第七章-第一幕- 地下特訓
勇者軍主力部隊は
アイリーン・マフィアの好意で、
地下施設による特訓を開始するべく、地下通路へと入った。
「オリハルコニウムセラミカルチタンゲート、開放!」
ケヴィンの声と共に地下通路へのゲートが開放されると、
暗く、狭い通路が出てきた。
「あの……すみません、いいですか?」
といきなり挙手したのはライナスであった。
ケヴィンが怪訝な顔をする。
「どうした、ライナス?」
「もうちょっと広くなりませんかね、これ。
ちょっと事情があって、狭い場所は苦手なもので……」
「それならこうしよう。隔壁オープン!」
すると、壁という壁の大半以上が地下へと沈んでいく。
どうやら制御できるように作られているらしい。
「助かります。お恥ずかしい話ですが、小さい頃、悪戯が過ぎて
よく母に閉じ込められてからというものの、
どうも狭い場所は苦手で」
と、ライナスは苦笑する。
「母親、か。やはりロゼッタなのか?」
「はい?」
「いや、いい。聞かなかった事にしてくれ」
「はあ……母がロゼッタなのは間違いないからいいんですけど」
ケヴィンが懸念したのは、
ジーニアス家の血統を継いだこの男が、
あるいは祖父
ユリシーズ=ジーニアスの
クローンではないか、という点だった。
母であるはずのロゼッタはあまり恋愛に
興味がありそうでもなかったし、
そもそも消息を基本的に絶っていたので、いまいち真実が見えない。
勇者軍軍規によれば、子孫が残せない場合は、
クローン培養もやむなし、というのが勇者軍の基本方針故に、
ケヴィンが疑うのも無理からぬ話ではあった。
自分が妻と結ばれ、メイベルを儲けたのも、すべからく僥倖である。
その事を嫌という程ケヴィンは理解しているのだ。
現総帥
エリシャ=ストレンジャーの実弟であるが故に。
「さあ、特訓を開始しようぜ、何する!?」
やたら張り切っているコンラッドだったが、リゼルは冷静だった。
「では、午前中は各自、新必殺技……
というよりは奥技の訓練をしましょう。
で、午後からは基本的に乱戦による訓練が必要かと思います」
(乱戦の訓練?)
ジルベルトがまったく理解できておらず、
大福を抱きながら首をかしげる。
その姿に無駄に愛嬌があったりするが、緊張感はいまいち無い。
「はい、隊長。スプレッダー幼生体や成体はともかく、
僕の乏しい経験から言うと、
ウィルスユーザーズとの戦いでは
大半以上が乱戦に
なると思います。そこで多くの敵に包囲されても
適切に対処出来るように、乱戦の訓練をするんです」
「おー」
と、ソニアも拍手する。
「ですから具体的にアイディアは二つあります。
文字通りバトルロイヤル的に
味方も敵も識別を無くしてから
模擬戦闘を行う、もしくは……」
「チームを二つに分けて
対抗戦、というところか」
「ジークさん、ご名答です。これも実戦的と言えるでしょう。
判断は……そうですね、レイリアさんに委ねてみましょう」
「あたし?」
突然名指しされてレイリアがびっくりする。しかし彼女は冷静だった。
「うーん、そうだね。あたしだったら前者かな。乱戦っぽいし」
しかしそれに異を挟んだのはエイリアだった。小芝居も忘れない。
「いやちょっと待ってよ。それは確かに正論かもしれないけれど、
勇者軍はあくまで集団戦闘を是とする団体なのよ?
