。検索で見つかるほとんどのレシピが、この本とそっくりだ。つまりはパクリかアレンジってことだな」
「で、肝心の分量は?」
「もちろん書いてある。この本とネットがあれば、いくらでもレシピを検索できるぞ」
「ちょっと、見せて。思ったより英語のページが多いわね。これなら、なんとかなるわ」
「プリントアウトするか?」
 どうせパソコンもプリンタも無線LANでつながってる。2階に上がって親父さんの部屋のプリンタの電源を入れてくればいいだけだ。
「そうね。今見たのは覚えたけど、チェックするには紙に打ちだした方がいいわね。レシピ同士の比較もしたいし」
「よし。レシピを見つけ次第、次々印刷するからな」
「あたしは一品目に取りかかるわ!」
 エプロンを着けたハルヒがキッチンへ向かうのを見届けて、おれはネットでみつけたレシピをかたっぱしからプリントアウトした。親父さんの部屋を往復し、打ちだされたレシピの束を抱えて戻ると、その到着を今か今かと待っていたハルヒが、右手にお玉を持ち、空いた左手を突き出していた。
「もう一品目ができたのか」
「たまたま作ったことがあるものだったしね。さあ、次のレシピをよこしなさい!」
「まあ、待て。同じ料理でもレシピが複数ある。どれにするか選ばんとな」
「そんなの“つくレポ”の数が多い方に決まってるでしょ!」
 いや、クックパ○ドじゃないし。
「あとは、写真が付いてるやつで、調理時間の短そうなやつ。今回は時間との闘いなんだからね!」
「わかった。手間と時間がかかりそうなのは除いとく」
といっても、ネット翻訳の頼りない日本語を頼りに、判読して、より分けるのだが。
「整理が済んだら、あんたもこっち来て。レシピは読み上げてちょうだい。いちいち読んでられないから」

 「見事な連携プレイ、さすがハルキョンね」
 お母さんまで、それを言いますか。 どっちかっていうと、重そうな中華鍋を軽々と操る方がすごいと思うのだが。
「テコの原理で力はあんまりいらないの。中華はこの鍋一つでできるし、なにより調理が速いから有利なんだけど、日本料理は材料ごとに別々に煮たりしなきゃならないから、これくらいのハンディは大目に見てね」
 大目に見るもなにも、おせち料理も勝負なんだろうか? しかも和風用の重箱は、すでに半分ぐらい埋まってますが。
「キョン、口より手を動かしなさい! ローストビーフに竹串さして焼き具合確かめて! OKならオーブンから取り出して薄く切る。肉汁はソースにするから捨てないで。」
「お、おう」
 料理は、レシピを読み上げる段階から、おれの手も借りたい段階に入っていた。すなわち、予定されたすべての料理に着手し、いくつかは出来上がって来た段階だ。
 お重に料理を詰めるのは、美的センス+パズル解法力が必要になるらしく、見えないようにする=片付ける、というレベルにいるおれの手に余る。したがって両手を料理用ミトンで防御し、熱いオーブン皿やらを出したり入れたり運んだりが、おれの主要業務となっていた。
 しかし時刻はもう11時30分を過ぎ、キッチン・スタジアムでもないと味わえないような時間に追われる緊迫感が、容赦なくプレッシャーとなって降り注いでくる。しかし逆風こそ追い風と捉える、この天の邪鬼は、自分をピンチに追い込めば追い込むほど地力を発揮するらしい。
 「厳しいかなと、少しだけ思ったけれど、間に合いそうね」
 お母さん、もうお茶を飲みつつ「観戦」ですか?
「言ってなかったけれど、間に合ったら、二人にご褒美があるの。これから頼むんだけど」
「何ですか?」
「キョン、最後まで気を抜かない! 料理は、盛りつけ終わるまでが、遠足よ!」
 いや、全然、遠足じゃねえ! 意味は分かるけどな。
「スキーと温泉、どちらがいいかしら? 両方、楽しめるみたいだけど。ちょっと電話するわね」
 もしかして、親父さんですか?
「そう。なんでも仕事で随分と点数稼いだから、多少の無理はきくそうよ」
 参加メンバーの「多少」が、世間一般で言う「多大」でないことを、今は祈るばかりだ。
























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