シ ゲゲル グダダド


燃える道路の片隅で、二人の男女が対峙している。
彼ら彼女らはどちらも生身で、更に言えば互いに敵意を抱いている訳でもない。
だというのに、その場に流れる空気は、息も出来ないほどに重く苦しいものだ。

他の誰も立ち入ることの出来ない凄まじいプレッシャーが、確かにその場を支配している。
だが、常人であれば碌に動くことも出来ないだろうその空間を、二人はさも当たり前であるかのように直立していた。
流れる重苦しい沈黙の中、バラのタトゥーをその頬に持つ赤いドレスの女、ラ・バルバ・デは、唐突にその口を開いた。

「……お前に、首領から与えられた新たなゲゲルの条件を告げに来た」

感情の一切を伴わない業務連絡のような口調で、バルバは告げる。
事実、その感想もあながち間違いではあるまい。
グロンギ族のゲゲルを厳粛に取り行う役割を担う彼女にとって、この殺し合いも所詮少しばかり規模が大きいだけで、いつものゲゲルとさして変わらないのだろう。

なれば、こうしてグロンギと向き合いゲゲルの始まりを告げるのは、彼女にとっては寧ろ日常とでも言うべきものに違いない。
だが、それを告げられた全身に白い服を纏う男、ン・ダグバ・ゼバは、彼女の言葉に対し不気味に笑みを浮かべた。

「―――――へぇ」

彼が感嘆の声を漏らしたのは、バルバの言葉が、実のところグロンギからすれば有り得ないものだったからだ。
新たなゲゲル。そんなもの、グロンギには本来存在しないのだから。
バルバにゲゲルの条件を告げそれをスタートする際、普通であればグロンギはそのバックルにゲドルードと呼ばれる爆薬を埋め込まれる。

それによってゲゲルを開始したグロンギの運命は、ゲゲルの成功による階級の上昇か、理由はどうあれその失敗による死か、その二つに一つしかない。
無論、ゲゲルを前にリントを殺した為に資格を剥奪され、無様に生き長らえたゴオマがどれだけ周囲に軽んじられていたかを鑑みれば、不名誉な生より死を選ぶのがグロンギの本能であるのだが、ともかく。
詰まるところ、バルバがゲゲルに失敗したグロンギを相手にしてわざわざこうしてゲゲルの再開を申し出るというのは、最上位のンに属するダグバでも、非常に興味深いことだった。

「―――――君が、そんなことを言うんだね」

「私の意思ではない。これは首領の意思によるものだ」

だからこそ純粋に驚きを込めてダグバが言葉を漏らせば、バルバは相変わらず無表情ながら、それでも僅かに目を細めた。
恐らくは、会場内で誰がどういった状況に陥ったとしても、彼女はこうした介入を本来は拒むのだろう。
だが、このイレギュラーによってこの会場で開かれていたゲゲル……即ち、殺し合いで生き残る世界を決めるというゲゲルが、不本意に妨げられる事を恐れた首領によって、彼女はこうして使わされたに違いない。

本心を言えば、首領とやらが直接出向いてくれればよかったのに、と思う自分がいるのをグッと押さえて、ダグバは再び口を開いた。

「―――――新たなゲゲルって言うことは、もう僕に他の世界の参加者を皆殺しにするっていうゲゲルは、関係ないのかな?」

「そういうことになる。お前はそのゲゲルの参加資格である首輪を破壊されたからな」

ダグバは、自身の首筋をツイとなぞる。
先ほどまで銀の枷がついていたはずのそこには既に何もついていない。
強いて言えば先の爆発によって負った酷い火傷で自信の肌に嫌にざらついた触感を覚えたが、それもすぐに直るだろう。

どうやら先ほど自分が考えたように、この首に付けられていた首輪というのは、変身に制限をかけるという以上の意味を、この殺し合いにおいては持っていたらしい。
だがどちらにせよそれを失った今となっては、ダグバにはその些末はどうでも良いことだ。
ふぅん、と口先だけの感嘆を述べて、ダグバはそれきり以前のゲゲルへの言及をやめた。

「―――――ねぇそれよりも、新しいゲゲルっていうのは、何なの?」

途端にそれまでの会話への興味をなくしたダグバに、しかしバルバは大した動揺も見せない。
気紛れな彼の性格は、既に熟知しているのだろう。
特に表情を変えることもなく、彼女はカツリとその足を進めた。

「首領からお前に言い渡されたゲゲルの内容とは、『今夜0時、この会場に残っている仮面ライダー達と戦い、皆殺しにすること』だ」

「―――――ふぅん……?」

バルバが告げたゲゲルの内容にしかし、ダグバは首を傾げる。
本来グロンギが行うゲゲルでは、時間とはタイムリミットとしてしか用いられない。
故に、『この時間まで誰も殺すな』と言外に告げるようなその内容は、些か不思議に感じられたのだ。

それはバルバも分かっているようで、しかしその表情は相も変わらず冷たい氷のようだった。

「……お前の言いたいことも分かる。だが、首領はあくまでこの会場の仮面ライダーたちがどんな運命を辿るのかということに興味があるらしい」

「―――――それは構わないけど……仮面ライダーは、本当に僕の所に来れるの?」

自分よりも仮面ライダー如きに興味がある、という言葉が僅かに気に障ったか。
かつて自身のベルトの破片をガドルへ投げ渡したのと同じように、ダグバはそんな意地の悪い質問をバルバへ投げる。
だが、彼女はやはり自身と同列のあらゆる情緒を超越したグロンギだ。

