第五章 西暦の終わる日
A・D4722。
メガ・メテオ戦線の結果により、
アルファ=ストレンジャー、
魔神王両名共に
肉体が滅ぼされる末路を辿り、
二人の戦闘によって無数の大破片となったメガ・メテオは
一発としての威力こそ大きく衰えたものの、そのスピードを
ほぼ緩める事無く、地球へと一直線に向かうのだった。
その中を突っ切る一つの霊体には、誰一人気付かぬままに。
霊体は隕石のスピードよりも早く、地球へ突き進む。
まるでそれが自分の使命であるかのように。
遅れて、メガ・メテオの無数の大破片が
地球の大気圏へと突入。多少の蒸発により、
いくらかの威力減衰が認められたが、それでも
一つ一つが人類有史以来の観測史上、
例の無い威力を誇る隕石となった。
業火が地上を焼き尽くし、煉獄となった地球の国々は、
順を追うように滅びていく。
例えば、イギリスの某都市ではこんな光景が繰り広げられていた。
事態の大きさに絶望し、祈りを捧げる女と、
それを引っ張っていこうとする男。
「主よ、どうか我々に救いを差し伸べ給え――」
「馬鹿! そんな所で祈ったりしてる場合か、早く逃げるんだ!!」
「無駄です。事態は人類がどうにかできる範囲を越えました……」
「俺は認めねぇ! 這いずり回ってでも生き延びてやるぞ!!」
男は絶望した女を容赦無く見捨てる。
せめて自分だけでも生き残るために。
それから十分後、女性のいた地点に隕石が直撃。
跡形も無く周囲一帯は吹き飛んだが、諦めず走り回る男は
なんとか、ボロボロになりながらも無事に生き延びる事が出来た。
文字通りの地獄絵図が同様に世界中に広がる。
インドに、中国に、アメリカに、朝鮮半島に、
アフリカに、アルゼンチンに、ブラジルに、カナダに、
ロシアに、トルコに、オーストラリアに、
ヨーロッパ各国に、モンゴルに、フランスに、
イタリアに、日本に、そしてスイスに。
世界中で無事な地域などどこにも無かった。
悪ければ国家は壊滅どころか即時消滅。良くても国家は崩壊だ。
ウィルスさえ絶滅するほどの絶望の嵐が世界を覆い尽くした。
こんな状況で神に祈る事などただの愚行でしかなかった。
足掻いて、もがいて、しつこく、しぶとく生き残ろうとする
執念を越えた妄執だけが人間の生命の原動力足り得る状況だった。
生き残った者が更に生き残った者を助け、
それが更に生き残りを呼ぶ。そうして、
わずか一割余りの人類が生き残る事に成功しつつあった。
その状況では人種も国籍も差別も何も無かった。
皮肉にも、ここには真の意味での平等があった。
助け合うしかない。それが出来ない者は死ぬしかない。
祈っている暇は無い。そんな事をしている者は死ぬしかない。
手を差し伸べる人間に感謝せず、
生き残りを神に感謝する無礼は働いてはならない。
そんな事も理解できない愚か者こそ、例外無く死ぬしかない。
人類全てが加害者であり、被害者となったのだ。
残酷に過ぎる平等がそこにはあった。
そして、なおも隕石群は降り注いだ。ジュネーヴはおろか、
テスラ=ユングと
ベータ=ストレンジャーの住む
マイエンフェルトにも隕石軍は降り注いだ。
あれだけの大隕石に対して、
シェルターの数は絶対的に少なすぎたのだ。
ましてアルプス山脈にシェルターなど無い。
テスラとベータの命脈が、
大隕石群によって絶たれようとしていた。
ユング牧場にまるでピンポイントで
狙ったかのように隕石が迫っていたのだ。
「アルファさん……私ももうすぐそちらへ行くのですね……」
諦めがテスラを支配しようとしていた。
「誰もそんな事を認めた覚えは無いぞ、テスラ!!」
「えっ!?」
だが、伝説はまだ終わらない――
霊体としか言いようのないものが、空中から降ってきた。
アルファ=ストレンジャーは霊体となってなお、今再び、
地球の大地に二本の足で、しっかりと降り立ったのだ。
「俺の愛するテスラ達を、たかが隕石風情が潰そうなどとは
笑止千万、凡愚の極み!
俺の名前を言ってみろ! 俺は、誰だ!?」
「アルファさん……アルファ=ストレンジャー!!」
「俺の名前を呼んだな、テスラ!」
アルファの霊体にまたしても力が込められる。地球を両断して、
なお余るほどのエネルギーだ。
もはや大隕石程度では勝負にならない。
「防護壁、展開!!」
テスラとベータどころか、牧場全体を
防護壁という名の結界が包む。
ごがッ!!
不自然な軌道で砕け散りながら、
牧場を大きく隕石の破片が逸れていく。
もはやこれほど砕けてしまっては、牧場どころか、
アルプスの山には傷一つ付かないだろう。
牧場とテスラ達は救われたのだ。
「本当に、戻って来てくれたんですね……」
テスラから涙が零れる。もはや後は言葉にならない。
「いや、俺は死んだ。俺は所詮霊体に過ぎん。
だが約束したはずだ。死んでも戻ってくるとな」
あまりにおかしい言い様に、テスラが泣きながら苦笑する。
「本当に死んでも戻ってきちゃうんですね……」
「ユニークだろう?」
「はい、すごく」
「なんかさっきからずっと頭の中に、あの世とやらから
呼び出しがかかってるんだが、全部無視を決め込む事にする。
テスラ。俺は君が死ぬまで、ずっと霊体のまま
ユング牧場に居座らせてもらうつもりだが、どうだ?」
「勿論です! ずっと一緒ですよ、アルファさん!」
「この焼けただれた世界において、俺と君の一粒種、ベータは
きっと世界の希望となるだろう。俺は確信している」
「はい!」
「健やかに育てよ、ベータ。
お前だけが、人類の希望なのだ。そしてお前が成長してきたら、
俺が持ちうる全ての技をお前に伝授してやろう。
それぐらいしか、俺が地球に対して出来る返礼は無いのだからな」
「アルファさん……」
そして、ベータは笑った。
それが残された希望の全てであるかのように。
こうして
西暦最終戦争は正式に終結し、
翌年、年号は西暦(A・D)から
宇宙暦(C・C)へと改められ、
人類は宇宙時代へのファースト・ステップを踏み出すに至った。
だが、人類が踏み出した道は同時に茨の道でもあった。
生きる事そのものが戦いである、と誰かが言ったように、
人類の戦いは生きている限り、終わる事は無いのだから――
最終更新:2010年10月21日 21:48