打ち出す拳


この竜は自分と同じ、強さを求めて戦い続けた修羅なのだろう。
今まで戦ってきたヒグマとはまるで違う、獲物に飢えた目をしていた。
戦い方も全く違っていて、フットワークを活かして素早い攻撃からのバックステップ、距離を取るという一撃離脱の戦法を用いていた。
かといってそれだけという訳ではなく、二撃目が放たれたり、ジャンプしたり、緑色の粘液を地面に広げさせたりとパターンは豊富で不規則だった。
真正面から向かってくるヒグマとは違い、この不規則なパターンは非常に新鮮でまた、厄介だった。
だがこの竜と戦うことは、二度と無いだろう。
しかしお前は気高く、強い戦士だった。それは保障しよう。

ヒグマはそんな事を思いながら、物言わぬ竜の体を見つめていた。
遭遇してからどれくらい戦ったのだろうか。
竜も自分も疲弊し心身共に限界が来ていて、これが最後の一撃になるだろうという所まできていた。
そしてお互いに放った一撃。それはどちらにも命中した。
結果は竜が放った一撃は自分を倒すことはなく、自分の放った一撃で竜は倒れ、動くことはなかった。
爆発をまともに喰らったのでダメージは尋常ではないが、休めば何とかなる傷だ。
対決は自分の勝利。竜の力無い叫びを持って幕を閉じた。

しかし自分は忘れることはないだろう。
自分と互角に渡り合った竜の力を。
羅漢樋熊拳の奥義と互角の威力を持つ技を使用した竜の力を。
ヒグマと同等、いやそれ以上の力を持つであろう竜の姿を。


□□□


凶暴なオーラを放つヒグマがそこにいた。
ヒグマの横にはこれまた凶暴そうな見た目と、堅そうな皮膚をしている竜が地面に伏せている。
さてそれを眺めるヒグマはどこにいるのか。答えは木の上だ。
エサ探しをするなら、見晴らしの良い所から。そう考えたヒグマは木に向かってジャンプし飛び乗った!
何故ヒグマジャンプで飛び乗ったのか。それには理由がちゃんとある。
ジャンプという行為をせずとも、ヒグマには木登りという特技が存在していた。
だが見よこの木の細さを! ヒグマの図体と比べると何たる脆弱な事か!
これではヒグマが登りきる前に折れてしまうだろうし、仮に登れても枝に乗る事すらままならない。
ならばジャンプして、飛び乗るのが賢いヒグマのやり方なのだ。
前述した通り幹が細ければ枝も細く、当然ヒグマの体重には耐えられない。
しかし彼はヒグマでありニンジャなのだ。折れる前に別の木へと飛び乗っていく! ワザマエ!
その速さはバンデイットすら凌駕する! 別の木に乗ればよかったじゃないのか、とかは言ってはいけない!

「GRRRRR?」

やがて彼は辿り着いた。かつて死闘が繰り広げられていた、C-8のフィールドへと。
ヒグマは確かに見た。一匹のヒグマと、横に倒れ付す竜の姿を。
しかしヒグマアイが瞬間を捉えた! 倒れていた竜が突如として立ち上がったのだ!

「GRRRRR!!??」

目は赤く充血!
口から漏れ出す黒い煙!
紫がかった肌が妙に黒くなる!
叫び声を上げればその声は高かったり低かったり!
叫び声を上げた竜はヒグマに殴りかかる!
するとなんということだろうか! 殴られたヒグマが爆発したのだ!

「……!!」

これにはたまらない! ヒグマは一目散にその場を離れた!
見るからにヤバそうな竜に、同じヒグマでありながら底知れぬオーラを放つヒグマ。
二匹が戦えば、近くにいる自分はその巻き添えを喰らいかねない。いや喰らうであろう。
さっさと離れようそうしよう。こうしてヒグマは安静な時間を手に入れたのであった。

「GRRRRR!」

のだが、そう簡単にうまくいかないのが世の常である。

――アイエエエエ! トップウ!? トップウナンデ!?

突如として発生した突風がヒグマを襲った!
哀れヒグマの体は宙に舞い上がり、そのまま吹き飛ばされていく!
しかしここで焦ってはならない。焦って脱出しようとすれば、オダブツは免れない。
ならば、風に身を任せるのが賢いヒグマのやり方なのだ。
それにこの状況も、餌を探すには勝手がいい。

「GRRRRR!」

着地はどうしようか。

【???/空中/朝】

【ヒグマ7】

状態:ニンジャ、宙を舞う
装備:無し
道具:無し
基本思考:餌を探す
1:まだ足りない
2:突風に身を任せる
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。


□□□


歓喜の感情が湧き上がるのを感じた。
二度と味わえない力と、再び合間見える事ができることにたまらなく喜びを感じた。

疑念の感情が湧き上がるのを感じた。
先程戦った時とはまるで違うオーラを放っていたからだ。

驚愕の感情が湧き上がってきた。
竜は強くなっていた。
殴られて吹き飛ばされた後に体勢を立て直し、攻撃へ転じようとしたときだ。
攻撃を喰らった。ガードをしようとしたが、間に合わずに直撃。再び吹き飛ぶ。
喰らった攻撃は戦った時に見た攻撃だったが、拳を振り下ろすスピードが速くなっていたのだ。
一定のスピードで放たれていた拳が突如とし変化してしまった為に、反応が間に合わなかったのだろう。
変化に対応すると、今度は途端に遅くなった拳が待っていた。
お陰でガードを緩めた直後に喰らい、また吹き飛ばされた。
そう、竜の攻撃に緩急がついたのだ。

