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幽霊屋敷においでませ(3)
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コツコツと靴音を鳴らしてそのフロアに入ると、生活安全課のガーディアン達が一斉にざわつき、こちらに注目した。
ただ見つめてくるだけの者や、会釈をする者もいる。
クァンヴァントはお構いなしに奥まで進み、あひるのプレートがかかった扉に手をかけた。
ノックは必要ない。
「鴇、入るぞ」
いきなり扉をあけて中へ入るが、相手は気を害したわけでもなく、にこにことクァンヴァントを受け入れた。
「やぁ、クァンヴァント」
「リセ達の報告を聞いた。お前にはまだ伝わっていないだろうが……」
そこまで口にして、声のトーンを落とす。
「わざわざ言う必要はないな。知っている……いや、知っていただろうからな」
そう言うと、鴇は間を空けてから、静かに笑った。
「もちろんだよ。……リセくん達から直接は聞いていない……けれどね」
クァンヴァントには、それが悪魔の笑みに見えた。
だからといってすくみ上がるわけでもないが、つくづく恐ろしい男だとは思う。
もう何年の付き合いになるかはわからないが、ローブリィ・鴇はいつでもこういう男だった。
この笑顔の裏に何を隠しているのか、少しでも侮れば、恐ろしい目にあいそうだ。
ただ見つめてくるだけの者や、会釈をする者もいる。
クァンヴァントはお構いなしに奥まで進み、あひるのプレートがかかった扉に手をかけた。
ノックは必要ない。
「鴇、入るぞ」
いきなり扉をあけて中へ入るが、相手は気を害したわけでもなく、にこにことクァンヴァントを受け入れた。
「やぁ、クァンヴァント」
「リセ達の報告を聞いた。お前にはまだ伝わっていないだろうが……」
そこまで口にして、声のトーンを落とす。
「わざわざ言う必要はないな。知っている……いや、知っていただろうからな」
そう言うと、鴇は間を空けてから、静かに笑った。
「もちろんだよ。……リセくん達から直接は聞いていない……けれどね」
クァンヴァントには、それが悪魔の笑みに見えた。
だからといってすくみ上がるわけでもないが、つくづく恐ろしい男だとは思う。
もう何年の付き合いになるかはわからないが、ローブリィ・鴇はいつでもこういう男だった。
この笑顔の裏に何を隠しているのか、少しでも侮れば、恐ろしい目にあいそうだ。
クァンヴァントは嘆息する。
この鴇の部屋――生活安全課の課長室のはずなのだが、そにしては、パソコンやモニタの数が多すぎる。
この鴇の部屋――生活安全課の課長室のはずなのだが、そにしては、パソコンやモニタの数が多すぎる。
「そんなことだろうとは思ったが……それでは、始めてもいいのだな?」
目の前の相手に確認すると、とぼけているのかどうなのかわからない目が、
「何を?」
と訊き返してきた。
「くだらん茶番は好まないのだがな……さしずめ、今回の廃屋調査の謎解きと言ったところか。客はお前一人だ」
「リセくんたちは呼ばなくてもいいの?」
「お前が真相を知られ、リセに嫌われてもいいというなら呼んでも構わない」
「……ふぅ……優しいねぇ」
「御託はあとにしろ……」
言うと、鴇は肩をすくめる。
「何を?」
と訊き返してきた。
「くだらん茶番は好まないのだがな……さしずめ、今回の廃屋調査の謎解きと言ったところか。客はお前一人だ」
「リセくんたちは呼ばなくてもいいの?」
「お前が真相を知られ、リセに嫌われてもいいというなら呼んでも構わない」
「……ふぅ……優しいねぇ」
「御託はあとにしろ……」
言うと、鴇は肩をすくめる。
「とにかくまずお前の目的を当てようか。リセ達の『能力調査』だな?」
「……ビンゴ♪」
「何故会議の場で正直に言わなかった? 廃屋の調査というのは建前で、本当はリセ達三人がエージェントとしてふさわしいかどうかをテストするための『やらせ』だと」
「局長の許可がどうしても必要だったからね」
鴇は、やけに素直に理由を語りはじめた。
メインに使用しているパソコンの乗った、自分のデスクにゆったりと落ち着いたままで。
