守谷彩子と
柄部霊歌は、まずホテル内で調達できるものをありったけ調達しておくことにした。
霊歌がその『サイキック』を最大限まで活かせる武装を手に入れられても、自分たちが挑むのはゲーム優勝ではなく、このバトルロワイアルの破壊なのだから。
殺すため、戦うための道具ではなく、長期戦になっても大丈夫なように備えることが大切だと思われた。
幸い、ここは多少いかがわしい場所とはいえ宿泊施設。
内部が相当広いのがやや玉に瑕だが、ちゃんと探せば相当殺し合いは楽になるだろう。
「……霊歌ちゃん、私は別に一人でも大丈夫だよ?」
「いいんです。目を離した隙に死なれたら、寝覚めが悪いですから」
ぷいっ、と顔を背けて唇を尖らせる霊歌に向けて、彩子ははいはい、と困ったように笑う。
彩子は以前の殺し合いで、思い出したくもない記憶だが、数人の人間を殺めている。
尤もその時には妖刀の力を借りた恩恵が大きかっただけで、彩子自体は大した力を有さない。
……たぶん、隣を歩く小柄な少女、柄部霊歌にも勝てないと思う。
――とはいえ、彩子は非力さを補うために銃で武装しているのだ。霊歌はなんやかんや言いながらも、こころから自分を心配してくれている。そう思うと、こころが温かくなる。
彩子は、霊歌の語る『刃物があれば強くなれる』という理論がよく分からなかった。
今は亡き彼女の兄、正也との劇的な邂逅をその目で目撃しても、だ。
四人を殺した罪人にしては、彼女は世界を知らなすぎる。
そんな彩子にしてみれば、小さな霊歌が身の丈に合わない長剣を持っている姿はなんだか背伸びをしているようで微笑ましい、なんて馬鹿げた感情が浮かんでくるのだが――。
本人も自慢げに銃弾だって弾けると言っていたのだ、とりあえずは信用してみよう。
「で、どこから探そっか?」
彩子たちはついさっきまでホテルの客室で、とある物を探していた。
とある物とは、ごくごくつまらない物だ。
この巨大な建物を闇雲に歩き回るのでは効率が悪すぎる。
だから、まずはホテル内の見取り図のようなものがないかと思ったのだ。
しかし結果は時間の無駄。
残念ながら、そういった役立つ物は客室には全く見当たらなかった。
――いかがわしい物を見つけてげんなりしたりもした。全くの途方。
「やっぱり地図がないのは痛いですからね……。
こんな施設の中を闇雲に探してたんじゃ、本当に日が暮れちゃいますよ」
しつこいようだが、曲がりなりにもここは宿泊施設だ。
なら調理場や、その他にも事務などに使う部屋やフロアがあってもおかしくはない。
客室が使い物にならない以上、後はそういうところを探るしかないわけで。
でもやっぱり間取りが分からないからろくに探索が進まない――そんな螺旋に陥っていた。
彩子は気長にいこうと思っていたが、霊歌はそうではなかった。
彩子以上に『生命』に精通している彼女は、人の殺意に一際敏感だ。
自分たちは幸運にもまだそういう局面に晒されていない。
が、霊歌の予想が正しければこのゲーム、むしろその幸運こそが最大の敵となりかねない。
誰とも出会えなければ危険は少なくなる。同時に、誰かに安心を与えられる可能性も少なくなる。
――説得すれば仲間に出来たかもしれない人物が、取り返しのつかない『過ち』を侵してしまう可能性。
その狂気が伝染に伝染を重ね、更に親しい人物の死を識って願いに傅く。
本気でバトルロワイアル打倒を考えるなら、自分と彩子の二人では到底無理な話だろう。
必ず――他の仲間が必要になる筈だ。
つい数時間前まで殺人の鬼だった自分が言うのは妙だと自分でも思うが、霊歌は現在、自分に殺人の虚しさを教えてくれた彩子以上に『仲間』と呼べる存在を集めることに急いていた。
自分のように、正しい道に戻るために犠牲を払わなければならなくなる――あんなことは、あってほしくない。
きっと、自分は二度と自分のためにヒトを殺せないだろう。
彩子を守るためなら、この手を再び血で汚す覚悟はある。
それは彼女に助けられた身として、半ば義務のようなものだとさえ思っていた。
――だけど、自分可愛さじゃ殺せない。
トラウマめいたモノを、霊歌は辻斬りからの脱却の代償として背負わされた。
(わたしは――守る)
彩子に気付かれないように、声には出さずに胸の内だけで決意を唱える。
声に出しても良かったが、やはり気恥ずかしいものはあるし、それに。
彩子にこれ以上の重みを背負わせてしまうのは、どうしても気が引けた。
(ここにある全ての、やさしい人たちの命を守る)
霊歌は現実を知っている。
この世には、生きていてはいけない人間が確かに存在する。
そういう人間は殺してきたが――一人だけ、絶対に許されない男が生きている。
弱者も強者も等しく玩び、己の道楽の為になら何でもやる快楽依存者。
だから、守るのはやさしい人。
こんなところで失われちゃいけない、そういう人たちを守りたい。
(その人たちを汚すなら覚悟しろ)
理由なき、快楽の為に他人を使う全ての人間に告ぐ。
(――――その時は、お前が何であろうと殺してやる)
『辻斬りハロー』として死んで、『柄部霊歌』として生き返った。
