魔法少女/スカイステージ
ガシャン、ガシャン。
音を立てながら森の中を2人の少女が歩いている。
「うーん、歩くのは好きじゃない
クマー……」
「……」
一人は茶髪の奇妙な機械を全身につけた少女。
一人は長い黒髪の制服を着た少女。
奇妙な2人組……球磨と
暁美ほむらは城から南下し、森の中へと移動していた。
「……それにしても別の世界って一体何なんだクマ……」
すでに道中で互いに簡単な自己紹介は終わっている。
だが相手の語る何もかもが、互いの知る世界とは違っていた。
(大体魔女って何だクマ。
球磨たちは魔法少女とかそういうのはもう卒業する年だクマー……)
とはいえ嘘と断じるにはリアリティがありすぎる。
そもそも鎮守府にいたはずの自分が何故こんなところにいるのか……。
それこそ彼女の言う魔法だなんだかんだがあったほうがよほど説明の付く話であった。
(……ええい、考えるのはやめだクマ! そもそもこういうのを考えるのは提督の役目クマ!
球磨は動いて戦うのみだクマ!)
堂々巡りの思考を打ち切り、そういうものだと割り切ることにする。
戦場に迷いを持ち込むものは、自分のみならず仲間も危険にさらす。
それはやってはいけないことだ。
だから飲み込み、割り切る。戦場では必須のスキルだ。
しかし……それはそれとして同行者に訊かねばならぬことがあった。
納得のいかない、もう1つのことについて。
「そういえば、気になっていたことがあるクマよ」
「……何かしら」
「ほむらはさっきどうやって球磨に近づいたクマ? 全然気付かなかったクマ」
「普通によ。貴女がたまたま気付かなかっただけ――」
「それはないクマ」
球磨は間髪いれずに断言した。
「球磨は射撃の前には電探で周囲を探してるクマ。
そうしないと誤射とか爆発に巻き込んだりしてしまうクマ。
でもほむらは……そう、その……"いきなりそこに現れた"としか思えなかったクマー。
おかしなこと言ってるってのはわかってるクマ。でも……そうとしか思えなかったクマ」
対する答えは沈黙。
球磨もそれがわかっていたようで、大きくため息を付いて続きの言葉を口に出す。
「……まぁ言いたくないならいいクマよ。
それよりもこれからどうするつもりクマ?」
「もちろんここから出るつもりよ」
「うーん、そうじゃなくて……具体的な方針とかあるクマ?」
「ええ、まずは行動を共に出来る人間を集めるべきだと思っているわ」
――そう、自分たちには戦力が足りない。
暁美ほむらは思い出す。
最初に出て来た謎のヒグマ……の形をした何か。
ティロ・フィナーレを超えるあの一撃を喰らい、大の大人を即死せしめた。
今の自分たちではあれに襲われては一たまりもない。
脱出する方法を見つける前に死ぬわけには行かないのだ。
それに人数が多ければ多いほど、自分が何をしようと見えづらくなるだろう。
心の中でそんなことを考えるほむらに対し、球磨は満面の笑顔を浮かべる。
「それは賛成クマ!
仲間とチームを組まないと球磨といえどあっというまに深棲戦艦の仲間入りしてしまうクマ」
仲間、チーム。
その単語にほむらの脳裏に過去の幻影がフラッシュバックする。
――黄色い髪の優しい少女
――粗暴な赤い髪の少女
――青い髪の快活な少女
彼女たちとは何度も出会い、何度も共に戦った。
その結末はすべて悲惨なものだったが、それでも暁美ほむらは仲間と共に進む道を知っている。
その強さも、暖かさも、想い出も知っている。
――"彼女"が入れてくれた紅茶のにおいも、
――"彼女"から分けてもらったりんごの味も、
――"彼女"が褒めてくれた時の快活な笑顔も、
忘れたわけではない。
手放したいわけでもない。
壊したいかときかれれば全力で否定する。
彼女にとってはそれらの絆も確かにあった大事なものだ。
――だがそれでも暁美ほむらには譲れない願いが存在する。
そしてこの茶番の背後にいるのはとてつもなく強大な何か、だ。
あのティロ・フィナーレを超える威力をもった一撃を易々と無効化したあの熊の形をした何か。
そしてそんなモンスターを主催側が制御していると言う事実。
何を犠牲にしても、どんな手を使ってでも一刻も早く元の世界に返る。
そして今度こそまどかを――
むにっ。
「ふえっ……?」
真正面、球磨が自分の頬を引っ張っていた。
「……ふぁひをひているのかふぃふぁ?」
「見ての通り、ほむらの頬を引っ張っているクマよ」
頬を掴んでいた手を振り払う。
「ほむら、嫌ーな顔してたクマ。
まるで無茶苦茶な作戦出されたときの提督みたいな顔だったクマ。
"やらなきゃいけない。それしかない。"……そんな思いつめた表情だったクマ」
「……」
心の中を見透かされたようで言葉に詰まる。
「まぁちょっと聞き流してくれていいクマだけれど……
世の中には時の運っていうのがあって、努力してもどうにもにもならないこともあるクマ。
――羅針盤とか、建造とか、羅針盤とか」
羅針盤2回言った。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
「そういう時はちょっと立ち止まるのも重要だって提督は言ってたクマ。
その意見には球磨も諸手を挙げて賛成クマよ」
「……立ち止まってる暇がないとしたら?
