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Alice Magic > ぼくだけのふぁんたじあ

◆ ◆


愛崎一美という少女の特異性については、もう十分に説明した。
物事を吸収する速度は二人の悪人にまでも末恐ろしいと思わせるだけのもので、現在は順調に悪人への街道を一直線に進んでいくいわば「悪の卵」となっている。
白崎ミュートンに親友の思い出を奪われ、より悪人寄りに改造された玩具。
しかしながら彼女の欠点は、あまりに高すぎる吸収力と、子供故に面白そうなことに興味を懐いてしまうその性質。折角上塗りした悪人思考を簡単に上塗りされてしまう。
その都度対処していくつもりだった両者だが、皮肉にも自らに危害を加えようとした大崎年光によって――正確には彼の持っている「腕」によって、彼女は反転した。
子供らしい何事も移ろいやすい性格から、頑としてひとつの道を貫き通す性格へと、反転した。
本来スタンスを反転させるその能力は、彼女の場合において別の働きを見せたのだ。

何故かと問われれば、彼女のスタンスは存在しないから、と言わざるを得ない。
ほんの少しのきっかけで簡単に変わり、それこそ反転することだって呼吸をするように行う。
現在は白崎と酒々楽々の策謀によって悪人思考を植え付けられてこそいるが、たとえば今目の前に彼女を揺るがし得るだけの衝撃的な何かが現れれば、一美はすぐに悪人思考を捨てるだろう。
何の躊躇いもなく、何一つ未練なく、噛んでいたガムを吐き捨てるように。
いわば彼女は心機一転の力に影響されるまでもなく、反転する生物なのだ。
だがしかし、彼女の中で唯一確かにあるものがある。
それこそ、彼女自身の重大な性質であり、厄介と評された感受性。
何かに影響されて変化するその性質そのものに、四字熟語のルール能力が働いたとしたら?
彼女の人権を無視するような手段でだが、致命的な弱点は克服できる。
そしてつい数秒前、心機一転の魔手は彼女の胸にしっかりと触れた。
―――愛崎一美の反転は、あっさりと完了する。


「……くっ、くくくく。こいつは思ってもない展開だったな……!」


今にも高笑いを始めたい様子でぷるぷると震えている白崎を、一美は首を傾げて見やる。
白崎ミュートンは愛崎一美を一瞬の躊躇もすることなく、自らを守る盾とした。
如何に策謀と話術に長ける彼といえど、まさか何の前情報も無しに自分の知らない道理、四字熟語のルール能力なんてものを見破ることなど出来る筈もない。
ならば、どうしてそんな行為に走ったのか。
その理由はあまりに単純明快で、しかし常人には理解できないようなものだった。

大崎がこのタイミングで切断された人間の腕なんてものを使う意図などひとつしか考えられない。
あの腕にはこの絶望的状況を打破するだけの可能性がある、そう白崎は瞬時に悟った。
どんな効果を生むのか興味はあった。
だがこのままではその実験を体を張って行うことになってしまう……それは御免だった。
まさか自分の身体を実験材料にして興味を満たすなんて真似、この状況でする馬鹿はまず居まい。
そこで彼は、我が身を守る為に一美を盾にしたのだ。
勿論あの腕は触れたものを瞬時に死滅させるような壊滅的威力を持っている訳ではないと考え、そしてその効果が愛崎一美にどんなマイナス影響をもたらすのか気になったのもある。
そしてその結果として、彼女は見事に反転してくれた。
意志を貫く誠実な極悪人へと、変わった。
悪人同盟唯一の不安要素にして最大のホープは、ここに正真正銘の悪人となって生まれ変わる。
バトルロワイアル開始後、白崎ミュートンに影響され、香坂幹葦に影響され、そして再度白崎ミュートンに改造された。そんな宙ぶらりん人生は、もうお終いだ。
これからは自分の道を歩む。
誰かに影響され続けて生きるなんてくだらねえ―――その感情が偽りであるとは知らずに。