自分に正しいモノを教えてくれた彩子のような人間が喪われるのは許せない。
その為になら修羅の道を往くのだっていとうまい。
「あ、霊歌ちゃん! なんかエレベーターあったよ!!」
そんな霊歌の胸中など露知らず、嬉しそうに報告する彩子に霊歌は苦笑する。
そして、エレベーターの内部にあったマップを見て落胆するのだった。
――時間を無駄にした、と。
◇ ◇
柄部霊歌と守谷彩子が最初に探索の場所として選んだのは、やはり厨房だった。
ラブホテルなんて場所について、霊歌も彩子もそれほどの知識を持っているわけではない。
ひょっとすると、ただそういう営みをするだけの場所かとも思った。
それなら厨房なんて初めから無いのではと心配していたが、これほどの大きさになると厨房は完備されているようだ。
文字通りの完備。
下手なレストランよりよっぽど上なのではないか、と思えるような設備がその一室に凝縮されていた。
当然包丁や調味料もかなりの数と種類が揃っており、料理の心得がある者ならば垂涎モノでさえあったろう。
生憎、そういったものにそこまでの拘りがない二人には、ただ『凄い設備』という感想しか抱けなかったが。
ここでなら彩子がした勘違いの、カレーライス作りだって出来そうである。
古今東西、様々なスパイス。
食材ごとに使い分ければ、最高の友となるだろう多数の包丁。
おまけにコンロやオーブンも、一級の物品ばかりが揃っていた。
「おっきいねえ……」
「とりあえず、包丁は回収しておきましょう。危ないですから」
辻斬りだったとはいえ年頃の女の子である霊歌。
変わったデザインの包丁などに好奇の目を向けるのが可笑しくて、彩子はくすりと笑った。
なんだ――やっぱり、ただの可愛い女の子じゃない。
一度でも彼女に恐怖した自分が途端に気恥ずかしくなる。
それと同時に、彼女を守ろうという気持ちが――彩子の中でも、義務感めいていく。
ただしそれはひどく純粋。
それゆえに歪みがない。
バトルロワイアルに毒されることなく、この二人は最高の信頼を築けている。
何を考えて参加者を選別したのか分からない人無結でも、これは予想外の事態なのかもしれない。
歪んだ愛情を振り回す狂人が、まさか救済されて正しい道へ回帰するだなんて。
守谷彩子という人間が。
福沢正也という人間の最期が。
柄部霊歌という人間を、いわゆる一つの『希望』へと変化させた。
「……しっ」
微笑ましく霊歌の様子を見つめていた彩子だったが、霊歌の顔色がいつしか強張っていることに気付く。
瞳に宿っているのは紛れもない警戒、敵意。
口の前に一本立てた指は、物音を立てるな、という断片的な指示を意味する。
彩子は決して、殺し合いに慣れてはいない。
妖刀に振り回されただけであって、彼女は大した経験も積まずに罪だけを背負ったのだ。
だが、それでも分かる。
この聡明な少女が何を伝えようとしているのかくらいは――。
(敵襲……?)
だとすれば彩子に出来ることは多くない。
銃を撃つにしても経験が不足している此の身では、霊歌の邪魔をしてしまうだろう。
とにかく自分の身を守ること――霊歌を信じて、信じているからこそ自分を守ること。
それが彩子なりの、信頼の形だった。
さっとその場から後退りして、物陰に隠れることでまず、攻撃を確実に防げるようにする。
迅速にやるべきことを終えた彩子に、霊歌はこくり、と頷いた。
それでいいです、という意思表示。
これで――自分は曲者の排除に専念できる。
(気配――)
殺しを幾度も繰り返す内に、殺意を持った人間の気配がある程度分かるようになった。
歴戦の傭兵のように、殺気というものに敏感な体質になってしまったのである。
それは普通に生きようとするなら決して名誉なことじゃないが――彩子を守るには、うってつけだ。
おまけに手には波状の大剣・フランベルジェ。
これで、どう負けろというのか。
「そこですね」
瞬間、一本の矢が空間を走った。
銀色の矢が霊歌の額へと真っ直ぐ飛来し、接触せんとしたところで真っ二つになった。
砕けた銀色が床に散らばり、清潔感のあるクリーム色の中で一際目立つ異物と成り果てる。
フランベルジェの斬撃が、矢を正確に打ち落としていた。
最高の武装を与えられて、おおよそ最高のポテンシャルを発揮できる元・辻斬りに――弓矢など、遅すぎる。
「軌道が単純すぎますよ。馬鹿の一つ覚えみたいに撃ってるだけじゃ、わたしは殺せない」
続く二発目も、瞳を微動だにせずに凪ぎ払う。
完璧な動きだった。なっ、という『曲者』の声が漏れる。
大したことはないようですね、と霊歌はやけに淡白に感じたことを小さく呟く。
まぁ――今の自分なら、機関銃だろうが落とせる自信はあるけれど。
たかが弓矢で、このわたしは殺せない。
その確信が、柄部霊歌の強さをより磐石なものとする――。
「ですが、たとえあなたがどんな武器を持っていてもわたしは殺せないでしょう」
三発目。狙いは足へとシフトしたが、切り上げの要領で同じく回避。
飛び散る銀色。ぎりり、という歯軋りの音が静かな部屋の中にやけに大きく響いた。
