「わかった、まずは知り合いと影山だな。」
「たぶん、二人は家族だから。」

 池の辺り、木を背にしてランタンの灯りで名簿を見ながら、鈴乃はカンナの言葉に頷いた。

 二人の出会いから十分ほどして、最初の共同作業は名簿の再確認であった。五十音順で書かれている都合上、互いの知り合いを把握する為に一人ずつ確かめていく。結果、情報を把握できたのは12人。44人中の12人というのは多いのか少ないのか二人は判断に困ったが、それでも得られるものはあった。
 まず第一に、この殺し合いがある程度のコミュニティ毎に参加させられているということ。二人の知り合いが6人ずつ参加させられていることから、二人は大雑把に、『6人ぐらいの集まりを7組ぐらいずつ集めた』と考えた。根拠に乏しい推測ではあるが、幸運にもそれはほぼ正解である。
 第二に、集められたのは日本に住む人間であること。ここで言う人間とは、人として暮らしているという意味だ。そして同時に、普通の人間とは限らないということでもある。二人はどちらもこの世界の住人ではないし、カンナに至ってはドラゴンである。漢字・カタカナ・ひらがな交じりの名簿には、その実、普通の人間とそれ以外の『人間』が載っていると改めて確認した。
 そして第三に、同じ苗字の人間がいること。具体的には『小林』姓と『影山』姓である。それは、もちろん他人という可能性もがあるが、家族やそれに近い関係で殺し合わされているということだ。現にカンナがそうであるように。これは本人達にとっては溜まったものではないのだが、しかし別の意味もある。すなわち、知り合いの知り合いであるかの判断が容易であるということだ。第一の気づきと合わせると、この場では、どの参加者も40人近くの人間と初対面ということになる。そうなると必然、他人の情報は人伝に聞かざるをえない。そこで困るのはその情報の真贋だが、それが家族というのならば、同じ苗字同士への情報も同じ苗字同士からの情報も他よりかは幾らかは信用ができる。もっとも、口裏を合わされたり一方を庇うために虚偽の情報を掴まされるということもあるのだが、鈴乃とカンナは、自分たちがバラバラにこの会場にいたことから。そういうことはないと考えていた――実際には、カンナ達の集まりである大山猛(ファフニール)と滝谷真という例があるのだが、そこまでは彼女達が知る由もなかった。
 そして彼女達はこの三つの気づきを元に方針を――

「……それでカンナ殿、結局、どちらに向かおうか?」
「…………………………むぅ。」
「むぅじゃないが。」

 全く立てられていなかった。

 色々と考察っぽいことをしてみたものの、じゃあどこに移動するかとなると話が止まった。結論出ぬまま数十分、宛がないのではない、あり過ぎるのだ。
 現在地は池の近くということからC-4ということはわかる。となると、鈴乃と関係がある『マグロナルド幡ヶ谷駅前店』は遠く、カンナと関係がある『花見会場』はそもそも本人が自分と関係のあることに気づかず、島の中心ならば人が集まりそうといえ『負け犬公園』という名前からして開けているであろう場所に好き好んで集まるのは危険人物だと予想でき、では反対に殺し合いに反対の人間が行きそうな島の外縁部は目印になりそうなものがない。
 それでも二人の腕ならば島の中心を目指せなくもないが、そこで新勢力という大方針が問題になる。周囲を気にせず戦えるのはプラスだが、誰かを守りながらとなるとかなり厳しい。どころか、弓の一つでもあれば狙撃されて終わりである。なお二人が思い浮かべる弓というのはかなりファンタジーに染まったものなのだが、狙撃銃なども扱える人間がいるため二人の危惧はあながち杞憂というわけでもない。

