温泉旅館を出てからというもの、歩はどことなく落ち着かない様子だった。そわそわとせわしなく後ろを気にしているかと思えば、青みがかった髪をくるくると弄りながら何かを考えているような顔つきやしぐさを見せる。元より落ち着きのない性格ではある歩だが、ここ一時間は特にそれが顕著だ。殺し合いを命じられているのもあるのだろうが、その原因が他にあることは明らかだった。
「大丈夫か、歩?」
見るに堪えず、竜司は声をかけた。ハッとしたように我に返る歩。洞察を巡らせ、竜司は続ける。
「トイレ行きたいんだろ?ㅤすぐ探すから待っててくれよな――」
――ぺちーんっ!
ㅤ心地良い音が響くと共に、渾身の平手打ちが竜司を打ち付けた。
「じょ……ジョーダンっす……空気を軽くしたくて……ハイ……」
「まったく!ㅤ竜司君はもうちょっとデリカシーってもんを身につけるべきなんじゃないかなぁ!」
顔に赤い手のひら印を刻んだ竜司は涙目になりながら謝罪を重ね、歩の怒りを何とか鎮める。
「え、ええと……マリアさん……だよな?」
「うん。本当に、大丈夫なのかな……?」
「……それは、わからねえ。ただ、ああするしかなかったとは思うけどな。」
「まあ……それは私も、そう思うけど。」
ナギちゃんのためという大義名分があったとしても、マリアさんが殺し合いに乗っていたという事実は動かない。そんなこと、分かってる。
今回命を狙われたのは竜司君だったけど、場合によってはその矛先は自分に向いていたかもしれない。考えるだけでも、とっても怖い。三千院家に忍び込んで、黒服の人たちに捕まった時の恐怖とは違う。ナギちゃんと下田温泉に向かっている時に殺し屋に追いかけられた時とも違う。一度は知り合って、同じ時を共有した相手が、裏で自分の命を狙っていると知った時の恐怖は、同じ土俵じゃ比べられない。同行なんてできっこないし、他の誰かがマリアさんの犠牲になるかもしれないことを考えると動きを封じるのもやむを得ないと思う。
「……でも、何とかできないかなってのも思ってるんだ。悪いのはマリアさんじゃなくて、姫神って人だからさ……。」
その上で、私はそう言える。いや、言わなくちゃいけないんだと思う。ハヤテ君と帰りたい日常に、もうマリアさんはいなくてもいいなんて思わない。もしもそう思ってしまった時、きっと私はナギちゃんもヒナさんも、……もしかすると、ハヤテ君も。大切な人たちに見切りをつける心の準備ができてしまう。
「そっか、優しいんだな、歩は。」
「そっ、そんなことないよ!?」
唐突に、しかもダイレクトに褒められたことに驚いて、慌てふためいたように否定した。
「だって、私にはマリアさんを責める資格なんてないもん。」
かく言う私だって、一度は殺し合いという魔力と、それに巻き込まれているいちばん大事な人の存在に、殺し合いに乗る自分を考えたのだから。確かに私は、殺し合いに乗っていない。だけどそれは、仮に一度は死んだハヤテくんを生き返らせることが可能であるとしても、大切な友達をたくさん殺し、色々なものを諦めたその先の未来に希望が見えなかったからだ。
「私だって、一歩間違えてたらマリアさんみたいに乗ってたかもしれない。だから、マリアさんのことも許したいんだ。」
「分かった。でもな、歩はどこかで少し間違ってたとしても、人を殺したりはできなかったと思うぜ?」
「そ、そうかな?」
「ああ。……最初はさ、俺のせいで死んでしまった人がいたその現実に耐えきれなくって、正直、死んでしまいたくなってた。救ってくれたのは、歩なんだ。苦しんでる人をほっとけない歩が、人殺しなんてできるわけがねえ。」
「あっ……。」
あと一歩で壊れてしまいそうな竜司君の姿が、歩の脳裏にフラッシュバックした。見えない何かに追われるかのごとく怯えきって、もはや前も後ろも見えていないような、ついつい飛び出していってしまうほど痛ましい有り様。ああ、マリアさんの身を案じている今だからこそ、わかる。あれは、もしもの自分が行き着く先だった。殺し合いに怯えるままに誰かを傷付け、殺してしまったなら。きっと私は耐えられない。
「違うよ、竜司君。」
もしもあの時、殺し合いを恐れる自分がずっと草むらの中に隠れたままだったとしても、いつかは見つかっていただろう。その頃には不安も恐怖もいっぱいになっていて、手元には手頃な凶器もあって。その場合はたぶん、相手がどんな人かも確かめないままに、それを振り下ろしていただろう。
その場合に死んでしまうのは私か、それとも相手か。分からないけれど、どっちにしても最悪だ。そうならなかったのは、出会ったのが竜司君だったからだ。あの状況、少なからず怖かったはずなのに姫神に反逆してみせた人。誰も死ななくていい未来を求める私に、最初の一歩を踏み出す勇気をくれた。
「私だって、キミに救われてたんだよ。」
「お……!?ㅤお、おおぅ……。」
ㅤ照れを隠せない竜司君をよそ目に、私は堂々と告げる。
「ねえ、竜司君。私、決めたよ。」
私は、竜司君に救われた。でも、マリアさんはそうじゃなかった。……悲しいけど私も、マリアさんは救えなかった。積み重ねた思い出が足りなかったから。でも、たった一人だけマリアさんを救える人を、私は知ってる。
「――ナギちゃんを、マリアさんのとこに連れていこう!」
ナギちゃん、あれで強情だからさ。姫神の言いなりになんてならないだろうし、マリアさんに優勝させられるのなんてもっと嫌がると思うんだ。だからマリアさんも、ナギちゃんに叱ってもらえばきっと目も覚める。そしたら、みんなで姫神に反逆する道も見つけられる。
方針は決まった。大好きな人たち、一人だって妥協してやるもんですか!
【C-5/平野/一日目 早朝】
【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェーンソー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.三千院ナギを探し、マリアの下へ連れていく
三.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
四.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
五.姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.ナギちゃんをマリアさんに会わせる
三.竜司君との反逆で強くなりたいけど…見られた……うう。ハヤテ君…
四.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前
最終更新:2021年07月18日 09:04