第四章 メガ・メテオ戦線
西暦最終戦争はしつこく継続し、
地球では日常的にABC兵器が飛び交い、
文明の滅亡も危惧されるほどの泥沼的かつ、膠着的な状態が続いた。
そんな中、
ユング牧場の牧場主、
テスラ=ユングは
母親のみならず、直後に父親までも失い、
悲しみに暮れるのであった。
時は、A・D4722。西暦最後の年となった。
アルファは、ただテスラを慰めるしか出来ないままに、
無為の時を過ごす事になった。
しかし事態はまたしても大きく変動する。
突然地球圏から観測可能なエリアに超巨大規模の隕石が到来した。
地球へ直撃するコースを取っており、命中した場合は、
全人類の滅亡さえも考慮に入れなければ
ならないサイズだという事が判明した。
暫定的に各国政府はこの隕石を『
メガ・メテオ』と命名する。
これは思いがけない効果を生み、皮肉にも世界の危機によって
各国は戦争どころではなくなり、残存戦力をまとめて、
この超巨大隕石の撃破を考慮しなければならなくなったことにより、
事実上、なし崩し的に西暦最終戦争は停戦状態となる。
しかし、その停戦こそが正しい答えだったとその時点になって
気付いているようでは、その程度の低さが知れていると言われ、
後世の歴史学者から謗られても反論は出来なかっただろう。
アルファは戦火が無くなった事、そしてその原因を悟ると、
自らが乗ってきて放置していた宇宙船へと足を運んだ。
実に頑強な事に、あれだけ手荒に扱っていたにも関わらず、
全く異常無しに各機器は作動してくれた。
高機能の観測装置を使うのである。
「この惑星に接近している隕石について判明している事を教えろ」
コンピュータが合成音声で応答を始める。
『各国軍の命名によれば、名前はメガ・メテオ。
質量、スピードから計算して、地球に直撃すれば
人類の滅亡の可能性があると推測されます。
なお、外部からコントロールを受けていると思われます。
メガ・メテオ近辺に巨大なエネルギーの反応を検知出来ました』
「何だと?」
『この船の搭乗者、
α-0057に匹敵するエネルギーです。
それを牽引に使う事で、このエネルギーの持ち主は
ここまでメガ・メテオを持ってきたのでしょう』
「……つまりは俺に匹敵する敵がいる、という事でいいのか?」
『肯定。敵と仮定するならば、ですが』
「わざわざ地球を狙って落とそうとしているのだろう?」
『肯定。軌道の誘導が認められます』
「ならば敵だ。俺はこの地球と、人間に好意を抱いている。
その人間を滅ぼす目的だとするならば、敵で間違いない」
『了解。目標を敵勢力と認定』
「隕石の直撃までの推定時間は?」
『地球時間にして、推定48時間。なお、各国の持ちうる
残りの核兵器投入結果も観測済み。
全体積の約8%が消失しました。
地球直撃後の被害は、多少ですが軽減されます』
そこまで話を進めた時、ベータと
デュナンを連れた
テスラが宇宙船へと入ってきた。
「アルファさん、何を……してるんですか?」
「テスラ。君もニュースで度々耳にしているはずだ。
メガ・メテオと名付けられた、
地球に直撃する危険性の高い隕石の事を。
それについて、この宇宙船に調べさせていた。
このままでは直撃は免れんという事と、
それを操る敵がいる事が分かった」
「敵? もう戦争も終わったのにですか?」
悲しそうな目をするテスラ。
「勘違いしてはいけない。戦争が終わったのは、
各国がお互いよりも、その敵を
脅威と見なしたために他ならない。皮肉な結果だがな」
「あなたは……アルファさんはどうするつもりですか?」
「まだこの宇宙船は生きている。上手くいけば
単独で乗り込み、隕石を内部から破壊してみせる。
俺の力ならそれが可能なはずだ」
「無茶です! 無事に戻れる保証も無いのに!」
「俺は君とベータとを守ると言った。そして必ず勝つ。
俺はそのために生まれてきたんだと、今なら言える」
「……戻ってきて下さいね」
「死んでも戻って来る」
二人は最後の口付けを交わす。
アルファはただ無言で宇宙船へと乗り込み、
そして宇宙船は飛翔する。
メガ・メテオへと向けて――
その道中、宇宙船に突如来客が現れた。
「失礼するぞ、謎の男よ」
「何者だ!?」
アルファの目の前に、どこから入ってきたかも
分からない者達、二名が姿を現した。
「我が名は神王。あの隕石と共にいる者の創造主だ」
「我が名は魔王。あの隕石と共にいる者の創造主だ」
「……二人とも、なのか?」
「二人で作ったのだからな」
「だが、アレの行動は行き過ぎに思える」
神王、魔王はそれぞれ、アルファの手を取った。
「汝は極めて強大な力を持つようだが、精神生命体ではない」
「我々の遺伝子の一部を移植しよう。それで攻撃が効くだろう。
あれを止めてやってはくれまいか。頼む」
「……力を貸してくれた、というのだな?