「まあ……こういうものが配られているし、動きにくいが……」

 ふぅと息をついて鈴乃はザックから顔を覗かせていたFN MINIMI M249軽機関銃を取り出す。ざっくりと銃弾をばらまくタイプの銃だと彼女が認識するそれは、かつて暁美ほむらが米軍から盗み出したものだ。そして彼女の認識通り、開けた場所で棒立ちの相手なら一連射で十を越す人間を殺傷できる。こんなものまで用意されている以上迂闊に道を動くことも難しかった。
 どうしたものか、と考えながらミニミM249軽機関銃を鈴乃は改める。こういった『飛び道具』は……と思いつつも問題なく各所を検められるのは彼女の非凡な実力の現れ。その甲斐あってか、彼女は上部にあるその部品に気づいた。スコープだ。倍率は大したことはないようだが望遠鏡の代わりにはなる。取り外し方はわからないのでそのまま手に持ち、さて周囲を見渡してみようと構えて――


 パン。

「え。」
「……あれ?」

 銃声だ。鈴乃は思わずそのまま硬直する。まさか撃ってしまったのか? いやそんなことはない反動はなかったし引鉄に手はかけていなかった鈴乃だって撃つ気がなければ引鉄に指をかけないぐらいの知識はある銃に詳しくなくとも武器である以上そこは間違えないというか撃とうにも安全装置の外し方がわからないならばなぜ……

(『何』かマズイっ!)

 幸運にも、鈴乃は僅かに早く、着弾より早く反応した。
 スコープ越しに見えた、数百メートル先の木々の間という、遠距離で発せらの光。本能からくる反射的なものかこれまでの人生での戦闘勘かそれとも信仰と涜神、神のイタズラか。とっさにスコープから目を離し己の目で光を確認しようとしたことで、半秒前まで目の玉があった場所をスコープを砕いて通り過ぎた弾丸は、彼女の生命を奪うことは無かったのだ。
 狙撃だ! 狙撃されている! そう認識し慌てて近くの藪に飛び込みつつ、カンナを見た鈴乃の顔から血の気が引く。すぐ横にいたカンナは、頭部から血を流し、僅かに呻きながら地に伏していた。

(迂闊だった! 何を浮かれていたんだ私は! こんなものが配られているならこうなることも考えられたのにっ!)

 自分の至らなさに臍を噛む思いをしながら、鈴乃はミニミ軽機関銃を構える。スコープは壊れているがおおよその位置はわかっている。当たるとは思わないし当てる気もないがとにかく撃ち返さなくては。が、駄目。

(引鉄を引いても弾が出ない。安全装置か、どうすれば。)

 だがここで幸運にも、鈴乃は銃把の上部にある出っ張りに気づいた。一か八か右に出ているそのボタンを押すと、音を立てて左側に出っ張る。何か中で動いたような感じがして、とにかく引鉄に引いた。

 バラララッ!

(撃てた!)

 毎分700発オーバーで弾丸をばら撒くそれから、実力通りに死がフルオートで吐き出される。無茶苦茶な撃ち方で先程の光の方角に銃口を向け、万が一にも当たらないように狙いは地面に。そして直ぐに、掌に伝わる衝撃が止んだ。弾切れだ。
 歯を食いしばりつつ、鈴乃はカンナを見る。駄目だ、まだ起きそうにない。最悪死んでいるかもしれない。今の銃声で敵にはこちらが銃を持っていることは伝わったはずだ。これで警戒するはずだ。だが同時にこちらの位置は周囲に知れ渡った。逃げなければ。どこへ? カンナを連れて。 動かしていいのか? そもそも近づけるのか? どうやったらまた撃てるようになる? 確か他に何か似たようなものが入って―― 

 ここで彼女に最後の幸運が訪れる。混乱しながらも冷静にザックを漁っていた彼女が引き当てたのは、弾帯。正確には、それが入った、弾倉。それらしき肌触りから引き出すと、銃弾っぽいものが顔を覗かせいている。映画とかではこれをイイ感じに取り付けていたし多分それだろう、「熱い!?」と指先を火傷しながらも、なんとかリロードを終える。

