鋼人七瀬を取り扱うサイトの掲示板、
 と言う舞台で始まった、嘘ばかり塗り固められた虚構の推理。
 どのような嘘で鋼人七瀬を倒すのか、その顛末を弓原紗季は見ることはない。
 戦いの最中に、姫神葵と名乗る人物による殺し合いの舞台へと招かれた彼女には。
 怪異を前にしたお陰かせいか、冷静にこの状況を把握できてる方だ。

(六花さんの策……にしては、
 彼女一人では規模が大きすぎる。)

 鋼人七瀬を突破されることを危惧して、
 六花が用意していた予備の策……と、彼女はそう捉えるが、
 彼女が持つ未来決定能力は、あくまで起こりうる未来から決定するもの。
 あの状況から自分を気づかれずに拉致し、一度殺し合いのルールの説明をして、
 さらにもう一度気づかれないまま、今いる公園までの状況へ持ち込む。
 幾ら未来決定能力があるとしても、とてもできる所業とは思えなかった。
 やはり考えられるのは、あの姫神葵の言葉通りて考えるべきだろう。
 姫神葵の裏に、彼女がいないとはとても思えないが。

(まずはこの首輪を何とかしないと、話が進まないわね。)

 考えるべきことは多いが、目先の問題と言えばこれ一つに尽きる。
 何をするにしても、首に巻かれたそれが文字通りのネックとなるのだ。
 これがあっては、抵抗しようにも相手は生殺与奪の権利を握っている。
 怪異と言ったオカルトとの戦いから一転、こんな機械を相手することになるとは。
 交通課と言えども警察官。名簿と地図は頭に入れ、二人がいることも把握済みだ。
 岩永の頭脳ならば、ある程度の解決策を見出している可能性は少なくともあるだろう、
 特に彼女は疑心暗鬼の多いこの殺し合いで、信用できる相手を見つけられるのは大きい。
 一方で、不死である筈の九朗が参加していることや、鋼人七瀬まで名簿に載っていたりと、
 疑問やら嬉しくない情報もいくつか舞い込んでたりはするが、そこは一先ず保留とする。
 彼女が目指す場所は、二人が向かいそうなB-2、真倉坂市工事現場。
 七瀬かりんの遺体が発見された場所で、二人も同じように探しているなら、
 この地図上で最も縁ある此処に向かっている可能性は、十分にあるはずだ。
 鋼人七瀬の存在がいるとなれば、悠長に行動している場合ではない。
 余力を残しつつ走るが───

「!」

 公園から響く嵐の如き騒音が、足を止めさせた。






 佐倉杏子にとって、人の生死については見慣れたものだ。
 グリーフシードの為に魔女に成長するまで放っておけば、
 確実に死者が出てくるのだから、当然と言えば当然だ。
 今回の殺し合いも、ある意味似たようなものなのは間違いない。
 得るものの為に、他人を犠牲にしろ。全く変わらないことなのだが、

「ふっざけんな!!」

 いかんせん、そのタイミングが最悪に等しかった。
 今の彼女は荒れに荒れて、そこら中の物にその槍を振るう。
 なぜ、こんなことになっているのか。時間を少し遡らせよう。

 度重なる不運と言うべきか、
 他人の為に戦う彼女だからとでも言うべきか。
 それが原因で、魔女化してしまった美樹さやか。
 助けるべく、杏子はまどかと共に、文字通り命を賭して臨んだ。
 しかし、現実はそんな彼女の想いを汲み取ることはない非情。
 まどかの言葉も届かなければ、魔女となった彼女を前に満身創痍となっていく。
 そんな戦いの最中、彼女は一人呟いた。