「……というのも、ただの生活安全課課長である僕が、リセくん達を借りて彼らを調査……なんて、そんな提案は許されないだろう? 必然的に、計画は水面下で行うことになる。廃屋をあの地域に見つけたのは本当に偶然だったけど、それを少し利用させてもらっただけだよ」
そこまで言うとクァンヴァントを上目遣いに見て、
「それに、君に話せば拒否されるだろうって算段もあったしね」
瞳を少しの間、閉じる。
「なるほど。では次だ。リセ、白雪、トワ……この三人の能力調査をする必要がなぜお前にあるか、だ。ナターシャという『マリオネット』を自ら『プログラム』してまで」
「さすがクァンヴァントだね……。リセくん達から聞いた話だけで、ナターシャの正体まで見破っちゃったのか」
「彼女の言動だ。白雪が見たところ、20代前後の格好だったそうだが……現代の世でその年頃ならば、審判の日や異種族のことを知らないわけがないだろう」
「んー、彼女に審判の日以降の知識をプログラミングしなかったのは、幽霊だと思わせるための作戦だったんだけどな……」
「『マリオネット』か……人方の物質を作り出し、遠隔コントロールでまるで人間そっくりに行動させる……お前のそのアビリティの技量は褒め称えるにとどまらないが……」
ちらり、と鴇を見ると、やはり彼は笑っていた。
このクァンヴァントの『謎解き』を、本当に観客として楽しんでいるようだ。
「他にも怪しい点がいくつかあるな。匂いは演出だろうが……リセの推測を同じようにたどれば、アラがでてくる。ナターシャだけにエンシェント・アイテムが反応を示すという理屈と根拠が成り立たない。お前がエンシェント・アイテムの知識がないトワに、入れ知恵をしたそうだが……アダになったな」
「ふむ……そうだね……」
「……それからこれはあくまで蛇足だが、幽霊などというものはこの世に存在しないと私は考えている」
「世界のオカルトマニアを敵に回すよ、クァンヴァント」
「構わん」
「困ったね……そこまでばれているとなると、君が僕を咎めにきたんだろうっていう予想はほぼ確定かな?」
「……ビンゴ♪」
「何故会議の場で正直に言わなかった? 廃屋の調査というのは建前で、本当はリセ達三人がエージェントとしてふさわしいかどうかをテストするための『やらせ』だと」
「局長の許可がどうしても必要だったからね」
鴇は、やけに素直に理由を語りはじめた。
メインに使用しているパソコンの乗った、自分のデスクにゆったりと落ち着いたままで。
「……というのも、ただの生活安全課課長である僕が、リセくん達を借りて彼らを調査……なんて、そんな提案は許されないだろう? 必然的に、計画は水面下で行うことになる。廃屋をあの地域に見つけたのは本当に偶然だったけど、それを少し利用させてもらっただけだよ」
そこまで言うとクァンヴァントを上目遣いに見て、
「それに、君に話せば拒否されるだろうって算段もあったしね」
瞳を少しの間、閉じる。
「なるほど。では次だ。リセ、白雪、トワ……この三人の能力調査をする必要がなぜお前にあるか、だ。ナターシャという『マリオネット』を自ら『プログラム』してまで」
「さすがクァンヴァントだね……。リセくん達から聞いた話だけで、ナターシャの正体まで見破っちゃったのか」
「彼女の言動だ。白雪が見たところ、20代前後の格好だったそうだが……現代の世でその年頃ならば、審判の日や異種族のことを知らないわけがないだろう」
「んー、彼女に審判の日以降の知識をプログラミングしなかったのは、幽霊だと思わせるための作戦だったんだけどな……」
「『マリオネット』か……人方の物質を作り出し、遠隔コントロールでまるで人間そっくりに行動させる……お前のそのアビリティの技量は褒め称えるにとどまらないが……」
ちらり、と鴇を見ると、やはり彼は笑っていた。
このクァンヴァントの『謎解き』を、本当に観客として楽しんでいるようだ。
「他にも怪しい点がいくつかあるな。匂いは演出だろうが……リセの推測を同じようにたどれば、アラがでてくる。ナターシャだけにエンシェント・アイテムが反応を示すという理屈と根拠が成り立たない。お前がエンシェント・アイテムの知識がないトワに、入れ知恵をしたそうだが……アダになったな」