それだけで複雑だったパターンがより複雑になり、攻めるに攻めきれない。
攻撃をしようとするならば、素早い動きと攻撃でカウンター。
防御をしようとするならば、遅い攻撃にタイミングを狂わされ直撃。
例え攻撃を与えることができても、非常に堅い皮膚が邪魔をする。

――それがひどく楽しくてたまらない

苦戦、というのはこのことを指すのだろうか。
体力なんてものは無いに等しいし、攻撃を当てることがほとんどできず、相手の攻撃を喰らってばかり。
これがただのヒグマであれば、立場は逆で、自分は優勢に立てる。
だがこれは劣勢と呼ぶべき状況だった。

――ここまで愉しい戦闘は初めてだ。

これほどまでに充実した戦闘は他に無いだろう。
だから目一杯楽しまなくてはいけない。
これほどまでに不利な戦闘などもう二度と経験しないだろう。
だから必死に頑張らなくてはならない。

カウンターを喰らうのならば、遠距離から攻撃を喰らわせればいい。
ヒグマは攻撃の手を止め、後ろへと後退し距離をとる。
すうっと息を吐き出すと、勢い良く空気を吸出し両腕を後ろへまわしていく。
すると両腕には気が溜まっていき、それを凄まじい速度で前へと突き出す。
羅漢樋熊拳奥義、風殺気孔拳。突風と気を相手へ向けて放つ技だ。
正面から攻撃を受ければ、気によって身は粉々に打ち砕かれる。
逆に避ければ強烈な突風に、体の自由を奪われ、死なずとも致命傷は避けられない。
どの選択を取ろうとも、これを出された時点で相手の負けは確定する――
だが竜はこの攻撃を一度防いだことがある。

――あの技を使えば多少は傷つくが防げるぞ? どうする、竜よ。

この攻撃を防がれた時は、爆発によるもので防がれた。
どうやら地面に頭を突っ込み、突っ込んだ直線上に爆発を起こすというとても奇怪な攻撃だった。
しかし威力は凄まじく、正面から挑み気の力に打ち勝ったのだ。
だが、次はそうはいかない。防がれた時よりも更なる力を加えた。
たとえ防がれようとも、相手もダメージは免れない。それを自分は狙う。
ダメージを受ければ、隙が生じる。そこを狙って渾身の一撃を顔面にぶちかましてやるのだ。


ヒグマの脳天へと拳が突き刺さる。


すぐさま爆発。ヒグマの顔面は地面へと、勢い良く突き刺さった。
ヒグマの思考は数秒停止。やがて、すぐに結論に達した。

――飛び越えたのか。あの巨大な気を

言葉にしてみれば簡単だ。だが、実際は違う。
自分の身長の倍はあろうかという大きさと、尚且つ竜の全長よりも長い気をいとも容易く乗り越えるなど……

――面白い

そんな馬鹿げたことが

――面白いぞ

ありえるなんて


――面白いぞ竜!


なんて素晴らしいのだろう。
こんなにも、こんなにも心が躍るなんて初めてだ。

地面から顔を上げたヒグマの顔は、ニヤリと笑みを浮かべていて、不気味だった。
立ち上がり、顔面へと右ストレート。
竜は後退するが、竜も負けずに拳を振り下ろす。
しかしヒグマは拳を避けようとせず、竜へと向かって走り出す。
直撃。爆発。しかしヒグマは止まらない。

――もうこれ以上は無いだろう。

その勢いのまま全身全霊の力を込めた一撃を、左拳に込めて竜へと放つ。
対する竜は黄色に染まった、頭部をヒグマに振り下ろした。

――この戦闘に勝る新しさなど、もう感じることができないだろう。

頭部はヒグマの頭頂部へとぶつかり、粘菌が凄まじい速度で体を包む。
それでも拳の勢いは止まらない。

――こんな楽しい戦闘を、一人で持ち帰るわけにはいかない。

拳が竜の顔面へと突き刺さる。

――相打ちという形で、幕を下ろそう。

同時に粘菌が勢い良く爆発した。



□□□


竜が放った一撃はヒグマの上半身を捉え、ヒグマの上半身を吹き飛ばした。
ヒグマが放った一撃は竜の顔面を捉え、竜の頭蓋骨と脳を粉砕した。

ヒグマはゆっくりと後ろに倒れる。
竜はゆっくりと前に倒れる。

両者共に動くことは無かった。

【ブラキディオス@モンスターハンター 死亡】
【羅漢樋熊拳伝承獣ヒグマ 死亡】

No.095:FGG 本編SS目次・投下順 No.097:気づかれてはいけない
本編SS目次・時系列順
No.008:ヒグマ・ヴァーサス・バンディット ヒグマ7 No.098:ゼロ・グラビティ
No.066:むなしいさけび ブラキディオス 死亡
羅漢樋熊拳伝承獣ヒグマ

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最終更新:2015年05月08日 12:03