ゼロ・グラビティ


「目標のポイントに到達いたしました。」

様々な人物がゲームの参加者として呼び出され、今も理不尽な強さをもつヒグマ達との
絶望的な戦いが繰り広げられている会場の上空。その殺戮遊戯の舞台に近づく一つの機影があった。

航空自衛隊が所有する大型輸送ヘリコプター、CH-47チヌークである。

配備開始から半世紀が経過した現在でも生産・運用をされ続け、日本国内においても
様々な大規模災害で活躍し、多数の人命を救助した名機がこの会場にやってきた理由は明白。

現在行われている巨大化した鷲頭の本州襲撃によっておぼろげながら見えてきた大量誘拐事件の全貌。
そして現在北海道の道民を恐怖のドン底に陥れている野生のヒグマの大量発生現象。
その異常事態の中心になっているポイントが政府によってようやく特定されたのだ。
目の前に広がる崖に囲まれた台地。この場所が混乱の元凶である可能性が高い。

「ふーん、北海道かー。初めて来たよ!」
「……やれやれ、なにが悲しくて俺がこんな小娘と組まなきゃならなぇんだか。」

CH-47の機内には、隊員の他に明らかに異質な二人の人物が座っていた。
一人は中学生位の赤髪の少女、もう一人は50代になりそうな初老の男。
会場で命賭けの殺し合いをしている参加者たちは知る由もないが、鷲頭の件を始め
既に会場の外にまでヒグマの被害が広がりつつある為、只ならぬことが起こっていることは
分かっていながらも、今回の調査では殆ど人を集めることは出来なかった。
そこでこう見えて政府の直属のエージェントである「彼女」と、
酒癖は悪いが地元に詳しい熊撃ちの名手である「彼」。
この二人に国が特別に依頼し、100人力の少数精鋭部隊が結成されたのである。
熊撃ちの名手である初老の男、山岡銀四郎は愛用の猟銃の手入れをしながら崖に囲まれた土地を窓から凝視する。

「なるほど、確かにうじゃうじゃ居やがるな。人を喰った悪神様がよぉ。」
「うーん。今回の事件にはヒグマが深く絡んでるらしいって聞いたけど、何があったのかな?」
「言っておくが、ヒグマには愛は通じねぇからな。エージェントだか何だか知らんが、死にたくなけりゃ見つけ次第殺せ。」
「はぁ……人工衛星とかなら遠慮なく壊せるんだけどヒグマは生き物だからなぁ……。」

「――――!?な、なんだ!?こちらに何かが近づいて……うわぁぁぁぁぁ!!!!!????」

突然、激しい衝撃音と共に機体が激しく揺れた。

「何が起こりやがった!?」
「様子を見に行きましょう―――――え!?」

慌てて席を立ち、音が聞こえた操縦席までやってきた二人は目を疑った。
大の字になったヒグマが操縦席のガラスを突き破り、パイロットを押し潰して倒れ込んでいたのだ。

「ヒグマだと!?馬鹿な!?上空何百メートルだと思ってやがる!?」
「えーと?空でも飛んでたのかな?……は、はじめまして、熊さん!大貝第一中学生徒会長、相田マナです!」

突然の襲撃に動揺する銀四郎と、とりあえず冷静になって挨拶するマナを見つめるヒグマは頭を垂らしながら喋り始めた。

「―――ドーモ、侵入者サン。ヒグマ7です。」

ニンジャソウルに目覚めたヒグマである彼はどんな時でも挨拶は欠かさない。

「ヒ、ヒグマが喋ったぁ!?」
「どうもご丁寧にヒグマ7さん。」
「デハ早速ですが、二人には私の餌になってもらいマス。」
「あははっ!流石ヒグマさんですね。でも、残念ですけど私は待っている人が沢山いるから、
 ここで死ぬわけにはいかないんですよ。」

宣言の後、ニンジャのごとき速度でヒグマ7がマナに襲い掛かったと同時に、彼女の体が
眩い光に包まれ、そこに先端をロールさせた独特な髪形をした金髪の少女が出現する。

「みなぎる愛――――キュアハート!!」

史上最強にして史上初の日本国公認プリキュアは名乗りを上げながらヒグマの掌を拳で受け止める。
隣で見ていた銀四郎は呆然としながらも気を取り直して手に持った猟銃に弾を込め始める。
だが、突然機体が大きくバランスを崩し銀四郎は尻餅をついた。
ヒグマ7がぶつかった衝撃で操縦席が破壊され、パイロットも即死しているのだ。
戦っている場合ではない。このままでは墜落してしまう。

