アットウィキロゴ

第七章-第二幕- 仔猫達の行進曲





半月にも渡る特訓を終えた勇者軍主力部隊は、
新たなる同胞、メイベル=アイリーンを迎えて、
アイリーン・マフィア本部を旅立ったのであった。


その後、勇者軍主力部隊は最寄りの街である、
クルーズ・シティへと到着した。
比較的大きい市街地であり、いくらかの勇者軍サブメンバーも
居住しているとされるが、いずれも現役ではないらしかった。
となれば、当てにするのも道理に外れている。
「結局のところ、それぞれ特訓して強くなったのはいいけれど、
 強さに、もうワン・アクセント欲しいところよねー」
と、ソニアが唐突に呟く。
まったくもってその通り、と言わんばかりにシエルも頷く。
「だったらアレの出番じゃないかしら、ジル君?」
(そうかも)
ユイナ姫の提案に、ジルベルトが頷いた。
「あれ?」
ジークが混乱する。
「異邦人の剣――ストレンジャーソード、ね」
シエルが呟き、メインメンバー一同が頷いた。
「ストレンジャーソード? それは強いのか?」
発言したジークも、コンラッドも、リゼルも
実物を見た事がないために、その実態を理解出来ずにいた。
「お兄ちゃんの代わりに私が説明するわ。ストレンジャーソードは
 いつ、どこで、誰が作ったかも分からない剣だけど、確実なのは
 ストレンジャー家直系のために作られた伝説の至高剣。
 ストレンジャー家の血を引いていない者には握ることすら出来ず、
 また、血を引いてはいても直系のみがその真の力を引き出せるの。
 その力についてはおいおい見てから説明するとしても、
 場所はストレンジャー・タウン。私達の自宅に眠っているわ」
シエルの説明を静々と聞く勇者軍メンバーだった。
「その剣があれば、お兄ちゃんは奥技を使わないとしても
 単体戦力は戦局を左右するほどのものになるはずよ。
 普段は危なすぎるから使わないのがお約束なんだけど……」
「今はそれどころじゃないよ、シエル」
突然、ジルベルトが喋った。驚いて全員が、
飼い猫達さえも振り向く。
しかし、それが全てを、彼の意思を語っていた。
あの大剣を握るつもりなのだと。
それ以上はシエルも余計な事は何も言わなかった。
「……お兄ちゃんも本気よ。だから行くわ。
 ストレンジャー・タウン。私達の故郷へ」
「分かった! 行こうぜ!!」
コンラッドが立ち上がり、次いで他の者達も立ち上がった。
いつまでもスプレッダー成体に構っている場合ではない。
いい加減この陰鬱とした戦線に終幕を引かねばならないのだから。
そう意気込んでいた矢先に、テディが遠目に何かを発見した。
「……土煙? ライナス、望遠鏡持ってるか?」
「ん? ああ、どうぞ」
ライナスからテディは望遠鏡を受け取り、じっくりと見てみた。
スプレッダーほどの巨大さは無いが、何やら物騒な気配である。

にゃー……にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー!

物凄い数の二足歩行する謎の黒猫のような集団が現れた。
「げっ、追いついてきた!?」
レイリアとエイリアが露骨に嫌な顔をする。
彼等は妖精族、ケット・シーの団体様であった。
かつてソニアが仔猫達に首輪をしてみたり、
身体を乱暴に洗ったのを見て
『猫の友達』を自称する彼等の逆鱗に触れ、襲われたのであった。
海路を取った事で撒いたと思ったら甘かったようだ。
その数、軽く見ても数万単位。
生態的に見て人間に対する殺傷能力など
皆無に等しい彼等ではあるが、
数と、やかましさだけなら勇者軍の比ではなかった。
「にゃーにゃーにゃー!!」
物凄い数のケット・シーから逃げる暇も無かった。
波にさらわれるかのごとく、勇者軍主力部隊一同はひき潰され、
上に乗っかられたり、肉球でぺしぺし叩かれたり、
さんざん喚かれたりと、阿鼻叫喚というに
相応しい地獄絵図と街は化した。
「きゃーッ!!」
そしてやっぱり例によってソニアは
他の者の倍以上にたかられていた。
「うわわわ! 何ですかこの子達はッ!」
流石の日和見リゼルでも、
自身が巻き込まれては穏やかでもいられず、
攻撃魔法の詠唱を始めてしまった。
「待て待て待て、リゼル! メイベルも鎌を降ろせ!!」
慌ててジークが止めに入った。
「こいつ等は妖精族ケット・シー! 簡単に言うと同盟相手である
 妖精族の友好対象なんだよ! 傷付けるとえらい事になるぞ!」
そう言われてはリゼルも呪文を止めるしかない。
メイベルも渋々鎌を降ろし、たかられ放題になって半泣きになる。
もちろん、ユイナ姫やライナスも、コンラッドも対処に困っていた。
ジルベルトやシエルも、愛猫達を手放さずに済ませるので精一杯。
レイリアやエイリアに至っては成すがままであった。
しかし、テディは比較的冷静であった。
ケット・シーの一匹を掴むと、
猫の気持ちよくなるツボを巧みに織り交ぜて、
地道に撫でてやるのだった。とりあえずそのケット・シーが
大人しくなったので、次々と撫で始めた。
その様子に、ケット・シー軍団の攻撃が止む。
「テディさん……何してるの?」
「ん? 俺は何故だか知らんが、動物とは比較的相性が良くてな。
 鳥が専門なんだが、哺乳類の相手も得意だぞ。
 猫とのコミュニケーションはスキンシップから始めないとな。
 誤解を解くのはそっからの方が早いかもしれん」
ユイナ姫が訊いてくるので、テディは答える。
「はぁ」
実際、止まっているケット・シー軍団の猛攻を見れば、
嫌でも彼女としては納得するしかないのであった。
「にゃー、なーご、うにゃー」
「にゅー」
「みゃんみゃん!」
ケット・シー同士の会議っぽいものが始まったので、
とりあえず、勇者軍主力部隊にたかったり鳴いたりしていた
ケット・シー軍団も全員が離れ、会議っぽいものに加わった。
「今のうちに逃げた方がいいんじゃないか?」
コンラッドが提案するが、ジルベルトが首を振る。
「駄目よ。私達への攻撃の是非について
 疑問が生じているみたい。どうやら、テディのスキンシップ、
 相当気分良かったっぽいのよね……こんなこと出来る奴等が、
 猫を本当に苛めるのか、って考えてるわ。
 疑わしきは罰せよ、の要領で、今逃げたらまたたかって来るわよ」
と、シエルが例によって代弁する。
「テディ、悪いけどスキンシップは続けてくれる?
 私と、お兄ちゃんが彼等の心を読んでおくから」
「分かってる。解決になるといいけどな」
と、テディはあくまで手を休めない。

