「は、はは……殺し合い、か……。」
笑えない冗談だと思った。いつの間にか見知らぬ空間にいたと思ったら殺し合うことを命じられ、日本での友人の首が文字通り跳んだのだ。今なら全部夢であったとしても信じられる。というよりも夢であってほしかった。
鎌月鈴乃。本名はクリスティア・ベル。異端審問、並びに暗殺、それら教会の闇を担当してきた彼女にとって、死は常に日常と隣り合わせであった。
殺しによってしか開けない道があるのなら殺してみせる。周りが己の害悪足りうる可能性があるのであれば先手をうって殺すことにも躊躇はない。人間と魔族の闘争の絶えないエンテ・イスラの民ならばその程度の覚悟はできている。他者の死に今さら心を動かされることなどない。
そう、思っていたのに。
「……それでも。彼女は……彼女だけは……関係無いではないか……!」
見せしめと言わんばかりに殺された少女、佐々木千穂。平和な日本で、闘争とは無縁に生きてきた彼女が殺されなくてはならない理由なんてひとつも無い。やはり彼女を巻き込んではならなかったのだ。本人の反対など押し切って記憶を消し、関わりを絶つべきだったのだ。
身を駆り立てる焦燥感を押さえ込み、力任せに大地を踏みしめることで何とか冷静さを取り戻す。
確かに千穂殿の死に理由はない。しかし、意味ならばあるかもしれない。千穂殿が死んだことにより、千穂殿の知り合いである自分を含めた5人にとって、この殺し合いに対する意識は日本ではなくエンテ・イスラの時のものに引きずり戻されてしまった。
そしてそれ自体は、この上なく私に都合良く噛み合っていることに気付いた。
例えば同じく殺し合いに巻き込まれている魔王サタンとその側近、アルシエルとルシフェル。彼らを片付けるのは私が日本の地に降り立った目的そのものだ。それを躊躇させていた要因は様々であったが、その代表格が千穂殿の存在だった。真奥を慕い、恵美とも友好関係があった彼女がいたからこそ日本の人間の価値観に基づいて魔王討伐を果たす必要が生まれ、その結果様子見という判断が下された側面は間違いなくある。
だが千穂殿が死んだことで、魔王討伐を妨げるものは無くなった。
遊佐恵美こと勇者エミリアと殺し合う必要は無いが、これには理由はある。彼女が死ねば天使による聖剣回収が果たされない可能性が高い。天使に直接逆らうことはできないが、私の信仰対象でありながらその信仰を根本からへし折ってくれた憎き奴らの目的を遠回しに挫けるのなら、それはそれでこの上なくいい気味というものだ。
考えれば考えるほど、この環境は私が殺し合いに乗ることを肯定している。聖剣の勇者と魔王が異世界で滅び、エンテ・イスラは何事もなかったかのように平和になる。大嫌いな天使たちの目的も果たされない。だったらそれでいいじゃないか。デスサイズ・ベル―――私のかつての二つ名だ。教会に反する異端者を冷酷に殺すその姿からつけられたらしい。
「これが私の運命だと、そういうことなのだろう。」
二つ名が実態を反映しているなどということはなく、私は殺したくなんてなかった。だけど、私のそんな心を殺して人を殺めることはもう、とうに慣れている。
任務をこなし、個人的な復讐まで遂げるまたとない機会だ。魔王も勇者も殺してみせる。その過程で関係ない人々を殺すとしても。そう、彼らに出会うまでやってきたように―――
「―――泣いてるの?」
それは、殺し合いを決意した矢先の出会いだった。出会い頭に荒唐無稽な言葉を投げかけてきたのは、見たところ何の変哲もない年端もいかない女の子。名簿によると、小林カンナという子だ。
泣いているだと?この私が?