それでも諦める気配がないのは、それほどまでに相手は焦っているということか。
だとすれば尚更、負ける余地がない。
たとえここで爆弾なんかが出てきても、霊歌は生き残る自信があった。
「何故なら」
四発目。その時、霊歌は地面を蹴った。
風を感じながら、四発目を迎撃。
勢いを殺さずに、サイキックで強化された脚力を用いての突撃。
「――あなたは、ついさっきまでのわたしとおんなじだから」
五発目は、いよいよ彼女に打ち落とされることさえなかった。
完全に狙いを外して飛んでいったそれは、向こうの壁にぐさりと突き刺さる。
どうして殺せない。
襲撃者の少女は焦る。
焦るなんてものじゃ済まない。このままでは――殺されて、しまう。
ついさっき襲撃した二人の少女とは、明らかに違っていた。
纏っているのは正義ではなく、しかしながらそれこそ自分のような『悪』でもない。
「な、なんでよ……?」
思わずそんな声が漏れていた。
人狼の少女――
リーヴァイは、全ての攻撃を弾かれてもなお逃げずにそこにいた。
が、逃げない理由は強さに起因するものではない。
むしろ、その逆。
リーヴァイは、柄部霊歌という少女を間違いなく恐れてしまっていた。
「なんで、なんで――」
かつん。靴が床を叩く音がして、可愛らしいロリータの少女が現れた。
片手で握る大剣が無ければ、ファッション雑誌の表紙を飾ることだって夢ではないだろう。
彼女は確かに、美しさよりも可愛さが勝るような幼い外見をしている。
胸の大きさでだって自分が勝っている。
けれど、彼女にはリーヴァイの持たないものがあった。
――それは『気高さ』。
鋭く冷たい、彼女が確固として譲らない強さ。
きっと武器や身体能力云々以前の前に、自分はもっと根本からこの少女に負けていた。
「なんで、そんな目が出来るのよ……っ!?」
霊歌の語り草から推察するに、彼女は恐らく殺し合いに乗っていた身のようだ。
何かのきっかけがあって修羅道を諦めた、言ってしまえば半端者。
兄の為に諦めずに戦う自分が負けているわけがないと、リーヴァイは心から思える。
なのに、だ。
リーヴァイはすっかり――柄部霊歌の瞳に宿る強い意志の光に、気圧されてしまっていたのだ。
一度バトルロワイアルで死を経験している自分よりも、なお強く確かな覚悟の色。
冷たくもありながら、その実ある種の熱さも多分に秘めたその色。
冷たすぎる感覚はやがて熱さに変わるのと同じで、彼女もまたそうだった。
「簡単なことですよ」
霊歌が一歩、リーヴァイへと距離を詰める。
ひっ、とうめき声が自然と口から漏れた。
矢を装填しようにも、手が震えてまともな動作が出来ない。
死神はすぐそこにいるのに。
少しでも抵抗しておかないと、兄を生き返らせる願いは無駄になってしまうのに――――!!
「あなたは弱すぎるんです。論外ですよ――前のわたしと同じくらい、弱くて惨めです」
その言葉に、カチンときた。
恐怖さえも打ち消してしまうほどに、その暴言はリーヴァイの琴線に触れていた。
弱い、というのは分かる。現にこうして、あっさりと窮地に立たされているのだから。
――けど、惨めという烙印だけは撤回させてやる。
兄のために戦っているのだ。自分の願いは、単なる欲望に由来するものじゃない。
永遠に戻らない大切な存在を取り戻すことが願い。
それなら、このバトルロワイアルだって聖戦とも呼ぶべき崇高な宴へと変わる。
リーヴァイの感性ではまだ快楽には程遠いゲームだったが、何故理由を抱えて戦うことが悪いのか。
まして、それを惨めだなんて罵倒される筋合いはどこにもない。
「……撤回しなよ」
リーヴァイはキッと鋭い瞳で、霊歌を物怖じすることなく睨み付けた。
震えはいつの間にか止まって、代わりに全身を燃えたぎるような熱が包んでいた。
「何をですか? ああ、自分の戦う理由を否定されたのが癪なんですか?」
「――……いい加減に」
しろ、と言うことはできなかった。
噛み付く勢いで怒鳴ろうと思った時には、喉元に鋭い刃の切っ先が突き付けられていたからだ。
昂った感情が一転、冷凍庫に放り込まれたように冷えていく。
冷たい瞳で見下ろす少女と、一寸もない間合いに存在する明確な死。
その二つが――リーヴァイの世界を、取り戻した世界を一瞬で凍土へとつき落としていた。
「……今ならよく分かりますよ。そしてわたしはそれを心から恥じましょう」
霊歌は冷静ながら、声色に僅かな嫌悪を滲ませて呟いた。
それは独り言のようだったが、リーヴァイへの敵意が籠っているのは事実だ。
いや、敵意よりもなお悪い。
これはあまりにも明確な侮辱。哀れみという名の、最大限の侮辱だ。
手を後数十センチ動かせば、リーヴァイの首はばっさりと切り裂かれてしまうだろう。
そしてそれをやりかねないだけの冷たさが、霊歌の視線にはあった。
「わたしはあなたと本当に似ていた。だからこそ――わたしは、あなたの存在が赦せない」
リーヴァイは知らない。
つい数時間前までの彼女の戦う理由が、リーヴァイのそれと限りなく似通っていたことを。
どうして心変わりを起こしたかの理由も、リーヴァイは知らない。知るよしもない。
