「……なるほど。実に興味深い話だ。」
派手な仮面と衣装に全身を包んだ男、明智吾郎は顎に指を当てて思索に耽る。それは日々を『探偵』として過ごす中で、いつの間にか物事を考える際の癖となっていた仕草だ。
彼は今、持ち前の頭脳を総動員させて現状の考察に努めていた。
「エンテ・イスラという異世界で繰り広げられる勇者と魔王の宿命。聞いた限り矛盾点は見つからないし、この名簿に神話上の悪魔や天使からもじったような名前の持ち主が複数いるのも確かだ。確かに突拍子もない話だけど、信じるに値する何かがある。」
そして現在、そんな明智と情報共有を行っているのは、勇者エミリアこと遊佐恵美。最初は明智の派手派手しい衣装に戸惑いこそしたが、話してみると比較的常識人であったために見た目からの警戒心はすでに解けていた。
「せめて聖剣があればと思ったんだけど……どうも没収されているみたいね。」
「それは残念。眠る少年心を呼び覚ましてくれるかと思ったのだけど。」
恵美の話はどこまでも明智の、というより日本人の常識からかけ離れていた。その自覚は恵美にもあるため、本来であれば赤の他人に話すような内容では無いのだろう。明智がそれを信じたのも、明智自身が認知世界という非現実的な存在を認めており、さらには未だイセカイナビの出自が明らかになっていないことによる所が大きい。
基本的に周囲の人間には秘匿を心掛けてきたエンテ・イスラの話を出会ったばかりの明智に打ち明けているのには理由があった。
当初、この殺し合いに招かれているのはエンテ・イスラの関係者ばかりであると恵美は考えていた。これだけ大掛かりかつ魔術的な勇者・魔王の拉致を為す方法が日本の常識では思い浮かばないという、真っ当な嫌疑だ。
しかし曲がりなりにも勇者である恵美。魔王相手ならまだしも友人の鎌月鈴乃や全く関係無い人々を殺そうとは思わない。
そこで殺し合いに抗う同志を集めるため、エンテ・イスラに住まう者であれば誰しもがその名を知る『エミリア・ユスティーナ』の名を、最初に遭遇した明智に名乗ったのであった。当然、その際に用いられたエンテ・イスラ語を明智は理解できなかった。しかし仮にも全国模試トップ常連の明智、それが地球上の言語では無いことを即座に見抜いた。
その結果、恵美は通じると判明した日本語での質問攻めに遭い、やむ無くエンテ・イスラの話までを行なって現在に至るのであった。
「それで―――」
エミリアとしての過去と恵美という名前での生活、両方を聞いた上で明智は思う。エミリアとサタン、恵美と真奥。ふたつの顔を持つ者たちの関係は決してひとつの言葉で言い表せるものではないのだろう、と。
「―――君は魔王サタンを殺すのかい?」
明智は恵美の核心にズバリと切り込んだ。
明智は、この世界で恵美は真奥との関係においてどちらを選ぶのかに興味を持ったのだ。勇者として宿命を終わらせるのか、それとも共通の敵を持つ同志として共に戦うのか。
(……その答えがどちらであれ、"彼"との関係を変えるわけではないけど、ね。)
赤い仮面の下の明智の複雑な表情に、恵美は気付かなかった。
「……正直ね、迷ってるの。」
「へえ?」
「さっきも言った通り、魔王はお父さんの仇だもの。許す気なんて無いわ。だけど……千穂ちゃんを殺した奴のお膳立てに乗っかって殺したいわけじゃない……!」
そう言うと恵美は少し伏し目がちになりながら続ける。
「でも、思うの。これだけ魔王討伐が許される環境が与えられても魔王を倒せなかったなら、きっと元の世界に戻っても結局、決意が鈍っちゃうんじゃないかって。」
「……なるほど、よく分かったよ。」
その答えを聞いた明智は、少し恵美のことが分かった気がした。
宿命と本心の乖離。自身の内に同時に存在する反対方向に向いた感情の処理ができていないのだ。そしてその兆候は自分自身にもあることも自覚している。出会った時から不思議な縁を感じた男、雨宮蓮。彼と出会うのがもう数年早ければ、或いは同じ視点から色々なことを語り合える同志にもなっていたかもしれないのに、などと考えたことは数えきれない。
しかしそのような様相を客観的に捉えてみれば、それは何とも惨めなものであった。
