Round Zero~Fallen King


「クソ、あいつら……!」

ドサリ、と重い音を立てて、一人の男が平原へと落ちた。
自身の首から排出されたガイアメモリをキャッチすることも出来ず俯せに倒れた男は、見るからに満身創痍の風体を為している。
一張羅の赤いジャケットが汚れることすら厭わずに呻き、藻掻く彼の名はキング。

最もその姿と名のどちらもがコーカサスビートルアンデッドが人間世界に溶け込むため擬態した仮初めのものであり、偽りではあるのだが。
立ち上がることも出来ないまま、手だけを伸ばして何とかT2ゾーンメモリを掴み取った彼は、荒く呼吸をしてここはどこかと辺りを見渡す。
視線の先に見えるのは市街地、後方に見えるのは、先ほどまで自分がいたサーキット場。

しくじった、とキングは舌打ちする。
正直、ゾーンを使って仮面ライダーたちから逃げる時は無我夢中で、どこへ逃げるなど考えずに適当に能力を行使したのだが、それが失敗だったらしい。
この会場内であればどこへでも瞬時に飛べるはずのゾーンを使って、まさかこんな近くに飛んでしまったとは。

先ほどまでの万全であれば十分無視出来たはずの瞬間移動による疲労感も、今となってはこうして行動を阻害するほどのものとなってしまっている。
戦いを終えたばかりのWの左側やアクセルがここまで自分を追ってきて封印する、というケースは流石に考えにくいが、それでもこの状況は不味い。
誰か参加者が通りがかれば、面白半分に蹂躙されるのは自分の方だ。

そんな面白くない結末などあっていいはずがないと全身に力を込めるが、しかし今までの仮面ライダーとの戦いによるダメージが響いているのか、身体は一向に思い通りに動こうとしない。
少し軽率に動きすぎだったか、と今更ながらキングは自分を呪う。
放送の前はともかくとして、それから先は自分の思うようにゲームを進行できていないことへの焦りが、生まれていたのかもしれない。

天道総司を名乗るあのネイティブワーム風情に正義の味方の愚かさを知らしめて以前の全ての世界を憎む彼に戻してやろうとしたのに、ディケイドにその計画を頓挫させられ。
挙げ句の果てに彼の意思を一層強固にしてしまったばかりか、折角取り戻した盾まで破壊されて、ますます苛立ちが募る結果となり。
その鬱憤を晴らそうと容易に勝てる相手としてWの左半分と瀕死のアクセルを弄ぼうとサーキット場に向かえば、結果はベルデを失い命からがら逃げなければならない始末。

その末にこうして地面を這いずらなければならないと来れば、面白くなくて当然だった。

「――チッ!」

強く、舌打ちを放つ。
全く以て仮面ライダー如きが、この世界で一番強い自分に対していらない抵抗をしてくれる。
口先だけの正義の味方など、少しその根本を揺さぶれば皆正義なんて投げ捨てて醜い本性を露わにするはずなのに。

あいつらは何故その本性を剥き出しにしようとしない。
仮面ライダーの善性が人の本性だなどと、そんな綺麗事があるはずがないのだ。
そうだ、次はもっと奴らを精神的に追い詰めてやろう。

どうせ、自分を封印することは世界を守ろうだなどと考えている奴らには叶わないのだから、好き勝手やってやればいい。
となれば次は何を利用するかだが、最も面白そうなのはやはりディケイドだろうか、
五代雄介殺害についてもっと広く伝聞し、ディケイド対全仮面ライダーの構図、すなわちライダー大戦を再現出来れば、これほど面白いものはない。

彼が今まで紡いできた絆など全て上っ面だけの薄いものだと証明すれば、仮面ライダーも正義などという言葉を声高に叫ぶことすら出来なくなるだろう。
それこそ自分が望む混沌であり混乱に違いないと、キングは愉悦に頬を歪めた。
だがそんな野望を遂行する為にはまず、身を休めることが必要だとキングは冷静に判断する。