「白崎よぉ、あれどう見る」
「どう見るって……ハハッ、最っ高と言うしかねえだろ」
「だよなァ。まさかこんなことになるとは……手加減しておいて良かったぜ」


悪人同盟改め悪人教団になる予定の彼らは、大崎年光の接近に気が付いていた。
意外にも気付いたのは一美で、子供故の優れた観察力で微かな足音を聞き取ってくれたのだ。
人間は、足を潜めて歩こうとすると逆に不自然になってしまう性質を持っている。
修学旅行の夜にひそひそ話を楽しんでいる時に、その声が廊下にだだ漏れであるのと同じ理屈で、必要以上の緊張をして行動する為、力が必要以上に籠ってしまうからだ。
それでも白崎達より早く気付けたのは一美の功績と言う他ないだろう。
危険人物だろうがどうだろうが、接近してくる相手を黙って待つような愚かなことはしない。
会話は続けたままで、酒々楽々は少しずつルール能力を行使した。
何も知らずに突入してきた大崎に回避の術はなく、成す術なく彼は屈したわけだ。
最高の置き土産を残して、最後は酒々楽々の側頭部蹴りで意識を奪われた。


「ああ。やっぱり急ぎ過ぎないことも時としては大切なことだよ」


最高の愉悦を感じながら、白崎は変貌した一美に目を向けた。
見た感じ変わったところはないが、その性質は全く正反対のものに変わっている。
叩き込んだ悪性が薄れていないのは嬉しい幸運だったし、大崎が起死回生の一手として講じた心機一転の魔手は、悪人三人の勢力を僅かにでも強めただけであった。
変わらずにひとつのことを貫き通す悪。
四字熟語のルール能力を受けて、漸く愛崎一美は白崎達と同じ生き方に辿り着くことが出来たのだ。
とはいえまだまだ未熟。
悪行を極めたとは到底言えないし、白崎と酒々楽々にもまだ遠く及ばない、卵の状態のままである。
改良を加えれば伸び代はとんでもなくでかい、真っ白なキャンバスのようなもの。
反転したならば尚のこと描きやすさは倍増し、素晴らしさは格段に上昇した。
絵の具は経験と知識。
バトルロワイアルにおける最終目標・主催者の打倒を果たした頃には、きっと愛崎一美は悪人として、白崎達に並び立つだけの完成品となることだろう。
そう考えると、高鳴る鼓動を抑えることが出来ない。


「なあ、白崎っ。こいつどーするんだ?」


一美は小さな手で床に倒れ伏す大崎を指差した。
泥酔状態で朧気な意識を、頭部への打撃で完全に落としてある。
一時間程度もすれば目を覚ますだろうが、危険な存在であることに変わりはない。
白崎も酒々楽々も肉体は人間だ。
心は悪魔と称されようとも、心臓を砕かれれば生きていられない、そんな程度の存在だ。
シグプロSP2340の弾丸を受ければ傷になるし、反転の腕を受ければ大変なことになる。


「殺してもいい――が、ここは敢えて俺達がここから去ろう」
「え? どーしてだ、こいつは殺さないのか?」
「そいつを放っておけば、もっと多くの面白えことが起こるんだよ。
銃を持っているし、あの得体の知れない誰かの腕もしっかりと活躍してくれるだろう。
善良な奴がどんどん潰れていくと考えりゃ、担い手を生かしておくのもまた一興だ」


それに、そうでなくとも白崎はあの「腕」を手に入れたいとは思わなかった。
あの腕の効力は目に焼き付いている――恐らく効力は反転であると、一目で理解できた。
なればこそ、それは更なる面白いことを生むと同時に最大のウィークポイントとなってしまう。
自他共に認める悪人の白崎にとって、心機一転の力は最大の障害である。
何かの事故であれを受けてしまえば、見違えるような善人に文字通り反転してしまうことだろう。
そうなれば酒々楽々達との決裂はどう考えても決定的なものになるし、最悪の展開以外の何物でもない。
自らを殺し得るものは側に置かない、悪人以前にこれは必須の道理である。
策謀に心得のある者ならば誰もが気を遣うだろう当たり前のことを、彼は丁寧に行った。
銃ぐらいは押収しても良かったのだが、これも敢えて残しておいてやろう。
この右腕とあの銃だけでどれ程の混乱を巻き起こしてくれるのか、見物である。