すると、大福がジルベルトの腕の中でもがく。
ジルベルトが慌てて放してやると、次いで、きなこも抜け出た。
更にシエルの腕からみたらし、黒ごまも出てきて、
ケット・シー軍団の前へと出てきた。
「にゃー、にゃー」
「うにゃー」
「みー、みー」
どうやら猫同士の会話が始まったようである。
「……一体……何を……話してるんでしょうか……?」
メイベルが疑問に思って呟いた。
「じゃあ、私が同時通訳しましょうか?
 お兄ちゃんの翻訳と大差無いし」
と、シエルが申し出たので、全員がそれに委ねる事にした。
「にゃー、にゃー(マスター達はいじめてなんかないよ!)」
と、大福が厳重抗議する。
「うなー!(けど、君達も首輪とか嫌がってるじゃないか!)」
ケット・シーも抗弁する。
「にゃうにゃう!
(首輪は嫌だけど、人間社会での義務なんだよ!?)」
次いで、黒ごまによる抗議。
「みーッ!(服着せられるのだって嫌なんだろ!?)」
「ふーッ!!(マスターはそこんトコ
 分かってくれるいい飼い主なのだ!)」
と、更にきなこが猛抗議。
「きしゃーッ!(じゃあシャンプーされるのはどうなんだ!)」
「ふにゃー!(ノミとかダニが綺麗に取れて気持ちいいの!)」
最後にみたらしによる抗議。そして一斉に叫ぶ。
「にゃーッ!!(ウチのマスター達をいじめないで!!)」
「う、にゃおおぉ……(う、ううッ……!)」
万勢軍中四仔猫。そう表現するのが相応しい風格を
仔猫達が放ち、それに圧倒されるケット・シー軍団数万。
仔猫の身体に竜王が如き気迫。いずれも怒りと悲しみによるものだ。
いかに懐いてくれているかをもっともダイレクトに感じ取った
ジルベルトも、シエルも、涙が止まらなかった。
感情のブレ幅も激しく、もはやこれ以上の翻訳は不可能となった。
「にゃ、にゃーッ!!」
ケット・シー軍団は再び土煙をあげて、総員撤退した。
「……分かってくれたのでしょうか?」
あまりの出来事に呆然と呟くユイナ姫。
「分かってくれたのよ」
と、シエル。いつもはジルベルトが抱いているので、
あまり抱いてやれない大福を、暖かく、しっかりと抱いてやる。
ジルベルトも涙しながら、黒ごまを抱く。
「そうね。私も信じたいわ。分かってくれたんだって」
ソニアもそう言って、みたらしを抱いてやった。
前と違って、この子達もだいぶソニアに懐くようになった。
「やるじゃないか。図体が小さい割にやってくれる!」
最後にもう一人の功労者、テディがきなこを撫でてやった。
「うにゃーん」
実に気持ち良さそうに身を委ねるきなこだった。
「やれやれ、妖精族の身内同士で争う事にならなくて良かったね」
「まったく。テディにも感謝しないとね」
と、レイリアとエイリアもそれぞれに嬉しそうだった。
「でも……急いだ方がいいと……思うの。
 いつまでもここにいる訳には……」
とのメイベルの言に、全員がハッとして、任務を思い出した。
「メイベルの言う通りだ! 急ぐんだろ!? 野郎共、行くぜ!」
「ちょっと! 野郎じゃないのもいるのよ!?」
コンラッドが一人張り切って走り出すのを、
苦労してソニアが抑えるのだった。

一方、それほど高くないビルの屋上から一人の女性が望遠鏡で
勇者軍主力部隊の、ケット・シーとの絡みの一部始終を見ていた。
以前、リゼルをレイリア、エイリアの元へと連れてきた女性であった。
「あの混乱の中を戦わずに収めるってのは……見事よね……」
それだけ呟くと、納得したのか、その場を去っていく。
「……そろそろ、私の出番かしらね」
そう呟くと、彼女は、クルーズ・リニアドライバー施設と呼ばれる
一般旅客機射出施設へと一人、赴くのであった。

ともあれ、ケット・シー騒動もようやく解決となったので、
これでスプレッダー及びウィルスユーザーズへの対処に
専念できるようになった勇者軍主力部隊は、
安心して、クルーズ・リニアドライバー施設からの航空機をもってして、
一気にフェンリル・ヴィレッジへと到達しつつあるのだった。



<第七章-第三幕- へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:12