例えば三千院の遺産相続のためにロトの鍵という文字通りのキーアイテムを捜索している最中、突然ワケの分からない場所に送られたり。例えば『殺し合いをしろ』などと、幾度となく使い古されたであろうシチュエーションに自分が巻き込まれていたり。例えばヒナギクの隣にいた女の子が目の前で殺されたり。例えば―――そんな残虐極まりない行為の主が他でもない、己の昔の執事であったり。

「なっ……なんなのだ!一体何が起こっていると言うのだ!!」

 とうとう堪えきれず、堰を切ったように三千院ナギは現状への困惑を吐き出した。

 幼い頃から三千院家の遺産を狙う殺し屋を退けながら生きてきたナギは、同年代の少年少女と比べて圧倒的に多くの修羅場を経験している。
 それでも13歳の少女がこんな催しに巻き込まれて平静でいられるはずがない。姫神葵―――どんなときでも側にいて、オレがお前を守るなどと言っておきながらアッサリいなくなってしまった男である。いなくなるまで姫神のことは、使用人を傍に置くのを嫌う自分が執事として身の回りの世話をするのを認めるくらいには信頼していた。そんな男が一転、自分を死地に叩き落としている現状。ナギからすれば困惑するなという方が無理な話であった。

 気ばかりが焦る状況下、ナギはひとまずいつの間にか持っていたザックを開いてみることにする。それは現状把握に必要な行いであるが、一方で暗い所を嫌うナギの現実逃避地味た行為でもあった。

「こっ……これは……!」

 たった一つ、そこから出てきたのは。まさに『殺し合い』を象徴するがごとく佇む遠隔武器―――


「ふおおっ!やはりこれは殺し合いなのだな……こんな恐ろしいブツまで……」


―――パチンコであった。


「……って……ア、ホ、かぁーーーー!」

 ちゃぶ台でもひっくり返す勢いでナギは怒りという名のツッコミを撒き散らした。

「なんなのだパチンコって!どこのウ〇ップだ!こんなので殺し合いとか、無理ゲーすぎるわ!」

 ツッコミに疲れ、息を切らし始めたナギの脳裏に次に浮かんできたのはひとつの仮説。この悪趣味な催しは全てあのジジイ―――三千院帝によるドッキリか何かじゃないのか、と。

 会場となっている一つの島も三千院家の財力があれば余裕で買い取れるし、何より私への嫌がらせに莫大な予算をつぎ込むジジイのことだ。このくらいの演出であれば本当にやりかねな い。

「……いや、違う。」

 しかしその仮説は、続いてザックから出てきた参加者名簿を読むや否や棄却された。

「お前も……いるんだよな。ヒスイ。だったら……」

 その理由は名簿に書かれた初柴ヒスイの名である。どこか畏怖や羨望にも似た憧れの対象だった幼なじみであるヒスイについて、自分は多くを理解できていない。だが少なくともあのジジイの茶番に付き合うような性格じゃないことは分かる。彼女が参加している地点でこの催しは三千院家の遺産を賭けた真剣勝負を意味することに他ならない。ドッキリでないと分かれば自然に、これから始まるのが殺し合いの名が示す通り、命の取り合いであるのだと理解が追いつく。

 しかしそうなればマリアも招かれているのは不可解だ。これが本当に殺し合いであるのなら、ジジイがお気に入りであるマリアを参加させるはずがない。

 となればもしや、この催しにジジイは関与していないのか?だとしたら自分は今、とんでもない命の危機に晒されているのではないか?

 夜の暗闇が不安や焦りを増長させる。ぐるぐると、マイナス思考ばかりが頭の中を駆け巡る。

 過去にも途方もない恐怖に陥ったことはある。ロボットに殺されそうになった時。宇宙に飛び立った宇宙船の中に取り残された時。そんな時、自分はどうしていた?

 ふと、思い出す。そうだ。こんな時は―――

「ハ……」

―――奴の名前を、呼べばいいんだ。

「ハヤ―――」
「静かにしろっ!」
「―――むぐっ!?」

 その名が、最後まで呼ばれることは無かった。パチンコへのツッコミの声を聞き付けて、背後より瞬時に忍び寄ったひとつの黒い影によって、ナギの口が塞がれたからである。

「モ……モガッ……!ふぁ……ふぁいをふうっ(なにをするっ)!」

「いいから冷静になれ。敵がどこで耳を潜めてるかもわからねーぞ?」

 耳打ちを受けて、ナギはハッとする。確かに自分は殺し合いを命じられた身。自分たちの未来に関わる大事な話の時には何度も電話がかかってきたり、遺産相続の権利を巡る最終ゲームを始めようとした時にはその鍵を紛失したり。どこかシリアスになれない今までの癖が染み付いていたのかもしれない。

 背後の人物が自分を襲ったわけではないと悟り、抵抗をやめるナギ。それを見て冷静になったと判断したか、向こうもナギの口から手を離す。

「あ……ありがとう。助かっ…………え?」

 お礼を言うためにナギは振り返る。しかしそこにいたのは、少なくとも『人物』と言い表すには些か人のかたちをしていないイロモノだった。知っている動物で言い表すなら、猫。しかし既知の猫とも微妙に異なる、言うなれば化け猫の類だ。