ならば俺に断る理由は無い。元々止めるつもりだったからな」
「感謝する。出来れば最良の未来へと進む事を我は望む」
「感謝する。出来れば最良の希望へと進む事を我は望む」
神王、魔王と名乗った者達は前触れも無く消えていった。
「……地球というのはつくづく不思議な星だ。
あのような不可解な生物まで存在するとは、な。
だが、恐らく俺は強化されたのだろう。よし、行くぞ!」
彼が神族、魔族というものの本質を理解したのは、
奇しくも彼自身が死んだ後になるのだった――
アルファを乗せた宇宙船は、一直線にメガ・メテオへと突き進み、
直接確認すると反転、メガ・メテオに強引に接舷させた。
船外活動など想定していないので、自らの結界のみで
宇宙空間に出なければならない。結界が破れる時は
自らが酸素の無い空間に飲まれて死ぬ事を意味している。
「ターゲットはどこだ……!?」
アルファは焦っていた。しかしすぐにエネルギー反応を感知した。
あまりにも強大だった故に、すぐに分かったのである。
目標は迎撃のために、中に入っていたのだ。
宇宙空間では音など伝わらない。話も出来ないのでは不便だからだ。
アルファもその意図を読み、メガ・メテオの中へと踏み込んだ。
中にはどこから調達したのか、
ある程度の酸素があるようであった。
一旦結界を解除する。中では一人の男――のようなものが
堂々と待ち構えていた。
「ほう。一人か。わざわざこのメガ・メテオに
乗り込んでくるというからどんな大軍が来たかと思えば――
だが、確かにそれだけの強さが感じられるな」
「俺の名は
アルファ=ストレンジャーだ」
「名乗ったか。ならば返礼だ。我が名は
魔神王。
地球先住の精神生命体によって作られた人工精神生命体だ。
地球及び、そこに存在する精神世界の管理を任されている。
問う。汝は何故地球への攻撃を妨害しに来た?」
「それはこちらのセリフだ。何故地球へ攻撃を行う!
貴様が地球の管理者というなら、
地球へ攻撃するのは筋違いだ!」
「地球を汚しているのは主に人間だ。ならばそれを絶滅させ、
それから地球環境を是正するのは間違いとは言い難い」
「俺はさっき神王と、魔王とやらに力を与えてもらった。
奴等が誰かは知らんが、貴様の保護者のようだな。
奴等も、貴様を止めて欲しいのだろう。観念しろ!」
魔神王の表情に、諦めのようなものが浮かんだ。
「愚かな。老人達は、まだ人間達への希望を捨てきれなかったか。
ならばその未練も、改めて私の手で断ち切ってやろう」
「させん!」
アルファは、ただ一振り、母星より持ってきた剣を抜き放った。
これが、ソード・オブ・アルファのオリジナルである。
戦いの幕は開かれた。
そしてメガ・メテオの中で戦いは続いた。
音よりよほど早く、溶鉱炉よりも遥かに熱く、山一つより重い衝撃、
まさしく人智を完全に超越すると言っても過言ではない。
もはや文にて語る事は出来ない領域の戦いが展開された。
それと同時に舌戦も展開されていた。
「魔神王! 貴様の行いは間違っているぞ!
人間無くして、この荒廃しきった世界を復興する事は出来ん!」
「アルファ! 地球の自浄作用を甘く見るな!
