アットウィキロゴ

第三章 西暦最終戦争





A・D4720。ユング牧場において、
アルファ=ストレンジャーとテスラ=ユングは恋仲へと発展する。
翌年、ほどなくして婚姻のち懐妊。
一人の男児を出産するに至った。

出会いの経緯から考えれば奇跡のような事態ではあったが、
アルファ=ストレンジャーが五年間の間に吸収した知識は、
人間で言うところの二十五年分にも匹敵していた。
世間の常識、情感、知識、情勢、嗜好など多岐に渡った
地球知識の会得であるが、
これをアルファはほぼ会得しつつあった。

そしてそのアルファはテスラに向かって囁いた。
「よく、やってくれた。テスラ、ありがとう。君の力だ」
「あなたがくれた命ですもの。
 私の身に余らないものかどうかが心配でした」
テスラも、我が子を抱いて微笑む。
「まったくだ。地球人の身体でよくも、ハーフとはいえ
 セクターα人類の子を身篭る事が出来たものだ。
 内心この子が、君の腹を蹴り破ったりしないか心配だった」
ようやく安堵して苦笑するアルファ。
「あなたの子ですものね」
同じく苦笑するテスラ。
「……名前、付けてあげないと」
「そうだな」
テスラは色々と考えていたのか、
リストアップした名前を挙げていく。
「男の子だった場合に備えても、女の子だった場合に備えても
 色々と考えていました。だから、言ってみますね。
 ザイン、フィックス、フェイヴァー、
 エドウィン、ジルベルト……」
これらは後に本当に名付けられてしまう
アルファの子孫の名前であるが、
今こうして名前が出てきてしまうのは何の皮肉なのか、
それを知る術は無い。が、これは完全に余談である。
「どれも、素晴らしい名だ、だが俺は……
 俺をここに寄越してくれたもう会う事の無い
 親友の名前を付けさせてくれれば、嬉しい」
「いいですよ。仰って下さい」
「ベータだ。ベータ=ストレンジャー」
テスラはそう名付ける事を躊躇わなかった。
五年間の間に、このアルファが抱いてきた
苦しみの大きさを、概ね理解しつつあったからだ。
「そう……あなたは今日からベータよ。
 ベータ=ストレンジャーなの」
愛しそうにベータの頭を撫でてやるテスラ。

心の底から幸せそうな時間が流れようとしていた。
しかし、世界はそれを許さなかったのだ。
退屈凌ぎにつけていたテレビから、
凄まじいニュースが流れ始めたのだ。
『ニュース速報です。中東区域にて核兵器の使用が
 認められる事態を観測しました。人工衛星からの観測データを
 照合した結果の推論なので、詳しい情報を収集中です――』
「核、ですって……!?」
テスラの顔が強張る。今までどんな小競り合いが起きても
決して使われることの無かった
禁忌の兵器が使用されたというのだ。
どこの国が? まず自国ではあるまい。スイスは永世中立国家だ。
日本でもあるまい。そもそもあの国は戦争を放棄しているし、
過去の歴史において唯一核兵器で甚大な被害を受けた国家だ。
技術も金もあっても、それを許すはずがないのだ。
ならば超大国か、あるいは極端な発展途上国家か。
「何故、そんな事に……」
「テスラ――大丈夫だ。世界大戦にでもならない限り、
 スイスは安全なのだろう?
 君は、君と、俺の子供の心配を先にすべきだ。
 それが親という者の役目というのは、
 俺もこの五年間で分かってきたつもりだ」
「ええ、分かっています……でも、アルファさん。
 戦いを望まないからこの星に来たのだという事も
 承知の上で言います。私と、私の子供達……
 いざという時は……守って下さい」
「何を言う。俺は元々戦争屋だ。妻子を守るために戦う事が
 悪というなら、俺は悪でも何でもなってやる。任せろ。
 君と、ベータを守るためになら、俺は必ず戦う」
「ありがとう、アルファさん……」
「愛しているぞ、テスラ……!」
愛猫のデュナンに見守られつつ、二人はまた口付けを交わす。

二人のそんな祈りも虚しく、誤解が軋轢を呼び、
軋轢が確執を呼び、確執が憎しみを生む
不毛な世界大戦級の戦争――
後に『西暦最終戦争』と呼ばれる大戦が勃発。
貧困国も、途上国も、先進国も、
中立国もなし崩し的に全てが例外なく、
丁寧なぐらいに巻き込まれ、日常的に大量破壊兵器が飛び交い、
場合によってはABC兵器まで投入される事態が多発した。
スイスでは日常的に対ABC兵器用シェルターが装備してあり、
かつ永世中立国のため、比較的被害は
他国に比べればマシな方ではあったが、
それでも少なくない被害が多地方に出ている。
マイエンフェルト地方は過疎区のため被害らしい被害が無いが、
それはただ幸運なだけかもしれない。