眉一つとして動かすこともなく、ダグバに向き直る。

「お前は、奴らを甘く見すぎている。奴らは必ず、お前の元に辿り着く。お前を倒し、このゲゲルを終わらせる為に」

「―――――バルバも、そんな事を言うんだね」

漏らしたダグバの表情には、少しばかりの寂しさが滲んでいる。
ガドルだけでなく、あのバルバでさえリントに……否、仮面ライダーに多大な期待を寄せているらしい。
元の世界では絶対的な存在として自分を認識していたはずの彼女がいつの間にか変化させた意識に、ダグバは嫉妬の念を隠しきれない。

ガドルもバルバも、一体仮面ライダーの何を知ったというのだ。
何度も彼らと対峙し、果てには彼らに直接その疑問を問うた自分は、一切そのなんたるかを理解出来ていないというのに。
閉口し、平素の笑みを閉ざしたダグバに対し、バルバはしかしそれを気に留める様子もなく、そのままダグバへと歩んでいく。

「安心しろ。お前がこのゲゲルに勝てば、首領は……“テオス”は望み通りお前と戦うそうだ」

「―――――“テオス“」

テオス。不思議と高揚感を覚えるその名を復唱して、彼は思わず破顔した。
ようやく知り得た新たなゲゲルの成功報酬が自分の望むものであったことに、ダグバは歓喜を抱く。
自分でさえ知覚できない隙にこの会場へ自分を拉致し、そして得体の知れぬ首輪を取り付けた首領との、いわばザギバスゲゲル。

生まれながらの究極であった彼にとって、初めて挑む喜びを抱ける敵が現れた僥倖は、何事にも代えがたく。
初めて抱くその高揚感に胸が沸き踊るのを感じながら、ダグバは強く拳を握る。
だがそれから少しして、ふとある可能性に思い至り、またバルバを見やった。

「―――――僕が勝てばっていうことは……もし仮面ライダー達が勝てば、彼らがテオスと戦うってこと?」

「……そうだ」

答えるのに一瞬の沈黙があったのは、ガドルのように今まで戦ってきた仮面ライダーを思い出すため……ではあるまい。
自分は、確かに仮面ライダーが勝つ可能性を、十分存在しうる未来として想定している――その考えを自分に告げるのに、バルバと言えど僅かばかりの躊躇があったからだ。
グロンギにとって、最高位たるンの自分が敗北する可能性を僅かでも考慮していると宣言するのは、かなり大きな意味を持つ。

それこそそう、グロンギの頂点である自分がリントの戦士である仮面ライダーに負けるなど、本来であれば口が裂けてもバルバが認めるはずもない。
だがそれでも彼女が確かにその可能性を一つの未来として考える程度には、彼女……そしてテオスの目から見る仮面ライダー達は、強いということなのだろう。
そんな彼女の価値観の変化に、しかしダグバはもう、羨望の念を抱く事もしなかった。

仮面ライダーを理解することなど、自分には恐らく未来永劫叶わないのだ。
なれば、叶わないそんな願いを抱くだけ無駄だろうと、彼は割り切ることにした。
それにどうせ……彼らは自分の手によって、今夜0時には全員残らず皆殺しにされるのだから。

目先の仮面ライダーではなく、その先にあるザギバスゲゲルへ。
まるで自身との戦いに胸高鳴らせるゴのようにテオスとの対峙を待ち望むダグバは、今までよりも一層笑みを深めた。
同時、ダグバが事実上ゲゲルを承諾したことを受け、バルバはその指にはめている指輪を彼のベルトへと押しつける。

これにより、今のダグバに相応しい威力を持つゲドルードがセットされた。
告げられたゲゲルの条件からして時限式ではないのだろうが、どちらにせよダグバがこのゲゲルに負ければ、それこそ凄まじい範囲を覆う爆発が起こるのだろう。
だが、仮面ライダーとの戦いによって自身が敗北する可能性を一切感じていないダグバは、ただグロンギの本能として、ゲゲルの開始に高揚感を抱くのみだった。

一方で、浮かれる王を尻目にバルバは、自身の仕事は終えたとばかりにヴェールへ向けて歩き出す。
そうしてその身体がヴェールに届き、再び大ショッカーの本部へと移送されるのだろうその瞬間、しかし彼女は何かを思い出したかのように振り返った。

「……気をつけろ、奴らは強いぞ。究極の闇となったクウガと同じだけの実力を持つものも、少なくない。」

「――――――それでも……今の僕にはもう、敵わない」

その声に滲むのは、自信か或いは諦観か。
所在なげに空を見上げたダグバを置いて、バルバもまた本部へ戻るためヴェールを潜る。
果たして彼女がその瞬間に胸に抱いていたのは、どちらの勝利を想うものだったのか。

残されたダグバには、もう知るよしもなかった。

【二日目 午前】
【F-4 道路】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、ジョーカーアンデッド化、首輪解除
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:テオスへとのザギバスゲゲルに挑み、勝つ。
1:その為に、今夜0時に残っている仮面ライダー達を皆殺しにする。
1:ジョーカーである相川始に多少の興味。
【備考】
※アンデッド(ジョーカー)化しました。 また、その影響によりグロンギ態がより強化され“沈み行く究極を超えた究極の領域(スーパーセッティングアルティメット)“へと変身出来るようになりました。
※制限が解けたので瞬間移動が出来る模様です。ただ会場の外に出ることは出来ません。

【備考】
※ラ・バルバ・デは会場から主催本部へと戻りました。

147:Tを越えろ/疾走 時系列順 149:覚醒(1)
投下順
141:愚直(後編) ン・ダグバ・ゼバ
ラ・バルバ・デ 152:第四回放送


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最終更新:2020年02月12日 14:25