まどかを救う。それが彼女の最初の気持ち。
今となっては、たったひとつだけ最後に残った道しるべ。

ただそれだけの為に、何度も何度も、同じ時間を繰り返してきた。
何度も何度も、絶望を乗り越えてやり直してきた。
誰と敵対しようとも、誰と死別しようとも、誰に信じてもらえなくとも。
何度も何度も。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度もーー。

いつも結末は変わらなかった。
まどかが死んでしまうという最悪の袋小路。
そこから引き返して違う道に進んでも、必ず袋小路は現れる。
どこで曲がっても、どこで真っ直ぐ進んでも、それが当たり前だとでも言うように。
抜け出せない、永遠の迷路。
袋小路はいつも絶望だけを叩き付けてくる。
それでも、彼女が大切だから。大切な友達だから、何度でも立ち上がる。
どんなに足が疲れようとも、どんなに心が折れかけようとも。

「ほむらちゃん、過去に戻れるって言ってたよね」
「だからね……お願いがあるの」

数えるのも気が遠くなるほどに同じ時間を繰り返しても、決して薄れることのない記憶があるから。

ーーキュウべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげて……くれないかな。

だから、歩き続ける。
未だ果たせてない約束の為に。





「なん、で……?」

何度もやり直してきた時間の中で、ほむらは少しずつ立ち回りを変えてきた。
同じことをしてもまどかを救えないのだから、当然のことだ。
けれど、結末の他にも変わらないことはあった。
例えば佐倉杏子との対立であったり、美樹さやかの魔女化であったり。
必ずそれらが起こるわけではないが、何度も起きたことでもある。
いつしか驚くこともなく、淡々とそれらの事象に対応できるようになった程には、大同小異の時間を駆け抜けてきた。

けれど、けれど。
こんなことは知らない。
あまりにもイレギュラーな事態。
殺し合い? 首輪? パレス?
そんなの知らない。今まで一度だって、こんなことは起きなかったのに。


「まどかと殺し合え? 冗談じゃないわ……!」

まどかもあの空間にいたのを見た。
ほむらの大切な友達。ほむらが戦い続ける、唯一にして最大の理由。
そんなまどかと殺し合うなど、これまでの時間を全て無に帰すも同然のこと。
言われるままに殺しに走るわけがーー

(……いえ、待って)

自分自身はまどかを殺さなければならない道など選びとる気はない。
けれど、もし願いを叶えるという姫神の甘言に惑わされた者がいれば、もし殺戮を望む根っからの狂人がいれば。
そして、そんな者たちの凶刃が、魔法少女の契約をしていない、いたって普通の女子中学生の今のまどかに向かってしまえば。
どうなるかなど、分かりきっている。

(まどかを探して、なんとしてでも守らなきゃ……)

他の誰がどうなろうとも、まどかだけは守らなければならない。
これまでだって、何度も通り過ぎていった命があった。助けられなかった命があった。
それでも止まらずに駆け抜けてきたのだ。ただひとり、まどかの為に。
殺し合いだろうとなんだろうと、やることは変わらない。


決意と共に混乱が収まりつつある頭で、もうひとつ考えることがあった。
姫神葵というあの男。
性別からしても、魔法少女や魔女のような力など持っているはずがない存在。
にも関わらず、あれだけ多くの人数に干渉し、あまつさえ時間を操る力を持つほむらすらも気付かない内に連れてきてしまった。
そんなことができるということは、ほむらの聞いたことがない、未知の力でも持っているのではないか?

繰り返してきた時間の中で触れることがなかったその力を知ることができたら、近付くことができたら。
まどかを救う足掛かりにできるかもしれない。
例えこの殺し合いを生き抜いて見滝原に帰れたとしても、待ち受けるものは何ひとつ変わらないのだ。
まどかの強い力に目を付けているキュウべえと、最強の魔女ワルプルギスの夜。
これらに同時に抗える可能性やヒントがあるのなら、その道を模索しなければならない。

(この殺し合いを開く為に使われた力を紐解いて、魔法少女と魔女のサイクルよりもエネルギーを効率よく集められるようにできるなら)
(その力が、ワルプルギスの夜をも倒せるほどのものだったなら)
(まどかを救うことができるはず)

殺し合いを開く為に使われた力が目的に沿ったものである保証はない。
けれど、これまでの道になかった新たなしるべに、どうして手を伸ばさずにいられよう。
たったの1%に満たなくても、例えそれが自分の身を滅ぼす選択肢だとしても。
まどかの為なら、迷わず掴み取る。

優勝者の願いを叶えるという言葉は当てにしない。
報酬をちらつかせることで殺し合いに乗る者を増やすという、詭弁でしかない可能性も十分にあるのだ。
そもそもまどかを殺すわけにはいかないし、話が本当だとしてもほむらの途方もない歩みを知らないまどかを優勝させたところで、その先の結末はきっと変わらない。
ならどうするか。

「まどかを保護できたら……その後は、あの主催気取りとコンタクトを取る方法を考えなきゃ」

直接、姫神葵との接触を図る。
そして、魔法少女とは異なる力についての情報を引き出す。
この殺し合いには、恐らく別の目的があるだろう。
ただ人々の殺し合う姿を見て愉悦に浸りたいだけならば、まどかのように心優しい者や、姫神に反抗の声を上げた坂本という少年のように正義感の強い者などは呼ばず、血の気の多い人間ばかりを集めればいい。
何より、一度参加者を全員集めたにも関わらず、こうしてバラけさせる必要がない。
あくまで仮定ではあるが、当たっているならば、目的への協力と引き換えに彼の力の情報の引渡しを求める、などの取引を持ちかけることも可能のはず。

(待ってて、まどか。今度こそ、新しい道を拓けるかもしれない。あなたを救う道に辿り着けるかもしれない)

ふと、潮の香りに気が付く。
目的がはっきりしたことで、ようやく周囲を見る余裕を取り戻せたようだ。今自分が立っているのは港らしい。
眼前に広がるのは、ただひたすらに伸びていく真っ暗な水平線。
か細い月明かりしか映さない。道しるべもない。縋れる藁すら浮かんでいない。

「……上等だわ」

出口の見えない迷路よりも抜け出すのが困難であろう、暗闇だけを湛えた海を見て呟いた。

ザックを開いて、地図を取り出す。
四方を全て海に囲まれているが、港があるのは1ヶ所のみ。現在地は西の端で間違いないだろう。
次に手に触れた銃を取り出し、角度を変えながら数度構えてみる。
何度か使ったことがあるものであるため、それなりに手に馴染む。これならまどかを守ることもできるだろう。

潮風がひとつ吹き、濡羽色を揺らす。
少し肌寒かったけれど、銃を握る手が震えることはなかった。





ねえ、まどか。
多くの人が巻き込まれてるのにあなた以外の命を見ていない私を、あなたはどう思うかな。
優しいあなたのことだもの、きっと咎めるでしょうね。

でもね、私はあなたを救う為だけにここまで来たの。
たったひとつのその想いが潰えた時、私はきっと私でいられなくなっちゃうから。
あなたを理由に魔女になるなんて、嫌だから。
そうなったら、あなたもきっと絶望するから。
だから。

私にあなたを守らせて。



【C-1/港/一日目 深夜】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品 不明支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しないと。


【支給品紹介】

【89式小銃@現実】
アニメ本編でも暁美ほむらが使用したことのある銃。自衛隊などで制式採用されているものと言えば分かりやすいのではないだろうか。

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暁美ほむら 036:Nocte of desperatio
最終更新:2021年04月04日 19:39