「ふむ……そうだね……」
「……それからこれはあくまで蛇足だが、幽霊などというものはこの世に存在しないと私は考えている」
「世界のオカルトマニアを敵に回すよ、クァンヴァント」
「構わん」
「困ったね……そこまでばれているとなると、君が僕を咎めにきたんだろうっていう予想はほぼ確定かな?」
そこまできてやっと、鴇は本当に「困った」らしき顔をした。
細長い指でカリ、と小さく頬をかいて、苦笑いをする。
細長い指でカリ、と小さく頬をかいて、苦笑いをする。
こちらからゆっくりと手を差し出す。
「解っているなら、彼らの行動データを全て渡してもらおうか。屋敷の中に無数の水晶玉をしかけ、読み取ったんだろう?」
見つめる鴇の目は、もう笑ってはいない。
サングラスの中からそんな鴇を見つめながら、もう一度、クァンヴァントは静かに言った。
サングラスの中からそんな鴇を見つめながら、もう一度、クァンヴァントは静かに言った。
「リセ達のプライバシーを管理できるのは、唯一私だけのはずだな?」
沈黙は長かった。
ピリピリとした空気が漂っていた。
ピリピリとした空気が漂っていた。
しばらくして、鴇がふぅ、と息を吐く。
「はぁ……。君のその洞察力のことを考慮しておくべきだったよ。……もしかして、状況報告をしたのは白雪くん?」
「ああ。彼女の報告は逐一細かい。ただ、脅かすにも程がすぎたようだな、鴇。恐らくお前は知らなかったのだろうが、白雪は極度の幽霊嫌いだ」
かぶりを振ると、クァンヴァントは床を見つめた。
まだ15だというのに、普段やけに大人びている部下の少女を思いだし、
「……まぁ、幽霊に限らずとも、『知覚(パーセプション)』できないものに対して恐怖を抱いているようだが……」
つぶやく。
「とにかく、彼女が気絶したほんの数分間だけはリセとトワの報告に頼るしかなかった。しかし、どのみち白雪の説明がなければ、全ては線に繋がらなかったがな」
鴇は、そんなクァンヴァントの言葉を聴き、その一瞬でピリピリとした緊張を解いたようだった。
部屋の中の空気がガラリと変わる。
彼はリラックスした格好で、デスクの上にひじをついた。
「驚かすつもりは別になかったよ。ただ、状況としては、不気味な屋敷に不気味な霊媒師……っていう設定のほうが、後で面白いデータが取れるかと思っただけでね……」
一息ついた鴇が、そう言ってデスクから何かを取り出す。MOだ。
「……これがデータの入ったディスクだよ」
クァンヴァントは黙ってそれを受け取る。
が、油断できず、尋ねた。
「コピーは?」
「ハハ。取れるわけがない。さっき解析が終わったばかりだったんだ。そこへ君がやってきたからね」
「その言葉を信じておこう」
ディスクを、スーツの裏ポケットにしまいこむ。
鴇ががっくりと肩を落とし、傍にあった自分のマグカップを手にした。
湯気などたっていないコーヒーを一口のみ、まずそうな顔をしてから、ごねる。
「あ~あ。いい研究材料になると思ったのに。そう、特に彼らヘヴンズ最年少組の潜在能力・行動能力・性格による判断力の相違資料……そこへ君の作戦参謀としての能力と、僕の分析能力が加われば……この世の中に怖いものなんて存在しない……そうだろう? 残念だよ」
「お前が企んでいることを敢えて指摘はしないでおくが……。ヘヴンズを敵に回すつもりでいるなら、やめておくんだな」
「ああ。彼女の報告は逐一細かい。ただ、脅かすにも程がすぎたようだな、鴇。恐らくお前は知らなかったのだろうが、白雪は極度の幽霊嫌いだ」
かぶりを振ると、クァンヴァントは床を見つめた。
まだ15だというのに、普段やけに大人びている部下の少女を思いだし、
「……まぁ、幽霊に限らずとも、『知覚(パーセプション)』できないものに対して恐怖を抱いているようだが……」
つぶやく。
「とにかく、彼女が気絶したほんの数分間だけはリセとトワの報告に頼るしかなかった。しかし、どのみち白雪の説明がなければ、全ては線に繋がらなかったがな」
鴇は、そんなクァンヴァントの言葉を聴き、その一瞬でピリピリとした緊張を解いたようだった。