「ふぅ、しかしここのコーヒーは美味いな。相当拘った豆を使ってるだろ、これは」
「コーヒーなんざより酒の方がよっぽど美味いだろうがよォ」
「いやいや、オレンジジュースだってなかなかすてたもんじゃないぞ!」
「オレンジジュースは論外だよな」
「ああ、オレンジジュースを飲むくらいならおれはキンキンに冷えたコーラの方がいいな」
「俺はドクターペッパーとかが好きだよ。……おっと、某狂気のメァッドサイエンティストさんと俺は何の関係も御座いませんので、画面の前の皆さんご了承下さい」
「だれに説明してるんだ!?」


他愛のない雑談をしながらも悪人達はその場所を後にする。
飲み物の片付けなど行う筈もなく、散らかしたままで悠々と立ち去るのだ。
残された誰かの右腕を持った男にはもう見向きもせずに、彼らはフードコートを出る為に歩いていく。


「これからだが……どうすんだ? ダラダラしてるプランは壊れちまったぞ」
「そうだな……くく、いいことを思い付いたぜ」


普通なら不敵と表現されるべきなのだろうが、それとはそぐわない邪悪さを滲ませて白崎は笑む。
悪巧みをしている表情であることは誰の目から見ても明らかだろうし、現にその通りだった。
彼が考察いたのは、愛崎一美をどうやって教育していくか、その手段だった。
経験は時に知識にも勝るが、この未熟者にどうやって経験を積ませるかがかなりの難関である。
以前までなら下手に前に出せば逆に懐柔される危険があったので、それは論外としていた。
だが、今こうして反転していても、まだ早いと白崎は思う。
知識ゼロの状態では経験を積める訳がない――故にここは、まずはやり方を教えることが先決であると、白崎ミュートンは悪人ではなく一人の「講師」として決定した。
モルモットは幸い腐るほど居るわけだし、しかも壊した相手は良い手駒にもなる。
悪人の教団。
事態を急ぐ気はなかったが、少しばかりフライングさせて貰うことにしよう。
白崎は意図を伝えないまま二人を連れてエレベーターに乗り込み、適当な階のボタンを押した。


◆ ◆


「ぁあ……はぁ、はぁ……」


試着室のドアに無数の引っ掻き傷をつけて一頻り暴れた香坂は、荒い息を吐いていた。
眼球の痛みは大分治まってこそいるものの、状況は一向に改善されない。
ドアを破ることも可能ではあるのだろうが、身体よりも精神面の疲労が相当なものになっている。
カインツ・アルフォード、あの医者に香坂幹葦は敗北した。
熱血とは言い難い戦略に終始翻弄されての、誰が見ても完敗と言える一戦だった。
相手にされなかったということは無いのだろうが、この醜態を見るとそう思わずにはいられない。
どうしてこうなるのか。
悪いことをすることそのものが自分では役不足だというのか。
どうして散々な目にばかり遭って、それでいて何も得ることがないのか。
神に嫌われているとしか思えないような自身の不幸と、何より世界の理不尽さを香坂は心から呪った。
姿見に凭れて、香坂は自身の息を整えた。
安息を約束されている時間は限られていて、ひょっとするとこれが最初で最後かもしれない。
悪いことをしたいという心からの欲求とは裏腹に、人並みの安息を求めようとする都合のよさ。
香坂幹葦は、重なるストレスで弱気に、珍しく自虐の念さえ懐き始めていた。
もしもこの安息さえ誰かが脅かすのだと知れば、香坂は生きることさえ諦めてもおかしくない。
だが自分の命を断つことさえも自分には叶わないのではないか――己がこれまでの数時間に辿ってきた不幸と道化の道を顧みて、香坂は思わず壁を強く叩いた。

少しずつ、少しずつ着実に香坂の精神は蝕まれている。
敗北の憤りと情けなさ、自信の喪失が重なることで彼の心を削っていく。
鑢で削るように、崩れて灰になった心の残骸が積み重なっていく。
ゆっくりと進行する精神の崩壊に、もはや香坂は抗おうと言う気力さえ起きなかった。
戦いの最中の熱は当に覚め、生への諦観の念さえ沸き起こってくる。
大崎年光との契約のことなど、どうでもいい。
試着室のドアを破る気力なんて、ある筈もない。
ああ、もう神に祈るしかないのか。
情けなく跪いて、無様に頭を垂れて手を合わせるしか手段はないのではないか。