ただ、霊歌はある意味で彼女以上に大きなダメージを心に受けていた。
過去の自分の偶像を見せられている気分で、ひどい自己嫌悪の情さえ覚えた。
同時に、目の前の少女を哀れんだ。
未だ自らの過ちに気付くことの出来ない少女を、しかし自分ではどうこうできない歯痒さも感じた。
でも。自分のことを棚に挙げた都合のいい話だとは承知しているが――それでも、見たくなかった。
兄を破滅させ。
多くの人の人生を破滅させ。
自分を気遣ってくれる大切な女性にも迷惑をかけた。
――そんな自分の鏡写しを、もう一秒たりとも見ていなくなかった。
「何処へなりとも消えてください。生憎、わたしにはあなたを助けられそうにありません」
「なによ、それ……!!」
霊歌の心中を察することの出来ないリーヴァイは、ぎりりと歯を鳴らした。
自分を哀れむ彼女を殺してやりたいとさえ思った。
兄のためという大義を捨ててでも、個人的な感情に任せて殺したいと思った。
助けるだと――余計なお世話だ。
助けられるのは自分じゃない。そして助けるのはお前じゃない。
兄を自分が助ける。お前はそのための礎に過ぎない。だから、殺される義務がお前にはあるんだ。
「何様のつもりなの、さっきから。偉そうに!」
数時間前に出会った、
勇気凛々と名乗る少女のことを思い出す。
彼女のは言うならば、押し付けがましい正義だった。
だが目の前の少女は正義ですらない。ただの嫌悪――救えないから消えろという、ひどく理不尽な理屈。
そんなものを並べられてはいそうですかと頷くほど、リーヴァイは従順な女ではない。
「何様も何もありません。わたしにはあなたをどうこう出来ませんから」
「……じゃあ、殺してみればいいじゃない」
「論外ですね。わたしは自分の為に刃は振るいません。もう二度と――私欲の為に人は殺さない。それに、あなたは私が手を下すまでもない、それだけのことですよ。
一つだけ言っておきますが、その『エゴ』はいつか必ずあなたを殺すでしょう。早い内に、馬鹿なことを考えるのは止めた方がいい。取り返しのつかなくなる前に」
霊歌は、自分がよく言えたものだ、と少しだけ自嘲していた。
自分に比べれば、リーヴァイなんてまだずっと取り返しがつく。
何十もの命を、兄のためという大義名分にかこつけて殺した自分は――もう、取り返しがつかないのだから。
一生、罪の十字架は付きまとう。
消えない十字架の重みを背負いながら、そうやって生きていくしかない。
「エゴ……なんかじゃないっ!」
「ええ、わたしも昔はそう思っていました。でも、違うんです。誰かのため誰かのためと言い張って早まるのはただの自己満足(エゴイズム)に過ぎない」
――――そんなこと、もっと早くに気付けばよかった。
「……私は貴女が嫌い。そうやって偉そうに語る全てが嫌い。でも、これだけは言わせて貰うわ」
リーヴァイは嫌悪感を隠すこともなく表して、霊歌を睨んで言いたいことを言い放つ。
それは、ずっとぶちまけたかったことだった。
勇気凛々に諭された時も、そして柄部霊歌にこうして見下されている間も、ずっと。
自分に偉そうな理想を押し付ける全てに言いたかったことだった。
けれども、リーヴァイは知らなかった。
彼女は何も知らなかった。
霊歌にとって、それが地雷であること。
霊歌が彼女に『偉そうな』ことを話すのは、他ならない霊歌自身が、リーヴァイの痛みを経験した上であること。
何も知らないまま――リーヴァイは言い放つ。
「――大切な人を失ったこともない癖に、ごちゃごちゃ言うなぁぁっっ!!!!」
「――――はぁ?」
ぞわり。
悪寒が背筋を這い上がるような、そんな声だった。
その声に含まれているのは、達観でも侮蔑でもなく。
「……え」
怒りだった。
そう思った時には、頬を横殴りにする衝撃が響いた。
リーヴァイはもう、自分の震えを押さえることができそうになかった。
フランベルジェの柄で殴られたからか、歯は何本か一度に持っていかれたようだった。
情けないとは思った。
でも、逃げる足は止まらない。
幸いにもここは一階――窓から脱出するのはそれほど難しいことではなかった。
「い、いやぁっ――」
「…………」
刃を構えた銀の少女が、ゆらゆらと覚束ない足取りで近付いてくる。
だから、必死になって走った。
折れた歯が訴える痛みも関係なしに、走った。
走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って。
少女の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ようやく足を止めた時には――もう、一人きり。
【F-2/野原/一日目/昼】
【リーヴァイ@個人趣味ロワ】
[状態]:脇腹にごく浅い刺し傷(処置済)、疲労(中)、柄部霊歌への恐怖、歯数本欠損
[服装]:脇腹付近に血が付着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、バール
[思考・行動]
基本:優勝して、お兄ちゃんを蘇らせる。
1:???