殺し合いの世界ごときで揺らぐ程度の決意で復讐?ああ、生ぬるい。百歩譲って姫神を倒すために復讐対象である魔王と一時的に共闘する決意が固まっているのならいざ知らず、その先で魔王を殺すことすら躊躇いを覚える始末だ。下手に自分に重ねてしまったからこそ余計、反吐が出る。
(そろそろいいか。)
そして、明智は殺し合いに乗っていた。
唐突に巻き込まれた殺し合に困惑こそすれ、決して躊躇うことなど無かった。明智自身は"仲間"など作らないタチであるし、宿敵である怪盗団を真っ向からぶち壊すには充分な舞台だ。何なら優勝者に与えられる願いの権利というオマケまで付いている。殺し合いに乗らない理由など、明智には無かった。
「射殺せ―――ロビンフッド。」
突如として明智の背後から現れた影から、恵美に向けて矢が放たれる。
その攻撃手段もタイミングも、何もかもが恵美の想定の外の出来事だ。幾ら異世界の勇者といえども、認識の外からの攻撃に対して容易くその身を貫かれる―――本来ならば。
「……やってくれるじゃない、明智吾郎。言い訳があるなら聞くけど?」
明智のペルソナ、ロビンフッドの矢は空を切った。不意打ちに対して明智を敵と認識した恵美は唯一の武器である木刀を手に明智と相対する。
明智の攻撃を見切ったタネは、恵美の手に収まる木刀に秘められた力であった。明智から見れば特殊な力を宿しているようには見えない、ただの木刀。しかしそれは、宿主の判断力や動体視力を引き上げる宝具【木刀・正宗】である。
「はっ……ムカつくんだよ、お前。」
先程までの爽やかなイメージとは一転した明智の語調に一瞬気圧されながらも、木刀・正宗を構え聖法気を練り上げる。それに応じて恵美の赤髪は次第に白く染まっていく。
「個人的な復讐を果たすだけなのに、魔王の脅威から世界を救った勇者として讃えられるんだろ?」
「私はそんなの望んでいない。」
「だから!それがムカつくっつってんだよ!名声や信用に恵まれていながら未だに迷っている、その情けないサマがさぁ!」
強まる語調とは反対に、明智は至って冷静に武器を取り出す。恵美の持つ木刀とは異なり、殺傷力に特化した呪いの込められた刀である。
「……話し合いでは終わらないようね。それなら話が早い、とでも言うべきなのかしら。」
「ああ。この戦いの結論は至ってシンプル、それでいいだろ?」
片や木刀、片や真剣。されど両者が各々の業物を手に取って向かい合うその様相は―――
「そうね、勝った方が……」
「正義だッ!!」
―――これから始まるのが『正義』の名のもとに戦っていた2人による殺し合いであることを、この上なく示していた。
【E-3/平原/一日目 深夜】
【明智吾郎@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:呪玩・刀@モブサイコ100
[道具]:基本支給品 不明支給品0~2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝する
一.異世界の勇者?上等だ。
二.雨宮蓮@ペルソナ5だけは今度こそこの手でブチ殺す。
※シドウ・パレス攻略中、獅童から邪魔者を消す命令を受けて雨宮蓮の生存に気付いた辺りからの参戦です。
【遊佐恵美@はたらく魔王さま!】
[状態]:勇者(銀髪)状態
[装備]:木刀・正宗@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0~2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
一.真奥貞夫と協力するべきか、それとも魔王サタンとして倒すべきか?
二.明智と戦う
【支給品紹介】
【木刀・正宗@ハヤテのごとく!】
恵美に配られた支給品。持つ者の潜在能力を極限まで引き上げる鷺ノ宮家の宝具。その代わりに感情が高ぶりやすくなる。
【呪玩・刀@モブサイコ100】
明智に配られた支給品。元はプラスチックの玩具であったが、桜威の呪いを長年にわたって込められてきたことで本物の日本刀以上の切れ味と威力を持つようになった。
最終更新:2021年03月01日 21:12