「……カンナ殿、必ず戻ります。」

 そして最後に一言そう言うと、鈴乃は駆け出した。狙撃犯の無力化ないし武器の確認。それができなければカンナの救助は不可能だ。猟師がわざと獲物を手負いで逃し群れへと案内させるように、カンナを撒き餌として利用される。そして何より、彼女を守りながら戦えるほど甘い相手では無いと、鈴乃の直観が告げている。ここはこちらから相手の懐に飛び込むほかは無い。できるだけカンナに近づかせず敵を叩く!

 最初の銃声より七秒。鎌月鈴乃の身に纏う空気が変わった。




「椚ヶ丘中学校……ごめんなさい、聞いたことがないわ。その……色々忙しくて受験勉強もあんまり進んでなくて……」
「僕も受験するってなるまで知らなかったしそんなんじゃ――あ、もう一本貰っていい?」
「どうぞ。でも中学受験ででしょ? それだと私三年遅れてるなあって……他の子達とか模試受けてるみたいだし私も考えてるんだけど、どこの塾のがいいか、迷っちゃって。」

 なんだろう、凄く話しやすい。こんな風に誰かと受験について話すなんて初めて。しかも男の子と。あ、どうしよう、男の子とこんな感じで話したのなんて小学校以来だわ。顔が女の子みたいだから、性別とかそういうのを気にせず話せるっていうか……
 ううん、違う。きっと、彼だから。顔もだけど、雰囲気っていうか、人当たりっていうか、一緒にいて凄く落ち着く。初対面なのにどうして……私、将来ホストにハマったりしないよね?

「巴さん、それでこれからなんだけれど――」
「え! えぇ、そうね。」

 私は手にしていたロッキーを慌てて食べると咳払いを一つした。
 殺し合えと言われて、気がついたら見知らぬ場所にいて、木立の中で出会った男の子。潮田渚くん。彼は不思議な魅力がある人。
 お互いに殺し合う気なんて無いことを伝えて、名簿で知っている人の情報を共有して、お互いの支給品を確認して、それだけの時間で私の中にあるもやもやとしたものが薄れていく気がした。手際の良さっていうか、こういうの、包容力っていうのかしら。こんな場所なのに、とても良い人に知り合えたような気がする。

「――だから、少し北上してあそこの高台から周りを見てみるのはどうかな? 見滝原中学校までの道のりがわかるはずだよ。」
「ええ。わかったわ。でも私みたいに銃を持った人も同じように考えるんじゃ――」

 きっと、魔法少女の横に立っている格好いい男の子ってこんな感じなのかな。潮田くんは格好いいっていうより可愛いだけど、ううん、男女とか関係無く魔法少女が守るのって、こういう人だ。誰かを守るの、誰かって。

「――巴さん、大丈夫……そうだね。」
「体育は自信ある方なの。休憩する?」
「よし、もうちょっと頑張ってみる。」
「その調子、高台までもう少しだわ。」

 そう、私は魔法少女だから。こんな場所でこんな風に出会えたことには、絶対に意味があるはず。きっと私は、ここでもそうだから。大丈夫、このあたりに魔女の反応は無い。五感を強化してみたけど、周りに誰かいる感じもない。魔法少女とわからないように変身できないけれど、マスケット銃一つでもやれることはある……あら?