[備考]
※個人趣味ロワ死亡後からの参加です
※兄のヴォルフは死んでおり、自分はゲームを盛り上げるために呼ばれたと思っています。
※勇気凛々、
榎本瞳の容姿と名前を記憶しました。
※弓矢と矢は置いてきてしまいました。
◇ ◇
守谷彩子は、柄部霊歌を抱き締めていた。
少女の温もりが身体を満たす。
手の中にすっぽりとおさまってしまう小さな身体をこうして抱いていると、まるで妹が出来たように感じてしまう。
綺麗な銀髪を優しく撫でても、彼女はいつものように文句を言ったりはしなかった。
ただ、本当に子猫がするように、頭を撫でられる感触に集中しているように。
こそばゆそうに目を瞑って、彩子の腕の中で一度は高ぶった感情を静かに鎮静させていた。
「……ごめんなさい、彩子さん」
そう漏らすと、霊歌の服を掴む力が少しだけ強くなったのを感じた。
情けない限りだと霊歌は思っていた。
あれだけ偉そうに決意を唱えておきながら、あんな言葉で簡単に冷静さを欠いてしまったのだ。
結果として、まだ取り返しのつく少女を追い詰めてしまった。
自分を赦し、共に歩もうと言ってくれたひとに迷惑をかけてしまった。
その事実がとても情けなくて、申し訳なくて――。
「……嫌いになりましたか?」
字面だけで見ると、押し付けがましい愛情表現。
が、霊歌にすればそれは本気も本気の台詞だった。
親に怒られる子供のような不安げな瞳で、顔だけをあげて彩子を見上げる。
もしも、今彩子に見捨てられれば。自分はきっと、すぐに破滅してしまうだろう。
だから、今は何より怖かった。
彼女に嫌われることだけが、それこそ死と比較してなお重い事項だった。
「まさか」
その不安も、優しく微笑む彩子によって払拭される。
霊歌には流石に恥ずかしくて言えないが、彩子は覚悟を決めていた。
同じ罪を背負った身として、人生の先輩として、たとえ何があろうとも彼女を守ると。
バトルロワイアルが終わっても、出来ることならずっと見届けたいと思ってさえいたのだ。
「私は霊歌ちゃんの味方だよ。……何があっても、私だけはあなたを裏切らない。絶対連れ戻す」
霊歌はまだ子供だ。
今後何かのきっかけでもう一度間違った道へ走ってしまうことも有り得るかもしれない。
そうなったら、自分は命を懸けてでも彼女を連れ戻そう。
一度は死んだこの身で。守るべき少女を助けられるのなら――安いものだと思う。
彩子の言葉に安堵したのか、霊歌はもう一度彩子の胸に顔を埋めて、されるがままになる。
この時間が永久(とわ)に続けばいいと心から思う。
いや、思うではない。
意地でも続かせるのだ。
バトルロワイアルなんて下らないものは終わらせて、彼女を一生かけてでも守る。
決意新たに、今度は彩子が抱き締める力を強めた――その時だった。
がちゃり
唐突に、厨房の扉が開いた。
「「っ!?」」
二人揃って驚きの声を漏らした。
この様子をどう捉えるかは人それぞれというところだろうが、少なくとも霊歌と彩子は一つの想像をしてしまう。
同性で抱き合っている。
大学生と高校生とはいえ、年は然程変わらない。
……なら、多少アレな関係に見られてしまう可能性だって――――
「「「「「…………………………」」」」」
なきにしもあらず。
◇ ◇
熊本潤平一行(おれたち)は、順調にラブホテル城への到着を果たしていた。
運転は
新藤真紀ちゃんで、助手席かつ車内の話題提供がおれこと熊本潤平。
後部から時折突っ込みを入れたりしてくるのが
巴御前さん。
ハーレムというには少々人員が足りないけど、ひとまず何事もなくてよかった。
詩織ちゃん並のマーダーに襲われたら流石に危なかったろう。
でもまあ、この世を作りたもうた神様とやらはそこまで悪質な奴じゃないらしい。
――いや、こんなゲームが起きている時点で十分悪質だけどな。
どのくらいかっていうと、おれは少なくとも独り暮らしをしても神棚は置かんと決意するくらい。
そんくらいには悪質な奴だ。
「…………で、でっかー」
思わずおれは、そんな声を漏らしていた。
目的地だったラブホテル城は本当に城さながらの見た目で、割とマジで吃驚しちまった。
人無結。おれはお前のことは大嫌いだしぶち殺したいとさえ思うけど、このセンスは好きだぜ。
「改めて見てもアホみたいな場所やなあ、ここ」
「全くね。なんの意味があるのよ」
心の中で男のロマンに乾杯をしていたおれとは違い、女性陣の評価は本当にボロクソだった。
その視線が時々おれに向かうのは何か意味があるのかい、真紀ちゃん?
巴さんもそのニヤニヤ笑いはなんだ。それじゃあまるでおれが変態みたいじゃないか。
失礼極まりねえよ。仮に変態だとしても変態という名の紳士だろ、常識的に考えて。
やっぱり女の子には分からないだろうね、このロマンってのは!
おれは自分でもドン引きするくらいの上機嫌で、でかいでかいと独りではしゃぐ。
……数十秒くらいはしゃいだところで、真紀ちゃんに本日三度目の拳骨を叩き込まれた。
「――それは嫌味かっ!?」
「ええっ、論点そこっ!?」
……話は数十分前に遡る。
実質的なハーレムもどき状態なので、折角だからエッチな話に持ち込もうとしてみた。
巴さんは意外にも食い付きがよくて吃驚したのだが、真紀ちゃんはやれやれといった様子だった。
だったのだが――胸の話になって、つい真紀ちゃんのひんにゅ……スレンダーをからかってみたのだ。
結果、巴さんが悪乗りをかましたことで車を停車させた真紀ちゃんに二人ともしばかれた。
思い切りボカボカ殴られたせいで頭が痛い。手加減がねえ、そこに痺れる憧れ――ないな、うん。
「うはは、なんや真紀、アンタまだ根に持っとんのかいな」
「……持ってない」
詩織ちゃんの一件より前にもそれでからかったりしたせいで、真紀ちゃんの機嫌は頗る悪かった。
それこそ、殺されるかと思った。冗談抜きで。
「ただ、潤平が最低最悪の男だとは分かったわ」
「持ってるじゃねえかよ……」
熊本潤平、一世一代の失敗である。
でもこうやってぷりぷり怒る真紀ちゃんも可愛いなあ。
それを反省の様子も見せずにいじりまくる巴さんもお美しいなあ。
おれは幸せ者だわ、これ。
「行くんでしょ。だったら早くしなさいよ」
真紀ちゃんはうんざりした様子でおれたちを急かす。
む、確かに彼女の言う通りだ。
移動は順風満帆にいったとはいえ、あれから結構な時間が経ってしまっている。
巴さんの言っていた二人がもうここにいない可能性だってあるわけだ。
――急ごう。すれ違いなんてことになったら敵わないしな。
「おし、じゃあ行くか」
「そんじゃアンタの勇姿を精々見物させて貰うとするわ。……人にあれだけ偉そうなこと説教してくれたんや、まさかしくじるなんてことは有り得んのやろなー。楽しみにしとくわ」
こ、こっちはこっちでまだ根に持ってんのかよ!?