(……それも、いいかな)


最早戦意の欠片も湧いてはこない。
悪いことをしようと思えばことごとく失敗する。
今では信じられないが良いことをしようとしても、結局は許されなかった。
何をやっても失敗ばかりと自らを自虐する者がいるが、まさに自分はそのものだ、と香坂は思う。
何の欲求も起こらず、ただ生きているだけの壊れたガラクタ人形。
いっそ神に懺悔でもしてみれば、救いの道は開かれるのかもしれない。
敗北者には丁度いい末路だ。
燃え上がるまでの激情と殺意さえ、今となっては恋しい。
一矢を報いることも出来ずに終わったカインツとの戦闘も、忌まわしいというより懐かしい。
悪人になりたい。
善人になりたい。
悪人になりたい。
何もしたくない。
四度にも及ぶスタンスの変更に、我ながら呆れてしまう。
香坂幹葦の胸中に自嘲の念ばかりが湧いて、それら全てが辛酸となってじわじわと香坂の心を焼く。
今ならば死することにさえ、意味があるのではないかと思える。
不思議と恐怖の情は、まるで湧いてくることはないのだった。
すっかり獣のそれと化してしまった自身の鋭い爪を見て、香坂ははぁ、ともう一度溜め息をついた。

白熱灯の輝きに合わない静寂が、フロア全体を支配していた。
この世界に一人きりで残されたのではないか、そんな錯覚さえ覚える香坂だったが、しばらくするとエレベーターの到着した音がしたのを、彼の強化された聴力は逃がさなかった。


「よし……!」


思わず明るい声が漏れてしまう。
エレベーターが到着したということは、敵であっても味方であっても、誰かがやってきたということだ。殺し合いに乗っている自分に味方も何もあったものではないことくらいは承知の上だったが、そうでも思わなければ気が休まらなかった。
出られるかもしれない。
この密室を誰かが破ってくれて、自分は外に出られるかもしれない!
そうしたら大崎との契約を果たすために、躊躇なくその喉笛を食い破ろう。
悪辣なる神が自分を嘲笑う為に聞かせた幻聴ではないかと一瞬疑いもしたが、直後聞こえ出した話し声を耳にしたことで、それが確かな現実であると知らせてくれる。
早く来い。
早く来てくれ。
懇願する香坂の思いが天に通じたのか、話し声は次第にこちらに迫ってきているようだった。
一秒が永遠にさえ思えた。
長く長く感じた時の果てに、声はどうやら試着室の異常に気が付いたらしかった。
足音が迫ってくる。複数人が相手なら分が悪い、まずは善人の振りをしておこう。
信用しきったところで不意打ちして、一網打尽にしてやればいい――先程までの消沈が嘘のような殺人思考で、彼は忌まわしい試着室の扉が開くようになるのを待った。
中に人がいることを伝えるために、精一杯の声をあげた。


「おーい、助けてくれ! 閉じ込められてるんだ!!」
「なに……? それは大変だ、酒々楽々、手伝ってくれ」
「っくく……あいよ」


声は二人分、どうやら男の声だ。
微かに聞こえる少女の声も合わせて、人数は三人といったところだろうか。
正面からやり合っても勝ち目は無いだろうし、やはり不意を突いて堅実にやっていくしかないようだ。
これまでことごとく失敗しているだけあり、今度は絶対に殺してやる、と香坂は意気込む。
彼の思いを余所に二人の男は棚をいとも簡単に退け、分厚く思えた扉を容易く開け放った。
タレント風の男と、落ち窪んだ目元が特徴的な男だった。
なかなか個性的な面子だな、と素直に香坂は印象を懐く。
しかしようやっと試着室から出られたことについては、感謝の念も勿論ある。


「大丈夫か? ……誰にやられた?」


心から心配している声色で、タレント風の男が聞いた。
答えようにも、香坂はあの少年の名前を知らない。
下手な嘘をついて見破られると面倒だし、ここは分からないと答えることにした。


