アットウィキロゴ

第七章-第三幕- 共同戦線





ケット・シー騒動の始末が付いた勇者軍主力部隊は、
クルーズ・リニアドライバー施設から直接、
離れた大陸にあるフェンリル・ヴィレッジを目指していた。
そこから名所であるカシミア大橋を経由し、
直接ストレンジャー・タウンを目指そうという
段階に入っていたのである。

しかし、フェンリル・ヴィレッジへの
到着ももうすぐ、という段階で、
レーダーに強力なエネルギー反応が現れた。
スプレッダーの幼生体である。こんな所にいるとは情報に無かった。
どこかの国の軍隊と戦って、傷を負って隠れていた個体かもしれない。
「どうする?」
ソニアが一応訊いてみる。
「決まってるでしょ。ビーム・カーテン改もあるもの。
 場所がどこであれ、確実に潰さないと」
と、エイリアが答え、全員が賛同した。
「なら、善は急げ、って事ですね。先行します!」
ユイナ姫がチトセに乗って先行しようとしたので、
慌ててジークが随伴した。
「待て待て! どうせなら同じナイト同士俺も連れて行くといい!
 落馬しても代わりに騎乗して応戦するとか、出来るぞ!」
「分かりました。じゃあ一緒に行きましょう」
ユイナ姫とジークがタッグを組んで先行を開始した。
「アーム王家と、アームキラー構成員の
 お孫さん達が一緒に戦う姿か。
 エレインやゼクロスが見たら、何て言うのかな?」
と、レイリアが呟く。
「さあ、ね。割と喜ぶんじゃないかしら。
 経緯はどうあれ、お互いに認め合う所はあったんだしさ」
エイリアが切り返すと、レイリアも頷いた。
「よし、それじゃあ続くわよ、ジルベルト君!」
ソニアの号令でジルベルトも第二波として、走り出した。
次いでレイリアとエイリアの第三波、
更にはシエルとメイベルの第四波、
コンラッドとリゼルの第五波、
最後にライナスとテディの(珍しい)殿部隊が
波状攻撃を仕掛ける方針で、しかし暗黙の了解として動き始めた。

しかし、最初に接触したユイナ姫とジークのタッグは、驚いていた。
既にスプレッダー幼生体に攻撃を仕掛けている者を目視したからだ。
青い髪の覆面を被った女性が弓一つで幼生体と互角に戦っていた。
「ネイルキャット!!」
見覚えのあるジークが指を差して怒鳴る。
「あの人が……?」
初見のユイナ姫は一瞬驚いたが、
敵なのは分かっているので槍を構えた。
「やっぱりあなた達も来たのね」
と、軽く笑ってみせる。
「ぎきゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
「わわッ!?」
スプレッダー幼生体が更に暴れ出し、
多脚の爪をもって襲い掛かったため、
一旦会話を打ち切り、ユイナ姫はチトセに回避行動をさせた。
そこでジルベルト、ソニアの第二波が到着した。
「ユイナ姫、ジーク、大丈夫!?」
「ソニア! ネイルキャットがいるぞ!」
「何ですって!」
ジークの警告に、ソニアとジルベルトは
スプレッダー幼生体の周囲を見やる。
ネイルキャットはスプレッダー幼生体の頭上に立っていた。
「人数も揃ってきたところで、一つお願いがあるんだけど」
と、ネイルキャット。
「連れてきた部隊も負傷者が増えるばかりで撤退しちゃったし、
 私一人でもどうにも骨が折れるの。駆除を手伝ってくれるかしら?
 そちらにとっても悪い話じゃないと思うんだけど?」
「誰が敵の口車に乗るものですか!」
と、ソニアが威嚇する。
「私にとってもこのスプレッダーってのは、
 どうにも迷惑な存在なのよ。他の奴等が
 こいつらをどう扱うかなんて私の知った事じゃないわ。
 私が興味あるのは、とりあえず、
 あなたとそこの坊ちゃんだけだもの」
と、ネイルキャットはソニア、そしてジルベルトを指差す。
(僕?)
その真意を計りかねているようだ。テレパスを試みているが
精神制御が上手なようだ。なかなかに本心を読ませてもらえない。
「口からでまかせを!」
ソニアが激昂しかけた時だった、第三波が、更に第四波が
続けて到着し、スプレッダー幼生体に攻撃を加え始めた。
「アイズオウルがこっちの情報を奪っていった件は忘れていないわ。
 二度も同じ手に乗るだなんて、思わない事ね!!」
ソニアとネイルキャット、
そしてジルベルトは独自に別行動となって
口論を始めてしまったため、
残りのメンツで幼生体を押さえなければ
ならなくなってしまい、部隊内の統制も取れなくなりつつあった。
「アイズオウルからの情報は確かに有益だったわね。
 テレパス使いの少年と少女がいるって聞いたわ。あなたよね?」
と、再度ジルベルトを指差した。
「私に他意があると思うなら……君、私の心を読んでみなさい。
 私は、スプレッダーの幼生体を純粋に駆逐しに来てるのよ?」
(…………)
ジルベルトが静かに心を読み取り始めた。
『ソニアさん、共同戦線を張ろう』
とのメールがソニアに届いた。
「何でよ!?」
『この人は嘘を言ってないみたい。
 ソニアさんが心配だから来てるんだって。
 残念だけど、それ以上の事は読めなかった……ごめんなさい』
ソニアはネイルキャットを見つめた。
態度は堂々としており、嘘は感じさせない。
「……何で敵のあなたが私の心配なんかするのよ……あなた、誰?」
「……さあ?」
あくまでもしらばっくれるネイルキャット。
驚異的な自制心と精神制御の強さで、テレパスさえも拒んだ敵が、
共同戦線を張ろうというからには余程の理由があるのは違いない。
「……分かったわ」
「そう? じゃあ、先に行くわよ」
それだけ言うと、ネイルキャットは弓による攻撃を再開。
驚く勇者軍主力部隊を尻目に猛攻撃を続行するのだった。
タイミングとしては、ちょうど第五波の
コンラッドとリゼルが到着した直後であった。