まずは体力を回復し、それから他の参加者を探してディケイドが世界を滅ぼす悪魔だという情報と五代雄介を既に殺害しているという事実を伝える。
そうすれば少なくとも彼を野放しには出来ないだろうし、あと一押しで自分の目論見通りに事は進むはずだ。
まだまだ自分の遊びは終わらないのだと余裕を取り戻し始めたキングは、しかし瞬間、自分を覆う影が突如濃くなったのを察知していた。

誰かが、自分を見下げている。
不味い、と彼の本能が叫んでいた。
先も思慮した通り、今の自分は仮面ライダーに一方的に蹂躙される存在に他ならないのだから。

それまでの愉悦も放棄して、彼はアンデッド態になり勢いよく振り返る。
少しでも反撃を行う為の行動だったが、そこにいたのはしかし、彼が危惧するに値しないものだった。
何故ならそれは、参加者どころか人型ですらなく。

自分がこの会場に連れ込んだネオ生命体が、コアだけで浮遊している姿だったのだから。

「……なんだ、お前か」

思わず安堵に溜息をつきながら、キングは変身を解く。
ネオ生命体がこの形態でここにいるということは、恐らくドラスとして戦いに敗れたのだろう。
死体だけでは餌が不十分だったのかもしれないが、それにしても最強最悪の怪人の呼び名に値するような活躍をしたとは思えない。

自分の想像よりも遙かに早く戻ってきてしまった彼に失望の念を抱きながら、しかしキングはこれはこれで好都合かと思い直す。
ネオ生命体は、貪欲に全てを食らい自分の力にしようとする性質を持っている。
彼を連れ、適当に消耗した参加者を食わせる……即ち吸収させてやれば、再びドラスとして、ないしは今までに無いほど強い存在として生まれ変わるかも知れない。

そうすれば今の消耗しきった自分でも十分この戦いを面白く出来る可能性はあるし、ジョーカーが封印されてしまった後、自分の保険がなくなってしまっても楽しめる。
邪悪な思考を巡らせて、キングはようやく体力を取り戻し力を込めて立ち上がる。
その瞳に、更なる混沌の未来を描きながら。

「アンデッド君、僕、お腹空いちゃったよ」

「慌てるなよ。今からお前に、旨いもんたらふく食わせてやるからさ」

「美味しいもの?」

問うたネオ生命体に、キングは頷く。
そうだ、今度は死体だなどとケチ臭いことは言わない。
生きている参加者が密集している場所に行って、満足するまでこいつに食わせてやる。

面白そうなのは、やはりクウガだろうか。
機能が生きているアマダムごと吸収すれば、ネオ生命体はそれこそダグバすら越える究極生物になるに違いない。
鬱屈としていた感情が、これから先の展望に明るく輝き出す。

足を引きずりながら、それでも市街地のどこかへ隠れてしまえばこちらのものだと歩き出したキングに、ネオ生命体はなおも無垢な声をかけ続ける。

「本当に、食べて良いの?」

「当たり前だろ。お前の力で、全部をメチャクチャにして欲しいんだからさ」

それは、紛う事なきキングの望みだった。
このつまらない生を永遠に終わらせることが叶わないなら、秩序や正義、そんな大層な言い分は全部ぶっ壊してやりたい。
そうして全部なくなった後に、この殺し合い自体の意味もなくなって世界が全部滅んでしまえば良い。

そんな破滅こそ彼の望む姿であり、種の繁栄も世界の存亡も、全てがどうでもよかった。
ここに至るまでの今までの全ては、彼にとってはただの暇潰しに過ぎないのだから。
果たして、今度は面白い結果になればいいなと、そんな風に彼はまた一歩前に踏み出そうとして。










突然、その身体ごと前のめりに倒れ込んだ。
疲労ではない、足がもつれたわけでもない。
いきなり、身体全体に力が入らなくなったのである。

事態を正確に把握するより早く、彼の腹部が凄まじい熱を帯び出す。
何かに貫かれたのだと気付くのとほぼ同時、キングは攻撃を行った下手人の正体をも、一瞬で看過していた。
自分を攻撃したその敵の正体とは、この場にいる自分以外唯一の存在、即ち……ネオ生命体に他ならないと。