「分からないんだ……不意打ちで気絶させられて、気が付いたらこの中にいた」
「そうか……」


別に奴の悪評を振り撒くことに意味があるとは思えない。
むしろ下手に見た目を記憶しているよりも、分からないと言った方が真実味もあるだろう。
香坂は立ち上がると試着室から出て、三人に礼を言った。
が、その時に気付いた。
三人目――声だけしか聞こえていなかった少女を、香坂幹葦は知っている。
「反転」する前、善人だった頃にあれと邂逅した。
電源コードを得物にして紆余曲折少年を殺そうとしているところに、自分が割って入ったのだ。
ならば、必然的に事態は大きく変わってくる。
背筋に毒蛇が這い回るような悪寒を感じながら、香坂は善人だった頃の記憶を思い返す。
紆余曲折は言っていた。
あの少女を変えた悪人の名前は、確か―――


「俺は白崎ミュートンだ。こっちは酒々楽々、このガキが愛崎一美」
「僕は香坂……香坂幹葦だ」


白崎ミュートン。
パズルのピースが合わさったのを、香坂は確かに感じた。
全身が凍り付いて動かなくなる。
今目の前にいる三人は一人残らず悪人であるということを思い出し、この状況の不味さに気付いた。
出し抜ける訳がない。
躊躇なくえげつない真似をした小学生の少女に、それを作り上げた悪人の青年、そして未だ未知数だが彼らと同類である可能性が非常に高いサラリーマン風の男。
どいつもこいつも悪人揃いだ―――逃げるしか、ない!


「お? お前、あたしの夢に出てきたばかな善人にそっくりだな」


香坂幹葦は知らないが、愛崎一美の記憶は一部朧気になっている。
特に香坂達との一件についてはねじ曲げられ、夢を見ていたと言うことで落ち着いているのだ。
だからそういう表現になるのだが、白崎と酒々楽々は勿論その真相を知っている。
香坂もまた、動揺を隠し切ることが出来なかった。
ひっ、とあからさまな動揺を意味する情けない声を、つい反射的にあげてしまった。
二人の悪人の邪悪な笑顔が向いたその瞬間、香坂幹葦の命運は尽きたのだった。


◆ ◆


「……反転してるんじゃねえの、こいつ」


それは酒々楽々の声だった。
白崎達も身近な一人の仲間で効果の程を知っている、スタンスを強制的に反転させる右腕。
愛崎一美の「夢」の記憶が正しいなら、そういうことになる。
白崎も納得したように頷くと、その口元を三日月を思わせる笑顔の形に歪めた。


「やっぱり、何だか俺達と同じ臭いがすると思ってたんだよなァ」


似た者同士は引かれ合うとか、哲学的な話だとは思うがそういうジンクスはよく耳にする。
最悪の下には最悪が集まるのも、そう考えれば当然の最悪な道理なのかもしれない。
白崎は香坂幹葦という人物についてその場で分析を始める。
自分達を見て明らかに怯えているところを見るに、何らかの情報は持っていたようだ。
うっかり一美が口を滑らせたと考えるのが妥当だが、彼女を責める気は白崎にはない。
むしろ良くやったと言いたくもある。
白崎ミュートンがどんな人物であるかをうっすらとでも把握していてくれるなら――もしもそういう人物が増えて自分の情報が広まれば、教団の普及は随分と楽になる。
心が疲弊した者が最後に藁にもすがる思いで悪しき救いを求める、実に素晴らしいではないか。
白崎だけでなく、酒々楽々は勿論として未熟者の一美さえも満たす、極上の愉悦となることだろう。


「香坂。お前は悪人だな」


愉しみを渋ることほど愚かなものはない。
愉しむことを熟知しているからこそ、白崎はまどろっこしい過程を飛ばして本題に入る。
香坂の反応は当然の如く、動揺。
反転のことを見抜かれているにも関わらずシラを切り通すつもりなのかは知らないが、とりあえずその反応じゃあ認めているのと同じだろ、と彼は苦笑いをこぼす。
大体彼の言ったこともおかしい。
何故不意打ちという「悪いこと」をしてまで香坂を襲ったのに、試着室に閉じ込める必要がある?
殺そうともせず支給品も奪わず、どうしてそんな面倒な真似をする?
ドアを棚で塞ぐようなこと、やるとすれば「危険人物を閉じ込めたいから」としか考えられない。
それだけの根拠があれば、香坂を悪人であると断じるのは反転の情報が無くとも容易だ。
あちらも白崎達の本性を知っているのなら、猫を被る意味もない。


