時は戻らない。
血が、点々と滴っている。
その痕は、1つの民家へと続いて行く。
その民家の中では。
机の上に横たわる男と、その傍で懸命に応急処置をする男がいた。
その男に、血を流す男を、救う当てまでは、無かった。
だが、何もしない訳にはいかなかった。しないでいる訳にはいかなかった。
(死ぬな……! こんな所で死ぬんじゃないッ!)
机を伝い、床に滴る血液。
それはまるで、砂時計の様に。
命の切れる時を示すように、滴っている。
それを、切らさぬように。
終わらせぬように。
ただ願い、祈るように手を動かす。
「……くそっ、血が止まらねえ……」
だが、懸命の処置も虚しく、ただ時間が過ぎるばかり。
このままじゃ。
――――助けられる訳がない。
ぽつりと、雨粒の様に、そんな考えが浮かぶ。
そんなことは無い。無いはずだ。無いと、信じたい。
「………………一ノ瀬…………さん」
「お前っ……動くな! 余計に傷が酷くなるだろうが!!」
「…………最期に、言いたい、ことが…………あるんです」
「最期だと……? ふざけた事を言うな!」
怒りと、どこか悲しみの籠った怒号が、響く。
だが、それでも、切磋琢磨は語るのをやめない。
「さっきも、言ったように……内臓もやられて、これだけの失血までして……」
そう言って、切磋琢磨は自分の周りを指す。
"血の海"と言った単語が似合うほどに、そこには血液が流れ出ている。
この惨状を見れば、誰もが「もう無理だ」と思うだろう。
だが、この男。
一ノ瀬進は違った。
ただし、彼は何も知らない愚か物でも、奇跡を盲信する狂人でもなかった。
ただ、死んで欲しくないと願っているだけだった。心の底から、強く。
「よく、言うじゃないですか。自分の死期は……自分が一番、良く分かる、って……」
「何を……!?」
今までの姿からは考えられないような弱々しい声で、語る。
その声に比例するように、一ノ瀬の顔から生気が消えて行く。
「今が…………その時、みたいです。だから…………」
頬を伝う、一粒の涙。
もし、これがファンタジーやメルヘンであったならば。
この涙で、傷が回復――――なんてことも、有り得ただろう。
だが、これはあくまで現実。
残酷で、冷酷な現実。
「俺はここまで……なんで、代わりに…………」
「何を言ってるんだ……! ふざけた事を言うと、許さねーぞ……!!」
「俺の分まで、後は、頼みます…………俺の事は、引きずらないで、ください…………」
「頼む、頼むから、諦めないでくれ! 生きるのを、諦めるな!!」
しかし、その思いとは裏腹に、切磋琢磨の声はどんどん小さくなっていく。
「一ノ瀬さん…………またどこかで、会えたなら…………もう一回、手合わせ…………頼…………み…………」
そして。
――――静かに、なった。
【切磋琢磨@四字熟語バトルロワイアル 死亡】
~~~~
(お前の遺体を、野ざらしにしてはおけないからな……こんな所で悪いが、許してくれ)
庭に掘った穴に、切磋琢磨の遺体を、優しく寝かせる。
そして、上から、優しく土をかけて行く。
「俺の甘さや慢心のツケが…………この結果、か…………」
そう力無く呟く表情には、深い悲しみと後悔の念が見えた。
……切磋琢磨の死、そしてその原因が自分にあること。
その要因が、鍛えられている筈の精神に、影を落とす。
だが、折れはしない。折れては、ならない。
切磋琢磨は、最期の瞬間に、こう言った。
『俺の分まで、後は、頼みます』
「…………ッ」
あれほど、涙を流したはずだったのに。
もう、尽きたと思っていたのに。
それでも、まだ流れてくる。
(こういう時は、"さようなら"じゃないよな、琢磨…………)
切磋琢磨のつけていたグローブを、埋めた場所にそっと置く。
「――――また、会おう」
……別れは辛いものだ。特に、永遠の別れは。
しかし、嘆いていても仕方が無い。
今更嘆いたり悔やんだりした所で、何も変わらない。
――――時は、戻らない。
(…………)
じわじわと、瞳に決意が戻って来る。
――――殺意の籠った炎が、燃える。
(できれば殺さずに……なんて甘かったんだ。危険人物はできれば排除……なんてのも甘かった。
考えてみれば、ここは戦場みたいなもんだ。戦場で、敵を排除するのは当然のことだろ)
そうだ。
元々、自分は傭兵であった。
民間人であろうが、"敵"なら排除するのが当然だ。
――――自分に、仲間に、敵意を向けられるなら、排除するのは……当然の判断だ。
(俺は元々、天国に縁の無い男だからな。今更罪を被った所でどうにでもなるさ)
罪も無い人間を、もう殺させないように。
乗った奴を、代わりに殺す――――。
口でなら、誰でも言える事だ。
だが、この男。
一ノ瀬進には、それを実行に移す力と、意思を持っていた。
「――――行くか」
そして男は歩き出す。
――――自身の手を、血で染める覚悟を胸に秘めて。
【E-3/民家/一日目/昼】
【一ノ瀬進@需要なし、むしろ-の自己満足ロワ2nd】
[状態]:疲労(小)、罪悪感
[服装]:パジャマ姿、少し血塗れ
[装備]:H&KMP5A2(37/40)
[道具]:基本支給品一式、MP5予備弾倉(2)、ランダム支給品×1
[思考]:
基本:脱出の手段を探し、達成を目指す。危険人物はそうと分かり次第排除
1:琢磨……本当に、済まなかった……
2:銀髪(氷室勝好)、少年(相川友)は早い内に排除しなくては……
3:ゆくゆくは仲間を集め、首輪を外したい
[備考]
※エピローグ後からの参戦です。
※切磋琢磨の話に少し疑問を抱いています。
※島民ふれあいセンターの構造を大まかに把握しました。
※切磋琢磨から四字熟語バトルロワイヤルについて、大まかに聞きました
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最終更新:2013年02月11日 03:15