『頼むよ神様……こんな人生だったんだ。
 せめて最後ぐらい、幸せな夢を見させて……』

 願った先、辿り着いたのが姫神葵がいた場所。
 祈りの先が、神様が与えてくれたのが───これだ。
 幸せな夢を願って与えられたものが殺し合いだと言うのか。
 先ほどのルール説明の際は状況のせいで唖然としてしまったが、
 冷静さを取り戻せば、こんな結末に彼女が激怒するのは当然の帰結だ。
 もし最初から理解が追いついていれば、真っ先に姫神に突撃していただろう。
 今や自販機やら、植え込みやらに八つ当たりし、見事に荒れている状態だ。
 植え込みはあたりに散らされ、木々には槍による裂傷が無数に刻まれ、
 自動販売機も側面がひしゃげたり、酷い有様だ。
 彼女の心情を表しているのかもしれないが、
 この舞台でそれは、悪手の一言に尽きる。

 人気のない場所でそんな行動を取れば、どうあっても音がそこら中に届く。
 近くにいた紗季にも当然届くし、街灯のせいでお互いの姿もはっきり見えた。

「あ。」

 彼女の存在に目が合って、ようやく冷静さを取り戻す。
 話は聞き流しかけてたが、大雑把な内容は把握している。
 殺し合いの場で、こんなことやってる奴へ抱く印象は一つしかない。
 目が合った瞬間、紗季は余力なんて言ってる場合ではなく全力で走る。
 相手は子供ではあったが、あの槍を掻い潜って組み伏せるのは難しい。
 対抗しうる手段を確立してない以上、相手にせず逃げるのは得策だ。

「ちょっと待て! アンタ絶対誤解してるだろ!!」

 全力疾走で逃げる彼女は絶対誤解している。
 この先出会った奴にあることないこと言われては困るので、
 杏子もまた全力で彼女を追いかけた。



 大人と子供と言えど、杏子は魔法少女。
 すぐに追いついて、誤解を解くことに成功する。
 一先ず落ち着けるよう公園の椅子に座って二人は話し合う。
 暴れてた理由も(隠すと後が面倒なので)しっかり話すが、

「魔女に、魔法少女……頭が痛いわ。」

 眉間にしわを寄せながら、紗季は軽く頭を抱える。
 既に怪異だけでも、十分頭が痛くなるような内容なのに、
 今度は魔法少女とオカルトではなくファンタジーときた。
 短期間で怪異に慣れてしまった以上、すんなり受け入れられる。
 すんなり受け入れられる自分の慣れは、少し嫌に思うが。

「ところで、そのさやかって、もしかして美樹さやかのこと?」

「ん? あいつのこと知ってるのか?」

「いえ、参加者の名簿に名前があって───」

「は!?」

 困惑する彼女に名簿を見せ、
 その名前が記されてることを教える。
 ぶんどるように名簿を取られ、杏子は他の参加者も確認していく。

「どういうことだよ……」

 全員の確認を終えれば、疑問の連続だ。
 さやかだけでも驚きだと言うのに、
 既に故人であったはずの巴マミまで名を連ねている。
 それも、同姓同名の可能性を否定させる顔写真付きで。
 一般人のまどかの参加の方も、彼女としては違和感があるが、
 かたや魔女、かたや死人。一般人と比べるとインパクトが違う。

「あんなのいたら殺し合いどころじゃなくなるぞ。
 この名簿、騙すための偽物って可能性はないよな?」

 魔女になった彼女がするのは殺し合いではなく、
 もはや一方的な蹂躙になるのは想像するに難くない。
 倒す目的であるならば、まだ勝ち目はあるだろうが、
 それは自分かほむらぐらいで、他に勝てる要素があるとは思えない。
 あの場で回りを見ていなかったのもあって、偽の名簿に感じてくる。

「多分だけど、それはないと思うわ。」

「理由は?」

ルール説明の時に、啖呵を切った人がいたんだけど、
 彼が怪盗と指摘されて動揺した時、呆れた声がしたわ。」

 僅かに聞こえた、呆れた声。
 相手をよく知っていなければ出さないだろう。

「で、その知り合いってのは誰だったんだ?」

「……猫、でいいのかしら。」

「猫。」

 声がした場所にいたのは黒猫だけだったそうだ。
 猫が喋るのを想像して至るのは、キュウべぇの仲間の類。
 似たようなものであるならば、それは頷ける。
 念のため名簿を見るが、猫は参加していなかった。
 猫っぽい何かはいたが、顔写真では判断がつかない。