「奇遇だな、俺達もそうなんだ。人呼んで悪人教団だ……まだ呼ばれてないけどな」


完全に見透かされていることを悟った香坂はといえば、決意をしていた。
三対一で分は悪いが、どうにかしてこの状況から逃げようと企んでいた。
返り討ちにされるかもしれない。
だが、勝算はない訳ではなかった。
相手は全員丸腰の上、内一人は思想がどうであれ小学生。
それに比べて自分は獣の部位を持っている。凶器を持っているにも等しい臨戦態勢だ。
しかしそんな香坂の考えも見通されているのか、次に白崎は本題を繰り出した。


「そして、俺達はお前に危害を加える気は全くない」


予想外過ぎる言葉に、香坂は思わず目を見開く。
危害を加えるつもりはない。
ならばこの男は本当に親切心で助けたというのか。
いや、そんなことはあり得ない。無垢な少女をあんな狂人に変えた男が、そんなことをする筈がない。


「まぁ、お前が善人のままだったら間違いなく殺していたが……悪人となれば話は別だ」


白崎の目から見ても、香坂幹葦は悪人として未熟なことは明らかだ。
このバトルロワイアルである程度は本能的忌避が消えたようだが、まだ足りない。
だからこそ、見てみたいと切に思う。
まだ所詮偽悪人の青年が、悪事を行うことそのものに陶酔する光景を。
嬉々として人の不幸を引き起こし、堕落する様を見てみたい。
もしも香坂幹葦が、一美に聞いた限りの善人だったなら、言葉通りに彼は殺されていただろう。
ちっぽけな正義を大いなる悪で砕かれて、失意の中で命の華を散らせたことだろう。
だが、彼はやはり土壇場で幸運を発揮する質なのかもしれない。
反転して更に反転し、元通りになった彼は、条件を満たしていた。


「そこでお前に提案がある。断ってもお前を殺しはしないが、魅力的なもんだと思うぜ」


ニヒルな笑顔で、白崎ミュートンは右手を差し出す。
まるで握手を求めているかのようなその動作の意味を、香坂は一瞬理解できなかった。


「悪人を守り、悪人のみで主催者を打ち倒す教団、悪人教団。
まだ加入者は三人だが、どうだ? 香坂幹葦――お前も俺達のように悪を極める気はないか?
お前の悪にはまだ躊躇い、迷いが残っている。そんなもの、全て消してやる。
俺が作り、お前が冒す。俺が罅を入れ、お前が壊す。そういうものに憧れているんだろう?
悪事を働きたい――なら、俺達と来い。夢を見せてやる」


どこぞの少年漫画の主人公のような熱い、しかしその内容は悪意に溢れた勧誘のそれ。
そんなに馬鹿げているからこそ、香坂幹葦の心はすんなりとその言葉を受け止めた。
ひねくれた解釈も疑念も懐かず、本当にすんなりと素直に、意味を理解し、心まで届かせた。
殺し合いの舞台に立たされてからずっと碌な目に遭っていないからこそ、その言葉は染みる。
渇いた喉に冷えた炭酸ジュースを流し込んだように、強烈な爽快感と気持ちよさが押し寄せる!
この三人と往く道こそが紛れもない悪の王道だ。
彼らといれば――こんな僕だって、真の悪人になることが出来るかもしれない。
自分の中の誘惑に対抗する術などなく、香坂はその手に自らの手を重ねた。
それが了承の合図であることは、その場にいる誰の目から見ても明らかなものだった。


「僕は……あなた達に着いていく。あなた達の夢を、見せてくれ」
「了解した」
「ふん、まあ宜しくしておくぜ、香坂くんよ」
「よろしくなー!」


誰一人として拒むことなく、全員が悪人だからこそあっさりと新たなメンバーを受け入れる。
悪人教団の最初の入団者、香坂幹葦。
彼がどんな過程を辿ってどんな完成に行き着くのか、三人の初期構成メンバーは愉しみで仕方なかった。未熟者の悪を本物に仕上げるのに、このゲームはお誂え向き過ぎる。


