決着


「はああああああ!!!!!」

佐天の怒号と同時に、エカテリーナ2世号改が工藤へと駆ける。
対する工藤は眉一つ動かさず必要最低限、尚且つ最も安全で、防から攻へと最も早く転じれる、最も合理的な動きでかわす。
防御を終え次なる攻撃を放とうとする工藤へと、佐天は更なる猛攻を叩き込む。

「駄目だな」
「なっ!?」

一瞬にして工藤はその攻撃を見切り、エカテリーナ2世号改の腕を掴む。
工藤の手から脱出しようと、佐天はエカテリーナ2世号改の腕を引くがビクともしない。

「言ったろ? 人間は熊にゃ勝てねぇ」

メキメキと軋むエカテリーナ2世号改。

「それが、どうしたっていうのよ! 確かに生身の人間は熊には勝てないかもしれないけど……人には機械が、英知がある!!」
「ふっ」

エカテリーナ2世号改が地面へと叩き付けられる。
襲い掛かる衝撃に視界を揺らしながらも、佐天はエカテリーナ2世号改を操作し立ち上がろうとする。
だが……

「ど、どうし――」

エカテリーナ2世号改はもう永遠に立ち上がらない。
当然だ。何故なら、エカテリーナ2世号改に下半身は吹き飛び、今やエカテリーナ2世号改は上半身しかないただのジャンクなのだから。

「これが熊の力……?」

そう佐天に認識できる速さを越え、最早それは世界の許容する拳の重さを超えていた。
たった一発に拳によりブラックホールが発生し更にそれすらもねじ伏せる圧倒的パワー。結果、起きたのは次元の歪。
空間はひび割れ、その向こうには異次元空間が広がっている。

「諦めな。譲ちゃん」

工藤はエカテリーナ2世号改を持ち上げると、ゴミを放るような要領で次元の歪へと投げた。


――虚しさは無い。
中々に楽しめたのも事実。

さあ行こう。戦いはこれからだ。

工藤は先までの対峙していた勇敢なる女戦士へと一礼をし背を向けた。






ああ、私死ぬのかな?

まあいいか。レベル0にしては頑張ったよね。



『諦めるのかい? 譲ちゃん』

誰? 包帯巻いたこのおじさん。

『ん? まあ警戒するのは当然だな。俺の名は左天』

私と同じ名前? 一体この人。

『それよりももう一度聞くが、諦めちまうのかい?』

だって、もうこんな場所じゃ……。
無理なのよ。所詮レベル0の私なんかじゃ。

『分かんないぜ? レベル0とやらが何なのか知らんが、粘れば意外と何とかなるもんだがね』

……どうしろってのよ。
あの熊の前に先ずはこの空間から出なきゃならないってのに。

『しょうがねえ。少しだけ俺が手を貸してやるか』

え? 何? 変な金属を着けた両手を合わせて一体……。

『多分、これが俺がお前に支給された理由なんだろうな』

これは……この力は……!?

『しっかり見とけよ? これが――■■■■』





時空の歪が再びこじ開けられた。

「何?」

天へと昇る光り輝く閃光。
あまりにも神々しく、そして美しい。
まるで神話の創造、あるいは世界の終焉とでもいうのだろうか。
工藤はその光景にただただ見惚れ、そしてその光の発生源を見つけた。

「譲ちゃん……」





「さあ――リターンマッチよ? おじさん!!」

再宣戦布告の宣言。
刹那、佐天から暴風が巻き起こる。

「風使い……?」

そう佐天の能力は風使い。
たかだがレベル0の。されどレベル0。
あの異空間での邂逅が彼女に何らかの異変をもたらしたのか。それとも、これこそが彼女の持つ本来の力なのか?

「はあああああああああああ!!!!」

暴風を纏い工藤へと突っ込むその様はまさに人間台風(ヒューマノイド・ハリケーン)。
工藤は腰を引き、まるで力士の構えのような体制を取り受け止めた!
「「うおおおおおおおオオオオオオオオオオオ!!!!!」」
轟く両者の咆哮。引き起こされるカマイタチにより、工藤の体は着実に切り傷を増やしていく。
しかし、足らない。工藤という壁を突き崩すにはまだ至らない。
「ぬうりゃあああああああああ!!!!」
だがその均衡は崩れる。
先程まで確かに押していた佐天が殴り飛ばされる事により。
「ぐ、がああああああ!!!」
獣の様な叫びと共に佐天は地面へと叩き込まれクレーターを作った。

「成る程な。空気中や任意の対象から熱エネルギーを奪い、それを増幅して掌などから放出する能力。
 それが譲ちゃんの能力だろ?」

「……」

「肯定と受け取るぜ。あの風はその応用だろ?
 つまり、空気中に吸収した熱を加えて気圧差を生じさせることで暴風を巻き起した。
 なら話は簡単だ。風の流れを変え気圧差を元に戻せばいい」

「……」

「どうやって? って顔だな。
 簡単だ。息さ、そっと息を吐いて譲ちゃんの加えてきた熱を吹き飛ばしたのさ」

「……」

「種はバレた。――次はどうする?」

佐天は工藤を睨み、そして――

(やばい、そんな事知らなかった……)

自らの能力の秘密に内心驚いていた。
道理で能力が使えないというかレベル0な訳だ。
どんな能力も使い方が分からなきゃ、意味が無いのだから。

(使い方が分かったのは良いとして――)

それでも工藤は砕けない。
強すぎる。小手先だけの能力など全て粉砕しあの男は侵攻を続ける。
故に熊。あの男は熊なのだ。

(使うしかない。あの異空間で見た、あの技を)