「お前……何、考え、て……!?」

咄嗟にコーカサスアンデッドに変身しながら、キングは浮遊するネオ生命体を見上げる。
彼の目的は一体何なのか、それが全く理解出来なかった。

「え?だってアンデッド君、食べて良いって言ったでしょ?僕の力で、全部メチャクチャにしてほしいって」

「――ッ、は、ハハハ……」

微塵も罪悪感の感じられないネオ生命体の言葉を聞きながら、キングは自分の愚策を呪い思わず苦笑を漏らした。
彼はあくまで、人工的に作られただ力を求めて培養されていた悪夢の生命体なのだ。
それを相手にして、まともな話など出来ようはずもない。

先ほどまでならともかく、今のネオ生命体はドラスとして敗北し空腹を訴えている状態。
目の前に弱り切った餌がいれば、それがなんであれ取り込み吸収しようとするのは至極当然のことだった。
コーカサスのバックルが開き、逃れようのない敗北を彼に痛感させる。

詰みだ。もうどうしようもない。
これから自分は、ネオ生命体の一部として吸収されるしかないのだ。
だが、そんな絶望を前にしても、キングはいつものように薄っぺらく笑った。

アンデッドである自分がこういった形で消滅すれば、バトルファイトの根幹が覆るかも知れない。
自分を退屈な永遠に閉じ込めたあの統制者が他の世界の要因でバグを引き起こすとしたら、それはどれだけ面白い光景だろう。
ジョーカーが最後の一人になったとき、世界は滅びる……その揺るがないはずの結末だって、もしかしたら壊れてしまうかも知れない。

無論それを見届けることは出来ないが、少なくともこれはこれで面白くなりそうだと、キングはもう碌な抵抗もしなかった。

「なぁ……僕の身体、好きに使っていいからさ……世界も、殺し合いも仮面ライダーも全部全部……メチャクチャにしてくれよ」

故に最後に放つのは、そんな狂った願望。
だが、これこそがキングだった。
自分がどうなろうと関係なく、全ての破滅を望む。

愉しければ何でも構わないと万物を否定する彼にとって、この殺し合いからの脱落すら大した意味を持つはずがない。
元々この会場に来たのも暇潰しに過ぎないのだから、それが終わるとして今更深い感慨が沸くはずもなかった。

「変なの。……まぁ、いいよ」

場違いな笑みを浮かべたキングを不可解に思うような表情を見せながら、しかしネオ生命体は止まらない。
その沸き起こる食欲に任せて形だけの承諾を返し、それから彼はキングに対して“口を開いた”。

「――じゃあ、アンデッド君。いただきまぁす」

それは、食事に対する感謝の気持ち。
生きているものではなく、自分の糧となる存在に対し誰もが口にする食事の合図だ。
それが不死者である自分に投げられているというのは些か不思議な心地ではあったが、しかしキングはどうということもない。

ネオ生命体の伸ばす緑色をした粘着質の液体が、キングを包み込んでいく。
それはどことなく心地よさを感じるような感覚でもあり、同時、ラウズカードに封印される時とも違う、自分が消えて無くなるような感覚でもあった。
徐々に薄れ行く意識の中、嗚呼なるほどと、キングは納得したような心地を抱いた。







――これが、死というものなのか。







そんな、不死者である彼が本来抱くはずのなかった感慨を最後に残して。
コーカサスアンデッドは、ネオ生命体に取り込まれその永遠と思われた生命を消化された。
それから少しの後、意識を手放したキングと同化、吸収したネオ生命体は、突如として不気味な呻き声を上げる。

キングの力を取り込んで今までのどれとも違う新たな形態へ変身を遂げようとしていることを思えば、或いはその声は産声と称されるべきだろうか。
それまでのコアを剥き出しにした形態から一転、自身を形成する肉体を再構成し、ネオ生命体は二の足で地面に降り立つ。
今この地に新たに生み出されたそれは、まさしく凶悪を絵に描いたような風体を為していた。