しかし、そこで異変が起こった。
ぼこぼこぼこぼこッ!!
突如として、地面から更に四体ものスプレッダー幼生体が現れ、
周囲を大混乱に陥れていたのだ。
どうやらここは傷付いたスプレッダー幼生体の
溜まり場のような場所になっていたらしい。
大きく分断された勇者軍は、それでも奮闘し、一体、また一体と
幼生体を少しずつ撃破させていたものの、スタミナが尽きてきたのか、
段々とシエルの回復呪文の頻度が上がってきていた。
ジルベルト、ソニア、ネイルキャットが加わったものの、五体もの
スプレッダー幼生体を相手にするには、
若干スタミナ不足が目立っていた。
「ヒールブラスター! ……はっ、はぁッ、はぁッ……」
更にシエルの回復呪文が響く。しかし息が上がってきた。
息が上がってきたのはリゼルも同様で、魔力も底をついてきたのか、
攻撃を格闘に切り替えざるを得ない有り様となってきた。
しかし、それでも誰も諦める者はいなかった。

「奥技・ボイルドアーチ!!」
ネイルキャットの矢に、熱湯のようなものが纏わり付いた。
そのまま引き絞って射出。蒸気の跡を引きながら、
その矢はコアを適切に撃ち抜いた。そこにソニアが跳躍。
「今よ!」
「分かってる!!」
ソニアの剛拳がコアをひたすら殴りつけた。
ばかんッ!
コアが砕け散り、三体目の幼生体は絶命した。
しかし四体目の幼生体の多脚が、直後、ソニアを薙ぎ払った。
がつッ!
「あぐッ!?」
地面に叩きつけられるソニア。
「ソニア!」
(ソニアさん!)
ネイルキャットが悲鳴をあげる。ジルベルトも次いで動いた。
更にソニアに攻撃の手が加えられようとしていたが、
そこにメイベルが素早く、しかし重厚に割り込んだ。
がきん!
多脚のパワーをもってしても、メイベルのスカーレット・アーマーには
全然傷が付いていない。まったくもって頼もしいことこの上無い。
しかしメイベルが防御しているからいいようなものの、
ソニアは強く身体を打ち付けており、回復役のシエルも
他の者の手当てで精一杯だ。
「誰か! この娘を助けて!! お願い!!」
ネイルキャットも取り乱している。しかし――
「お願いされました」
と、突如として場にそぐわない、しかもベクトルのずれた声が響いた。
「シルヴィアさん!?」
リゼルの驚愕の声が聞こえた。
マスターヒーラーにして、マシーナリーの
シルヴィア=スターリィフィールドである。
メインメンバー、スターリィフィールド家筆頭にして、
研究部の大黒柱でもあった。
「ほい、ヒールシューターですよ」
あっさりとソニアの傷と疲れが癒える。
「はい、そっちにもヒールシューター」
疲れ始めていたシエルにも癒しの手が伸びた。
「シルヴィア、来てくれたのね!」
「働きづめだから少し休めって言われたの。そしたらこの大騒ぎ。
 なんかもうメインメンバーじゃなくても来ると思いますよー」
要は偶然である。しかし助かった。そして残す希望も登場した。
「みんな、大丈夫か! えらい事になってるな!」
「テディ=カレン! 遅れて申し訳ない!」
殿軍として残っていた二人の増援である。これで戦局は一気に傾いた。