先手必勝。
風をホバーミングの要領で起こし加速しまた工藤へと突っ込む。

「喰らいなさい! これが――」
「!?」

右拳を叩きつけ、その名を叫ぶ。

「――え?」

しかし何も起こらず。
いや起こっていはいる。ただ、手の先からちょろっと暖かい空気が出ている。
呆れた表情を浮かべる工藤に佐天は焦って距離を取る。

「ぶべらば!」

右頬に衝撃が走る。
ビンタ。工藤からすれば軽く撫でた程度の。
しかし佐天からすれば、その一撃で全て持っていかれた。

戦意も、決意も、生き汚さも。何もかも。

(あっ――)

そして意識さえも――

――佐天さん。

(初、春……?)
最期にパンツ見たかったなあ……

――ジャッジメントですの!

(白井、さん……?)
ああ、これ本格的に走馬灯かも……ハハッ私死ぬんだ。

――あっ佐天さんは別よ?

(御坂さ、ん……)

御坂さん……結局私御坂さんみたいには……。

――諦めるのかい? 譲ちゃん

(あの、時の……)

何よ、偉そうに。滅茶苦茶痛いんだから。
本当に嫌になる程。
おじさんのせいだよ……

――そうかい。そりゃ悪かった。



本当、おじさんのせいだよ……。

こんなに痛いのに、こんなに辛いのに。

「うあああああああああああああああああ!!!」

どうしようもなく立ち上がっちゃうのは!



「思いの他、タフって訳か」

工藤は笑った。
楽しい。ここまで、ここまで自分に歯向かい。何度倒れても這い上がる。
湧き上がる高揚感、対抗意識。

――潰す。

この譲ちゃんは自らの意地に掛けても確実にここで屠る。
それだけの価値がある。



(立ったは良いけど――どうする? 
 あの技はどう使えば……落ち着いて熱吸収……熱吸収……そうよ! もっと熱いものを吸収してぶっ放すのよ!!
 ……って熱いものってそんな近くには……)

今は夜。最悪太陽の光を利用しようにもあるのは冷たく輝く月が一つ。
つまり熱の吸収は人工的なモノを使う必要がある訳だが。

(無い、私の支給品は金属バットとエカテリーナ2世号改、そして左天のおじさん)

周りを見渡すが高温な熱を持っているものは無い。
万事休すか。

(そんな、訳無い!!)

佐天は工藤がこじ開けて次空の歪へと拳を叩き付けた。
閉じかけた次空の歪が再びどの扉を開く。
御坂以上の豪腕を持つ佐天には簡単な事だ。

「諦めなきゃ良いんでしょうが!!」

次の瞬間、佐天と工藤を取り巻く周りの木々が地面が虹色の粒子となって分解を始めた。
突如発生した未知の現象。工藤がそれに驚く間もなく、虹色の粒子が佐天の両腕へと集まり新たに何かを再構築し始める。
虹色の輝きの中から姿を現したのは銀色に輝く二つの金属の腕輪。

「まだまだァ!!」

これだけではすまない。
更に物質を分解していき、今度はそれを熱量へと変換し始めた!

アルター能力。

ロストグラウンドの新生児の2%に宿る異能力。
向こう側の世界と呼ばれる場所にアクセスし能力を具現化させる。
この物質の分解、再構築はそのアルター能力によるもの。
だが佐天はアルターを持っている訳ではない。
元々、向こう側の世界のアクセスなど出来ない。それを強引に無理やり、偶然開いた次空の歪から引き出したに過ぎない。
本物のアルター使いに比べれば、歪だらけなアルター。しかしこれだけで十分。

「熱が無いなら創り出せばいい……」

この金属の腕輪までは予期せぬ副産物だったが……まあいい。
恐らくは佐天のイメージが影響し、この腕輪を構築してしまったのだろう。

「見せてあげる……これが本当の――」

工藤は、笑った。

―――人間はヒグマにゃ勝てねぇ。空手も使えねぇヒグマにだ。ならどうする?

工藤は答えを出した。

―――なっちまえばいいじゃん、ヒグマによぉ。



正解だろう。
勝てないなら勝てるモノになればいいのだから。

故に自分は人を棄てた。

今はただの畜生、熊だ。




だが、この少女はどうだろう?

―――人間はヒグマにゃ勝てねぇ。空手も使えねぇヒグマにだ。ならどうする?

少女は答えを出した。

――熊など不要(ニードレス)勝てぬ相手なら更に進化(アルター)する。




(笑っちまうよな……。そうか、こんな方法もあったって訳か……)



「第四波動ォォォォォォ!!!!!!」


身を焼く剛火に後悔など無い。
ただ一つ思い残したことがある。


――次は勝ちてぇ……


北辰会館有段者工藤健介は逝った。



【工藤健介@餓狼伝】死亡






【B-3森/深夜】

佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(大)、ダメージ(大)
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品×0
基本思考:対ヒグマ、会場から脱出する
1:仲間を見つける
※第四波動とかアルターとか取得しました。

※異空間にエカテリーナ2世号改の上半身と左天@NEEDLESSが放置されています


No.027:目覚め 投下順 No.029:本能
No.027:目覚め 時系列順 No.029:本能
No.001:グリズリーハンターSATEN 佐天涙子 No.052:何故鶏は道路を渡ったか
工藤健介 死亡
左天 No.093:風になれ~みどりのために~

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最終更新:2016年07月15日 23:26