◇ ◇
扉の向こうで、なんとも目に優しい桃源郷が繰り広げられていた。
女性陣は沈黙して口を開けているが、おれはふぅ、と満ち足りたため息を漏らす。
それは、まるで疲れたサラリーマンの残業明けの一服のようにどこか爽やかで贅沢なものだ。
高級な葉巻ってのはきっと、こんな感覚がするんじゃないだろうか。
健全な青少年のこのおれは喫煙者ではないが、こんな充実したものなら煙草も悪くない。
いやこれは煙草じゃないんだけども。
どちらかといえば、耽美な葡萄酒の味って言った方が表現としては近いかもしれない。
とにかく底抜けに贅沢で、底抜けに美しい光景だった。
きっと百合の花が似合うんだろうな、この景色には。
百合の芳しい香りが漂ってくるようだ――。
銀髪にゴスロリの少女が、おれより少し年上と見える女性に抱き締められている。
満更でもなさそうな様子だし――今は凍りついているけど、きっとなかむつまじい光景を披露していたのだろう。
くそ、カメラはどこだ!
撮らせろ! この光景を永遠のものにさせろぉぉぉおおおおお!!!!
「…………え、あ!? いや、ちょっ何その目! てか誰あなたたち! ちょ! 待っ!!」
「誤解ですから! 今あなたたちの思っていることは間違いなく誤解ですからっ!!」
ちなみに真紀ちゃんはもうそのくらいじゃ驚かないといった目で二人を見ている。
巴さんはあまりにも最初に見たときと差があったのか、驚いて口をぱくぱくさせていた。
慌てて離れた二人だが、おれの網膜にはしっかりと焼き付けた。
これから辛いことがあったら、この景色を思いだそう。
ああ、世界はこんなにも希望に満ちている――。
「ちょっと潤平、いつまでトリップしてんのよ。何しにここまで来たの」
さすがは真紀ちゃん、もう冷静さを取り戻していた。
結局一番最後まで驚いていたのは最初に二人を見ている巴さんで、まだ目の前の光景が信じられないようだ。
相手の銀髪ロリータちゃんも比較的早めに落ち着いたらしい。
隣の女性を宥めて、おれたちとの情報交換をしておこうと諭している。
いや――――そうなんだけどさ。
巴さんの言っていたのとあまりに様子が違っていて、正直おれはかなり驚いている。
殺伐とは縁遠い仲良し空間が繰り広げられていたものだから。
けども、巴さんは勘違いをしている様子じゃなかった。
あれは確かな確信があって言っていた。
それは、誰の目から見たって明らかだったはず。
なら――おれたちが来る前に何かがあったんだな。
劇的な、殺し合いに乗っていることを撤回するに足るようなことが。
相手の女性もようやく落ち着いたのか、緩やかに情報交換ムードになっている。
ちっちゃい見た目とは裏腹にしっかりしている銀髪ちゃんが切り出した。
「……こほん。初めまして、わたしは柄部霊歌と申します」
柄部霊歌。
なんだか、流行のアニメやラノべに出てきそうな名前だと思った。
珍しい名前だけど、彼女の雰囲気にすごく合った名前だ。
この子は可愛いというより―――幻想的、ってのが正しいんだろう。
一つの完成された箱庭に押し込まれたような、そういう儚さ。
「あ、えーと……守谷彩子です。……よろしくね?」
霊歌ちゃんに彩子さんか。
真紀ちゃんといい巴さんといい、このバトルロワイアルって女子のレベル高くねえ?
世界はいつからこんな楽園になったんですか。
――っと、論点はそこじゃなかった。
おれにはやらなきゃならないことがある。
その為にここに来たんだから。
たとえ彼女たちがどんなに元の道に戻れていたって――おれは話さなきゃならない。
『彼女』の価値を。
『彼女』の未来を。
『彼女』に与えられた救いを。
「おれは熊本潤平だ。こっちのおねーさんが巴御前さんで、こっちが新藤真紀ちゃん」
ふたりは、これから何が始まるのかを知っている。
どちらもおれの弁舌を聞いているからだろうか、どうなるか分からんといった風だ。
そんなのはおれにだって分からない。
おれは霊歌ちゃんのことを何も知らない。
この二人の間に何があったのかなんて、知るよしもない。
だからこれは、おれという最低な男が始める独りよがりの問答(モンキートーク)。
「情報交換の前に、話がある」
一切臆することもなく、おれは話を切り出す。
視線は霊歌ちゃんに向いている。
最初はきょとんとしていた彼女だが、やがて何の話なのかを理解したようだった。
それは彩子さんも同じ。
心配するような目になりながらも、口を出すことなく見守っている。
――この人、いい人だな。
おれは心からそう思った。
霊歌ちゃんにとって、彼女はきっと支柱になっている。
だから、先に謝っておこう。否、誤っておこう。
「見せてみろ――――きみの覚悟を」
――――おれは、あなたが助けた女の子を壊してしまうかもしれない。
「はい」
たった二人の裁判が――始まる。
◇ ◇
おれは女の子に優しい事を自負している。
女を虐げるようなクズは心から死ねばいいと思っているし、それは今後も絶対に変わらない。
目の前で傷付けられる女がいたなら、おれは絶対に助けてやる。
なら、どうしてそのおれが女を壊すような真似をするのか。
それは――――必要だからだ。
彼女がこれから先をどう歩んでいくか、それを示させる。
おれは女を見捨てない。
けれど、みすみす一人の女を堕落させるような真似はもっと出来ない。
罪の十字架を適当な気持ちで背負ったまま生きるというなら、おれはこの子を壊さなければならなくなる。
その為に必要な問答。
その為に不可欠な裁判。
「霊歌ちゃん、きみは今まで何人を殺した?」
こう聞いたのは、あくまで探りを入れるためだ。