ピピピピピピピピ!
ユング牧場の電話が、ある日鳴り響く。
「はいはいはい」
背中に子供をおんぶしたまま、テスラが電話を取る。
「はい、テスラ=ユングです」
『テス……ラか……』
「パパ!?」
何故か息も絶え絶えの父親が電話をかけてきたのだ。
こういう事態なら戦争による被害以外には考えられない。
「どうしたの、何があったの、パパ!?」
「どうした、テスラ!?」
アルファも騒ぎを聞きつけて電話の方にやって来た。
「大変です、アルファさん、パパが!!」
「義父上殿が!? 何があった!?」
『テスラ……母さんは既に亡くなっている……
 どうやら他国のミサイルの……
 誤射が我が家に飛んで来たようだ。
 直撃を受けたわけではないが……
 破片で致命傷を負ったらしい、な……』
「ママが!?」
既にテスラの顔は涙に濡れている。母親は既に亡くなり、
今すぐにまた父親までもが死のうとしているのである。当然だ。
『もう長くないだろう……言わねばならん事がある。
 アルファ君を出してくれ……頼む、テスラ』
慟哭しながらも、テスラは受話器をアルファに差し出した。
「義父上殿! しっかりしてくれ!
 あなたが認めてくれなければ、俺はテスラと結ばれるどころか、
 この星を出て行かねばならなかっただろう。
 そんなあなたに死んで欲しくなどない!」
『アルファ君。最初は君の事を疑いもした。それをまず謝りたい』
「そんな事などいい!」
『孫の顔も一度は見終えた。もう思い残す事は……思い当たらん。
 強いて言えば平和に戻った世界を見れん事ぐらいだが、
 アルファ君。出来れば君にその導き手になってもらいたい。
 君の力があれば、あるいは可能なのかもしれん』
「…………義父上殿…………」
『もはやこうなっては人間の歴史は……
 一度終焉を迎えてしまうかもしれん。
 だが人間の美徳は……その先を
 生き残れる……しぶとさにあるのだ。
 そんな世の中になっても確実に娘と孫を、
 君のような真の強者に託した……私の判断こそが、
 生涯最大の英断だったと……確信している』
「義父上殿ッ!」
『アルファ君……そしてテスラ。強く、生きよ。
 たとえこのスイスが……いや、
 世界の国全てが滅びたとしてもだ……』
ぶつり。
「パパぁぁぁッ!!」
テスラの絶叫に反応し、背中のベータまでもが泣き出した。
「義父上……殿ッ!」
アルファの手から力なく受話器が落ちる。
「俺が倦み、疲れたのはこの感情のせいだ……今なら、分かる。
 テスラにだけは味わって欲しくなかったのに……」
優しく、アルファがテスラを抱きしめた。
「うっ……うう、うあああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
テスラの慟哭が、どこまでも、どこまでも響いた――

時を同じくして、冥界――。
ずっと、長い間、魔神王は人間の世界を見続けていた。
大量破壊兵器などが入り乱れ、次々と都市が滅びていく、
絶望的という言葉さえ生温い地獄絵図が
世界各地で繰り広げられている。
「救いようのない生き物なのかもしれん、な。人間というものは」
魔神王は地獄絵図に憤怒の表情を向ける。
「この世界はリセットされなくてはならない。人間を完全に殲滅し、
 地球を虫ケラと獣共の王国にしてやる事が一番いいのだろう。
 これ以上、我が母なる星を汚されるのは耐え難い」
魔神王は瞬時にして転移を行い、宇宙空間へと躍り出る。
魔神王は精神生命体のため、
宇宙でも地球でも呼吸を必要としないのだ。

「これぐらいで充分だろう。あまりに深刻な被害を与えては
 地球自体が完全に破壊されてしまう危険があるかもしれん」
アステロイドベルトから、適度に見繕った
超巨大隕石をその魔力で確保し、
地球へ向かって牽引する事に決めた魔神王だった。
そのあまりのスピード及び魔力のせいで、
赤々と彗星の如く、魔神王と巨大隕石は光るのだった。
『西暦最終戦争』のうちの影なる一大戦役
『メガ・メテオ戦線』の幕が、
太陽系から遠く離れた宇宙空間で、
誰にも察知される事なく、幕を開ける――


<第四章 へと続く>
最終更新:2010年02月24日 00:58