「潮田くん、どうしたの?」
「え? 何が?」
「とぼけても、顔が強ばってるわ。」
「……誰かに見られている気がして。」


 巴マミより先に鎌月鈴乃の視線に気づいたのは、潮田渚だった。
 鈴乃は暗がりにいた渚を視界に入れども気づくことはなかったが、渚は僅かながら彼女の気配を察したのだ。といってもそれはおぼろげなもので、木々を挟んだ数百メートル先の相手では、いかに光源があれどと彼では見つけることはほぼ不可能だ。感知した事自体は非凡であっても、そこから先に進めるほど、彼は人間を辞めてはいない。
 しかし彼の横に一つの例外がある。
 彼の言葉に一気に警戒を強めたマミは、その強化した視力で渚が見た方向を見る。そして銃器の知識に乏しくそもそも望遠鏡代わりに使っていた鈴乃には、スコープを汚してレンズの反射を防ぐような、どこぞの暗殺教室の生徒のようなスキルは無い。であればそれは必然。近くのランタンの灯り、背後の池からの照り返し、それらの光の一つがスコープに当たりマミたちの方に向けて光点となる瞬間がある。
 そして彼女は見た。一瞬の光に目を凝らし、マスケット銃を一撫でしてそこにスコープを作る。彼女の後輩である佐倉杏子が展望台で作ったものに比べれば倍率も精度も低いそれは、しかし強化された視力と合わせれば軍用スコープに匹敵する。そしてマミは、こちらに向けてスコープで見る鈴乃を、即ち銃口を向ける鈴乃を見て――


 パン。

「巴さ――う!」
「伏せて潮田くん! 私達は狙われている!」

 咄嗟だったので外した。潮を突き飛ばし地面に転がすと、マスケット銃を新たに生み出す。再びスコープを覗く。人影は、暗い髪色の長髪か? それともフードか? とにかくまだこちらに銃を向けている!

「当てる気はないけれどっ!」

 光に向かって放つ。狙いは僅かに下、相手の足下に突き刺さるようにと撃たれたそれは、マミ達はやや高いところにいる関係上、2メートル程の縦方向への誤差によって、鈴乃のスコープを砕く。

「巴さん、それは――」

 マミはその声で、失敗を悟る。即ち、このマスケット銃の出処だ。彼女はマスケット銃を支給品と渚に言っていた。魔法少女であることを知らせずに渚を守るためだ。

(――でも、それって私のエゴじゃ。大切なことは――)
「――私は、守ってみせる。」
(――今度こそ、美樹さんも、鹿目さんも、渚くんも――)
「だから、見ていて、これが私の――」
(――私の命も、もう何も奪わせない。)
「変身!」

 死への恐怖と喪失への恐怖はリボンに変じた。
 それは彼女の身体を縛るように纏わりつき、光を発して姿も変じさせる。
 その光を目当てに、鈴乃は走る。
 マミもまた潮を戦場から離すべく駆け出す。
 やがて二人の距離は――



【C-4/池の南方/一日目 深夜】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0~1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.南下し狙撃犯に対処する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。



【D-4/教会/一日目 深夜】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:!?
二:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
三:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。


※参戦時期は死神に敗北以降~茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
一:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
二:北上し狙撃犯に備える。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。

※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。



【ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ】
巴マミに支給されたお菓子。第6話で佐倉杏子が食うかい?と差し出したアレ。
パレス内では少々のHP回復効果がある。

【ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ】
鎌月鈴乃に支給された銃。最終話で暁美ほむらがぶっ放していたものの一つ。
米軍仕様の本体と200発弾倉5つというこれまた米軍スタイルのワンセット。




「Zzz……」

 一方その頃、マミの初弾が跳弾に跳弾にを重ねて角に当たり、その勢いで気絶後コケて頭を小石で切ったカンナは、しめやかに睡眠していた。




【C-4/池周辺/一日目 深夜】


【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:睡眠、おでこに傷(かさぶた)、右の角が凹んだ。
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0~3(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.トール様もエルマ様も、カンナ勢に入る!

※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。
※鎌月鈴乃と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

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017:空っぽなんかじゃなかったんだ 時系列順 019:これでいい
投下順
010:幸せの言霊 鎌月鈴乃 032:闇夜に秘めし刃
小林カンナ
007:不安の種 巴マミ 032:闇夜に秘めし刃
潮田渚
最終更新:2021年05月01日 03:42