立ち止まってる間に状況が悪化したとしたら?」
「そ・れ・が、一番いけない考えクマよ。
もしかしたらその立ち止まっている時間で事態が少し好転するかもしれないクマ。
そんなものは結局は終わってからしかわからないものだクマ」
どこか達観したかのようなその物言いはほむらの神経を逆撫でした。
冷静沈着な仮面を剥ぎ取ってしまうほどに。
「そんな考え、能天気すぎるわ……!
貴女には守りたい物なんてないのかもしれないけれど、私には……!」
「――球磨にも守りたいものはあるクマ」
その目は真正面からほむらを見据えていた。
その瞳にふざけた色は一切浮かんでおらず、眼を通じて内面まで覗き込まれるかのようなその視線から眼が離せない。
「提督や多摩、木曽……鎮守府の皆、内地の人間……色々背負って必死に戦っているクマ。
でも自分ひとりで足掻いてもどうにもならないことがあることも知ってるクマよ。
その"どうにもならないこと"は――背負っちゃだめな荷物クマ。
でも真面目すぎるやつはそれを背負っちゃうクマ。
そして――最後には溺れてしまうクマよ」
言葉を返せない。
今の球磨には反論を許さない、重みがある。
「だからその荷物を少しずつ降ろすためにも、立ち止まることは必要だクマ。
その時間に焦ってつぶされそうになるかもしれないけど、同じ背負うならそのツラさのほうがきっと有意義だクマ」
その言葉には確かな"実感"があった。
反論しようとするがうまく言葉がつむげない。
「……それでも私は、立ち止まらない。立ち止まってはいけない」
そうボソリと呟いて、再びほむらは背を向けて歩き出す。
理解は出来るが納得は出来ない"そんなところだろうか。
(まったく……この子はどんな人生送ってきたんだクマ……。
人生の大先輩としては放って置けないクマねぇ……)
大きくため息をつき、後を追おうとして何かを思い出す。
「そういえばほむら」
「……何かしら」
「う、そんな睨むような目つきでみないでほしいクマ……。
ちょっと提案があるだけクマ。支給されたものを交換しないクマ?」
「……どうしてかしら?」
「最後のひとつが球磨には装備できないものだったクマよ」
そう言って袋の中から"それ"を取り出した。
「これは……?」
「うーん、何か戦闘に使う物だってことはわかるクマ。
この通りどうつけるかって説明書だけはあったクマ……使い方は何故か書いてなかったクマ」
「……いいわ。ただし一度使ってみてからにするわ」
少し考えた後ほむらはそう答えた。
これが武器だった場合、自分の魔法と組み合わせることでアドバンテージを得られる。
そう判断してのことだった。
「いいクマよー。どうせ球磨は艤装が邪魔で装備できないクマ。
えーと、まずこうやって腰あたりに……ベルトをまきつけて……」
ほむらの腰あたりに抱きつくようにして装備させようとする球磨。
いきなりの身体的接触にほむらは戸惑いを隠せない。
「ちょ、ちょっと! 教えてもらうだけでいいわ!」
「まぁまぁ、遠慮は要らないクマ。えーと次は太ももにこのユニットを取り付けるクマね」
「あ、きゃあっ!」
「ん~? 意外とかわいい声上げるクマね~?