あとはほぼ一方的に一体が駆逐され、残る一体も
傷だらけとなり、座して死を待つのみの状態となった。
「疾風剣!」
「でぇいッ!!」
ライナスとテディの攻撃が共にクリーンヒットし、
残る幼生体がのたうち回る。
「シルヴィア! せっかくおいしい所に来たのよ!
 きっちり締めなさい!」
「はい。おいしいところ、いただきまーす」
シルヴィアがとぼけた顔で、呪文の詠唱を素早く終了し、放つ。
「ウォーターシューター!!」
ばしゅッ!
水圧により、スプレッダー幼生体のコアが圧潰し、幼生体は死亡した。
大混乱の戦場は、ドタバタのうちにようやく平穏を迎えた。
さっそくビーム・カーテン改部隊が動き始め、除去作業に入っていた。

「さて、今日はお世話になったわね」
ネイルキャットは平静とした様子で一方的に告げる。
「なんでだろう。あなたは、敵じゃないような気がするの」
と、ソニア。何となく理解したのかもしれない事を
つい口にしたようだ。
「敵じゃないけど、今は味方でもいられないだけよ。
 それじゃあ、次も戦場でね」
ネイルキャットはそれだけ言うと立ち去って行った。

「あー、リゼル君だ、なんでここにいるんですか!?」
哀愁の戦場に、場にそぐわない
脳天気な声が響いた。シルヴィアである。
「いや、びっくりしたのはこっちの方ですよ、シルヴィアさん」
と、リゼルも困ったような表情をする。
「私はただの休暇で、偶然。リゼル君が主力部隊にいるだなんて
 知ってたら、すぐにでも追いかけてきたのに!」
と言うと、シルヴィアはリゼルに問答無用でくっつきにかかった。
「いや、現場主任のあなたが抜けたら研究はどうするんですか?」
と、ますます困った顔のリゼル。
「あ、二人はそういう関係性なのね」
と、納得した顔のエイリア。
「お恥ずかしながら……」
と照れ笑いするリゼルだった。それを差し置いてシルヴィアは答えた。
「どうせメシア3号機、4号機、5号機をフル稼働させても
 インフルエンザウィルスの正体と、当座の処方薬しか作れなくて、
 結局は手詰まりなんです。抗体を入手する方が早そうですし、
 ここからは私も同行させてもらいますね。リゼル君いますし」
建前も本音も双方駄々漏れになっているシルヴィアを見て、
みんな苦笑いするしかないのだった。

それを遠目に見ている男がいた。
情報担当幹部のアイズオウルである。
「ネイルキャットめ……勇者軍主力部隊と共同戦線だと?
 確かに遊軍として委任されてはいるが、何を考えている?
 ハートレオ殿に、報告の必要がありそうだな」
アイズオウルは静かに、その場を立ち去るのだった。

そんなウィルスユーザーズの内部事情も知らず、
カシミア大橋によって渡河した勇者軍主力部隊は、
一路、ストレンジャー・タウンへと向かうのであった――



<第八章 へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:13