「ってことは、意図的に知り合いを集めてるってわけか。」

「多分、一つや二つのグループじゃないのかも。
 人数的に、グループは八つぐらいあるのが妥当になるわね。」

 小林と言う名も二人ほど参加していることから、
 ある程度参加者はグループ分けされてるのは事実だろう。
 もっとも、その小林の一人はさん付けで本名が記載されてないし、
 刈り取る者と言う、名前と言っていいのか怪しいのもいるが、
 その辺は考えてもしかたないので、今は放っておくことにする。

「……あれ?」


 此処で紗季は、あることに気づく。

「どうした?」

 彼女は名簿を読み終えた。
 つまり、参加者の名前は全員目を通したはず。
 ならば何故、

「一つ尋ねるけど、貴方───鋼人七瀬は知らないの?」

 鋼人七瀬の名前を見て、素通りしているのか。
 あの都市伝説は、多くの人へと根付いた虚構の存在だ。
 興味がない、と言っても名前くらいは知っててもおかしくはない。
 そのはずなのに何もない。彼女は鋼人七瀬の名前を出さずに話が進む。
 そこに彼女は引っかかりを感じて尋ねた。

「鋼人七瀬? えーっと……うわっなんだこれ。魔女か何かか?」

 名簿を見直してみると、
 黒く塗り潰された顔写真に嫌そうな顔をする。
 完全に知らない反応。それどころか、魔女と言う誤認さえしていた。
 お互い別の世界の住人なのだから当然と言えば当然だが、
 気づける要素が現状余りないため、そこに到達はできなかった。

「あんた、これが何か知っているのか?」

「長くなるから簡潔に説明するけど……」

 此処で隠す理由も特になく、鋼人七瀬について語る。
 噛み砕いた説明の為、色々抜けていることはあるのだが、

「妖怪に怪異って、あんたの方も大概だな。」

 魔法少女の話をしても信じられるか疑っていたが、
 蓋を開けてみれば、相手もそれに近いものと縁があったと言うわけだ。

「ええ、そうね、否定できないわ……」

 ごもっともな意見に紗季は目を逸らす。
 ああいった存在が見えないだけで存在していた。
 そう思うと正直鳥肌が立ってくる。

「悪いけど、ニュースとかネットにも疎いし知らないな。
 魔女と同じで厄介みたいだが……まだ倒せる可能性、あるんじゃないのか?」

「どういうこと?」

「姫神って奴は、此処だと使えなくなる能力もあるって言ってたんだよな?
 噂がないと形を保てないやつが、こんな場所でも保つのも結構無理がないか?」

 見知った仲間を優先してたのもあったことだが、
 彼女が虚弱になってる可能性に、紗季は見落としてた事に気づく、
 噂で形を成す彼女は、このパレスではあの時程の脅威ではない可能性。
 噂と言うバックアップがあるか怪しい今は、彼女を倒せる可能性があるのは僥倖だ。
 無論、六花がこの殺し合いに関わってるのは状況からして明らかなこと。
 殺し合いを加速させるための要員を、態々弱体化させるかは怪しいところだ。
 相手の全貌は把握できてない以上、逆に強化してる可能性だってありうる。
 一方で元々の予定である、虚構で築かれた推理自体も今や使えるかは怪しい。
 仮にできたとしても、あの時と違って今度は何人が殺し合いに乗るか分からない状況。
 長々と掲示板に書き込んでいる暇があると言えるほど、穏やかな状況でもない。
 (元より、この状況においてネットに繋がるかどうか、と言う問題もあるだろうし。)
 慢心と言うよりは、その可能性に賭けるしかないと言うべきか。

「……それでも、九朗君達を探すべきね。」

 倒せる可能性があると言う収穫は大きい。
 だが、問題は彼女を倒すだけの戦力をどうするか。
 一体どれだけの戦力を以ってすれば倒せる程なのか。
 逆に検討がつかず、何より信用できるかどうかの問題もある。
 今回はたまたま信用できただけで、次もそうとは限らないのだ。
 同じように、誰かと行動してる二人を探すべきなのかもしれない。
 特に頭に回る岩永なら、疑わしい人物を連れているとは考えにくいのもある。