木曾のおへそを触ったときを思い出すクマー。あの子も意外とかわいい声をあげるんだクマ……」
「だ、だからどこを触って……」
「ふっふっふっ、ここかー、ここがええのんかクマー?」
「あっ、やっ、ま、まどかぁぁぁぁぁ!!」
*
……少女キマシ中
*
「ま、まどかぁ……!」
ほむらは自分の肩を抱えて、荒い息を抑えている。
その目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。
一方で球磨は何かを成し遂げた笑みを浮かべている。
「ごめんごめん。ついついからかいたくなってしまったクマ。
……にしても、奇妙奇天烈な装置クマね」
引き金の付いた奇妙な二振りの剣。
その柄尻からワイヤーが伸び、腰の装備に接続されている。
更にその腰の装置からは大腿部に装着される謎のユニットにワイヤーが伸びている。
砲身が付いていれば艤装のようなのだがそうでもないらしい。
独創的を超えて奇想的とまで言えるレベルのシロモノだった。。
「球磨たちの艤装に似てるけど、用途は全然違うみたいクマね?」
「この引き金は一体何なのかしら……銃口もないみたいだし」
「だったら試しに引いてみるとイイクマ」
そう言って何故か球磨はほむらに密着した。
「……何の真似かしら? またおかしな真似をしたら……」
「違うクマよ。もしコレが暴発したら危ないクマ。球磨は艦娘だから爆発には耐性があるクマ。
盾ぐらいにはなれるクマよー」
正直守ってもらわなくとも、自身の魔法ならば何か異常事態が起こってからでも脱出できる。
だがあえて自分の情報を渡すこともあるまい。
「わかったわ。それじゃ……いくわ」
ほむらは意を決し引き金を引いた。
結果として起こったのは、気体の噴出音と腰部に響く少しの衝撃。
そしてその衝撃の正体は腰部ユニットからアンカーが射出され、近くの木に突き刺さった。
「……なるほど。ワイヤー付きのアンカーみたいね。
緊急脱出用か何かかしら?」
正直がっかりだ。
緊急脱出と言う点においては自身の"魔法"以上とはなり得ない。
火力となるような武装を期待していたのだが、どうもこれはそういうものではないらしい。
「んーこれってもう一回引き金を引いたらどうなるクマ?
電撃がバチバチなって敵を痺れさせたりとかそんな面白機能があるかもしれないクマ」
「一度発射した以上、それで終わりでしょう、恐らく」
――カチリ。
その瞬間、暁美ほむらの体に強烈な力がかかる。
前の衝撃とは桁違いの強力な力が。
「え?」
「くま?」
その衝撃の発生源は全開と同じく腰から。
油断していたほむらはいともあっけなくその加速度に体をさらわれ、密着していた球磨と共に夜空に向かって射出された。
「きゃあああああああああ!!?」
「くまあああああああああ!!?」
ほむらが装着したそれの名はは立体機動装置という、ある世界で巨人を倒すために作られた装備だった。
ワイヤーによる牽引力で加速・軌道変更を行い、高速で縦横無尽に移動するそのための装備。
その大きさとは裏腹に大の大人を振り回すほどの出力を誇る。
艤装込みとはいえ小娘2人の体を空中に放り投げるなど、造作もないことであった。
「きゃあああああああああああああああああ!!?」
「くまあああああああああああああああああ!!?」
かくして二人は空に向かって放り出された。
さながらスリングショットで放たれたパチンコ玉のように
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「くまああああああああああああああああああああああああああ!!?」
緊張が解けていたのか、球磨のパニックが伝染しているのか。
時間停止して冷静に対処するという方法すら脳裏から消し飛び、絶叫と共に魔法少女は空を飛ぶ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「熊ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
月をバックに一つの団子状のシルエットが浮かぶ。
FLY IN THE SKY。
少女たちよ、高く羽ばたけ。大空をどこまでも。
【F-8 森林(空中)/早朝】
【球磨@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:14cm単装砲、61cm四連装酸素魚雷
道具:なし
基本思考:会場からの脱出
0:くまあああああああああああああ!?
1:この娘あんまり信用できないけど放っておけないクマー
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:健康
装備:ソウルジェム、立体機動装置
道具:ランダム
支給品×1~3
基本思考:他者を利用して速やかに会場からの脱出
0:きゃあああああああああああああ!?
1:まどか……今度こそあなたを
[備考]
※時間遡行魔法は使用できません
※どの方向に向かって飛んでいるかは不明です。
最終更新:2015年02月07日 01:18