「なっ、なんなのだお前ぇ!!」

 ナギは後ずさる。紆余曲折を経て、結局冷静ではいられなかったようだ。周りに声を聞きつけて襲撃してくる人が居なかったのが不幸中の幸いか。

「む……ビビらせちまったか。まあこの見た目じゃ仕方ないよな。ワガハイはモルガナ。勿論殺し合いには乗ってない。よろしく頼むぜ。」

「あ、ああ……。私は三千院ナギ。よろしく。」

 息を切らしながらしばらくキョトンとしていたナギだが、思いのほかあっさりとモルガナの見た目を受け入れる。非科学的なものに直面した時はとりあえず受け入れるのが丸いとナギは少しおかしな日常からくる経験則で悟っていた。

「ところでナギ。そのパチンコなんだが……」

「む、これか……?私のザックに入っていた。」

 姫神からの嫌がらせであるかのような措置にナギは不機嫌そうな顔を見せるが、対するモルガナはにいと笑っていた。そのパチンコに対する認識が両者で食い違っているのを感じたモルガナは次の話を切り出した。

「そりゃ、こんなもの使い慣れているわけないよな……だったら、取引といこう。」

「取引?」

 そのロマンある単語に目を輝かせながらナギは聞き返す。

「このパチンコはワガハイに使わせてくれ。その代わり、ワガハイがナギをこの世界の危ない奴から守ってやる。これでどうだ?」

 モルガナの見たところ、ナギはシャドウや認知存在ではない。おそらくこの殺し合いの参加者の大多数も、ナギと同じく生身の人間なのだろう。

 そもそも、メメントスを除くパレスは個人の認知の歪みから生まれる世界だ。それではこの殺し合いの会場は一体誰のパレスなのだろうか。オタカラを盗まれて改心させられる危険を冒してわざわざ自分のパレスを殺し合いの舞台とする理由は無いのでおそらく姫神のパレスではないだろうが、それを認識しないまま下手な行動を取れば誰かも分からないパレスの主が廃人化する可能性すらある。

 また、地図にある『純喫茶ルブラン』の名も気になる。ルブランが位置するのは東京の四茶。つまりこのパレスの主はありもしない地形を"認知"していることになる。そこには作為的に認知を書き換えている可能性すらあるということだ。
 認知世界を理解し、自在に操っているかもしれない主催者に対してひとつの嫌な予感がよぎる。双葉の母親、一色若葉から盗んだ認知世界の研究を用いてシドウは自らのパレスを改造していた。この殺し合いの主催者も、そのような技術を持っているのだろうか。

 異世界を悪用する者―――それだけであれば明智の時と同じように打つ手も色々考えられる。しかし今回は、このパレスの正体も生殺与奪の権利を握っておきながらわざわざ殺し合いをさせる意図も、何もかもが不明であり動きようがない。

 よってまずは情報を集めたい。しかし情報を集めるには殺し合いに乗っているかもしれない他者と交流しなくてはならない。そこで万が一相手が襲ってきた時にも身を守れるように武器となるものを探していたところ、自分の得意武器であるパチンコを持ったナギと出会ったのだった。

「まあ、こんなものでいいのなら別にいいが……」

 取引の提案に、ナギは易々とパチンコを差し出した。ナギからすればただのオモチャにしか見えないからだ。しかしモルガナは、そのオモチャがパレスの中でどれだけの"攻撃力"を宿すのかを知っている。

「よし、それじゃあ取引成立だな!」

「うむ!」

 両者は握手を交わす。共に殺し合いの世界を生き抜く仲間の絆がここに成立した。

 そして握手の後―――ナギはおもむろにモルガナの頭をわしゃわしゃし始めた。

「わわっ!何だ急に!」

「ふふ、よく見るとなかなか可愛い見た目をしているではないか。ま、タマとシラヌイには負けるがな。」

「誰だよそれ……。」

「ウチの飼い猫だ。モルガナみたいに言葉を喋ったりする猫じゃないけどな。」

「ワガハイは猫じゃねーよ!」

 やれやれ、とモルガナはため息をつく。この殺し合いの裏側が何であれ、ナギと取引したことに変わりはない。何をすべきかはまだ見えてこないが、とりあえずはその取引を果たすとしよう。今できることをしていたら最終的には解決に導いてくれる、何かを"持っている"としか思えないような奴が、幸か不幸かこの世界に招かれているのだから。

「ほら、行くぞ。モルガナ!」

「ちょっ……待てよナギ……置いてくな!」

【A-1/平野/一日目 深夜】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.何で姫神はこんなことを?
2.ヒスイとも決着をつけることになるのだろうか……?
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!

※ロトの鍵捜索中からの参戦です。

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1~3)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?

※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は後続の書き手さんに一任します)。
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モルガナ
最終更新:2020年08月27日 17:31