「くそっ!この機体はもう駄目だ!嬢ちゃん!早く飛び降りるぞ!」

「「うわあああああああ!!!!!!!もう一匹取りついたぁぁぁぁぁぁ!?」」

再び激しい衝撃が機体に襲い掛かる。今度は側面から何者かの襲撃を受けたのだ。
機体に空いた穴から内部に侵入し、二人の世話係の乗組員を瞬時に捕食したのはまたしてもヒグマ。
さとりを殺害し、先ほど飛行に目覚めた穴持たず14である。

「くそっ!最近のヒグマは一体どうなってやがんだ!?」
「熊さんの間では空を飛ぶのが流行ってるのかな?」

もはや立っていることも難しい状態になった機内で壁にもたれかかる銀四郎に穴持たず14は狙いを定める。
万事窮す――――そう思われた、その時だった。

「ああもう!うるさいわね!せっかく隠れてたのに台無しじゃないの!」

突然、荷台に積んである大荷物がはじけ飛び、一人の少女が全身をスパークさせながら飛び出してきたのだ。

「だ、誰だテメェ!?」
「あ、やっと出てきた。ねぇ君、なんで隠れてたの?」
「知ってたんかい!……いやぁ、政府の連中の頭が固くて正式な手続きが出来なくてね。
 でも、友達が攫われたってのに、じっとしてるなんて出来ないでしょ?」

先日から行方不明になっている佐天涙子初春飾利を死に物狂いで捜索しているうちに今回の件に
辿り着き、こっそり荷台に隠れてついてきた学園都市最強のレベル5の一人、御坂美琴である。

「うん、わかるわかる。さて、これで丁度二対一かぁ。山岡銀四郎さん!
 私たちでこのヒグマさん達の相手をしますから先に地上へ降りて下さい!」

初老のマタギは足をふらつかせながら窓に近づき、既に装着しているパラシュートを確認しながら呟いた。

「やれやれ、最近の娘はやんちゃで困る。じゃあ、気ぃつけろよ二人とも!」

そう言って銀四郎は窓の外から飛び降りた。その後を追いかけようとする穴持たず14を電撃を放って遮る美琴。

「で、どうすんの?このままだとヘリが墜落しちゃうけど。」
「簡単だよ。もう一回上げちゃえばいいんだよ。」
「え?」

回転しながら徐々に高度を下げていくヘリの内部で立ち尽くす二人目掛けて二匹のヒグマが飛び掛かってくる。

「あぁもう!どうにでも!なれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

大きく体をのぞけ帰らせてヒグマの斬撃を躱した二人は、同時に強烈な蹴りをヒグマの腹部にお見舞いする。
そして、その衝撃で、二人と二匹を乗せた機体が音速を超えた速度で大きく上空へと吹き飛ばされた。


大きく広がったパラシュートが樹に引っかかり、何とかベルトを外した山岡銀四郎は
息を切らせながらなんとか地上へ下り立つ。

「くそ!なんだこりゃ!これ絶対ぇマタギの仕事じゃねぇだろ!!政府の野郎ぉぉぉ!!」

ぶつぶつ文句を言いながら、足元にころがった血のへばり付いた猟銃に気が付く銀四郎。
その引き金には引きちぎられた腕が張り付いていた。

「ヒグマとやり合って喰われたのか?しかしこいつぁ……。」

激しい戦闘を物語るように血痕や内臓が周囲の樹や地面のあちこちに飛び散っている。
かつて袈裟がけという巨大なヒグマを仕留めた自分だが、この地には似たようなヒグマがわんさか居るのだろう。
そのハンターの猟銃を手にとり、銀四郎は獲物が居るであろう森の奥を凝視した。

「……まぁ、やるしかねぇか。」

【I-8 森/深夜】

【山岡銀四郎@羆嵐】
状態:疲労、乗り物酔い
装備:愛用の猟銃、勇次郎に勝利したハンターの猟銃
道具:予備弾薬
基本思考:ヒグマを狩る
1:さて、始めますか
※穴持たず4は既に目覚めて何処かへ移動したようです