「あたしだけじゃ不満か?」

「そういうわけじゃないけれど、
 貴方の知り合いの、さやかって子のことも考えると、
 鋼人七瀬を倒すだけに力を使うわけにもいかないわ。」

 何も、鋼人七瀬だけが敵と言うわけではない。
 魔女になった人物や、他の参加者のことも吟味すると、
 石橋を叩いて渡るぐらいが丁度いいだろう。

「だったら、見滝原中学に行ってみるか?
 アタシの知り合いが通ってた学校なんだよ。」

 自分以外の知り合い全員が通っている中学。
 紗季が二人を探しに工事現場に向かったように、
 もしかしたら、そこに知り合いがいるかもしれない。
 できることなら、人の姿であるさやかがいてくれると嬉しいが、
 なんてことを思いつつ勧めてみる。

(魔法少女……この状況だと重要かもしれないけど……)

 戦力的には申し分はないだろうが、問題は場所。
 距離的には工事現場とそう違いはないものの、方向は逆だ。
 どちらかを行ってからだと、確実にもう一方は大幅に時間を食う。
 その間にもう一方の目当ての人物が、その場から動いてない可能性は皆無。
 推測だが、鋼人七瀬以外にも殺し合いを加速させるための参加者がいるはず。
 襲われないとは断言できないし、一か所に留まって解決できる状況でもない。
 どちらを選ぶべきか考えてると、

「……何を、しているの?」

 少し変形してしまった自販機を、杏子が漁っている。
 別におかしいことはないのだが、腕を突っ込んで伸ばしており、
 明らかに買ったものを取り出しているようには見受けられない。

「いや、この自販機さっき暴れて蹴ったからな。
 壊れて出てくれたらラッキーだったんだが、そううまくもいかねえか。」

「普通に犯罪だからね、それ……後これ、無料で使えるみたいだけど。」

 自販機の横に、倒れた看板がある。
 『一人一回無料』と書かれており、
 多分、先程彼女の癇癪の被害で倒されたのだろう。

 試しに缶コーヒーを……と思ったが、あるのはジュースだけだ。
 仕方がないので適当なジュースを選んで押すと、普通にでてくる。

「変なところで用意がいいな。」

 どうやって一人一回を認識してるのか、
 色々突っ込みたいことはあるが、今は気にしないでおく。
 適当にジュースでも選ぼうかと彼女も続けてボタンを押した。

「それで、アタシは見滝原中学へ向かうけど、アンタはどうする?
 誤解させたのは悪いけど、色々ほっとくわけにはいかねえからな。」

 杏子の言うことはもっともだ。
 自分と違って死んだ人と魔女になった人がいる以上、
 此方に付き合ってもらうよりも、優先するべき理由がある。
 答えは決めている。同行するか、しないで九朗達との合流を狙うか。

 勝てたはずの勝負も、
 負けたはず勝負も白紙にされた二人。
 白紙になった二人の辿る道は、今から書き起こされる。
 さやかと言う不要な不安要素を、自分達で作りながら。

【D-3/負け犬公園/一日目 深夜】

【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1~3、ジュース@現地調達(内容は後続の方にお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:合流の為工事現場か、戦力的に見て見滝原中学か
1:九朗君、岩永さんとの合流
2:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
3:魔法少女、ねぇ…

※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1~3 ジュース@現地調達(内容は後続の方にお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
4:可能なら、何処かでまどかを見つけて保護しておく

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
 大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました


※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
 実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません



※D-3、負け犬公園は荒れた状態です
 派手に暴れたので誰か聞いてるかもしれません
 自動販売機は今のところ問題なく機能してます
Back← 006 →Next
005:異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) 時系列順 007:不安の種
投下順
佐倉杏子 034:本当の気持ちと向き合えますか?
弓原紗季
最終更新:2021年03月04日 10:07