部屋の中の空気がガラリと変わる。
彼はリラックスした格好で、デスクの上にひじをついた。
「驚かすつもりは別になかったよ。ただ、状況としては、不気味な屋敷に不気味な霊媒師……っていう設定のほうが、後で面白いデータが取れるかと思っただけでね……」
一息ついた鴇が、そう言ってデスクから何かを取り出す。MOだ。
「……これがデータの入ったディスクだよ」
クァンヴァントは黙ってそれを受け取る。
が、油断できず、尋ねた。
「コピーは?」
「ハハ。取れるわけがない。さっき解析が終わったばかりだったんだ。そこへ君がやってきたからね」
「その言葉を信じておこう」
ディスクを、スーツの裏ポケットにしまいこむ。
鴇ががっくりと肩を落とし、傍にあった自分のマグカップを手にした。
湯気などたっていないコーヒーを一口のみ、まずそうな顔をしてから、ごねる。
「あ~あ。いい研究材料になると思ったのに。そう、特に彼らヘヴンズ最年少組の潜在能力・行動能力・性格による判断力の相違資料……そこへ君の作戦参謀としての能力と、僕の分析能力が加われば……この世の中に怖いものなんて存在しない……そうだろう? 残念だよ」
「お前が企んでいることを敢えて指摘はしないでおくが……。ヘヴンズを敵に回すつもりでいるなら、やめておくんだな」
クァンヴァントは少し間をあけた。
言い聞かせるように、告げる。
言い聞かせるように、告げる。
「少なくとも、私がこのポストについている限りは」
「……肝に命じておくよ」
鴇が応える。
「ヘヴンズ・アソシエイション本部局所属……クァンヴァント=ラーデ本部長」
鴇が応える。
「ヘヴンズ・アソシエイション本部局所属……クァンヴァント=ラーデ本部長」
彼が言って、ちょうど数秒ほど後のことだった。
コンコン、と丁寧にドアがノックされる。
それがこちらの返事をまたずに開かれ、向こう側からリセが顔を出した。
コンコン、と丁寧にドアがノックされる。
それがこちらの返事をまたずに開かれ、向こう側からリセが顔を出した。
「失礼します! 部長、いますか?」
「いらっしゃい、リセくん」
「こんにちは、鴇さん。報告書、書き終えたんで、一応持ってきたんですけど……。クァンヴァント部長にも話があって……」
リセが鴇を見てからクァンヴァントに向きなおり、こちらにそう告げてくる。
「いいだろう。一課のオフィスで聞くことにする」
「はい。 ……あ、鴇さん、これ、白雪から渡しておいてくれって言われてた図面のデータと、報告書の入ったディスクです」
クァンヴァントの前を通り過ぎたリセが、鴇にMOディスクを手渡した。
それを受け取った彼は、やはり笑いながら、
「ああ…………必要なかったんだけどね……」
「え?」
「……ああ、いや。ありがとうリセくん。そうだ、今度お茶でもゆっくり飲みにいかない? あ、一人がいやだっていうなら、白雪くんやトワくんも一緒で構わないから」
「は? ……はい……いいですけど」
承諾したリセの横から、クァンヴァントはたっぷりの皮肉を込めて口を挟んだ。
「お茶、か……幽霊屋敷にか?」
すると、リセが顔をしかめて尋ねてくる。
「って、何で幽霊屋敷なんですか? 部長」
「まったく、人をからかうのもいい加減にしてほしいな、クァンヴァント」
「そうですよ。幽霊屋敷って……。そんなトコでお茶なんかゆっくり飲めるわけないじゃないですか。気味悪い音はするわ、気味悪い匂いはするわ、気味悪い女はでてきて消えるわ、気味悪い風がタイミングよく吹くわ……」
「いらっしゃい、リセくん」
「こんにちは、鴇さん。報告書、書き終えたんで、一応持ってきたんですけど……。クァンヴァント部長にも話があって……」
リセが鴇を見てからクァンヴァントに向きなおり、こちらにそう告げてくる。
「いいだろう。一課のオフィスで聞くことにする」
「はい。 ……あ、鴇さん、これ、白雪から渡しておいてくれって言われてた図面のデータと、報告書の入ったディスクです」
クァンヴァントの前を通り過ぎたリセが、鴇にMOディスクを手渡した。
それを受け取った彼は、やはり笑いながら、
「ああ…………必要なかったんだけどね……」
「え?」