乱戦と言っても、そこまで統制を失うのは危険だわ」
「何をー! 妹のくせに生意気ー!!」
「姉さんこそ私情で軍の行動を決めないで!」
きー、きーと喚きながら喧嘩が始まると、リゼルは遠くで笑っていた。
「あはは、収拾が付かなくなっちゃいましたね」
「笑ってる場合かッ!?」
即座にテディのツッコミが入る。
「というわけなので予想通り収拾が付かなそうなので、
メイベルさん、どうぞ」
と、リゼルの無茶振りがメイベルに飛ぶ。
「わ……たしですか?」
コンラッドの陰に隠れてしまったメイベルではあったが、
一応考えてはいたのか一分後、きっちりと答えを出してきた。
「私はチームを分ける方がいい……と……思います……」
それだけ言うと、今度は恥ずかしそうにシエルの陰に隠れた。
「……だそうだけど?」
と半眼でシエルが言ったので、
レイリアとエイリアの喧嘩は止まった。
「仕方ないね。どうせ隊長もそうなんでしょ?」
「さもありなん、だな」
エイリアは早速化けの皮が剥がれているが、
ジルベルトは特に気にする事もなく、頷いた。
それから五日間もの間、猛訓練は続いた。
午前中には予定通り奥技の訓練、午後はチームを分けての訓練。
ただしバトルロイヤル案との折衷のため、チームは三つとなった。
チーム・A(アルファ)にジルベルト、ユイナ姫、レイリア、ソニア。
チーム・B(ブラボー)にライナス、エイリア、コンラッド、メイベル。
チーム・C(チャーリー)にテディ、リゼル、シエル、ジーク。
午前中の特訓が終わった後、昼食の席にて、ジルベルトは
自らの手製によるお弁当を広げた。
(ソニアさん、食べて)
と、ソニアに差し出してやる。
「えっ、いいの!? 私に?」
(前、食べたいって言ったの)
その中身は、ソニアの大好きな
ハンバーグだった。
「嬉しい……ありがとう!」
ぱくり、と一口。
母親の味のようだ。見事と認めるほかない。
ソニア自身も料理はそれなりにこなすが、この味は格別だ。
「おいしい……!」
それを聞いたときのジルベルトの笑顔の何と輝かしい事か。
しかしユイナ姫も黙ってはいなかった。
彼女も料理は比較的上手な方だ。
アーム王家には珍しいことではあるが。
「ジル君、お弁当作ったの、食べて」
おいしそうな匂いにつられて、ジルベルトはそちらへと向かう。
色香より食欲。実にシンプルな男であった。
(おいしぃー)
「うふふ」
それをにこやかに眺めるユイナ姫だったが、
ソニアは内心面白くなかった。大事な人を取られた気分だ。
「やるわね、ユイナ姫……負けないわよ……あ、やっぱおいしい」
とジルベルト作の弁当をパクつきながら呟くソニアであった。
午後からの特訓は苛烈を極めた。
乱戦では騎兵の能力がフル活用される。ユイナ姫が大暴れし、
チームBは非常に大混乱した。
かと思えばリゼルの広範囲魔法が場を撹乱し、
ライナスの駿足が更に訓練場を混乱させる。
メインメンバーが一人しかおらず、しかも鈍足メンバーが多い
チームCは非常にいい面の皮という他ない。
しかしチームCには回復要員のシエルがいる。
彼女がやたらと回復呪文を乱発するせいで、
タフさ加減では随一のものがあるチームCは、次第に
体力面で劣るチームAを圧倒する一面もあった。
しかし、一番の被害者は間違いなくメイベルだろう。
図抜けた鈍重さのせいでよく袋叩きに遭うわ、
状況によっては味方に盾扱いされているのだから。
「でぇいッ!」
銃を乱射するレイリア(もちろん訓練弾)の銃弾が、ライナスを襲う。
ライナスはメイベルの陰に隠れて、彼女を盾代わりに使う。
「甘い! 秘技、メイベルシールド!」
「ひぇッ!?」
全弾浴びるが、メイベルの真紅のアーマーはほとんど無傷だ。
ライナスは怯えまくりのメイベルからすぐに離れるが、
更に鈍重なメイベルへとソニア、ジークがそれぞれ襲い掛かる。
ごん! がきん! ばこん! どがっ!
鉄拳と斧の乱舞がメイベルへとことごとく叩き込まれる。
メイベルは中でふるふる震えているが、まったく効いていない。
しまいには殴り疲れて二人とも肩で息をするほどだ。
呼吸を整えた二人は、メイベルを無視してお互いを攻撃し始めた。
だがメイベルに安息の暇は無かった。続けてユイナ姫と
テディによる乱闘に巻き込まれたのだ。
槍が、槌がメイベルへと叩き込まれる。凄まじい技の冴えだった。
それがメイベルの恐怖心を一層刺激し、そして彼女は――キレた。
「ふぇぇん!」
泣きながらブースターを一閃、
続けてアフターバーナーまで吹かして再加速。
がごっ!! がらがらがらがらずざざーッ!!
「ふがッ!」
(メイベル!?)
「きゃあぁッ!!」
自重の五倍は軽くあるアーマーによる超高速突撃は、
予想だにしない方向からの攻撃(?)に慌てるしかなかった
コンラッド(味方)、ジルベルト(敵だけど親類)、
シエル(敵だけど親類)を、まとめて薙ぎ倒し、
大きく転倒する結果となったのだった。
それを呆然と見ていた監督役のグスタフだったが、
なんとなく呟いてみた。
「ふむ。アフターバーナーを使いこなしたか。
少々大胆に過ぎるが、奥技と捉えられなくもないな」
「ふぇぇん……えぇぇん……」
と。その一言で、奥技体得者一番乗りは、
意外にもメイベルとなった。それは特注アーマーの性能を
最大限に引き出したのに等しかったのだ。
まあ当の本人は恐怖に耐え切れず完全に泣いてはいたが。
あまりにもグダグダになったので、その日の訓練はそこまでとなった。
ズタボロに傷付いたジルベルト、シエル、コンラッドを残して。
その後、更に特訓は十日間にも及び、
合計にして半月近くを特訓に費やす
勇者軍主力部隊。その間に主だったスプレッダー幼生体は
各国連合軍、そしてウィルスユーザーズの手によって
あらかた駆逐されつつあったが、本人達はそれを知る由も無かった。
時は大きく動き、十日後から再び始まろうとしていた――
最終更新:2013年08月09日 22:13