時間的には今は朝。なのに周囲は薄暗く、寒い。
下を見れば途方もなく巨大で美しい青い球体が何処までも広がっていた。

「ウーム、少々息苦しいですなぁ、穴持たず14さん」
「なぁに、空気が薄いなんて北海道の山中ではよくあることじゃないか。……それよりも。」

完全にスクラップと化して宙を漂うCH-47の上に立ち尽くす二匹のヒグマは少し離れた場所で
分解したCH-47の残骸の上に立つ二人の少女を見つめる。

「どうもここにはあの二人の人間以外には餌が無いようです。早めに捕食して会場に戻りましょう。」
「ええ、そうですね。」

「地球は青いベールに包まれた花嫁のようだった。それにしても、ふっふっふ。宇宙かー。何気によく来るなぁ。」
「……すごいわね、私だってまだ二回目だってのに……うわっ!寒っ!」

会場の遥か上空の宇宙空間。この地球の重力から解放された場所ではあらゆる生物は生存を許されない。

 だ が こ こ に 例 外 も 存 在 す る !

極寒のデブリ地帯にて二匹のヒグマと対峙するのは
国防兵器プリキュアと学園都市最強のレベル5。

「てかこんな所で遊んでる場合じゃないし!とっととあいつら倒して地上に戻るよ!」

そう叫んだ美琴は両手を左右に広げて電磁力を集約させる。
すると、瞬く間に宇宙ゴミ―――衛星の残骸が彼女の手に集まってきた。

「弾が一杯あって最高ねこのステージ!!―――――行けぇぇぇぇぇ!!!!」

美琴はレールガンで衛星の残骸を次々とヒグマに向かって発射した。
無重力空間では速度が減速しないため無限に加速する弾丸が二匹に襲い掛かる。
慌ててジャンプして回避する二匹のヒグマ。元いた足場が粉砕される。

「やりますねぇ美琴サン。ではこちらも真似してみましょう。」

ニンジャソウルに目覚めたヒグマ7は手で掴んだ宙に浮いた鉄の残骸を両手で挟んで引き伸ばし、
スリケンにして美琴に投げつける。それを美琴はレールガンで迎撃した。

「グオオオオオオォォォ!!!」

穴持たず14は宇宙空間でも耐えられるその強靭な肉体でキュアハートに直接襲い掛かった。
キュアハートの足場が瞬時に破壊される。直前にジャンプして回避したキュアハートは宙を漂いながら
穴持たず14に語りかけた。

「ははっ!あなた達、人間の言葉が喋れるんだね!だったら私達はきっと分かり合えると思うよ!」
「……グルルルゥゥゥ!!!」

逆さまになったキュアハートは両手でハートの形を作りながら不敵な笑みを浮かべた。

「どんな生き物にも愛はある!愛を無くした悲しい熊さん!このキュアハートがあなたの胸のドキドキ、取り戻して見せる!」


【???/宇宙/朝】

【相田マナ@ドキドキ!プリキュア】
状態:健康、変身(キュアハート)
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
基本思考:任務を遂行する
1:ヒグマに愛を教える

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労、呼吸困難、帯電
装備:大量の宇宙ゴミ
道具:無し
基本思考:友達を救出する
1:なんで宇宙で戦ってるんだろう?

【ヒグマ7】
状態:ニンジャ、宇宙を舞う
装備:スリケン
道具:無し
基本思考:餌を探す
1:まだ足りない
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です

【穴持たず14】
[状態]:空腹、スイーッと宇宙を飛んでいる
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:飢えを満たす
1:おいしかったー
2:ものたりないなー
[備考]
※B-8にはさとりの支給品一式が落ちています
※智子と流子を追っていました



No.097:気づかれてはいけない 本編SS目次・投下順 No.099:大沈没! ロワ会場最後の日
本編SS目次・時系列順
相田マナ No.105:Sister's noise
御坂美琴
山岡銀四郎 No.108:老兵の挽歌
No.096:打ち出す拳 ヒグマ7
No.084:傍迷惑 穴持たず14

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最終更新:2015年05月08日 12:19