「よし、じゃあまずはデパートを出るぞ。さっきの奴にまた襲われたら敵わないからな」


そう言うと、三人から四人となった悪人達はエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押した。
一階に辿り着くと出口に向かって歩いていく悪人達。
一瞬立ち止まって、愛崎一美は香坂幹葦の姿を見てぼそりと呟くのだった。


「やっぱり、善人なんて嘘っぱちだ」


【C-2/デパート入口前/一日目/午前】


【悪人教団】


【白崎ミュートン@才能ロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、コーヒー、ランダム支給品(2)
[思考]
基本:悪人として酒々楽々と行動し、悪人のみで主催打倒。
1:悪人教団のリーダーとして動く。
2:愛崎一美を悪人に染める。
[備考]
※才能ロワイアル死亡後からの参加です
※≪蠢く怪異≫は制限されていません
古川正人、カインツ・アルフォードの名前と容姿を記憶しました。
※心機一転の腕の効能を理解しました

【酒々楽々@四字熟語バトルロワイヤル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項無し
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、酒瓶、ランダム支給品(2)
[思考]
基本:白崎の作戦に従って生き残る。
1:愛崎一美を白崎と共に《染める》。
2:勇気凛々には会いたくない。
[備考]
※四字熟語バトルロワイヤル死亡後からの参加です。
※ルール能力の二つに規制はありません。
※古川正人、カインツ・アルフォードの名前と容姿を記憶しました。
※心機一転の腕の効能を理解しました

【愛崎一美@数だけロワ】
[状態]:健康、スタンス反転
[服装]:特筆事項無し
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ランダム支給品(3)
[思考]
基本:悪人になりたい。
1:酒々楽々とミュートンについて行く。
[備考]
※数だけロワ参加前からの参加です
※古川正人、カインツ・アルフォードの名前と容姿を記憶しました。
※スタンス反転により「ひとつのことをやり通す性格」に変わりました

【香坂幹葦/追加・疲労(中)、精神疲労(大)、悪人教団の一員として行動する、スタンス反転が元に戻りました、獣化によって五感が上昇し、聴力は特に高くなっています、催淫効果は消えました】

【香坂幹葦@夢オチだったオリロワのキャラでロワ】
[状態]:狼化、身体能力向上、疲労(中)、精神疲労(大)
[服装]:狼化の為現在無し
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪人教団の一員として行動する。
1:白崎さんについていく
[備考]
※夢落ちロワ参加前からの参戦です。
※大崎年光、高原正封石川清隆の容姿を記憶しました。
※心機一転の能力でスタンスが反転している最中です。
※「獣性活性化薬」の影響により強制獣化、身体能力が向上、軽度の催淫状態になっています。
強制獣化は個人の意思では解けませんが時間が経過すると自動的に解けます。
強制獣化がいつ解けるか、身体能力の向上度合、催淫状態の推移(軽くなるか重くなるか)は次の書き手さんにお任せします。
※スタンス反転が元に戻りました
※獣化によって五感が上昇し、聴力は特に高くなっています
※催淫効果は消えました


支給品説明

【催涙スプレー@現実】
カインツ・アルフォードに支給。
暴漢撃退用に開発された品物で、吹き付けた相手に強い催涙効果を催させる

【ノートパソコン(現地調達)@現実】
現地調達品
ネット回線は繋がらず、メモをつけるくらいにしか使えない


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062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 大崎年光 083:瓦解
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 古川正人 065:調子の歯車ガッタガタ-LOVE ME OR BELIEVE ME-
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム カインツ・アルフォード 065:調子の歯車ガッタガタ-LOVE ME OR BELIEVE ME-
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 白崎ミュートン 072:あくのきょーてん
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 酒々楽々 072:あくのきょーてん
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 愛崎一美 072:あくのきょーてん
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 香坂幹葦 072:あくのきょーてん
062:Alice Magic/イカサマライフゲイム 紆余曲折 087:小学生デストロイヤー

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最終更新:2013年02月11日 14:28