もしかしたら目の前の少女が、殺そうとしていただけで誰も殺していない可能性だってある。
しかしその両目に秘められた力強さは、普通に生きていたらまず手に入るものじゃないとおれは思う。
これは、乗り越えたやつの目だ。
そんなおれの予想を裏切ることなく、彼女は答えを返した。
自分の罪を――告白する。
「数えていませんでしたから。でも、たぶん手足の指を足してもまだ足りないと思います」
……マジで? と、思わず言ってしまいそうになった。
あまりにも想像を超えていたからだ。
それだけの人数ってことは、バトルロワイアルに関係なく彼女が人殺しだってことになる。
殺人鬼――そう呼ぶにふさわしき存在。
けどもおれを怯えさせるには足りねえ。足りなすぎる。
「そうかい。なら、きみはどうしてそんなに――ケロッとしているんだい?」
彼女の冷静さは異常だった。
つい何時間か前までは大量殺人鬼だったと推測できる。
なのに、改心してすぐにその罪を振り切るなんて。
そいつはちょいと、虫が良すぎる筈だ。
それが彼女の強さと認めることは簡単だ。
現にその通りなんだと思う。たぶん、それが正解なのだ。
でもここではまだ退かない。
もうちょっとだけ――追い詰めさせて貰う。
「言っちゃ悪いが、おれにはきみがまだ殺人鬼なんじゃないかと思えちまう。当然だよな、きみは冷静すぎるんだ」
「――……それは」
「きみはさぁ――――」
畳み掛ける。
まともな神経を彼女が持っているのかはおれのあずかり知るところじゃない。
それは彼女が決めることであって、おれごときが決めつけて良い事ではない。
だが、どちらでも今は『同じこと』だった。
――紡ぐ。
――男としては最低な、女を壊すための言葉を。
「結局、おれたちを騙してるんじゃねえの? 油断したところを、そこの彩子さんも含めて皆殺し――って寸法なんだろ?」
っ、という声が霊歌ちゃんの口から漏れた。
さすがに今の暴言は、軽く聞き流すようなことは出来なかったらしい。
彼女は殺人鬼だったかもしれないが、まだまだ子供だ。
少女を脱せていない、夢見る時期の、繊細な揺れ動きやすい子供だ。
おれが言った言葉は、蛇の毒のように少しずつ蝕んでいくだろう。
自分を助けてくれた彩子さんに疑われると考えれば、子供が冷静を保てるわけがないんだよ。
子供は――そこまで強くなくたっていい。
弱くていいんだ。
おれが知りたいのは、彼女がどう返してくるかなんだから。
正直なところ、おれはまだ柄部霊歌という人間の本質を見出すことができずにいる。
情けない限りだが――目の前の女の子が、解らない。
「……そうですね。それも悪くありません――――ああ、それは素敵ですね。そうしたら、わたしはもう一度大好きな兄さんに会える。
頭を撫でて貰える。抱きしめて貰える。キスをして貰える。可愛がって貰える。
一生見ていて貰える。あの人に寄り添って生きていける。そんな幸せが手に入る。
それなら素晴らしい。それに優る幸福なんてどこにあるというんでしょうか。
わたしの力でなら全員を殺せるでしょう。
首を刎ねて、胸を斬って、愉快な解体ショーだってできるでしょう。
――熊本さん。
あなたなんて、ほんとうにわたしの匙加減で殺せるでしょうね。
少なくともこの中じゃ、一番殺し易そうですよ、あなた」
分からない。
解らない。
判らない。
「――――ですけど」
彼女の強さってものが、どこからくるのか分からない。
「あの人の想いを踏みにじるくらいなら、わたしはすべての幸福を捨てましょう」
「――そうかい」
兄さんって呼んでたっけ。
この子の行動原理が『兄』に基づいていたとすれば、彼女はブラザー・コンプレックスってことか。
ああ、なら笑ってやるよ。
これ以上ないほどの大爆笑をくれてやる。
最悪に性の悪い笑顔でからかってやる。
あんたの妹は――――もう大丈夫だ。
「……それに、今は彩子さんもいますから。あの人、見かけに反してずっと強いんですよ?」
えへへ、と笑う彩子さん。
俺の後ろで真紀ちゃんが溜め息をついた。
巴さんがうははと、やけに男らしく笑った。
「悪かったな。おれはきみたちを信じよう――――おれの負けだ」
◇ ◇
やるべきことを終えたおれたちは、随分と遅くなってしまったがある仕事にかかっていた。
巴さんのディパックに残されていた支給品に、シャベルがあることが判明したからだ。
ラブホテルから出て、少しした場所に穴を掘り――そこに、『あの子』の遺体を優しく安置する。
志水セナちゃん。
彼女の遺体はもう硬直してしまっていたが、まだ腐って無惨な姿にはなっていなかった。
おれは――彼女の尊厳を守れたのだろうか。
土をかけていく。
彼女を守れなかったことを心で詫びながら、墓を作っていく。
安らかに眠ってくれ。
おれたちが、きみの無念を晴らす。
きみを殺したバトルロワイアルを必ずぶっ壊して、人無も潰す。
だから、さ。
きみは休め。良い夢でも、見ながらさ。
「……終わったんか」
「終わった」
おれは短く答えると、手を合わせて黙祷した。
彼女の犠牲を無駄にしないためにも、おれは戦わなければならない。
おれは一学生に過ぎない、普通の人間だ。
なのに、ずいぶんとたくさんのものを背負ってしまっている。
四人の女を守る。
一人の女の無念を晴らす。
一人の愛する女を捜して、守る。
全てを守ろうとするなら取りこぼすだけ。
だからおれは――自分の手の届く場所から、守りたいものだけ守ろうじゃないか。
少なくとも、女は絶対守ろう。
「しかし、大所帯になったわね」
「……あの、ほんとうによかったんですか? 彩子さんはともかくとして……わたしまで」
霊歌ちゃんがおずおずと気弱なことを言う。