すぐに殺しても良かった。だがその言葉を無視することができなかった。
「有り得ないな。」
ああ、有り得ない。デスサイズ・ベルの異名は飾りではない。どんな辛い殺しも、これまでポーカーフェイスでこなしてきた。
ましてやターゲットは、方や人間にとっては殺しにかかる方が自然である魔王の軍勢。方や親交を深める期間は1年にも満たない勇者、たった一人。今さら涙なんて流れるはずがないさ。
「……ううん、泣いてる。」
本当に、有り得ないことなんだ。だから。
「大事なもの、まもりたいって顔してる。トール様と同じ。」
もう、心の底を見透かすのはやめてくれ。
「何が悪い。」
我ながら大人気ないものだと思いながらも、都合の悪い言葉に蓋をするように口当たりが強くなる。
「殺したくなくて……何が悪い……!」
本音なんて戦場では何の意味も持たない。殺さなくては生きていけないし、奪わなければ居場所を奪われる。当たり前の話だ。殺したくて殺す奴なんて滅多にいないんだ。
「悪くない。」
「……じゃあ、どうしろというんだ。」
その問いに、カンナは黙り込み、暫しの時間が経つ。ここが潮時か、と懐からひとつのロザリオを取り出す。
「……武身鉄光。」
十字架の形をしたものを大槌へと変える鈴乃の能力。普段使っている簪は没収されているようだが、その代用となる装身具によって普段と遜色ない実力を―――殺傷能力を鈴乃は宿していた。
カンナの頭を一振りで砕こうとした、その時だった。黙り込んでいたカンナが何かを思いついたように手をポンと叩いた。顔を上げ、そして平坦な声で言った。
「新勢力、つくる。」
「……え?」
予想だにしなかった言葉に、鈴乃の動きがピタリと止まる。
「トール様とエルマ様は勢力が違うから、混沌勢と調和勢で殺し合ってる。でも、ホントは仲良し。殺し合いたくない。」
トールもエルマも名簿で見た名前だ。きっとカンナの知人の話なのだろう。だけどその話は、どこか他人事に思えなかった。
「だから私が新勢力、カンナ勢をつくる!殺し合いはやめて、みんなカンナ勢に入って仲良くする!そして姫神……みんなで倒す!」
その目はどこまでも真っ直ぐで、そして無垢であった。世の中のわだかまりを知らない、言ってしまえば戯れ言だ。
「でも新勢力、すぐ潰される。強くならなくちゃいけない。だから……」
そう、耳を貸すのも馬鹿馬鹿しい理想論。しかしそれは、鈴乃の脳裏に一人の少女を浮かばせた。
『―――私は…私が好きな人達みんなが仲良くなって…ずっと一緒にいられたらいいなって思ってるだけですから。』
魔王と勇者が手を取り合う未来を本気で信じ―――それが叶うより先に殺された一人の少女。しかし、どうしてだろうな。向こうの世界を知らないからこそ言えたに過ぎない、その程度の言葉でしかないはずなのに。彼女の言葉には縋りたくなる『何か』があった気がするよ。
「……スズノも手伝って!みんな一緒にいたら、きっと楽しい!」
「一緒に……か……。」
楽しい……この上なく単純な動機だ。それが子供特有の幼さ故の現実逃避だったら、着いていく価値は見出さなかっただろう。
しかしカンナの言葉はそれではなかった。幼いように見えるその姿の裏にある『カンナカムイ』として生きた途方もない時間。それを鈴乃は感じ取ったのかもしれない。
「……分かった。」
そして鈴乃は思い出した。勇者と魔王と日常を共にする日々は―――使命だとか宿命だとか、そんな一切合切を抜きに楽しかったんだ。
「私も……協力させてくれ。」
「ホント!?」
(ああ。宿命なんかに縛られなければ……きっとアイツらだって幸せに……。)
日本には『言霊』という概念があるらしい。曰く、魔法の詠唱でもない、ただの言葉にまで不思議な力が宿るのだとか。
実在する神も天使も知らずして信仰心だけは抱いているのも含め、日本の人間はつくづく奇怪な文化を形成しているものだ。前までの私であれば一笑に付していたところだろう。だけど、今なら信じられるよ。
千穂殿、信じてもいいだろう?そなたの言霊が、そなたの大好きな人達を殺そうとしていた私を止めたのだと。
千穂殿の言葉は私が継ごう。勇者も魔王も手を取り合える世界は私が築いてみせよう。だから……安心して眠ってくれ。
【C-4/池周辺/一日目 深夜】
【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0~2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.カンナ勢か……。
二.千穂殿、すまない……。
※海の家に行った以降からの参戦です。
【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0~3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.トール様もエルマ様も、カンナ勢に入る!
※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。
【支給品紹介】
【魔避けのロザリオ@ペルソナ5】
鎌月鈴乃に支給されたアクセサリー。魔法回避が少し上昇する効果を持つ。十字架の形をしたものを大槌に変える『武身鉄光』により、鈴乃は同効果を保持した武器として扱える。
最終更新:2020年07月19日 14:20