顔面はまるで猛る獣のように雄々しく、赤く脈動する赤いラインが、艶めかしく銀に光る肉体を横断するように走る。
身体の一部に金色の角や甲殻が見られ、両腕に破壊剣と盾を携えるその姿は、まさに彼が栄養とした怪人の特徴をそのまま引き継いだかのようであった。
誕生を終え、平原の中に悠然と立つその怪人を、最早単にネオ生命体と呼称するのは憚られる。

かつてダブルやディケイドと戦ったネオ生命体の進化形が、ドーパントを吸収したことからアルティメットDと呼称されるならば。
アンデッドを吸収し生まれたこの怪人の名は――アルティメットUD、そう呼ばれるのが相応しかった。
自分の力を確かめるように手を軽く開閉した彼は、今の自分が以前アルティメットDとして仮面ライダーに負けたときより、遙かに強いことに気付く。

だがそれも少し考えれば、至極当然のことだ。
アルティメットDとしての素体にネオ生命体が選んだのは、偶然その場に居合わせた一般ドーパントであるダミーである。
無論、その能力をフルに活用できればダミーは十分他の世界の強豪にも並びうる力を持つ怪人ではあったが、所詮本体の身体能力は著しく低く、そもそもドーパントはメモリを用いているだけで使用者はただの人間に過ぎない。

故に、客観的に見てダミードーパントはネオ生命体が選ぶに値するだけの素質が備わっていたとは到底思えない、お粗末な個体であったことは疑いようがないだろう。
だが此度ネオ生命体が取り込んだのは、生まれながらの不死であるアンデッドであり、かつその中でも最強を自称するに足る実力を持つキング、コーカサスビートルアンデッドであった。
なれば、その類い希なる生存力と高い戦闘力を吸収した今の彼がアルティメットDとは比べものにならない力を得ていたとして、何も不思議はない。

これならばさっきよりもずっと楽しく遊ぶことが出来そうだと心機一転した彼は、その視線の先に市街地の中一つだけ高くそびえ立つ白亜の塔を捉える。
あそこに行けば、満足のいく遊びが出来るだろうか。
そんな期待に胸高鳴らせて、アルティメットUDは目標に向け堂々たる一歩目を踏み出した。


【二日目 昼】
【C-1 平原】

【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(小)、満腹、アルティメットUDに変身中
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、ソリッドシールド@仮面ライダー剣
【道具】T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)
1:病院に行って、新しい身体で遊ぶ。
2:アンデッド君にお願いされたし、全部をメチャクチャにするのもいいかな。
【備考】
※キング@仮面ライダー剣を吸収し、アルティメットUDへと変貌しました。
見た目もアルティメットDから少々変わっていますが、基本的には同じです。



――さて、キングは終ぞ知ることがなかったが、実のところここでキングが消滅しバトルファイトから脱落したところで、彼の言うジョーカーによる世界の崩壊は起こらない。
何故ならこの場には彼が把握しているジョーカー、相川始だけでなく、様々な要因によって新たにジョーカーとなったダグバもいるのだから。
最後に残ったアンデッドが二体である限り、例えそのどちらもがジョーカーであってもバトルファイトは終わらない。

詰まるところ、元の世界で剣崎一真と相川始に起こったのと同じ事が、皮肉にもこの場でも起きてしまったのである。
だが、二人のジョーカーはこの地ではいずれ雌雄を決さなければならない。
相川始が仮面ライダーとして世界の崩壊を止める為戦い、ダグバがそれを蹂躙しようとする以上、剣崎一真と相川始が結んだような不干渉は決して為し得ないのだ。

残された二体のジョーカーがぶつかるとき、その勝者はどちらになるのか。
どちらが勝っても避けられぬ世界崩壊の運命は、果たして本当に起こってしまうのか。
その答えはまだ、暗雲に包まれていた。

【キング@仮面ライダー剣 吸収】
【GAME OVER】



149:覚醒(4) 投下順 151:Chain of Destiny♮彷徨える心
時系列順
146:名もなき者に捧ぐ歌 ネオ生命体
147:Tを越えろ/疾走 キング 【GAME OVER】


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最終更新:2020年01月24日 15:40