数千年も待てば、たちどころに地球の環境は元に戻るぞ!」
「その数千年を数百年にだって縮められるのが人間の科学力だ!」
「その科学力で地球の寿命は一万年以上縮むだろうがな!
今までとて、人類は何年地球の寿命を縮めてきた!?」
「それを反省する心が地球人類にはある!」
「それを待っていては地球がもたん!!」
「魔神王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「アァァァルファァァァァァッ!!」
互いが激昂し、更に戦いのテンションは上がる。
たちまちメガ・メテオは内部から破壊され始めた。
壁に穴が開き、遂に二人の戦いは宇宙空間で展開され始めた。
「俺はこの五年間でこの技に
名前を付け直した! 受けてみろ!!」
「させるか、アルファ!!」
アルファが自らのエネルギーのほとんどを投入し、剣に込める。
魔神王は魔力エネルギーをほぼ全て投入し、
絶対必中の一撃を放った。2の32乗もの敵を
同時に狙い撃つだけの魔力弾が同時展開され、
それら全てがアルファに向けて放たれた。
「遅い!」
アルファの剣が光を放つ。
「
惑星両断剣ッッッ!!」
ずがッ――!!
真空中にさえ響き渡るような轟音と共に、巨大な惑星サイズの刃が、
大きく削れているメガ・メテオを直撃し、ものの見事に両断した。
衝撃に耐え切れなかったのか、隕石本体そのものがバラバラになり、
無数の大破片となり、地球へ向かって降り注ぐ。
しかも魔神王に直撃しており、その精神体も両断されていた。
一方でアルファも、魔神王の放った無数の魔力弾を全部浴びており、
その防御結界はほぼ意味を成さなくなっていた。
「アルファ……! まだ生きているのか!」
「魔神王……! 俺はどうやらここまでだ。
正直俺を倒せる者がいるなどとは思わなかった。
もうすぐ防御結界も消えるだろう。
そうすれば呼吸も出来ず、死ぬ」
「こちらこそ、もう長くはもたん。ならば互いの身体が滅ぶ前に、
お互い言っておくべき事があるのではないか?」
「……そうだな」
二人は強敵と認め、互いに敬意を払った。
「我は決めた。人類を滅ぼす事は諦めん。よって、私は
新生命の萌芽を、地球に撒く。それによって
願わくば、人類が滅びん事を、と決めたのだ。
それに後々の世になって、我自身が復活し、手を下す。
それしか地球環境を守る手段は無いのだ」
「環境環境と大層な事だ。だがな。
人的環境というのが世の中にはあるんだ。
それを忘れて環境改善とは、笑わせる」
「は、はは……面白い冗談だ。だがな、メガ・メテオも
まだ完全に被害を止められる状態ではない。
あるいはその膨大な量の破片だけでも
人類を滅ぼすには充分なのかもしれんぞ?」
「人類を甘く見るなよ……地球人類は確かに弱い生き物だ。
だがそのしぶとさ加減だけは俺達でも敵わないだろうな。
何より、俺にも俺の意志を継ぐ生命の萌芽がある!」
「何だと!?」
「子供だよ、魔神王! 俺の子供や子孫達が
俺と同じ考えを持つようになるのなら、
後々貴様が復活したとして、その不遜な顔が
驚愕に歪む姿ぐらいは期待させてもらえそうだぞ?」
「おのれ、どこまでも悪足掻きを!」
「俺は一足先に、人類でいう『あの世』とやらから、
俺の子孫達のおかげで、お前が悔しがる姿を
期待して待たせてもらうぞ! 何百年、何千年待とうともな!
はははははは! はーっははははははは!!
はは……は……ぐっ!」
呼吸の限界が生じ、アルファの意識は闇に落ちた。
「おのれ……この屈辱……忘れ……んぞ……アルファぁぁッ!!」
魔神王も、この世界から一旦消え去った。
後には、砕かれたメガ・メテオの
破片群が地球へと向かう姿だった。
メガ・メテオ戦線は、わずか二日足らずで、その幕を閉じる。
だが、本当の悲劇はここから始まるのだった。
そしてそれを止められる唯一の人物だった、
アルファ=ストレンジャーは既に、
その生涯を終えているのであるから――
最終更新:2012年06月07日 00:11