第2部序章-第一幕- 王妃キョウカ
彼女自身の人物像はと言えば、まず、体格はあまり大きくない。
というより非常に華奢である。そして元々が勇者軍でない事もあり、
虚弱気味の体質でもあった。一方でその美貌は音に高く、
バイオレット・ヴィレッジの名門、
カザミネ家の令嬢という事もあり、元々の地位が高かったのが
出世の原因の一つであると言って間違いない。
人格的な事を言うならばあまり気は強い方ではないが、
柔和で穏やかな人柄から、人好きのする人物である事は間違いない。
後に彼女はイスティーム王との間に愛娘ユイナを儲け、
母親としても人並み以上の活躍を見せている。
また勇者軍内部でも数少ない外交能力の持ち主であり、
それ故に重宝がられ、情報部少将という待遇を受けている。
もちろん人格的な面も認められ、多数の者から敬意を払われるが、
やはり虚弱体質が災いして、戦闘に出る事は全く無いという、
勇者軍には稀有な人物となっているのであった。
しかし勇者軍内部で活動する事はむしろ貴重な時間であり、
基本的には惑星アース国際平和機構本部での勤務が常となっていた。
C・C1246――
その惑星アース国際平和機構本部にて、
突然、爆炎が巻き上がる。煙も尋常ではない。
振動も強かった。相当の衝撃が本部を襲ったようである。
あるいは巡航ミサイルでも飛んできたのだろうか。
「カザミネ長官! ご無事で!?」
執務室に飛び込んできたのはSPの一人であった。
「何事ですか?」
内心心拍数は上がりっ放しだったが、努めて平静を装うキョウカ。
「一大事です! 説明は途中で行います、お急ぎで脱出を!!」
最初のSPに続き、数名のSPが流れ込んで警護態勢へと移る。
各個人の力量が高すぎて慢心しがちな勇者軍と違い、
実に冷静かつ、油断無き素早い行動であった。
「分かりました。脱出機は『ブリッドライク』を使いましょう」
立ち上がり歩み始めるキョウカ達。
『ブリッドライク』は所謂、緊急脱出もこなせる
惑星アース国際平和機構専用機だ。
リニアドライバーや
マスドライバーからの
射出にも耐える強靭な装甲及び形状と、
極めて軽い重量を兼ね備えたハイエンド・モデルであった。
「了解! 行き先は!?」
「
アーム城です。理由は言わずとも分かりますか?」
「……分かりますが……無念ながらそれは出来かねます」
「何故です?」
怪訝に思って質問するキョウカ。
「アーム城とコンタクト、取れました。しかし向こうは
こちら以上の襲撃を受けて対応が取れていない模様です」
「…………次善策をお願いします」
「
妖精の森には
妖精王ヴァルキリーと
ルスト家が……何っ!?」
SPが更にうろたえ始める。
「アーム王家より更に大規模の襲撃だと!? 妖精の森にか!
ならば
カレン家は……駄目か、所在が掴めない!
スターリィフィールド家当主はアーム城勤務のはずだし、
ジーニアス家に至っては常時所在不明だと!?
一体どうすれば……!! どうすればいい……!」
キョウカは柔らかく微笑んだ。
「焦らないで下さいな。でしたらあの手を打つまでですわ」
「どの手を?」
「
ストレンジャー・タウンです。今一体何が起こっているかは
分かりませんが、あの子なら……ジルベルト君なら
きっと私達を助けてくれるはずですから……
それに今は実家で休暇中、とも聞いています」
SP達の顔が喜色へと変わった。
「よし、ならそれで行きましょう!
ブリッドライク機長、準備急げよ!?」
SPは懸命に機長らしき人物と通信を交わしていた。
ずどん!!
また建物が振動した。あちこちで火の手らしきものも見える。
「しかしこの惑星アース国際平和機構に
仕掛けてくるとは、なんと無分別な!」
「どこの馬鹿野郎か知らんが、長官はやらせん!」
SP達の悪態も束の間、至近距離で
跳弾が壁に当たる音が聞こえ始めた。
「いかん、
アースシールドを出せい!!
長官を守りながら逃げるのだ!」
「了解です!」
SPの一人がいかにも重そうな、巨大な盾を持ち、
文字通りキョウカの盾となって、襲い来る弾丸ことごとくを弾く。
「さあ、今のうちに行きましょう!」
「はい……」
キョウカ達は数分後、ブリッドライクへの搭乗に成功。
アースシールドを構えて防御に徹した
殿(しんがり)のSPも乗り込み、
ブリッドライクの機長及び副機長は、
機体をリニアドライバーのレールに載せた。
「進路、南南西! リニアドライバー射出スタンバイ!」
「機長! 後方より敵集団が!!」
副機長が外部監視モニタを見やると、敵の歩兵部隊と思しき集団が、
白兵戦で制圧するつもりなのか、急いで追撃にかかっていた。
「何という手際の良さだ! 相当の指揮官が付いているのか!?」
「慌てるな副機長! もういつでも発進出来る!
カザミネ長官殿、発進しますぞ、シートベルトを締めて下さい!」
その声を聞いたキョウカだが、既にシートベルトなど締めていた。
「出して下さい。いつでもどうぞ」
「よろしいですな!? カウントダウンは3からだ!
3、2、1、テイク・オフ!!」
「テイク・オフ!!」
副機長が復唱し、レバーを引くと、リニアドライバーから
猛烈なGで吐き出され、輸送機『ブリッドライク』は空へと飛翔、
直後、アフターバーナーにより更に飛行速度を上げ、
軽く音速を突破したのだった。
「うッ!?」
襲い来るGに虚弱体質のキョウカが耐え切れるはずもなく、
鍛え上げているはずのSPもろともに、
集団の大多数が失神してしまった。
それほどに無茶な速度での射出だったと言えるだろう。
「客室! カザミネ長官は無事なのか!」
機長が大声を張り上げて連絡を取る。
何とか持ち堪えたSPの一人がふらふらしながら回答した。
「やはりGで気を失われたが、無事だ。
巡航速度に落ち着けば、じき目を覚まされるだろう。
……あるいは到着の方が先かもしれんがな。
見事な判断と腕前に感謝する、機長」
「行き先はストレンジャー・タウンだったな。任せておけ。
副機長! 方位の精密誤差修正を任せる!」
「了解!!」
こうして、『ブリッドライク』は
クルーズ・リニアドライバー施設から、
遠く、ストレンジャー・タウンへと向かったのであった。
その機体の中で、先程キョウカの命を救ったアースシールドは、
その名の由来である惑星アースと同じく、
青く、美しく輝いていたのだった。
本来の持ち主であるキョウカを守った事を誇るかのように――
最終更新:2011年02月26日 21:21