彼女は、自分が仲間に入ることをまだ申し訳なく思っているようだった。
「おれの決定だから。以上」
「あんたって誰にでもそうなのね。自己中な奴ね」
真紀ちゃんの鋭い指摘が飛んでくる。
胸が痛い。うーん、しかし本格的にハーレムになってきたな。
遥光ともさっさと合流して、熊本ハーレムの輪をどんどん広げていきたいもんだ。
げへへと思わず下品な笑い声が漏れた。
「潤平くんって……その、あれ? 変態ってやつ?」
「その通りや」
巴さんは一瞬も迷うことなく、彩子さんの訝しげな問いに即答しやがった。くそっ。
だからおれは変態じゃない――このくだりはもういいか。
これからどうするかは、粗方決まっていた。
キャンピングカーを使って会場を巡回して仲間を増やしていく。
殺し合いに乗った相手まで助けることは無い――それが女であっても、仲間に無理に引き入れるのは無しだ。
それは巴さんと真紀ちゃんの意見だった。
霊歌ちゃんは若干気まずそうだったが、それはあれだ。彩子さんがどうにかしてくれるんだろう。
あの人はいい人だからな。すげえ人ともいえる。
「そんじゃ乗って。私が運転するから」
真紀ちゃんはすっかり慣れた様子で指示を出すと、皆車に乗り込んでいく。
と、そこで真紀ちゃんが不意に足を止めた。
思い出したように彼女は霊歌ちゃんに近付くと。
――ぎゅうっ
「ひゃっ!?」
「あ、確かに抱き心地はいいな」
まるでぬいぐるみにするように、彼女を抱きしめた。
クールだけど真紀ちゃんも女の子だよなあ、こういうあたりは。
おれはその光景を目の保養としてしっかり目に焼き付け、脳内画像フォルダへと保存した。
これから、どんなことがあるか分からない。
――けど、おれはこの風景を守って見せよう。男として、熊本ハーレム(仮)の中心として。
おれの決意が固まったその時。
――放送の刻限は、もう数分前にまで近付いていた。
【F-1/ラブホテル城前/一日目/昼】
【熊本潤平@数だけロワ】
[状態]:健康
[服装]:少し砂埃を被っている
[装備]:ウィンチェスターM1897(3/5)
[道具]:基本支給品一式、12ゲージショットシェル(5)、M1917銃剣、ベルグマン・ベアードM1908(2/6)、
装弾クリップ(9mmラルゴ弾6発入り×3)、こけし、ベレッタM92(12/15)
[思考]
基本:遥光を捜す。女を守る。
1:真紀ちゃん、巴さん、霊歌ちゃん、彩子さんと行動。
2:凛々ちゃんは……どうするか。
3:仲間を探していく。ただし、殺し合いに乗った人物に情はかけない。
[備考]
※数だけロワ29話「無題――――NoTitle――――」以後からの参戦です。
※
矢部翼の外見のみ記憶しました。
【新藤真紀@俺のオリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:キャンピングカー(車体に若干の破損あり)
[道具]:基本支給品一式、ベレッタM92予備弾薬(30/30) 、ケンタッキーフライドチキンの皮入り箱
[思考]
基本:一応殺し合いには乗らないことにする。
1:一応潤平についていく
2:ただし、強そうな、面倒そうな人物にはなるべく関わらないようにする
3:………はぁ。
4:……銃を返してもらう
5:この子(霊歌)結構抱き心地いいのね……
[備考]
※本編終了後からの参加です
【巴御前@夢オチだったロワのキャラでバトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(中)、右足に裂傷
[服装]:白装束
[装備]:安物の弓
[道具]:基本支給品、シャベル
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:熊本たちと行動する
2:刀の女(詩織)には警戒
[備考]
※夢オチロワ「怠慢な革命家」より登場。傷は主催により治っています。
※固有能力には大幅な制限がかかっています
【柄部霊歌@サイキッカーバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:フランベルジェ
[道具]:基本支給品、カレーの材料セット、大量の包丁(現地調達)
[思考]
基本:バトルロワイアルを破壊する
1:彩子さんを守る。熊本さんたちも、全員守ってみせる
2:ひゃあっ!?
[備考]
※登場時期はサイキッカーバトルロワイアル開始後、福沢正也と出会ってから
※守谷彩子への勘違いは解けました
※辻斬り思考が消えました
【守谷彩子@需要なし1st】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項無し
[装備]:M1ガーランド
[道具]:基本支給品、鍋、皮むき器、調味料一式
[思考]
基本:自分らしくお気楽に生きよう
1:霊歌ちゃんを守る。潤平くんたちと行動
2:なにか罪滅ぼし的なことは出来ないだろうか
3:あのAV衝撃的すぎたわ……
[備考]
※需要なし1st死亡後から登場
※柄部霊歌への勘違いは解けました
※
稲垣葉月と
レックスのAVを見てしまいました
※ラブホテル城1Fには厨房があります。ただし、包丁は回収されています
※ラブホテル城周辺で、志水セナが埋葬されました。墓標はありません。
支給品説明
【シャベル】
巴御前に支給。
何の変哲もない、ホームセンターで買えるようなシャベル。
穴掘りだけでなく、打撃武器としても使える模様。
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最終更新:2013年04月23日 06:15