「……ああ、いや。ありがとうリセくん。そうだ、今度お茶でもゆっくり飲みにいかない? あ、一人がいやだっていうなら、白雪くんやトワくんも一緒で構わないから」
「は? ……はい……いいですけど」
承諾したリセの横から、クァンヴァントはたっぷりの皮肉を込めて口を挟んだ。
「お茶、か……幽霊屋敷にか?」
すると、リセが顔をしかめて尋ねてくる。
「って、何で幽霊屋敷なんですか? 部長」
「まったく、人をからかうのもいい加減にしてほしいな、クァンヴァント」
「そうですよ。幽霊屋敷って……。そんなトコでお茶なんかゆっくり飲めるわけないじゃないですか。気味悪い音はするわ、気味悪い匂いはするわ、気味悪い女はでてきて消えるわ、気味悪い風がタイミングよく吹くわ……」
「え? 風……?」
鴇が目を見開いた。
しかし、クァンヴァントはそれを気に留めようとはしなかった。
少なくとも、このときは。
「それはリセ。君が行って来た廃屋のことか?」
おかしいのを我慢して、クァンヴァントはわざと尋ねる。
リセは散々な目にあったとでも言う風に、いやな顔をした。
「あれを幽霊屋敷って言わないで、なんて言うんです? 白雪なんか後引いてるみたいでしたよ。こっそりポケットに悪霊退散のお守り入れてたし……」
そこへ、鴇が横から彼に声をかける。
「ねぇ、リセくん」
「なんですか?」
「風って……?」
「屋敷に入ったとたん、なんか生暖かい風が吹いたんですよ。他にも数回。それで白雪がますますおびえたりしてタイヘンだったんですから」
「……鴇、お前こそ、悪ふざけをするのはいい加減にしておけ」
しかし、クァンヴァントはそれを気に留めようとはしなかった。
少なくとも、このときは。
「それはリセ。君が行って来た廃屋のことか?」
おかしいのを我慢して、クァンヴァントはわざと尋ねる。
リセは散々な目にあったとでも言う風に、いやな顔をした。
「あれを幽霊屋敷って言わないで、なんて言うんです? 白雪なんか後引いてるみたいでしたよ。こっそりポケットに悪霊退散のお守り入れてたし……」
そこへ、鴇が横から彼に声をかける。
「ねぇ、リセくん」
「なんですか?」
「風って……?」
「屋敷に入ったとたん、なんか生暖かい風が吹いたんですよ。他にも数回。それで白雪がますますおびえたりしてタイヘンだったんですから」
「……鴇、お前こそ、悪ふざけをするのはいい加減にしておけ」
自分がしかけた演出に、驚いたフリをするなどと……。
何もかもばれたというのに、クァンヴァントの前ではイミなどない。
何もかもばれたというのに、クァンヴァントの前ではイミなどない。
「行くぞ、リセ」
「悪ふざけってなんですか、部長?」
「君は気にしなくていい。では、邪魔をしたな」
「あ、ちょっとまっ……」
「悪ふざけってなんですか、部長?」
「君は気にしなくていい。では、邪魔をしたな」
「あ、ちょっとまっ……」
鴇が引き止めたが、リセが先に部屋をでたので、クァンヴァントも足を進めた。
彼がそれ以上こちらを呼び止める気配はなかったが、少し気になって、扉の前で立ち止まる。
背後をちらりと振り返ると、デスクから立ち上がった鴇が、なにやらぶつぶつと独り言をつぶやいているのが耳にはいった。
彼がそれ以上こちらを呼び止める気配はなかったが、少し気になって、扉の前で立ち止まる。
背後をちらりと振り返ると、デスクから立ち上がった鴇が、なにやらぶつぶつと独り言をつぶやいているのが耳にはいった。
「生暖かい風……? 吹くはずがない。そんなプログラミングもあの屋敷にはしていない。それに……観測台の報告では、今日の風力はゼロだった……」
間があく。
クァンヴァントは動かなかった。
動けなかったのかもしれないが、あまり深くは考えたくない。
動けなかったのかもしれないが、あまり深くは考えたくない。
この世に幽霊なんてばかげたものが、存在するはずもないし。
不思議現象だって、科学の力でほぼ全てが解明されつつある……こんな時代に。
不思議現象だって、科学の力でほぼ全てが解明されつつある……こんな時代に。
ばかげてる。
……が。
鴇の次のセリフが、クァンヴァントの脳裏に焼きついて離れなかったのは確かだ。
「……まさか、ね」
fin.